第9章 第8節 第1項 内なるフロンティアスピリットの醸成

9-8-1-1 社内起業家育成制度による事業化

当社は、事業を創造する意欲・能力を有する社員への支援を通じて組織内でフロンティアスピリットを広く喚起し、新規事業創出のスピードアップを図ることで東急グループの活性化と持続的成長を導くため、2015(平成27)年4月に「社内起業家育成制度」を創設した。

これまでも当社では「社内提案制度」や「新規事業チャレンジ制度」などで新規事業の提案を募ってきたが、これらと性格を異にするのは、まず、提案内容に対する報奨ではなく、実際に事業化された場合に生じる成果に応じた報酬をインセンティブと規定した点であり、具体的には以下の通りである。

・提案が採用された場合、提案者が現在の担当業務から離れて専任として取り組むことができるようにした

・新会社の設立に至る場合は提案者自らが推進者や社長となって事業を展開できるようにした

・会社設立の場合は提案者自らが一定割合で共同出資ができる選択肢を設けた

すなわち、提案者自らが、事業を軌道に乗せるまでやり遂げ、会社はその貢献に報いる制度とした点が旧制度との大きな違いである。また、連結子会社の社員も対象に加えた。

図9-8-1 「社内起業家育成制度」提案から事業実施まで
出典:社内資料

社内起業家育成制度によって誕生した新規事業は、2023(令和5)年1月時点で合計7案件、概要は下表の通りである。

表9-8-1 社内起業家育成制度により誕生した新規事業(2023年1月現在)
注:当社ニュースリリースなどをもとに作成

9-8-1-2 働き方改革の時流に適合した「NewWork」のネットワーク拡大

会員制サテライトシェアオフィス事業「NewWork」は2016(平成28)年5月、自由が丘と横浜、吉祥寺などに直営店舗を開設し、事業をスタートした。法人を対象とした会員制(法人企業相乗り型会員制サテライトオフィス)とし、会員法人には専用のICカードを配布、部外者の侵入を防ぐことで安全な執務空間を提供することとした。当初から直営店舗の展開だけにはこだわらず、地方の主要都市でシェアオフィスを展開する他事業者や、東急グループのホテルなどとの提携によるネットワーク形成を視野に入れてスタートした。

折しも、2015年の大手企業社員の過労死事件を契機に「働き方改革」に関する関心が急速に高まり、2018年7月に働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が公布されたことも相まって、多様な働き方を推進する企業が増える時勢にあった。

こうしたなか、NewWorkの運営上の特徴としては、他の事業者と比べ、店舗に人を置かない無人型でかつ法人契約限定としており、クラウドサービスなど外部リソースを徹底して活用して業務効率を高めている点が挙げられる。利用者からは、通勤ラッシュ回避を目的に朝夕に自宅近くの店舗を利用している、外回りの合間に近くの店舗を利用することで移動時間の短縮化や業務効率化に役立てている、などの反響が寄せられた。また育児や介護により働き方に制限がある利用者からも好評を得た。

店舗展開では、事業スタート2年後の2018年6月には、当社の直営店13店や全国の提携先を含めたネットワークが合計100店舗を突破した。そして正式に事業化が決定し、2020(令和2)年1月、NewWork事業をフューチャー・デザイン・ラボからビル運用事業部へ業務移管した。その後、コロナ禍でテレワークのニーズが急速に高まったことから東急線沿線を中心に直営店の出店を加速したほか、東急ホテルズなど近隣ホテルとの提携によりホテル客室の日中利用のメニューを追加した。さらに非会員個人のテレワーク需要に対応して、新業態の有人型シェアオフィス(リラックスワークラウンジ)「relark」を展開することとし、2021年4月にたまプラーザ、2022年10月に吉祥寺に出店した。

「NewWork三軒茶屋」

2022年3月には「NewWork」の直営店が100店を超えた。また、首都圏を中心に法人会員制サテライトオフィス「XYZ(ジザイ)」を展開する株式会社ザイマックスとの間で事業提携に関する基本協定を締結。各サービスで法人会員となっている企業は、ザイマックス、当社との3社間の契約を結ぶことにより、合計で300店以上のサテライトオフィスを利用できるようになった。独立型の個室ブースを運営する各社との提携も進め、2022年6月からテレキューブサービス株式会社が運営する「TELECUBE(テレキューブ)」、2022年10月から富士フイルムビジネスイノベーション株式会社が運営する「CocoDesk(ココデスク)」と提携。こうした提携サービスも含め、NewWork事業では利用者に幅広い選択肢を提供することで、利便性を高めている。

図9-8-2 NewWorkの関東エリア店舗網(2023年4月時点)
出典:「NewWork Magazine」 vol.13(2023年4月)

なお、東急電鉄では2021年7月に武蔵小杉駅と長津田駅の定期券うりばの空きスペースにシェアオフィスを設置し、さらに同年8月、宮崎台駅近くの電車とバスの博物館B棟をシェアオフィス「TSO DENBUS ワークスペース」として供用開始した。

9-8-1-3 定額制回遊型宿泊サービス「Tsugi Tsugi(ツギツギ)」先行体験を実施

コロナ禍により旅行や出張が手控えられ、アフターコロナ時代のニューノーマル(新しい生活様式)も模索されるなかで、ホテルの利用動機発掘には新たな可能性があると見られた。こうした背景から2021(令和3)年4月、「ただいま」と帰る場所を次々と巡る、旅するような暮らし方を実現する定額制回遊型宿泊サービス「Tsugi Tsugi(ツギツギ)」の実証実験を開始することを発表した。

第一弾は東急ホテルズや東急シェアリングとの連携により利用可能な宿泊施設39施設を設定、先行体験希望者を募集したところ、募集定員(100人)の9倍を超える応募があり、利用者の満足度も88%と好評を得た。当初の想定とは異なる幅広いユーザー層から関心を集め、旅行目的よりもワーケーション(ワークとバケーションが融合した新しいライフ・ワークスタイル)利用が多い、リゾート施設よりも都市型施設に人気が集まるなど、数々の新しい発見が得られた。また予約の仕組みや利用施設における対応の不慣れ、宿泊施設までの移動に伴う費用負担などの課題も数々指摘された。

これらを踏まえて2021年11月には第二弾の募集を開始。利用可能な宿泊施設を、東急ステイを含め78施設に拡大すると共に、ANA(全日本空輸)グループとの連携によりANA SKY コイン(航空券や旅行商品に使用可能)を特典として受け取れるようにするなど、東急グループ外との連携も強化。予約サイトの操作性改善、移動に伴う費用負担の軽減、荷物の預かり・輸送の取り扱い、ホテル滞在中の食事提供などのサービスを追加してバージョンアップを図った。

さらに2022年5月からは、東急グループ外のホテルと提携して利用施設を173施設に拡大。2022年8月には気軽に利用できるプランの追加や新たにLCCのPeach Aviationや、日本経済新聞社が運営するシェアオフィスサービス「OFFICE PASS」との連携、利用施設の追加拡大などを含めアライアンスの拡大を発表(2022年8月現在、参画企業25社)。「自由な移動」や「自分らしさにフィットする多様な拠点」を提供し、多様化する暮らし方へのニーズに適応する「新しい生活体験」を創出することで、自分らしい自由な暮らし方を実現する“次世代ライフスタイル”の提案を強化した。

定額制回遊型宿泊サービス「Tsugi Tsugi」WEBサイト

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