第9章 第5節 第2項 沿線生活の価値創造に向けた事業展開

9-5-2-1 「東急でんき&ガス」など家ナカ事業を拡充

当社では沿線価値・生活価値の向上に向け、顧客の生活に根差したさまざまなサービス展開を行っている。まず家ナカを中心とした動きをみていく。

〈電力およびガス小売り事業の開始〉

生活インフラ整備にかかわる「家ナカ」領域の事業で、新たな展開となったのが電力小売事業への参画である。国内では発送電一体の電力事業者が地域ごとに割り振られる形で営まれてきた経緯があり、太陽光発電などによる自家発電を除けば、一般家庭向けの低圧電力は地域別の電力会社から買うしか選択肢がなかった。しかし、1995(平成7)年の電気事業法改正を契機に2000年より工場などへの特別高圧送電から電力事業の自由化がスタートしていた。その後、東日本大震災を契機として発電・送電の分離による電力小売の自由化にかかわる議論が加速した。

当社では2013年以降、将来的な新設発電所への出資はもとより、イッツ・コミュニケーションズ(以下、イッツコム)のケーブルテレビやインターネットサービス、東急セキュリティ、カード事業とのセット販売(バンドル化)による顧客基盤の強化も視野に入れつつ電力小売事業への参画について検討を開始。一般家庭向けの電力小売が全面自由化となる2016年4月から事業を開始することを決定し、2015年10月に当社100%出資の子会社として株式会社東急パワーサプライを設立した。サービス提供地域は関東一円の1都6県と山梨県、静岡県の一部(富士川以東)である。

電力小売サービス「東急でんき」の提供を開始

2016年4月から家庭向けの電力小売サービス「東急でんき」の提供を開始、東京電力の標準的な料金よりも安価となる料金体系を設定し、契約者数を伸ばした。販売促進にあたっては、沿線地域家庭との接点が強いイッツコムが主たる販売代理店を務め、イッツコム加入と「東急でんき」両方の契約に対する割引サービスも開始した。2018年3月には東北電力も同社に資本参加をした。

さらに2017年4月のガスの小売全面自由化を受け、2018年10月からはガス小売の取次もスタート、サービス名を「東急でんき&ガス」として拡販を進めた。2020(令和2)年10月からは通勤・通学定期券利用者を対象とした「定期券割」をスタートするなど、サービスのバンドル化を図っている。

〈IoT関連サービスの検討〉

東急グループではイッツコムが2015年2月から、スマートホームサービス「インテリジェントホーム」の提供を開始。2017年から、東急セキュリティとの連携によりIoTをセキュリティに活用したサービスを開始した。

この間、2015年11月に当社とイッツコム、富士通グループのニフティの3社でConnected Design(コネクティッド・デザイン)株式会社を設立し、2017年7月に企業連合「コネクティッドホームアライアンス」に参画するなど、他社と連携しながら新しいIoTサービスの具現化やサービス拡充をめざしている。

〈セキュリティ関連サービスの拡充〉

「家ナカ」領域で着々と成長を図ってきた東急セキュリティでは、小学生以上の子どもが駅の自動改札にPASMOをかざして通過した際に保護者にメールを配信する、子ども見守りサービス「エキッズ」を2007年12月から開始し好評を得ていたが、2015年3月には世田谷線を含めた東急線全線で利用が可能となった。そのほか高齢者を対象とした駆けつけ型緊急通報・安否確認サービス、東急線の駅をはじめとした鉄道施設の警備など、沿線生活の安心・安全を守るためのサービスメニュー充実を図っている。

東急セキュリティのシニアセキュリティサービス(写真はイメージ)

〈ラヴィエール事業の開始〉

シニア層を意識した新たな事業創出の動きも見られた。近年の東急線沿線住民の高齢化に伴い、顧客や家族のライフイベントに寄り添うワンストップサービスのニーズの高まりを認識し、生活者一人一人のこれからの人生をより心豊かで充実したものとするため、東急線沿線に住まう人々の困りごと解消、生きがいづくりなどをサービスとしてワンストップで提供するラヴィエール事業を開始した。2021年4月に運営会社として東急ラヴィエールを設立してサービスを開始、さらに2022年5月にはデジタルライフプランニングサービス「Hiraql(ヒラクル)」を開始した。

さまざまな事業を営む当社グループが一体となって、生活者一人一人のこれからの人生に寄り添うラヴィエール事業を通じて、“文化的で豊かな都市生活”を次世代へつなぎ、「サステナブルな街づくり」の実現に貢献することをめざしている。

9-5-2-2 沿線生活関連のさまざまな事業展開

当社は「家ナカ」のみならず、「街なか」でもさまざまなサービスを拡充させた。

〈民間学童保育・未就学児保育事業〉

沿線における多世代へのサービス提供の一環で、子育て支援環境を充実させるため、2008(平成20)年12月に完全子会社化したキッズベースキャンプ(現、東急キッズベースキャンプ)は、東急線沿線を中心に民間学童保育「キッズベースキャンプ」を展開し、2022(令和4)年10月現在で22施設、公営受託事業では45施設を運営している。また学童保育で培ったノウハウを生かして2018年4月より未就学児保育事業に参入し、2022年10月現在で「KBCほいくえん」を5施設運営している。

KBCほいくえん

〈東急スポーツシステムによるヘルスケアサービス〉

沿線に住まう幅広い世代の健康増進を支援するため、当社100%子会社の東急スポーツシステムは、フィットネス施設での健康サポートのほか、ゴルフ、テニス、フットサルなどの多彩なスポーツ事業を展開。またスイミング施設では地域小学校と連携し、夏季水泳授業のサポートに取り組むなど、子どもの心と体を育むさまざまなプログラムを展開。2020年4月には川崎フロンターレとのコラボにより、スポーツグッズショップ、カフェ、ゴルフスクールなどが入居する複合施設を武蔵小杉駅北口の高架下にオープンした。

フィットネスクラブ「アトリオドゥーエ」

〈東急ウェルネスによるシニア生活支援サービス〉

当社はシニアレジデンスタイプの介護付き有料老人ホーム「東急ウェリナ大岡山(2010年9月開業)」、「東急ウェリナ旗の台(2012年10月開業)」を展開していたが、これに続き、2017年7月、「東急ウェリナケア尾山台」を開業した。これは、シニア住宅の第3号で、東急ウェリナケアシリーズとしては第1号施設である。介護に特化し、価格帯にも配慮した点が特徴であり、当社の100%子会社、東急ウェルネスが東急ウェリナシリーズと共に運営するもの。「東急ウェリナケア自由が丘(2017年12月開業)」、「東急ウェリナケア旗の台(2020年3月開業)」と合わせ、2022年現在、東急ウェリナケアシリーズは3施設となった。

東急ウェリナケア尾山台

東急ウェルネスはこれらの施設運営と並行して、在宅介護分野のデイサービス施設「東急のデイサービス オハナ」の展開に着手、2012年4月に「オハナ池尻大橋」を開業し、東急線沿線を中心に2022年現在でデイサービス10施設を運営している。さらに2021年10月からは有料老人ホーム紹介サービス「住まいる」をスタート。予算や希望エリアなど、当社施設では対応できない顧客に対して、東急線沿線内外の他社の施設を積極的に紹介することで、より幅広い高齢者顧客と介護施設をつなぐ架け橋の役割を担うこととした。

「有料老人ホーム紹介サービス 住まいる」告知ポスター

〈東急トラベルサロンによる旅の提案〉

当社は旅行代理店事業として「テコプラザ」を展開してきたが、売れ筋でもあったJTB商品中心の品揃えで、コンサルティングサービスの質を高めた「東急トラベルサロン」の展開を2009年10月に開始した。その後、旅行業における商品企画や人材育成のノウハウを持つJTBとのアライアンスを強化することとし、2015年2月に東急トラベルサロンをJTB提携総合店として全面展開することを決定、「テコプラザ」からの置き換えを進めた。しかし、旅行申込におけるECの台頭やコロナ禍も重なって業界ではリアル店舗の役割の見直しが進んだ。当社でも東急トラベルサロンの閉店を進め、2022年6月時点で3店舗体制となった。一方、リモートによる無店舗型サービスとして「旅づくりコンシェルジュ」を開始し、「住まいと暮らしのコンシェルジュ」などに設置している大型モニターを活用し、顧客に寄り添った旅の提案の取り組みを強化している。

東急トラベルサロン たまプラーザテラス店

〈東急レクリエーションによるシネコンの展開〉

東急レクリエーションは、主要事業である映像事業において1998年4月からシネマコンプレックス形式の映画館「109シネマズ」の出店を開始、2021年4月現在で全国に19サイト(施設)を展開している。快適な鑑賞環境を実現するため、4DX、IMAXの導入など最新鋭の上映設備、メニュー豊富な劇場売店を備えると共に各種映画祭や映像イベントの企画・運営・受託にも尽力してきた。2023年4月、東急歌舞伎町タワー内に新たなエンターテインメント施設「109シネマズプレミアム新宿」が誕生する予定である。

「109シネマズプレミアム新宿」では3面ワイドビューシアター「ScreenX」を導入予定

〈東急グループ連携による広告サービス〉

広告事業では、東急線や東急バスの交通広告と、国内有数の屋外広告集積地である渋谷駅周辺の屋外広告(大型ビジョン「Q'S EYE」など)を統合した新たな広告媒体ブランド「TOKYU OOH」の展開を2008年2月から開始している。OOH(アウト・オブ・ホーム)メディアは家庭以外の場所で接触する広告メディアの総称で、注目率や話題性の高さが関心を集めていた。またデバイスの進化によりいっそうの普及が見込まれるデジタルサイネージについては、電車内の液晶モニター「TOQビジョン」のほか、駅構内や駅周辺にも積極的に設置。田園都市線渋谷駅では各種サイネージの設置に続き、2019年4月には横幅が25m近いビッグサイネージプレミアムとホームドアサイネージを新設。2020年10月には渋谷のQFRONT屋上で透過型サイネージ「渋谷ICONICビジョン」の運用を開始した。広告の販売・管理は東急エージェンシーが担っている。

「TOKYU OOH」ビッグサイネージプレミアム

〈東急セミナーBEの営業終了〉

総合カルチャースクール「東急セミナーBE」は、1983(昭和58)年10月の開校から30年近く続けてきた渋谷校の営業を2011年3月に終了した。開校当初は女性会社員などの受講にも支えられていたが、社会情勢の変化や新設のスポーツクラブなどに押され、渋谷校の受講生数は伸び悩んでいた。このため、2011年3月に渋谷校が営業終了すると共に、二子玉川ライズS.C.内に二子玉川校を、自由が丘とうきゅう(現、フレル・ウィズ自由が丘)内に自由が丘校を同時開校して、渋谷校の講座を分散・移転し、東急線沿線での展開を進めた。

二子玉川、自由が丘の2校に加えて、たまプラーザ校(2010年10月開校)、青葉台校(2002年3月開校)、雪が谷校(1988年10月開校)の5校体制での運営が続いたが、高齢化などに伴う受講生減少に歯止めがかからず、社会動向や業界の動きも勘案し2020年9月に全校の営業を終了した。同スクールの延べ受講生数は、約1600万人であった。

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