第9章 第3節 第3項 鉄道用地活用で駅・高架下の商業施設開発を推進

9-3-3-1 駅直結型商業施設「エトモ」の拡大

「etomo(エトモ)」は東急線の駅構内・駅近隣に展開する商業施設ブランドである。「駅と、もっと 街と、もっと」をキャッチフレーズに、駅と街をつなぐコミュニティ型商業施設として、駅ごとの特色に合わせた店舗を誘致し、駅を訪れるすべての利用者に楽しさと利便性を提供してきた。

2013(平成25)年12月から2年間で5駅に開業したあと、駅施設の改良や駅構内のリニューアル、駅舎の建て替えなどを機会に施設展開を進め、2022(令和4)年3月現在で合計13施設となっている。

なかでも最大のテナント数となったのが2019年3月開業のエトモあざみ野(35店舗)である。あざみ野駅は田園都市線と横浜市営地下鉄ブルーラインの乗換駅として多くの利用者があり、2030年を目標にブルーラインが新百合ヶ丘駅まで延伸する予定で、さらに交通利便性の高い駅になることが見込まれていた。

エトモ池上は前述の池上駅の駅舎改良と駅ビルの新築に伴って2021年3月に開業。あざみ野に次ぐテナント数(26店舗)となった。食物販やカフェ・飲食店のほか、図書館などの公共施設、子育て支援施設として保育園や学童保育施設、外来診療を行うクリニック、ジム・ヨガスクールなど、地域の生活を支える多彩な構成とした。

9-3-3-2 高架下などの活用で生まれる新たな商業空間

2000年代に入り鉄道資産の有効活用を進めるなか、中目黒駅高架下を東京メトロと共同で開発することとした。これは駅の北東側を流れる目黒川から祐天寺方面への約700mにわたる高架下空間を開発するもので、駅周辺の商店街や緑道との回遊性を高め、街の活性化につなげる狙いであった。

コンセプトは「SHARE(シェア)」。高架下という一つの屋根の下で、テナント同士が空間をシェアしたり、顧客同士が楽しい時間をシェアしたりする、さまざまなシェアの場をめざした。通常は開発事業者が躯体部分を造り、各区画に入居するテナントが内装工事を行うが、中目黒では外装もテナントに任せて、個性ある空間づくりに努めた。テナントは全国チェーンのみならず、商店会や町内会を通じて地元からの出店希望も募り、地元と一体となって開発を進めたことも特徴である。2016(平成28)年11月に、飲食店や物販店、オフィスなど合計28店舗からなる「中目黒高架下」が開業。大規模な高架下開発が話題を集めた。

中目黒高架下

学芸大学駅では、2012年に高架下商業施設「GAKUDAI KOUKASHITA」を開業していたが、2021(令和3)年7月に、その一部である「学大市場」をリニューアル。これまでの物販中心の店舗構成に、シェアキッチン・飲食店・イベントスペースなどを加え、回遊性や滞在性を高めた。そのほか、東横線では、都立大学高架下(2015年)、武蔵小杉駅南口高架下(同)、新丸子駅〜武蔵小杉駅間高架下(2019年)などでも新たな商業空間を創出。高架下空間の整備のなかで、駐輪場の新設も進めた。

また2015年4月、五反田駅高架下に商業施設を開業した。五反田駅周辺の高架橋は、トレッスル橋といわれる構造で、池上電気鉄道の駅が開業した1928(昭和3)年に完成した歴史的土木構造物であり、これを生かした空間利用としている。さらに、大崎広小路方面に続く高架下を活用して、2018年に新たな店舗群を誘致し、五反田駅〜大崎広小路駅間に全長約230mの「池上線五反田高架下」が誕生。池上線に個性豊かな商業ゾーンが生まれた。

池上線五反田高架下

これらは、高架下という資産を単なる場所貸しにするのではなく、沿線地域の街づくりに活かし、沿線価値の最大化に役立てようという取り組みである。このほか中国・上海での店舗開発コンサルティングにも取り組んだ。

図9-3-4 東急線沿線エリアの主な商業施設(2021年時点)
出典:「会社概要2021-2022」

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