第9章 第1節 第4項 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響と対応

9-1-4-1 世界的な脅威となった新型コロナウイルスの感染拡大

2019(令和元)年12月、中国湖北省武漢市において原因不明の肺炎の集団発生があったことが発表された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生である。世界保健機関(WHO)の緊急委員会は2020年1月、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると発表した。

間もなく世界各国で感染者が確認され、多くの国々でロックダウン(都市封鎖)や入国制限などの措置がとられたものの、ウイルスの猛威は衰えることなく、世界的な大流行(パンデミック)となった。

日本国内でも、2020年1月に第1例目が確認された。当初、欧米諸国に比べて感染者の拡大が比較的緩やかに推移していたが、ウイルスの変異株や亜種が登場するたびに新たな脅威が伝えられ、とくに2021年末に確認された変異株=オミクロン株による新たな流行の波(第6波とされる)では、国内でも1日あたりの感染者数が10万人を突破した。2021年2月以降はワクチンの接種が進められ、ようやく3回目接種の進展をもって感染者数は減少傾向に転じたが、基礎疾患を抱えがちな高齢者を中心とする死亡者はあとを絶たず、日本国内だけで7万人以上が死亡、全世界ではその数が600万人超とも伝えられる(2023年1月時点)。

新型コロナウイルス感染症の流行に伴う社会的・経済的な影響は「コロナ禍」と呼ばれた。人と人との接触や交流、移動を制限するようになり、観光業やイベント業、飲食業、交通業をはじめ、グローバルな経済活動を伴う製造業などにも多大な打撃を与えた。またワークスタイルやライフスタイルにも大きな変化をもたらし、これがのちのちまで続くとの観測も広がった。

緊急事態宣言発出により土曜日の日中でも閑散とした渋谷駅ハチ公前広場(2020年4月)
シャッター、柵が閉じられ臨時休業中の東急百貨店本店(2020年4月)

9-1-4-2 危機管理本部の設置

2020(令和2)年4月7日、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、東京都や神奈川県など7都府県を対象に、政府から「緊急事態宣言」が発出された。これに伴い当社は同日付で髙橋社長を本部長とする危機管理本部を設置し、2010(平成22)年に策定しその後改訂した「新型インフルエンザ対策 事業継続計画」に基づいた新しい勤務体制などの実施を、全従業員に要請した。

本社勤務については、役員以下すべての本社勤務員の原則在宅勤務実施、集合による会議の原則自粛とWEB会議などの活用、外出自粛などを求めたほか、各事業の営業などについては各都道府県知事の要請に基づいて対応することを求めた。

感染拡大防止と事業継続を呼びかける社内通達

新型コロナウイルス感染症は、発熱などの自覚症状がない場合もあり、そうした無症状者から感染が広がるケースも多いことから、東急病院はもとより、感染リスクの高いシニア住宅とデイサービスおよび学童保育施設と保育園を運営する各子会社も、東急病院と連携し、全従業員のPCR検査を実施し、顧客に安心して利用してもらえるよう、体制を整えた。

また、感染予防や重症化予防に向けたワクチン接種を加速するために、2021年6月1日に、各自治体主導による接種に加えて、企業や大学など職域単位での職域接種を進める方針が政府から示された。当社は安全・安心の確保と事業継続の観点から、介護、鉄道、バス、スーパーマーケットなどのエッセンシャルサービスに従事するグループ従業員を中心に、東急病院を会場とした職域接種の実施を決定。同年6月21日に開始した。7月7日からは、1日最大1120人に対応可能な体制とし、接種対象をグループ全域に広げた。

東急病院における東急グループ従業員向け職域接種

一方、同じエッセンシャルサービスを担う従業員として広く励ましを行ったのも特筆すべきことである。とくに自らもそうであり、エッセンシャルワーカーも含めコロナ禍でも日々多くの利用客がある東急電鉄では2020年5月ごろから各現業職場で自発的に書いたメッセージポスターを駅に掲出。こうした動きが他の職場にも広がり、多くの人々の目にとまった。また感謝状を授与されるなどの評価も受けた。

東横線乗務・検車区からのメッセージ(元住吉駅)

9-1-4-3 コロナ禍が経営に与えた影響

新型コロナウイルス感染症拡大で、政府による「緊急事態宣言」、これに準じる「まん延防止等重点措置」が発出され、外出機会や人と人との接触、交流機会が大幅に抑制された。そのため、交通事業のほか、一時営業休止のやむなきに至ったホテル事業、大型商業施設や百貨店などのリテール事業を中心に業績面で大きな打撃を受けた。

とくに2020(令和2)年度の連結決算は、営業収益(売上高)が対前年度比19.6%減の大幅減収となり、1999(平成11)年度以降初めて1兆円を割り込んだ。営業利益・経常利益・当期純利益は共に大幅な赤字で、当期純損失は「選択と集中」により多額の特別損失を計上した2003年度以来であり、500億円を超える当期純損失は連結決算の作成を始めて以降最大となった。こうしたことから、当社では2020年9月から2021年3月までの役員報酬返上を実施した。また、基幹職の給与についても減額などの措置を行った。

2021年度は首都圏で「緊急事態宣言」および「まん延防止等重点措置」の断続的な発出があったが、行動制限が段階的に解除されたことで、国内の経済活動が徐々に正常化の兆しを見せ始めた。当社連結決算は、前年よりは一部回復したものの、鉄道・百貨店・ホテルを中心にコロナ禍前の水準には遠く及ばず、営業利益・経常利益・当期純利益は共に不動産売却益により黒字に転換したのが現実であった。

なお個々の事業への影響などについては、第2節以降で適宜記述する。

表9-1-2 コロナ禍前後の当社連結業績推移(2018年度~2021年度)
注:当社「有価証券報告書」「投資家向け決算概況資料」をもとに作成
※1:親会社株主に帰属する当期純利益
※2:東急EBITDA:営業利益+減価償却費+固定資産除却費+のれん償却費+受取利息配当+持分法投資損益
※3:D/Eレシオ:期末有利子負債/期末自己資本×100
※4:決算期が1月であり、コロナ禍の影響が小さい2019年2月から2020年1月と比較

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