第9章 第3節 第4項 不動産運営事業の強化と沿線価値の向上に向けて

9-3-4-1 東急プロパティマネジメントへの事業移管による機能強化

東急ファシリティサービス株式会社は、「選択と集中」によるグループ事業再編成の一環として、2002(平成14)年7月に、ビル管理事業を中心に事業展開していた東急サービス株式会社と東急管財株式会社を合併した、当社の完全子会社である。

東急サービスは、1961(昭和36)年10月に設立された城南交通株式会社が前身で、同社はハイヤー・タクシー事業が本業であったが、都心部の交通事情の悪化により、渋谷を中心にビル清掃管理、駐車場管理、食堂やコインロッカーの運営などにも手を広げ、やがてこちらを本業として、1967年11月に商号を東急サービスに変更した。東急管財は当社が1956年11月にビル清掃管理会社を買収し、東急文化会館や新宿東急文化会館の管理を委託したのが始まりで、電話交換業務や駐車場管理、ビル保安業務なども手がけていた。

合併後の東急ファシリティサービスは、ビル管理事業のほか、多岐にわたる事業を行っていたが、東急線沿線住民への安全・安心を提供すべく機械警備事業を分社化し、2004年10月に東急セキュリティ株式会社を設立した。

2010年以降は、下表の通り、東急ファシリティサービスの事業再編が加速し、事業がスリム化した。同社は事業エリアを東急線沿線に絞り、渋谷をはじめとする沿線の大型開発ビルなどの設備管理、清掃などの事業に集中していくこととなった。

こうして東急ファシリティサービスの不動産管理事業の強化を図り、2021(令和3)年4月から、当社の不動産運営事業(テナント対応やリーシング業務など)を同社に移管することとなった。また、これに合わせて、同社は東急プロパティマネジメント株式会社に商号変更した。

図9-3-5 東急プロパティマネジメント発足までの会社沿革図
注:社内資料をもとに作成
表9-3-1 東急ファシリティサービス設立後の事業再編の動き
注:社内資料をもとに作成

この事業移管は、当社が2019年9月に発表した「長期経営構想」において、都市開発事業の戦略として掲げる、「東急ならではの街づくりの進化」と「不動産事業から都市経営への進化」を具現化するもの。同社が不動産運営業と不動産管理業を一体的に展開することで、賃貸資産のオーナー、テナント、利用者などの多岐にわたるニーズにスピード感を持って対応し、賃貸資産の価値向上につなげる狙いである。さらに、当社が培ってきた不動産運営実績を生かして、今後は同社が第三者の資産受託も進め、東急グループとして、不動産運営事業を不動産賃貸、不動産販売に次ぐ第三の柱とすることをめざした。

図9-3-6 東急プロパティマネジメントへの業務移管 スキーム図
出典:ニュースリリース(2021年1月8日)

9-3-4-2 住宅関連事業(不動産販売・賃貸)の展開

マンションブランド「ドレッセ」は、シリーズ最大の戸数、全857戸(2棟)の「ドレッセ中央林間」を2017(平成29)年11月に販売開始、田園都市線始発駅であるため安定的な人気があり、2022(令和4)年3月に全戸完売した。「次世代郊外まちづくり」のモデル地区に建設された「ドレッセWISEたまプラーザ(3棟278戸)」は地域利便施設「CO-NIWAたまプラーザ」を備えたことなど、新たな取り組みが関心を集めて、竣工前の2018年3月に完売した。

このほかにも「緑区十日市場町周辺地域持続可能な住宅地推進プロジェクト」の一環で建設した「ドレッセ横浜十日市場(3棟311戸)」、「新綱島駅前地区第一種市街地再開発事業」の推進に伴う「ドレッセタワー新綱島(252戸)」、「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」の進展に伴う当社で3件目の定期借地権(70年)付き分譲マンション「ドレッセタワー南町田グランベリーパーク(375戸)」、そして脱炭素への取り組みを具現化した「ドレッセタワー武蔵小杉(160戸)」、前述の「THE YOKOHAMA FRONT TOWER(459戸)」の建設が進み、それぞれ販売を開始した。

2017年6月には、1棟まるごとリノベーションマンション事業として「ドレッセ Reno」を立ち上げた。第1号物件として「ドレッセ Reno青葉台」の販売を開始し、2019年5月に完売となった。

ドレッセ Reno青葉台

戸建住宅ブランド「ノイエ」は、2015年以降、大倉山、青葉台、あざみ野、鷺沼、久が原、南町田で販売を開始した。現在は「ミナノバ・ビレッジ(ノイエあざみ野コートヴィラ、BESSの家)」の販売を行っている。

賃貸住宅ブランド「スタイリオ」は、時代と共に変化するさまざまな暮らしのニーズに応えたシリーズ。駅近で高品質志向の「スタイリオ」、シンプルな暮らしを実現する「スタイリオフィット」、住まいに個性を求める人のための「スタイリオX」、シェアハウスライフが楽しめる「スタイリオウィズ」、学生向けの「スタイリオネスト」の5シリーズを展開している。このほか、シニア住宅の拡充も進めているが、詳細は第5節で述べる。

9-3-4-3 沿線の資産活用や価値向上に向けた取り組み

当社は、土地オーナーや地権者向けの資産活用コンサルティングと、沿線地域での居住を検討する人々向けの相談窓口事業を進めてきた。

資産活用コンサルティング関連では、かつては多摩田園都市の土地オーナー向けに区画整理後の未利用地活用の提案を主に行ってきた。さらに、既設建築物の建て替えやリノベーションで資産価値向上を支援する資産活用コンサルティング事業にも注力。2015(平成27)年以降は、空き家となった社員寮の保育園へのリノベーション、地元地権者の要望に基づいた複合商業施設の建設、地元地権者からのマスターリース物件について外国人留学生混在型学生寮として大学への賃貸、運営管理サービスの提供、などの実績を重ねた。

また第8章で詳しく述べたように、沿線地域への転入や沿線地域内での住み替え、暮らしにかかわるさまざまなお困りごとを抱える顧客に寄り添い、上質な住まいや暮らし方の実現に向けた提案をワンストップで行うサービスとして、2009年9月に「住まいと暮らしのコンシェルジュ」を開設した。現在までに9店舗、提携企業は200社超に拡大している。ここでは不動産の購入・売却、建て替え、リフォーム、資金計画、相続・贈与、税務相談も含めた総合的な相談サービスを提供し、グループ内外のさまざまな提携企業を無料で紹介している。窓口には、沿線地域における住宅の購入希望者や居住者のみならず、空き家の保全管理についての相談も寄せられていた。

当社は、宅地建物取引士、建築士などの有資格者もいることから、2018年度から当社は「東京都空き家利活用等普及啓発・相談事業」の事業者に選定され、2021(令和3)年8月には、品川区が実施する「品川区空き家専門相談窓口事業」の初の事業者に認定された。

「住まいと暮らしのコンシェルジュ」における空き家相談受付の告知
出典:当社ホームページ

5年ごとに行われている国の調査(住宅・土地統計調査)で、2018年には日本全国に848.9万戸、東京都内に約80.9万戸の空き家があるとされ、品川区では2.4万戸近くを数える。沿線地域でも人口減少社会の到来が近づいており、空き家になることで建物の老朽化や自然災害に伴う倒壊、景観に与える影響、防犯上の問題などの課題が生じている。こうした地域課題に取り組むことも、当社の使命となっている。

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