第9章 第4節 第2項 新たなフェーズを迎える渋谷のまちづくり

9-4-2-1 渋谷駅周辺のエリアマネジメントに尽力

各開発街区におけるビルの建設や都市基盤の整備といった土木建築工事が進捗する一方で、渋谷のにぎわいを維持しながら世界に冠たる国際都市へと発展させていくため、行政・民間・地域の連携を図りつつ、都市経営の視点を持ちながら街の運営面、ソフト面でもさまざまな取り組みを進めてきた。

まず挙げられるのがエリアマネジメントの取り組みである。官民でまちづくりに関するルールをつくる「渋谷エリアマネジメント協議会」を2013(平成25)年5月に組成したあと、まちづくり活動の実行部隊である「一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント」を2015年8月に設立。まちづくりのルールを基準に、さまざまな活動を通してにぎわいを創出し、屋外広告の掲出で得た収入をまちづくりに再投資するサイクルを構築した。

渋谷駅前エリアマネジメントによる「SHIBUYA + FUN PROJECT」のロゴ

具体的には、広場・道路や解体工事中の東急百貨店東横店での広告掲出、高層ビル壁面へのサイネージ設置を実現したほか、駅と周辺での案内サインのデザインの統一、将来の開発を踏まえた地下出入口番号の整理、工事中のわかりやすい情報発信、各施設の連携による駐車場一体運用ルールの策定などを実施した。

また渋谷では、これまでも地元や行政が中心となったイベントが年間を通じて数多く実施されてきたが、東急グループでは渋谷を盛り上げていくため、こうした取り組みにさまざまな形で協力してきた。「渋谷盆踊り大会」「年末カウントダウン」「SHIBUYA WINTER ILLUMINATION」のほか、音楽・アート・ファッションといった渋谷の特色を生かした「渋谷音楽祭」「渋谷芸術祭」「渋谷ファッションウイーク」「渋谷駅東口地下広場でのカフェ運営」などがあり、東急グループもグループ施設などと共に連携・協力してきている。

渋谷駅東口地下広場のカフェ

9-4-2-2 渋谷区と包括連携協定を締結

2020(令和2)年8月、渋谷区と当社は、渋谷区が提唱する「渋谷区産業・観光ビジョン」(2020年発表)と、当社が提唱する「エンタテイメントシティSHIBUYA」(2012<平成24>年発表)の実現を目的とする「グローバル拠点都市の形成等に関する包括連携協定」を締結した。

これまで両者は、渋谷の街が抱える課題の解決をめざし、基盤整備事業をはじめとする大規模な再開発や、官民一体による渋谷駅前エリアマネジメントの実施、地域イベントへの参画・協力など、さまざまな分野で連携し、渋谷の街の価値向上に取り組んできた。

渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)の開業など再開発が一つの節目を迎えるなか、協定締結により、相互の知見や人材交流を活用し、ソフト面の街づくりを連携して進めることを確認した。具体的な取り組みとして、区内に拠点を有するスタートアップ企業やその関連団体などと積極的に協業を行い、「人財育成」を通じたスタートアップ・エコシステムの形成をめざすほか、5Gなどの新たな技術を活用し、新たな社会インフラ整備を推進することで、エンタテイメント産業の「産業育成」を図ることとした。

渋谷区と包括連携協定を締結 長谷部渋谷区長(左)と髙橋社長(右)(2020年)

スタートアップ企業を支援する取り組みは、一連の再開発を通じて、すでに織り込み済みでもあった。例えば渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)の15階は1フロア全体を会員制の共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」とし、多様な人々の交流を通じて社会価値を生み出す新たな種の発掘を試みている。宮益坂を挟んだ北側には、新しいサービス・プロダクトの社会実装に向けた招待会員制のオープンイノベーション施設「SOIL(Shibuya Open Innovation Lab)」を2019年7月に開設した。このほか東急不動産が中心となり、道玄坂にイノベーション創出のための場として「Plug and Play Shibuya Powered by 東急不動産」を設けた。

共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」でのイベント

こうした場づくりと共に、当社では2015年度から、スタートアップ企業との事業共創を図る「東急アライアンスプラットフォーム」(開始時の名称は「東急アクセラレートプログラム」)を実施し、スタートアップ支援の一端を担っている。

渋谷区は、未来の産業をつくるスタートアップ企業が東京都区部で最も集積している区である(2022年現在)。一連の取り組みを通じて、さらに集積を図ることで渋谷区の活力向上に役立てていこうとしている。

2023年2月には渋谷区、当社、東急不動産、GMO インターネットグループが共同で、渋谷に国際的なスタートアップ・コミュニティーを誕生させ、育むことをめざして「シブヤスタートアップス株式会社」を設立することを発表した。

9-4-2-3 [コラム]渋谷区、渋谷のIT企業と協働した「プログラミング教育事業」の推進

当社、株式会社サイバーエージェント、株式会社ディー・エヌ・エー、GMOインターネット(現、GMOインターネットグループ)株式会社、株式会社ミクシィ(現、MIXI)、渋谷区教育委員会の6者は、渋谷区立小中学校でのプログラミング教育の充実を図り、次世代に必要な資質・能力を持った人材を渋谷から輩出する土台づくりを進めることを目的に、2019(令和元)年6月に「プログラミング教育事業に関する協定」を締結。民間5社により「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」を推進することとした。

「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」でのイベント

2020年度から始まる小学校でのプログラミング教育必修化に備えて、同プロジェクトではまず、2019年度は夏休み期間中に小中学生を対象としたプログラミングワークショップを開催したほか、渋谷区立小中学校におけるプログラミング教育カリキュラムの開発支援や、所属する教師に対するプログラミング教育の研修を行った。

2020年度からは講師派遣や授業例提供などの授業支援、授業の実施に必要な知識に関する教員研修などの公教育支援を実施。同年度は各社スタッフが渋谷区立小中学校全26校におもむいてプログラミング授業を行い、延べ約8700人の子どもたちに教育機会を提供した。また夏休み期間には、コロナ禍により小中学生の学ぶ場所や学びの機会が大きく変化するなか、全国の小中学生にも門戸を開き、オンライン形式を主軸にプログラミングサマーキャンプを開催した。2021年度以降も引き続き、同様の公教育支援やワークショップ・イベントを開催している。

こうした取り組みに対し、「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」は、文部科学省が主催する令和3年度「青少年の体験活動推進企業表彰」において、審査委員優秀賞を受賞した。IT企業が多く集積する渋谷ならではの特徴を生かした、社会貢献の取り組みであった。

9-4-2-4 東急グループの渋谷まちづくり戦略“Greater SHIBUYA 2.0”を策定

渋谷では、当社や東急不動産を中心とした駅周辺の再開発のみならず、渋谷区新庁舎の竣工(2018<平成30>年10月)、都市再生特別地区制度を活用した「宇田川町15地区開発計画」の推進による渋谷パルコの新装開業(2019<令和元>年11月)、都市計画公園や商業施設、ホテルで構成されるMIYASHITA PARKの開業(2020年7月)なども話題を集めた。そして渋谷区でも区内各所で新たなまちづくりが検討されており、今後もエリアの外周を広げながら発展していく可能性を秘めている。

渋谷は原宿や青山といった魅力あふれる街や、NHK、新国立競技場、大学などの文化・学術機関に囲まれた街でもある。駅周辺の開発が完了したあとも、この恵まれた環境と地域資源を活かし、人材交流と事業交流をいっそう活発化させ、新しいビジネスや文化を、世界に発信し続ける街にすることが、渋谷がサステナブルな成長を続けていくうえで不可欠なテーマとなる。

2005年12月、渋谷駅周辺地域が東京都から「都市再生緊急整備地域」に指定されたのに続き、2011年12月には国際戦略総合特別区域の一つとして「アジアヘッドクォーター特区」の指定、2012年1月には「特定都市再生緊急整備地域」の指定を受けたことで都市計画や税制上の特例や優遇措置が適用されるため、より自由度の高い開発計画が可能となった。

当社は、渋谷区の「渋谷駅中心地区まちづくり指針2010」を踏まえ、東急グループとしてどのように開発を進めていくか、まちづくりの方向性について検討を開始した。そして、強みを際立たせ、課題を克服する区の方針を踏まえ、二つのビジョンの実現をめざした。日本一訪れたい街をめざした「エンタテイメントシティSHIBUYA」と、渋谷に加えて半径2.5キロ徒歩圏内の特色ある街をつなぐ「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)構想」であった。

その後、新しい社会のニーズに適応したまちづくりを機動的に進めるため、2021年7月、新戦略「Greater SHIBUYA 2.0」を東急不動産と連名で発表した。これまでの「Greater SHIBUYA1.0」を継続しつつ、「働く」「遊ぶ」「暮らす」の3要素の融合と、その基盤となる「デジタル」「サステナブル」に取り組むことで相乗効果を創出し、それぞれに有機的なつながりを持たせ、渋谷で楽しく快適に過ごす「渋谷型都市ライフ」の実現をめざしている。

図9-4-5 「Greater SHIBUYA 1.0」から「Greater SHIBUYA 2.0」へ 概念図
出典:「会社概要2021-2022」

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