第9章 第9節 第3項 グループによる対外活動

9-9-3-1 「東急まつり」を継承、「東急グループ感謝のつどい」を開催

2017(平成29)年4月、第1回「東急グループ感謝のつどい」が上野毛の五島美術館で開催された。この日は当社を含むグループ会社24社のトップがホスト役を務め、取引先など64社68人のゲストを迎えた。展示室では国宝「源氏物語絵巻」が特別公開され、ゲストは歓談や食事、散策、作品鑑賞を楽しんだ。

上野毛で開催された第1回「東急グループ感謝のつどい」

「東急グループ感謝のつどい」の前身は、1961(昭和36)年から2000年まで開催されていた「東急まつり」である。当時の五島昇社長が政財界の重鎮を招いて、グループ各社の社長も交えた華やかな宴が催され、同日にはグループ社長会が開催されるのが毎年の恒例行事であった。40年間の歴史を有する会の復活を発案した野本弘文グループ代表は、その理由について次のように語った。

『東急まつり』は、バブル崩壊後の厳しい事業環境を受け、残念ながら終了せざるを得ませんでした。しかしその後、グループ再編という大きな困難を乗り越えて財務体質を改善することができました。

現在、東急グループが、渋谷や二子玉川の大規模開発をはじめとする積極的な事業展開を図れるまでになったのは、ひとえにお客さまや取引先のおかげです。

その感謝の気持ちを込めて、歴史ある『東急まつり』を新しいかたちで復活させたいと考えました。この構想は、私が東京急行電鉄社長に就任した2011年からずっと温めていました。(『とうきゅう』484号より)

その後、コロナ禍により2020(令和2)年と2021年は内容を変更して実施、2022年から再開した。グループ各社が一体となって感謝の気持ちを伝え、懇親を深める貴重な場となった。

9-9-3-2 助成財団の統合により東急財団が発足

東急グループは、環境、国際交流、文化・芸術の領域における助成を基軸とした財団活動を支援してきた。

多摩川とその流域の環境保全を発端として1974(昭和49)年8月に設立された「財団法人とうきゅう環境浄化財団」、国際交流・文化交流の増進と友好的な善隣関係の構築をめざして1975年10月に設立された「財団法人とうきゅう外来留学生奨学財団」、そして文化的に豊かな社会の実現と、日本および世界の文化の向上・発展に寄与すべく1990(平成2)年3月に設立された「財団法人五島記念文化財団」の3財団である。それぞれ2010年から2012年にかけて公益財団法人に移行した。

3財団は、長年の取り組みを通じて2018年度までに累計で約50億円超の助成(奨学金を含む)を行い、一定の成果を上げてきた。

2008年の公益法人制度改革で主務官庁が廃止され、規定される23の公益事業を一つの財団で行うことが可能となったことから、2019年4月、3財団の統合により「公益財団法人東急財団」として活動を開始することとなった。

3つの財団を統合して新たに東急財団が発足
注:「公益財団法人東急財団パンフレット」(2019年4月)をもとに作成

9-9-3-3 「東急子ども応援プログラム」の開始

当社は2019(令和元)年12月、すべての子どもが安全・安心で心豊かに暮らせる生活環境づくりの支援を目的に、東急線沿線で子どもを取り巻く社会課題の解決をめざして活動する民間非営利団体に活動資金を助成する「東急子ども応援プログラム」を開始することを発表、支援団体の募集を行った。

近年、家庭内暴力・経済的に困窮する家庭状況などにより、不安や困りごとなどを抱えている子どもの存在が、社会課題の一つとなっている。また、内閣府の調査(平成30年度「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」)によれば、日本の若者は諸外国と比べて自己肯定感が低いという調査結果も出ていた。地域には、こうした子どもたちを取り巻く課題に気づき、サポートをする活動があり、子どもたちを支えている。当社も地域社会の一員として、現代の子どもたちを取り巻く課題解決に向き合う団体を支援していくこととした。2019年9月に発表した「長期経営構想」では「安全・安心」「まちづくり」「ひとづくり」など六つのサステナブル重要テーマに向き合い、社会課題の解決に継続的に取り組むことを表明していたが、同プログラムも、次世代を担う子どもたちを支える「ひとづくり」の活動の一つであった。

第1回「東急子ども応援プログラム」の支援団体募集には146件の応募があり、学識経験者、NPO実務経験者、当社担当者などで構成される選考委員会により選考を行い、助成が内定した支援団体との顔合わせを経て合計10団体の助成先を発表。2020年7月から1年間の活動に対して最大100万円(10団体合計で844万円)の助成を行った。

「東急子ども応援プログラム」の告知ポスター

助成期間中は、支援団体への活動視察を随時行い、各団体のリーダーにインタビューを実施、「東急子ども応援プログラム」の公式サイトで公開し、その活動内容や意義について、地域住民にも広く知ってもらうこととした。また1年間の活動成果は「『第1回 東急子ども応援プログラム』完了報告書」に取りまとめ、公式サイトで公開した。

コロナ禍に伴って子どもたちへの支援活動が一時的に休止となるケースも見られたが、この取り組みは毎年継続することとしており、2023年には第4回目を迎える。

9-9-3-4 [コラム]阪急阪神ホールディングスとの協働で「SDGsトレイン」を運行

東急グループは2020(令和2)年9月、SDGsの達成に向けて多様なメッセージを発信するラッピング列車「SDGsトレイン」の運行を開始した。これは、阪急阪神ホールディングスと協働運行するもので、国や自治体・企業・市民団体などとも連携して企画したものである。

SDGsは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略で、グローバルな社会課題を解決し、持続可能な世界を実現するための目標が掲げられ、これが2015(平成27)年9月の国連サミットで加盟国の全会一致により採択された。

SDGsには17のゴールと169のターゲットが目標として設定されており、当社が優先して取り組むべき社会課題を定めたサステナブル重要テーマ(マテリアリティ)の特定にあたっても、これを意識している。

「SDGsトレイン」はSDGsそのものへの理解促進をめざし、2019年5月から阪急阪神ホールディングスで運行されていたが、東急グループもこれに賛同し、東西で同時に運行することでSDGsに対する関心を高めることとした。阪急阪神ホールディングスではSDGsトレイン「未来のゆめ・まち号」、東急グループではSDGsトレイン「美しい時代へ号」と命名し、東横線・田園都市線・世田谷線で1編成ずつ運行(東横線・田園都市線の乗り入れ先も含む)。東急電鉄・阪急電鉄・阪神電気鉄道それぞれ最新の省エネ車両を使用、走行にかかる電力はすべて実質再生可能エネルギーで賄い、車内には、SDGsの解説や賛同する国や自治体・企業の取り組みをポスターで掲出した。当初1年間の運行として取り組み始めたが、引き続き運行を行っている。

阪急阪神ホールディングスとの協働で運行開始した「SDGsトレイン 美しい時代へ号」

9-9-3-5 [コラム]五島慶太未来創造館が開館

当社の実質的な創業者である故五島慶太会長の生まれ故郷、長野県小県(ちいさがた)郡青木村に、2020(令和2)年4月、「五島慶太未来創造館」が開館した。青木村は長野県の東部、上田市の西方約12kmに位置する、人口4121人(2020年10月1日時点)の村である。五島慶太会長は38歳にして官職を辞して実業界に身を投じ、東急事業団(現在の東急グループ)の骨格を形成する一方で、生涯を通じてふるさととかかわりを持ち続けた。

五島慶太未来創造館は青木村が建設したもので、施設コンセプトは「学習・交流の起点」。五島慶太会長の生涯の軌跡を振り返ると共に、小さな山村から実業界に大きくはばたいた先人の想いを、これからの時代を生きる子どもや若者をはじめとする人々につなげ、ここを拠点に村民や来訪者の間で多彩な交流を生み出したい、という村の意向があった。

当社はこうした青木村の思いを受けて開館を支援するなかで、長津田車両工場で保管していた80形と3000形車両の車輪を寄贈。モニュメントとして同館のエントランスに設置された。

なお、当社の「社内起業家育成制度」により事業化された東急グループのふるさと納税関連事業「ふるさとパレット」では、寄付先の自治体に青木村も設定。同村では、限定栽培されているそば種「タチアカネ」を使用した干しそばなどを返礼品としている。

青木村に開館した五島慶太未来創造館(右下が車輪のモニュメント)

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