第9章 第8節 第2項 オープンイノベーションによる事業創出

9-8-2-1 オープンイノベーションと戦略的アライアンス

「社内起業家育成制度」が当社および東急グループ内部から事業創出を図る仕組みであるのに対し、グループ外企業などとの連携をめざした「東急アライアンスプラットフォーム」(詳細は後述)を含むオープンイノベーションの取り組みも進めた。

当社は2018(平成30)年3月発表の「中期3か年経営計画」において重点施策の一つに「戦略的アライアンスの拡大」を挙げ、これを反映するように近年ではグループ外企業との連携・協業を試みる事例が増えてきた。

沿線地域の街づくりに関する産学公民の連携もさることながら、楽天との協業によるポイントマーケティングの強化、住友商事との合弁会社(Sharing Design)設立(2021<令和3>年)による東急線沿線での5G通信環境の整備、暮らし全般でのIoT化推進を目的としたコネクティッドホーム アライアンス(2022年4月現在、参加企業39社)の設立、前述の会員制シェアオフィス事業における同業他社との連携などである。他には、松竹との合弁会社(BS松竹東急)設立によるBS放送局の開局などもあった。

また直近では2021年に、ユニークなビジネスモデルや技術を有する新興企業との連携に関する発表が相次いだ。株式会社Unitoとの協業による多拠点生活者向けのサービスアパートメント「Re-rent Residence渋谷」(入居者が外泊時にホテルとして貸し出すシステム)の賃貸開始、株式会社再生建築研究所との業務提携による老朽化物件の再生事業の開始、株式会社リアルゲイトとの協業によるオフィスリノベーション事業「IOQ」シリーズの展開である。

コロナ禍により人々のライフスタイルやワークスタイルが変容し、価値観が多様化するなか、当社単独では得られにくい知見や発想を持つ外部企業と柔軟に連携を図ることで社会課題の解決につなげていこうとしているところである。

9-8-2-2 東急アライアンスプラットフォームで事業共創を推進

当社は2015(平成27)年7月から、スタートアップ企業などとの事業共創を推進する「東急アクセラレートプログラム」を開始した。法人設立からおよそ5年以内の企業を対象とし、「鉄道」「不動産」「生活サービス」の事業領域を中心に、東急線沿線での生活利便を高めるサービスやプロダクトを募集。審査を通過した企業に対しては、当社やグループ会社と共に沿線での広告媒体や施設、顧客基盤、営業網、東急総合研究所の各種調査データを活用したテストマーケティングが行えるようにし、必要に応じて業務提携を検討するというものである。国内ではオープンイノベーションの一環としてアクセラレートプログラムを実施してスタートアップ企業を支援する先例が報告されていたが、鉄道事業者としては初めての取り組みであり、最初は当社都市創造本部開発事業部が中心となり、導入を進めた。

「東急アクセラレートプログラム」の狙いは、沿線でスタートアップ企業が成長し続ける仕組みを構築し、最先端のサービスを提供する企業との共創で沿線の利便性を高める点にある。起業家から学び取り、刺激を受ける部分も多々あることから、起業家と社員の交流機会を積極的に設けることとした。

その後は応募対象の事業領域を徐々に拡大、2021(令和3)年までの6年間で累計824件の応募があった。東急グループ各社との事業共創を進めることで、この内54件のテストマーケティングや実証実験および試験導入を実施(実施予定の4件含む)、26件の事業化や本格導入、7件の業務・資本提携を実現した。

SOILで開催された「東急アライアンスプラットフォーム」2021年度DemoDay

こうした成果を踏まえ、2021年8月には名称を「東急アライアンスプラットフォーム」に改めた。事業支援の意味合いが強い「アクセラレート」から、より対等な立場で双方向のコミュニケーションを行うことで応募企業との事業共創を推進する「アライアンス」へと進化するという意味を込めたもので、スタートアップ企業などから事業共創先として選ばれ続けるプラットフォームとなることをめざした。

名称変更と同時に、従来の「プログラム」形式による参画事業者を中心とした取り組みにとどまらず、より迅速かつ円滑に事業共創を推進する「プラットフォーム」を構築することで、オープンイノベーションが「あたり前化」した企業グループへと進化を図っていくこととした。

これに伴い、「長期経営構想」で示したビジョン「東急ならではの社会価値提供による“世界が憧れる街づくり”」の実現に向けて、事業共創の対象領域を、グループを横断して注力する分野である「デジタルプラットフォーム」、「脱炭素・サーキュラーエコノミー」を加えた19領域に拡充。「東急アライアンスプラットフォーム」の公式サイトに、各領域において当社が認識している課題、新たに創造したい顧客提供価値へのニーズを、随時アップデートしながら公開し、応募企業との最適なマッチングを図った。

東急100年史トップへ