第9章 第7節 第1項 ベトナムでの都市開発事業

9-7-1-1 「ビンズン新都市」SORA gardensエリアの開発

第8章で述べたように、当社は多摩田園都市など沿線開発で培ってきたノウハウを活かし、経済成長が続くベトナムの都市の発展に貢献しながらベトナム・ビンズン省にて先進的で持続的な街づくりに取り組んだ。2012(平成24)年3月にベカメックス社との合弁によりベカメックス東急有限会社を設立。「ビンズン新都市」内の同社の開発エリア全体を「東急ビンズンガーデンシティ」(対象街区面積:約110ha)と総称した。

開発は当初、施工管理、住宅販売などのノウハウが不足していたことから、東急建設、東急リバブル、東急バスからの出向者の支援により、事業ノウハウの現地化を進めた。

まず初めに着手したのが、ホーチミン市側からの玄関口に位置するSORA gardensエリアのマンションプロジェクトで、2012年11月に「SORA gardens I」(地上24階建て、総戸数406戸)の建設に着工、ゲストルームや空中庭園、屋外プールなどを備えて2015年3月に竣工し、月額で利用できるサービスアパートメント(40室)も併設した。続いて隣接地には、ベカメックス東急、三菱地所レジデンスとの合弁事業として「SORA gardens II」(地上24階建て、総戸数557戸)を建設し、2021(令和3)年5月に竣工。高層マンションが並び立つ格好となった。

SORA gardensエリアでは、ビンズン新都市で初めての大型ショッピングセンター「SORA gardens SC」を計画。最終的には敷地面積12万㎡を超える複合型のショッピングセンターとなる予定で、2023年夏には第1期分が開業、イオンが核テナントとして入り、そのほか映画館やファッションセンター、レストラン&カフェなどが出店する予定である。

また日常生活の足となる交通事業では、ビンズン省の旧市街であるトゥーヤモットとビンズン新都市を結ぶバス路線を計画し、ベカメックス東急の100%子会社として2014年2月にベカメックス東急バスを設立。同年12月から日本で培った、環境と共生する開発ノウハウを生かし、エコな交通手段として路線バス「KAZE SHUTTLE」の運行を開始し、新都市内の循環路線などの新路線も順次開業した。路線バス運行に使用する車両の多くは、地球環境に優しい天然ガス(CNGガス)を燃料としている。ベトナムでは移動の手段として主にバイクが利用されているが、公共交通機関の利用を促すことで道路の混雑緩和や交通事故の防止、環境負荷の低減に寄与することをめざしており、モーダルシフトの先駆的な取り組みとなった。

またビンズン省が、居住する外国人やベトナム人にとって魅力的な街になるよう、国際教育を充実させた越華国際学校や、日本の医療システムを導入したクリニックを誘致。サッカーJリーグ川崎フロンターレと連携したサッカースクールなど、さまざまなイベントも開催することで、国際交流にも貢献している。

路線バス「KAZE SHUTTLE」

なおこの間の2014年2月には、ビンズン新都市の中央にビンズン省の統合行政庁舎が完成し、省都がトゥーヤモットからビンズン新都市に移った。またコロナ禍のなか、2021年7月からビンズン省の要請で、延べ3900台のベカメックス東急バスを出動させ、10万人以上のコロナ患者、医療関係者、物資などの輸送に尽力した。

9-7-1-2 「ビンズン新都市」MIDORI PARKとHikariエリアの開発

ビンズン新都市の北西部では、63haもの広大なエリアの内56%を緑地空間とした、緑と水のあふれる環境豊かな住宅ゾーン「MIDORI PARK」の整備を進めた。

ここでは戸建人気が高いビンズン省の富裕層をターゲットとした低層住宅プロジェクトとして「HARUKA Residence」と「HARUKA Terrace」(合計219戸)を整備し、2017(平成29)年8月に街びらきとなった。続いてベトナム中間層のヤングファミリーをターゲットとしたマンションプロジェクトとして「MIDORI PARK The VIEW」(地上24階建て、総戸数604戸)が2019(令和元)年12月に竣工。「SORA gardens I」に続いてサービスアパートメントを100室設け、多様な滞在スタイルが選べるようにした。これら居住地域の誕生に合わせて、商業施設「MIDORI PARK SQUARE」を2019年10月に一部開業、コンビニエンスストアやファストフード店、カフェなどが入居した。

MIDORI PARK内の低層住宅「HARUKA Residence」と「HARUKA Terrace」

さらに2020年7月にはベカメックス東急とNTT都市開発の合弁で会社を設立し、2021年12月、アッパーミドル層をメインターゲットとした分譲マンション「MIDORI PARK The GLORY」(地上24階建て、総戸数992戸)の建設に着工した。同マンションにはクラウドWi-Fiシステムを導入し、高品質な通信環境を提供すると共に、ベトナムのマンションでは初めての「コワーキングスペース」を共用施設として設置し、多様な働き方のニーズに対応することとした。竣工予定は2024年冬である。

また、統合行政庁舎などのビンズン省施設や各企業・団体のオフィスが集結し、新たなビジネスエリアに発展しつつある新都市中心部に近い「Hikariエリア」では、商業施設「hikari」の第一期が2015年1月に開業したが、環境に優しい商業施設「Hikari」としてリブランディングし、2022年9月には拡張エリアが先行開業した。施設内にはアクアポニックス(※1)や生ごみ処理機などを配置。店舗にはゼロウェイスト(※2)をコンセプトにしたベトナム初の環境配慮型レストランをはじめ、フードコート、カフェ、コンビニエンスストアなどが入居した。

こうしてビンズン新都市は着々と新しい街づくりが進み、金融センターや国際会議場、医療機関、教育機関なども順次整備されつつある。ビンズン新都市の周辺では、シンガポール系企業とベカメックスIDC社の合弁によるベトナムシンガポール工業団地、ベカメックスIDC社単独によるミーフック工業団地が2000年前後から複数地域で整備されてきており、ビンズン新都市も含めた一帯が、衛星都市として発展していくことが見込まれている。

不動産開発と公共交通の整備を両輪で進めてきた当社の強みを生かした、ベトナム版ガーデンシティ(田園都市)の開発はこれからも進化を続けていく。

  1. ※1:魚の排出物を微生物が分解、それを植物が育成に必要な養分として吸収することで水が天然で浄化され、その水を魚の水槽に戻して魚と植物を育てる仕組み
  2. ※2:ゼロウェイスト…排出ごみを可能な限り減らすためリユース品を用いるなどするほか、それでも出てしまうごみはリサイクルする「ごみをゼロにする」取り組み

9-7-1-3 ホーチミン市での不動産事業

当社はビンズン新都市での経験を踏まえて新たな展開を図るべく、ホーチミン市での不動産事業について今後の可能性を探っていた。

その結果、現地での不動産開発や住宅販売で豊富な実績を持つフンティン社との合弁により分譲住宅事業に着手することとし、まず手始めに、将来のホーチミン市地下鉄1号線沿線のトゥドゥック区で計画されていた高層マンション「Moonlight Residences」(地下2階・地上21階建て、535戸)の開発事業に参画(当社持分30%)した。販売開始から1か月でほぼ完売するなど販売進捗は極めて良好に推移し、2019(令和元)年7月に竣工して引き渡しを終えた。

ホーチミン市で分譲した高層マンション「Moonlight Residences」

これに続いてホーチミン市周辺エリアでの大規模マンションの開発を進めた。またこの間には、東急コミュニティーと当社の対等出資により東急PM・ベトナム有限会社を設立し、2019年10月から不動産管理事業およびマンション管理事業を開始した。

ベトナムでの事業全般を俯瞰すると、当社はビンズン新都市では長期短期バランスを取った都市開発事業を、ホーチミン市では分譲住宅事業や安定的な収益源の確保を狙った不動産管理事業を展開し、これらのポートフォリオを最適化させることで、投資循環を図りながら持続的な利益創出を狙い、ベトナムの都市の発展にも貢献することであった。

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