第9章 第2節 第3項 選ばれ、親しまれる交通サービスへ

9-2-3-1 「選ばれる沿線」であり続けるために

当社は2008(平成20)年度を初年度とする中期経営計画から、中長期ビジョンとして「東急線沿線が『選ばれる沿線』であり続ける」を掲げてきた。この中長期ビジョンの下、鉄道事業においては、前述のようにホームドアなど安全性を高める施設の整備や、事故を未然に防止するための安全体制の強化を進め、さらなる「安全・安心」の追求に努めてきた。これと併せて、公共交通としての利便性の向上、駅における生活機能の向上、観光需要創出や来街促進のための取り組みにも努めてきた。

こうした取り組みは、東急線全駅で無料配布する沿線情報誌「HOTほっとTOKYU」や、担当部署ごとに作成するポスターなどでPRしてきた。しかし、外部機関のCS調査の結果などから、広報活動としての一貫性が乏しく東急線利用者に情報が十分に伝わっていないという課題が表面化した。このため鉄道事業本部全体の広報活動のあり方を見直し、2015年4月から広報戦略「いい街いい電車プロジェクト」を展開。よりよい駅、よりよい電車を作り、それを積極的に、わかりやすく発信することで、街に住む人たちに理解を深めてもらい、信頼関係を構築することをめざした。

「いい街いい電車プロジェクト」のロゴ

9-2-3-2 親しまれる沿線や心地よい駅をめざして

ここでは、上述にかかわる近年の事例を紹介する。

〈池上線の活性化と「木になるリニューアル」〉

池上線は、池上電気鉄道(1934<昭和9>年に当社が合併)が1928年に五反田〜蒲田間を全線開通した路線である。18m車3両編成、全列車各駅停車の運行で「都会のローカル線」とも呼ばれている。池上線は他社線との相互直通運転を行っておらず、沿線(品川区・大田区)住民の高齢化、沿線の人口減少は、利用人数減少に直結してしまう。そのため当社では、行政や地元住民と共に、池上線の活性化に着手した。

まず着目したのは、関東でも有数の規模の商店街として知られ、昔ながらのにぎわいを維持していた戸越銀座商店街(地元3商店街の総称)の玄関口、戸越銀座駅である。同駅は開業当時から大規模な改修が行われておらず、木造駅舎の老朽化が進んでいた。そこで、駅利用者や地元住民の意見を募り、木造駅舎の温もりある雰囲気を踏襲したリニューアルを行うことを決定し、2015(平成27)年9月に着手した。このリニューアルは「木になるリニューアル」と称し、東京都内で生産される多摩産材を使用して、ホーム屋根の建て替え・延伸やトイレの建て替え、出入口のバリアフリー化、駅舎内外装の改修を行った。駅の象徴である切妻型の三角屋根をモチーフに、駅のシンボルマークを制作し、これをデザインしたのれんを掛けた。また、旧駅舎で長らく使われてきた木材をベンチなどに再使用して、歴史の継承を図った。

改修工事は2016年12月に竣工。新しい戸越銀座駅は2017年度グッドデザイン賞など数々の賞を受けた。「木になるリニューアル」は地元以外からも関心を集め、戸越銀座の街への親しみが高まると同時に、池上線の認知度も向上した。

リニューアル後の池上線戸越銀座駅の駅舎

2017年8月からは、池上線開業90周年を記念する各種イベントを開催。同年10月9日には、1日無料で池上線を利用できる「池上線フリー乗車デー」を実施し、1日乗車券の配布数は19万枚を超え、大盛況となった。

また、「池上線生活名所プロジェクト」をスタートした。沿線には観光名所となる資源は少ないものの、地元に愛される商店街、昔ながらの銭湯、飲食店や喫茶店、散歩に適した公園、寺社がある。こうした温もりがあり、生活に根づいたものを「生活名所」として紹介し、池上線沿線の魅力を発信することで、来街者や定着人口の増加に寄与する狙いであった。

「木になるリニューアル」は、旗の台駅(2019<令和元>年7月竣工)、池上駅(2021年3月竣工)、長原駅(2021年12月竣工)でも実施。

これらの取り組みは、地域の活性化と交通機関の活性化を両輪で進める当社ならではのものであり、第3節で触れる「池上エリアリノベーションプロジェクト」につながっていく。

〈田園都市線5駅のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」〉

田園都市線でも駅リニューアルの動きが進んでいる。2017年11月に発生した輸送障害などを契機に、田園都市線地下区間5駅(池尻大橋、三軒茶屋、駒沢大学、桜新町、用賀)における設備更新工事を開始した。これに伴い、5駅のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」をスタート、2021年7月に、第一弾として駒沢大学駅のリニューアルに着工した。

一連の工事では、設備の更新だけではなく、脱炭素・循環型社会の実現に向けた施策も織り込み、駅利用者の利便性向上、街の魅力を活かした駅機能・サービスの導入を図っている。例えば、駒沢大学駅では、駅設備の改修や、旅客トイレのリニューアルを実施。ベビーカーと一緒に入れる個室の整備、駅の西口側にはエレベーター、駅ビルや駅構内には店舗を新設するなど、利用者の新しい駅への期待に応える内容としている。環境対策としては、ステーションカラーである緑色の壁面タイルや、床材などの既存材を活用し、廃棄物削減に取り組む。改修後には、CO2排出量を年間約260トン削減を見込む。駒沢大学駅リニューアルは2024年夏の竣工を予定している。

駒沢大学駅リニューアルイメージ
出典:2021年7月30日ニュースリリース

9-2-3-3 東急線全線で再生可能エネルギー由来の電力100%による運行開始

2019(平成31)年3月に世田谷線で、再生可能エネルギー由来の電力100%での運行を開始した。そして、2022(令和4)年4月、すべての鉄軌道路線の運行にかかる電力を、再生可能エネルギー由来の電力に置き換えた。鉄道線は東京電力エナジーパートナー、世田谷線は東急パワーサプライの再エネ電力メニュー(「RE100」に対応したトラッキング付き非化石証書活用によるメニュー)の活用により、CO2排出量が実質的にゼロとなる。全路線を再生可能エネルギー由来の電力100%で運行するのは、日本初の取り組みであった。

再生可能エネルギー由来電力100%での運行開始を伝えるポスター

2022年3月に当社が公表した「環境ビジョン2030」では、連結CO2排出量を2030年に46.2%減(2019年度比)、2050年に実質ゼロの目標を掲げており、年間CO2排出量の約3割を占める鉄軌道事業における脱炭素化は、目標達成に向けた大きな前進となった。

東急電鉄ではこれまでも、省エネ車両への更新、一部駅での太陽光発電システムの設置、駅照明のLED化などを進めてきたが、太陽光発電などの自社再エネ発電の検討を進めるなど、脱炭素化への取り組みをさらに推進することとした。

また、資源循環型社会の実現に向けた取り組みとして、2021年12月にブックオフグループホールディングスおよびブックオフコーポレーションとの連携により、法的な保管期間が過ぎた忘れ物をリユース品として再流通させる実証実験を開始した。従来はやむを得ず廃棄物として処分しており、その量は年間約25トン(2020年度実績)にものぼっていたことから、再利用による環境負荷軽減効果を検証するものであった。その後、実証実験期間中の4か月間で約3.2トンのCO2排出量削減効果があったとする中間報告を2022年6月に公表した。さらに、実証実験範囲を東急バスとその子会社である東急トランセに拡大し、バスの忘れ物についても、同様の取り組みを進めることとした。

9-2-3-4 「東急線アプリ」のコンテンツ充実による案内強化

当社は2013(平成25)年3月、スマートフォン用のアプリケーションソフトとして「東急線アプリ」をリリースした。

当初は、運行情報と遅延証明書を表示するほか、東急線利用により独自のポイントがもらえる「のるレージ」サービスやグループ商業施設の案内など、利用促進を主眼とした機能が中心であった。その後、機能の改修や追加を重ね、鉄道利用時の利便性向上、情報の充実を図った。運休や遅延などが生じた際の迂回ルート検索機能や、自分が必要とする情報を得やすくするための「マイ乗降駅」設定機能、駅構内や車両ごとの混雑度を表示する機能などを随時追加してリニューアルを重ねた。

2016年10月から、駅構内防犯カメラ画像を活用し、プライバシー保護のための加工処理をした画像を表示する「駅視-vision」(エキシビジョン)の配信を開始。これは、改札付近の混雑度をリアルタイムで示すもので、駅に到着する前にスマートフォンで駅の状況が把握できることから、運行支障時などに乗車の見合わせやルートの変更などの判断の一助になる。2018年9月にはホーム上の混雑度を表示できる機能も追加し、駅や列車の状況の「見える化」が進化した。

「駅視-vision」画面イメージ

2021(令和3)年7月には、バリアフリー情報をワンストップで提供するサービスを開始した。ホームと車両乗降口の段差や隙間に関する情報を公開するもので、大手民鉄で初めての取り組みであった。東急線全駅でのホームドア・センサー付固定式ホーム柵、多機能トイレ、バリアフリールートの整備、駅係員・乗務員のサービス介助士資格取得率100%(新規配属者などは除く)と合わせて、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化がいちだんと進んだ。そして、2022年9月からは前述のURBAN HACKSと連携した内製化・アジャイル型のアプリにリニューアルし、プッシュ通知で運行情報の詳細まで表示できるようにしたほか、東急バスのルートと所要時間がリアルタイムでわかるなどの改良を行った。

「東急線アプリ」のダウンロード数は年々増加し、他社線のアプリとの連携も進めた。

9-2-3-5 [コラム]「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」を受賞

東急電鉄は、「令和2年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」において、最も高い評価である「内閣総理大臣賞」を、大手民鉄で初めて受賞。2020(令和2)年12月に首相公邸で表彰式が行われた。

評価点は、以下の通りである。

・大手民鉄初の全駅へのホームドア・センサー付固定式ホーム柵設置
・東急線アプリによる、運行情報や各駅バリアフリー情報などの提供
・駅ホーム上や改札口に設置したデジタルサイネージに緊急時の案内を掲出し、聴覚に障がいのある利用者に情報を提供
・障がいのある利用者の列車乗降案内時に、乗車駅、降車駅の駅係員間で情報連携できる「バリアフリー連絡アプリ」の開発
・サービス介助士資格の取得推進、「接客サービス選手権大会」の定期開催による駅係員の接客技術の向上

なおサービス介助士の資格取得は2003(平成15)年から進めており、2020年3月末時点で取得率100%(2019年度の中途採用者を除く)を維持している。

内閣総理大臣賞受賞の様子(左)と表彰状(右)
出典:東急電鉄『安全報告書 2022』

同様に、2022年3月、「令和3年度東京都『心のバリアフリー』サポート企業連携事業」において、東急電鉄がサポート企業に選定されると共に、鉄道業界で初めて好事例企業に選定されている。

9-2-3-6 有料座席指定サービス「Q SEAT」の開始

大井町線では、2018(平成30)年12月に、当社初の有料座席指定サービス「Q SEAT(Qシート)」を開始した。このサービスは、平日夜に大井町線を利用して田園都市線方面に帰宅する際の着席ニーズに応えたもので、通勤時の快適性を高め、大井町線の魅力を向上させるための取り組みであった。

Qシートを設ける車両として、大井町線6020系(7両編成)の内1両を、ロングシートからクロスシートに転換できる車両に置き換えた。運行は、平日の19時台から23時台の間に5本で、大井町発・田園都市線直通の急行長津田行きとした(コロナ禍の時期は除く)。現在は6000系の一部も置き換え、運行時間を見直して平日の17時台から21時台に9本を運行している。

従来のシートよりも座席を広くし、電源コンセントとカップホルダーを設置、車内Wi-Fiサービスも無料で利用可能とした。有料座席指定料金は400円(開始時)であった。

有料座席指定サービス「Q SEAT」の座席

このほか、2017年3月から、有料座席指定列車「S-TRAIN(Sトレイン)」の運行を開始した。S-TRAINは平日と土休日で運行パターンが異なり、平日は西武池袋線と東京メトロ有楽町線の間で、土休日は、みなとみらい線・東横線・東京メトロ副都心線・西武池袋線・秩父線にまたがって運行されている。

S-TRAINのロゴマーク
出典:西武鉄道・東京メトロ・横浜高速鉄道・当社 ニュースリリース(2017年1月10日)

9-2-3-7 定期券ネット予約サービスの開始

新年度の定期券購入時は、「定期券うりば」が混雑し、長時間並ぶことが多いため、2016(平成28)年3月に「定期券ネット予約サービス」を開始した。これは、事前にスマートフォンやタブレット端末、パソコンから、購入する定期券の情報や購入者自身の情報を入力することで、各駅の新型券売機でPASMO定期券が購入できるサービスである。新型券売機には二次元バーコードリーダーを装備し、予約時に配信される二次元バーコードをかざすと、予約番号などの入力なしに購入できる。「定期券ネット予約サービス」に対応した新型券売機は、2016年6月末に、恩田駅、こどもの国駅を除く全駅に設置を完了した。

また2018年3月に、大手鉄道会社では初めて、有効期間12か月の「東急線いちねん定期」の販売を開始した。「TOKYU CARD」で購入する際に、「電車とバスで貯まるTOKYU POINT」への登録により、定期券代金の最大10%のTOKYU POINTを加算する特典や、定期券代金を手数料無料で分割払いできるサービスを設けた。このように、定期券購入時の不便さを解消する施策を進めた。

9-2-3-8 観光型・郊外型MaaSと自動運転への取り組み

新しい移動サービスの概念、「MaaS(マース:Mobility as a Service)」は、IT技術により利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供することを意味する。当社では、鉄道やバス、自転車などの移動手段と公共・民間施設などの移動先を、IT技術でつなぎ、利便性を高めるサービスとしたMaaSの検討を開始。伊豆地域における観光型、東急線沿線における郊外型の実験を2019年4月から実施した。

そして、2022(令和4)年度には東急バスと当社が共同で、多摩田園都市の虹ヶ丘地域(川崎市)とすすき野地域(横浜市)での遠隔監視による自動運転モビリティの実証実験を行った。具体的には、第一段階として技術実証を目的とした実験を2022年9月に実施したのち、2023年3月に第二段階を実施した。

第二段階では、遠隔監視設備を東急バス虹が丘営業所内に構築し、地元住民をはじめとした一般の方に実際に試乗していただいたうえで、1人の遠隔監視者が1台の自動運転車両を運行管理することが可能か検証した。移動に関して多様化するニーズや、高齢化など地域が抱える課題や自動車輸送におけるドライバー不足への対応として行うもので、2019年に伊豆地域で行ったバスの遠隔監視型自動運転の実験結果も活用し、将来的には1人の遠隔監視者が、複数台の自動運転車両の運行管理を行う形で移動サービスを提供することをめざしている。

実証実験で用いた自動運転車両
遠隔監視設備のイメージ

9-2-3-9 観光列車「THE ROYAL EXPRESS」で伊豆への旅を提案

伊豆急行は、東日本大震災が起きた2011(平成23)年以降、年間輸送人員が500万人を割り込んでいた。当社は、伊豆地域の活性化に向けた新たな取り組みとして、観光列車を運行し、上質な旅を提案することを計画した。

この観光列車は、目的地に移動するための乗車ではなく、乗車すること自体が感動体験となり、記憶に残る時間を過ごしていただくことをコンセプトとした。車両は、伊豆急行が1993年に導入した8両編成の「アルファ・リゾート21」を改造。鉄道デザインの第一人者である水戸岡鋭治のデザインにより、ロイヤルブルーの外装、車両ごとに用途やデザインが異なる内装で、最大客席数100席の観光列車が誕生した。名称を「THE ROYAL EXPRESS」と決定し、2017年7月に、JR横浜~伊豆急下田間の運行を開始した。

列車の特徴は、客車・食堂車のほか、キッチン、イベントができるマルチスペース、ライブラリーなどを備え、内装は各種素材や職人の技を組み合わせて、美しく居心地のよい空間となっていること。車内のデザイン性や機能性を隅々まで見学する楽しみもある。車内で提供する料理は、著名な料理家に監修を依頼、静岡産の食材を中心に取り入れたメニューとした。さらにヴァイオリンとピアノの演奏者が同乗し、生演奏で旅を彩っている。

THE ROYAL EXPRESSは当社がサービスを提供し(旅行企画・実施)、JR東日本と伊豆急行が運行を担当している。旅行商品としては、宿泊付きの往復クルーズプランと食事付きの片道プランを販売している。運行開始から大きな反響を呼び、英国紙「デイリー・テレグラフ」の電子版「The Telegraph」に掲載された「アジアの美しい鉄道トップ10」2018年版で、日本では唯一、THE ROYAL EXPRESSが選出された。

伊豆地域の海岸線沿いを走る観光列車「THE ROYAL EXPRESS」
「THE ROYAL EXPRESS」の内装

THE ROYAL EXPRESSの運行開始に合わせて、発着地である横浜駅にカフェ・ラウンジを新設したほか、2019(令和元)年8月には下田ロープウェイのゴンドラの内外装をリニューアルすると共に、寝姿山山頂店舗を改修し、レストランと観光交流施設で構成する「THE ROYAL HOUSE SHIMODA」を開業。これらも水戸岡鋭治がデザイン・設計することで、THE ROYAL EXPRESSのイメージとの統一を図った。

このほか、下田東急ホテルは、THE ROYAL EXPRESSの運行に先立って、全館リニューアルを実施。2019年10月には、伊豆高原駅前に、建築家・隈研吾が設計し、「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフの三國清三がプロデュースする「ミクニ伊豆高原」を開業した。

観光列車による地域振興の取り組みは各所で注目され、2019年2月には、当社とJR東日本、JR北海道、JR貨物の4社が、北海道胆振東部地震の影響を受けた北海道を応援し、観光振興と地域活性化を図るためのプロジェクトを立ち上げた。その1つとして、2020年8月には「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」を運行することになった。2020年8月から9月に、札幌を出発して十勝エリアや知床エリア、富良野エリアをクルーズする3泊4日のプランを5回催行し、2023年は新たに稚内エリアも加えて継続の予定である。

9-2-3-10 [コラム]上田電鉄千曲川橋梁 台風被災からの復旧

2019(令和元)年10月13日、台風19号(気象庁命名「令和元年東日本台風」)の影響により、上田電鉄が運行する別所線のシンボルであった赤い鉄橋「千曲川橋梁」の一部が崩落する被害が出た。これに伴い、上田電鉄は同月15日から、下之郷〜別所温泉間の折り返し運転と、上田〜下之郷間(のちに上田~城下間)の代行バス運行を行った。

被災以降、市内外から早期復旧を望む声が高まり、上田市議会で災害復旧に向けた議論が交わされた。2019年12月、国の補助金(特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金)と普通交付税措置の併用により、実質的に国が97.5%を負担するスキームで復旧事業を進めることが決定。「地方公共団体等が鉄道施設を公有化すること、長期的な運行の確保に関する計画を策定すること」が補助要件として付されたことにより、上田市が被災した橋梁部分を保有して復旧工事の事業主体となり、上田市から上田電鉄に工事が委託された。

河川が増水する出水期(6月〜10月)は河川内工事ができないため、復旧までには532日を要し、2021年3月28日に全面復旧となった。

台風により被災した上田電鉄別所線の千曲川橋梁(2019年)
全面復旧した千曲川橋梁(2021年)

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