第9章 第6節 第2項 リゾート事業の展開

9-6-2-1 会員制リゾート事業の転換と新規開業

当社の会員制リゾート事業であるビッグウィークは、1年間の内あらかじめ選んだ1週間をゆっくりと過ごすタイムシェア制の「マイウィーク」と、好きな時期に好きな施設を1泊から楽しめる「フレックスポイント」のプランを提供していたが、2017(平成29)年3月にはこれらの新規販売を終了。利用権に相当するシェアリングポイントによる運営に移行した。

これは年間で使用するポイント数(100ポイント〜250ポイント)5年分を利用権として販売するもので、会員は好きな時期・施設に1泊から長期滞在まで自由に選択して利用、時期・施設・宿泊数に応じた必要ポイント数が自動引き落としとなる仕組みである。新たな会員制度のスタートに合わせて、2017年4月には運営会社の社名を株式会社東急シェアリング、サービス名称を東急バケーションズに改めた。東急バケーションズ以外の、海外リゾートを含む提携施設(国内約25施設・海外約4300施設)の利用も可能とした。

東急バケーションズの施設の特徴は2LDKで約70㎡以上の広さを基本とし、家族やグループ単位でくつろげるコンドミニアムタイプの上質で機能的な客室を揃えた点にある。こうした特徴を継承しつつ、2017年10月に全室で専用焚き火場を備えたログハウスタイプの「東急バケーションズ山中湖グランドヴィラ」を、同年12月には全室に檜風呂温泉設備を備えた「東急バケーションズ熱海」を開業した。また2018年2月には京町家の佇まいをそのままに客室をリノベーションした「京都洛龍菴(らくりゅうあん)」を開業し、新たな魅力が加わった。東急ホテルズが新規に開業した一部客室をコンバージョン利用した施設では、2019(令和元)年11月に「東急バケーションズ大阪 御堂筋」、2020年6月に「東急バケーションズ富士山 三島」が開業した。

コロナ禍により2020年4月から5月末にかけて初の全館営業休止となるなど影響を与えたが、固定客の多い会員制の商品であり、日常的に同居している家族単位での利用も多いことから、業績影響は軽微にとどまった。一方で会員の高齢化や既存の前払い会員権の販売鈍化、施設スペックに対する宿泊単価の低迷など、将来的な収益性低下の懸念に対応し、若い世代のニーズを取り込むことを狙い、2022年には会員権商品のリニューアルを実施。7泊以上施設・時期固定の10年会員権「バケーションマスターズ(2月販売開始)」と、1泊から都度払いで気軽に利用できる「バケーションスタイル(7月販売開始)」の二本立てに改めた。

東急バケーションズ山中湖グランドヴィラ

9-6-2-2 その他リゾート事業の展開

当社は2019(平成31)年4月の業務組織改正において、ホテル・リゾート事業を管掌する事業部としてホスピタリティ事業部を新設した。その後、コロナ禍により事業環境が急速に変化するなかで、ホテル事業の構造改革や、新たな事業としてホテルコンドミニアム事業などを進めた。

ホテルコンドミニアム事業は、ホテルの客室を分譲し、購入者(客室オーナー)自らが利用して楽しむことに加え、利用しないときには一般宿泊客向けのホテル客室として貸し出し、その稼働に応じた賃料収入を得るビジネスモデルである。客室の維持管理はホテル運営会社が行うため、客室オーナーはランニングコストの負担軽減、資産価値の維持が期待できるメリットがある。一方で、当社や運営会社においては、資産を持たないため財務上のオフバランス化が図れること、客室オーナーへの賃料支払いは施設の稼働状況に応じた売上歩合型とできることから事業リスクをオーナーと分け合うことができるメリットがある。ホテルを取り巻く多様化するニーズに対応した新たな価値を提案するものであった。

当社はホテルコンドミニアム事業におけるブランド名を「STORYLINE(ストーリーライン)」とし、2022(令和4)年4月、第1号案件として沖縄県豊見城(とみぐすく)市に位置する瀬長島に「STORYLINE 瀬長島」(全101室)の開発に東急不動産と共に着手した。本計画は開発・設計・施工、そして竣工後のホテル運営から管理までを東急グループが担うもので、2024年4月に開業する予定である。

図9-6-3 ホテルコンドミニアム事業「STORYLINE瀬長島」のスキーム
出典:当社・東急不動産 ニュースリリース(2022年3月30日)
STORYLINE瀬長島 完成イメージ(左:海から望む、右:物件外観)
出典:当社・東急不動産 ニュースリリース(2022年3月30日)

ゴルフ事業は、営業努力により徐々に業績が回復し、当社系各ゴルフ場会社の単純合算で2014年度から2019年度まで営業黒字を継続することができた。2020年度はコロナ禍により一時的に業績が落ち込んだが、その後はソーシャルディスタンスを確保できる屋外スポーツとして需要が大きく回復。各ゴルフ場も会員中心の運営方法が高く評価されて会員権が売れると共に、プロゴルフのトーナメントが年間3大会開催されるなど知名度も向上した結果、2021年度は過去最高の営業利益を計上するに至った。

宮古島では、土地活用の一環で、当社および子会社の宮古観光開発が2013年11月に「まいぱり宮古島熱帯果樹園」を開業した。これは、宮古島東急ホテル&リゾーツとエメラルドコーストゴルフリンクスのほぼ中間に位置する観光農園で、約6haの敷地内にパイナップルや島バナナの畑、熱帯原産の珍しい果樹や花木などを植栽し、沖縄県の天然記念物に指定されている宮古馬の牧場や熱帯果樹園を配置する施設である。園内をカートで遊覧するトロピカルガイドツアーなどが楽しめる。2016年2月には宮古島東急ホテル&リゾーツ内に「ビッグウィーク宮古島(現、東急バケーションズ宮古島)」が開業しており、施設連携による宮古島の観光振興に努めた。

まいぱり宮古島熱帯果樹園のトロピカルガイドツアー

2022年4月の業務組織改正では、ホスピタリティ事業部のリゾート事業企画グループの一部機能をリテール事業部に移管し、リテール事業部リゾート事業グループとしたほか、2023年2月には当社ホテル事業の経営、運営体制の再編を発表した。

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