第9章 第2節 第4項 空港事業の展開と新たな展望

9-2-4-1 PFI法改正に伴う公共施設等運営権制度の創設

2013(平成25)年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、PFI事業規模を現状の4.1兆円から10年後に12兆円に拡大することが成果目標として示された。そして、公共施設などのなかで空港や下水道のコンセッション方式への移行が先行的に検討された。

海外では空港ターミナルビルなどの商業施設を収益源に柔軟な着陸料等を設定し航空会社を誘致することで、旅客需要と収益の成長が実現されてきた。一方で、日本の空港は、滑走路などの空港施設とターミナルビルの運営主体が別になっていたが、民間事業者の運営ノウハウによって空港施設とターミナルビルなどを一体運営することで、航空ネットワークの充実と国内外からの交流人口拡大による地域活性化を実現することや、収益性を改善することが期待された。

かつて日本エアシステムが東急グループの一員であった関係で、グループ内には空港運営にかかわるノウハウを有する企業が複数あった。具体的には、空港での広告取り扱いで業界トップのシェアを誇り、空港内商業施設リニューアルのコンサルテーションも手がけていた東急エージェンシー、国内各地の空港で施設管理を受託している東急コミュニティー、滑走路や建築構造物の維持管理・補修で実績のある東急建設、世紀東急工業などである。このほか交通、不動産、リテール事業のノウハウも含め、グループの総合力で空港運営の収益改善を図ることができると見られることから、空港運営事業などへの参入に向けた検討を開始。2014年5月にプロジェクトチームを立ち上げた。

9-2-4-2 仙台空港の特定運営事業を開始

国が管理する空港運営事業のコンセッション方式の第一弾は仙台空港である。

国土交通省による「仙台空港特定運営事業等に係る公募手続」に、当社が代表企業を務める「東急前田豊通グループ」が応募した。東急前田豊通グループは、当社、前田建設工業、豊田通商、東急不動産、東急エージェンシー、東急建設、東急コミュニティーの7社で構成するコンソーシアムである。

複数の企業グループが応募したが、2015(平成27)年9月、東急前田豊通グループが優先交渉権者の選定を受けた。同年11月には空港運営の主体となる特別目的会社(SPC)として仙台国際空港株式会社を設立(当社42%出資。東急グループ全体の出資比率は合計54%)。同社が国と実施契約を結んだうえで、仙台空港ビル株式会社と仙台カーゴターミナル株式会社の全株式を取得し、2016年2月にターミナルビル施設の運営を開始。同年7月に、滑走路や着陸料などを含めた空港機能の運営もスタートし、全面民営化となった。

運営受託した仙台空港

仙台空港の特定運営事業の範囲は、国土交通省が管轄する航空管制を除いた分野が対象である。具体的には、航空分野では航空会社の誘致や各種料金(着陸料、駐機料など)の設定など、非航空分野では空港ターミナルビル商業施設の運営、駐車場の運営、滑走路や建築物の維持管理・補修、空港敷地の有効活用などが該当する。

当社が事業を手がけるうえでとくに重視したのは、東日本大震災後の東北地域の復興に資することである。空港自体は津波の影響により滑走路が水没、ターミナルビル1階部分も浸水被害を受けたが、米軍・自衛隊による日米合同救援活動「トモダチ作戦」の復旧作業などを経て、震災1か月後の4月には国内線が一部再開、9月に完全復旧した。空港の再開が地元に与えたインパクトは大きく、復興の一歩と受け止められた。

当社はこうした地元の熱意を受け止め、空港運営を通じた東北地域全体の活性化に貢献すべく、「プライマリー・グローバル・ゲートウェイ」をコンセプトに、東北を発着する旅客に一番に選ばれる空港、かつ東北で最も重要な航空貨物の拠点となることをめざした。成田や羽田を経由せずに、仙台と世界を直接結ぶこと、そして宮城県のみならず東北6県全体の玄関口となるための、各種施策に着手した。旅客数は国内線・国際線共に伸長し、2017年度(2018年3月期)から3年連続で過去最高を更新、2019(令和元)年度(2020年3月期)には旅客数371万人を記録。しかし、コロナ禍により2020年度の国際線利用客はほぼ皆無となり、国内線も6割以上減少した。

9-2-4-3 空港運営事業の横展開

当社はさらに、静岡空港(富士山静岡空港)、北海道内の7空港、広島空港の特定運営事業に参画した。

静岡空港の特定運営事業については、三菱地所株式会社を代表企業とするコンソーシアム「三菱地所・東急電鉄グループ」が優先交渉権者に選定され、2018(平成30)年4月に静岡県と基本協定を締結。同コンソーシアムが、富士山静岡空港株式会社の株式80%(三菱地所50%、当社30%)を取得し同社を特別目的会社(SPC)とした。同年11月には特定運営事業に関する実施契約を締結し、空港内にフードコートやドラッグストア、ビジネスラウンジを開業、2019年4月から空港運営事業を開始した。また、前述の「インフラドクター」を空港保守管理に応用するための実験を同空港で行っており、実用化をめざしている。

北海道では、道内7か所の空港(新千歳空港、稚内空港、釧路空港、函館空港、旭川空港、帯広空港、女満別空港)を一体として運営することとなった。管理主体は国、旭川市および帯広市、北海道である。これについては、従前から新千歳空港ターミナルビルを運営していた北海道空港株式会社を代表企業に、17社で構成するコンソーシアム「北海道エアポートグループ」が応募。当社は主要構成員の1社として参画した。2019(令和元)年7月に、同コンソーシアムが優先交渉権者に選定され、同年8月に各管理主体と基本協定書を締結。17社により北海道エアポート株式会社を設立して特別目的会社(SPC)とし、10月に実施契約を締結した。当社の出資比率は10%である。2020年6月から新千歳空港、10月から旭川空港、2021年3月から稚内空港、釧路空港、函館空港、帯広空港、女満別空港と、全7空港の運営を開始した。

広島空港の特定運営事業は、三井不動産株式会社を代表企業とする合計16社でコンソーシアム「MTHSコンソーシアム」を構成してこれに応募。2020年9月に同コンソーシアムが優先交渉権者に選定され、同年11月に国(国土交通省)と基本協定書を締結した。 2021年7月から、広島空港の運営を開始した(特別目的会社の名称は広島国際空港株式会社、当社の出資比率約30%)。

図9-2-6 東急グループが運営に参画する空港(2022年時点)
出典:当社IR資料「FACT BOOK 2022」(2022年6月30日)

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