第9章 第2節 第1項 鉄軌道事業の分社化と事業展開

9-2-1-1 鉄軌道事業会社、東急電鉄の設立

鉄軌道事業を分社化した東急電鉄株式会社は2019(令和元)年10月1日、営業を開始した。鉄軌道事業専業会社の誕生である。

これに伴い、同年9月30日、東急レールウェイサービスの全社員が東急電鉄へ転籍となり、同社の業務は東急電鉄に移管され、同社は2020年7月に清算結了した。

近年、鉄軌道利用者のニーズの多様化やデジタル関連技術の進化、気候変動に伴う自然災害の多発など、鉄軌道事業を取り巻く環境は著しく変化してきた。国内では人口減少が始まっているものの、沿線人口は2035年まで増加すると予測され、混雑緩和への取り組みも急務であった。

図9-2-1 東急線沿線の人口動態
注:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2018年推計)」をもとに作成

こうしたなかで鉄軌道事業会社として専門性をいっそう高め、人材育成や技術革新を通じた「人材力・技術力」の強化や、さらなる安全・安心と快適性の追求を図り、事業環境の変化に対してはスピード感を持って意思決定を図り、機動的な対応を行うこととした。

また、分社化後も、毎日300万人超の乗客に利用される、東急グループの基幹事業であることに変わりはなく、当社によるグループ経営の下、各事業や地域住民との連携により駅周辺の街づくりに参画するなどの役割も担った。

9-2-1-2 新型車両2020系シリーズの導入

当社は2017(平成29)年3月、新型車両を田園都市線に導入することを発表した。2022(令和4)年の当社100周年にちなんで「2020系」と命名された。

当社では初めて、車内に空気清浄機を設置、座席をハイバック仕様として快適性の向上を図ったほか、JR山手線E235系同様に液晶ディスプレイをドア上と連結部、さらには座席上に3連で配置し、多言語による案内や、ニュース・天気予報などの情報サービスを提供、全車両にフリースペースを設けて車いすやベビーカー利用者に配慮した。環境配慮の取り組みとしては、車内外の騒音低減や使用電力の50%削減(8500系車両比)を実現した。安全性向上の取り組みでは、車両に搭載した機器の状態を地上部からも監視できるよう情報管理装置を設置して車両故障の未然防止を図ったほか、踏面ブレーキとディスクブレーキの併用および回生ブレーキ補足機能によりブレーキ性能の向上、車内には防犯カメラを設置して犯罪行為の未然防止を図った。また車両デザインは、東急線沿線の商業施設などを手がける丹青社にデザイン監修を依頼、外観・内装面で新しさを感じられるデザインとした。

車両製造は総合車両製作所によるもので、基本仕様はsustinaを採用したE235系との共通化を図って、新造・メンテナンスにかかわるコストを削減。乗務員が使用する機器類については、将来的な運転取り扱いの共通化を見据え、相互直通運転先の近郊民鉄事業者の新型車両とできるだけ配置を合わせた。

当社は「2020系」シリーズの新型車両として、大井町線に「6020系」、目黒線に「3020系」を導入することとした。おのおのの営業運転開始は以下の通りである。

・2020系……田園都市線に30両(10両×3編成)を導入。2018年3月に営業運転を開始。
・6020系……大井町線に14両(7両×2編成)を導入。2018年3月に営業運転を開始。
・3020系……目黒線に18両(6両×3編成)を導入。2019年11月に営業運転を開始。

導入した新型車両 左から3020系(目黒線)、6020系(大井町線)、2020系(田園都市線)

とくに「2020系」は、導入と共に1975(昭和50)年に運行を開始した8500系の置き換えを進め、8500系は2023年1月をもって全編成の定期運行を終了した。これに先立ち、2022年4月から「ありがとうハチゴー」プロジェクトを開始してさまざまなイベントを行い、有終の美を飾った。

8500系(左)とプロジェクトのロゴ(右)
出典:東急電鉄ニュースリリース(2022年4月5日)

9-2-1-3 東急新横浜線(相鉄・東急直通線)の開業とさらなるネットワーク拡充

2000(平成12)年の運輸政策審議会答申第18号で示された「神奈川東部方面線」は、都市鉄道等利便増進法に基づいて受益活用型上下分離方式で整備される位置づけとなり、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、JRTT)が整備主体となって工事が進められてきた。

神奈川東部方面線には二つのルートがあり、この内、相鉄本線西谷駅からJR東日本東海道貨物線横浜羽沢駅付近まで新設される連絡線(約2.7km)を利用して相鉄線とJR線が相互直通運転を行う「相鉄・JR直通線」は、旅客駅として横浜羽沢駅に隣接した羽沢横浜国大駅が設置され、先行して2019(令和元)年11月に開業した。

「相鉄・JR直通線」の工事と並行して、羽沢横浜国大駅から東急東横線・目黒線日吉駅まで新設される連絡線(約10.0km)を利用して相鉄線と東急線が相互直通運転を行う「相鉄・東急直通線」の建設が進められた。2018年12月には相模鉄道と当社の連名で、神奈川東部方面線の内、相模鉄道側の西谷〜新横浜間の路線名称を「相鉄新横浜線」、当社側の新横浜〜日吉間の路線名称を「東急新横浜線」とすることを発表。東海道新幹線新横浜駅に接続する路線であることから、これらの路線名称に決定したものである。また、2012年の都市計画決定により東横線綱島駅付近に設置が決まった中間駅は公募により駅名を選定することとなり、1898件の応募から一番多かった「新綱島駅」に2020年12月に決定した。

JRTTによる新設連絡線の整備工事は、当初計画から遅延したものの、2022年1月、当社は鉄道事業者7社局との連名で、開業予定年月を2023年3月とすることを発表した。

新横浜線報道公開時に並んだ7社局の列車(2022年3月)
図9-2-2 東急新横浜線 路線図
出典:東急電鉄WEBサイト「2023.3.18 つながる!相鉄線・東急線」

相鉄新横浜線および東急新横浜線の開業により、すでに当社側で相互直通運転を行っている鉄道事業者の各路線を含め、神奈川県央地域および横浜市西部から東京23区西部、東京多摩北部、埼玉中央地域・西部地域に至る広域的なネットワークが形成される。とくに相模鉄道・東急線沿線地域の住民にとっては、所要時間の短縮や乗り換え回数の減少が図られ、東海道新幹線新横浜駅へのアクセスが便利になる点もメリットである。

東急電鉄では東急新横浜線の開業を見据えて、かねて計画していた目黒線の8両編成化を2022年4月から順次開始した。6両編成から8両編成に移行することにより、輸送力の増強と乗車時の快適性向上が図られる。またこれに先立って2022年2月から目黒線奥沢駅の新駅舎・連絡デッキの供用を開始。同年3月には上り急行通過線や、8両編成対応の上りホームも供用を開始した。

奥沢駅の新駅舎と連絡デッキ

受益活用型上下分離方式を採用したことから、施設使用料をJRTTに支払うため、東急新横浜線の開業に向け、東急電鉄は2022年8月、国土交通大臣に旅客運賃設定に係る申請を行い、同年10月に認可された。これにより、新横浜駅~新綱島駅の区間、または同区間と他の区間とにまたがって乗車する場合に、基本運賃に加えて加算運賃(普通旅客運賃の場合、大人70円)を収受することとなった。また、新綱島駅は、東横線の綱島駅と近接しているため、両駅から日吉駅以遠の東横線・目黒線方面への運賃が同額となるように設定した。乗客の利便性を考慮して東急新横浜線の開業に合わせて、日吉~綱島または新綱島を区間に含む定期券で綱島と新綱島の両駅共乗降可能とすることにした。

続いて、2022年11月、運行計画の概要を以下の内容で発表した。

<運行計画のポイント>

  • 東急線内から東海道新幹線へのアクセス強化を図る(新横浜駅6時始発の下りひかり号に乗り換えできるエリアが拡大すると共に、JR東海が6時3分新横浜駅始発の下りのぞみ号(臨時)を運行し、新大阪駅へ一番早く到着する列車を設定)
  • 東急新横浜線を走行する全列車が東横線または目黒線と直通
  • 東急新横浜線から東横線へ直通する列車はすべて急行で運行、目黒線へ直通する列車は急行、各停で運行
  • 東急新横浜線内の全列車が新横浜駅、新綱島駅に停車

また、開業後の新横浜駅の管理業務については、相模鉄道と東急電鉄が共同で管理・運営を行い、二つある改札口の内、羽沢横浜国大駅寄りの南改札を相模鉄道が、新綱島駅寄りの北改札を東急電鉄が、それぞれ運営することとした。

2022年12月、東急電鉄は、鉄道事業者7社局との連名で、新横浜線の開業年月日を2023年3月18日とすることを発表した。相鉄新横浜線・東急新横浜線を介した直通運転形態については、一部を除き相鉄本線からの列車は目黒線方面に乗り入れ、東京メトロ南北線、都営三田線、埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線に直通する。相鉄いずみ野線からの列車は東横線方面に乗り入れ、東京メトロ副都心線、東武東上線に直通する、とした。

なお、東急新横浜線の開業日の2023年3月18日に、東急線6路線でダイヤ改正を実施。また、すでにワンマン運転を実施している目黒線から直通する東急新横浜線にワンマン運転を拡大。東急新横浜線の開業に合わせて、直通する東横線および横浜高速鉄道みなとみらい線も全線においてワンマン運転を順次開始した。

東急新横浜線の運行計画の概要
出典:東急電鉄案内パンフレット「2023年3月 相鉄・東急新横浜線開業!」
相鉄・東急新横浜線出発式のテープカット(2023年3月18日)
(左から)相模鉄道千原社長、JRTT河内理事長、東急電鉄福田社長
提供:相模鉄道株式会社、東急電鉄株式会社
相模鉄道による「相鉄・東急新横浜線開業記念号」には、左右に両社のキャラクターが装飾された
左が相模鉄道の「そうにゃん」、右が東急電鉄の「のるるん」

このほか、第8章で述べたようにさらなるネットワーク拡充として、羽田空港へのアクセス路線となる新空港線(蒲蒲線)整備計画がある。2022年10月、大田区と東急電鉄の共同出資により、第三セクター「羽田エアポートライン」を設立した。これにより、新空港線の事業化に向け、矢口渡~京急蒲田間の整備に関する検討をさらに深めていくこととした。

なお、同区間について、交通政策審議会答申第198号(2016年4月)では、費用負担のあり方や路線間の接続方法に課題があるとしながらも、整備が進めばJR京浜東北線、東急多摩川線・池上線の蒲田駅と京急蒲田駅間のミッシングリンク(連続性が欠けた、すき間のこと)を解消でき、東横線、東京メトロ副都心線、東武東上線、西武池袋線方面からの直通運転を通じて、国際競争力強化の拠点である渋谷、新宿、池袋や東京都北西部・埼玉県南西部と羽田空港とのアクセス利便性が向上する、としている。

新空港線の位置図
出典:交通政策審議会答申第198号(2016年)

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