第9章 第1節 第1項 中期経営計画の変遷

9-1-1-1 次なる飛躍とした「中期3か年経営計画」(2015年度〜2017年度)

2015(平成27)年度からの「中期3か年経営計画」(2015年度〜2017年度)は、前計画(2012年度~2014年度)において、ありたい姿として示した中長期ビジョンを踏襲し、ビジョン実現に向けた長期経営戦略として、「健全性の回復から、規模の拡大・効率の向上へ」を方向性とし、「沿線のバリューアップ」「お客さまを軸とした東急シェアの拡大」「沿線外展開・新規事業展開」の三つを全体戦略とした。

そのうえで、前計画をホップ、同計画をステップ、さまざまなプロジェクトの開業やイベントが予定されている次期計画をジャンプの時期と位置づけ、同計画の名称を「STEP TO THE NEXT STAGE」とした。

同計画の基本方針は「次なる飛躍へのステップとして、沿線を深耕するとともに、新たな成長にチャレンジする」とし、重点施策には鉄道をはじめ、リテール、生活サービスとの融合による「安心感と満足感のより一層の充実」、渋谷の開発をはじめ、資産活用コンサルティングや投資循環型の賃貸事業強化といった「沿線開発と不動産事業の更なる推進」、家ナカサービスのバンドル化や外部連携も含めた新規事業支援などの「ライフスタイル&ワークスタイル・イノベーションの推進」、リテール・インバウンド・ホテル・海外事業展開の「グループの経営資源を活かした新たな取り組み」の4点を挙げた。

図9-1-1 中長期ビジョン実現に向けて新たに設定された長期経営戦略(2015年)
出典:「会社概要2015-2016」

9-1-1-2 髙橋社長の就任と「中期3か年経営計画」(2018年度〜2020年度)

2018(平成30)年4月、野本弘文社長執行役員が会長に、髙橋和夫専務執行役員が社長執行役員(以下、髙橋社長)に就任し、新たな体制で新年度を迎えた。

髙橋社長は1980(昭和55)年当社入社、自動車事業の分社化により誕生した東急バスで経営全般を担当、この間に東急トランセの会社設立、新規路線開業などの業務に携わった。当社に復帰したのち、2014年4月常務取締役、2015年6月以降は執行役員を兼ね、2016年4月から取締役専務執行役員を歴任し、人事や経営管理の分野で当社・連結各社の中期経営計画の進捗を指揮したほか、空港運営事業への進出といった新規事業を推進した。

髙橋和夫社長

前計画で挙げていた事業計画がおおむね順調に進み、営業利益や東急EBITDAなどの経営指標についても達成の見込みであることを踏まえ、2018年3月に、新たに「中期3か年経営計画」(2018年度〜2020<令和2>年度)を策定した。

同計画は、これまでの経営計画の進捗を踏まえると、「ホップ・ステップ・ジャンプ」のジャンプの期間、すなわち、2022年度に当社創立100周年を迎えたあとの、次の100年に向けた基盤をつくりながら、新たな付加価値を創造し続ける東急グループへと進化する期間と位置づけた。

人手不足、ECの隆盛、テクノロジーの進化、グローバル競争の激化といった当社を取り巻く事業環境は大きく変化しているが、こうしたなかにあっても持続的な成長を続ける企業であろうと、新計画のスローガンを「Make the Sustainable Growth」とし、3つのサステナビリティ、「サステナブルな『街づくり』」「サステナブルな『企業づくり』」「サステナブルな『人づくり』」を基本方針とし、持続可能な成長をめざすことにした。

図9-1-2 基本方針に設定した「3つのサステナビリティ」
出典:「会社概要2018-2019」

重点施策としては、前計画をより具現化、深度化させたものとし、鉄道事業におけるホームドア・センサー付固定式ホーム柵の100%設置や新型車両への置き換え・増備などといった安全・安心・快適を追求すること、一連の大型開発が進む渋谷で渋谷駅街区の一部や駅南街区の開業を見据え、「世界のSHIBUYAへ」として世界に発信すること、沿線に5つの重点エリアを設定して地元・行政などとも連携しながらグループの総合力をもって沿線価値・生活価値の螺旋的向上を図ること、グループ内外との共創により事業拡大を図ること、そして当社版の「働き方改革」を前進させること、以上5点を挙げた。

図9-1-3 5つの重点エリアでサステナブルなまちづくりを推進し螺旋的な価値向上をめざす
出典:「中期3か年経営計画(2018年度-2020年度)」説明資料(2018年3月27日)

9-1-1-3 コロナ禍を受けた「中期3か年経営計画」(2021年度〜2023年度)

2021(令和3)年度からの「中期3か年経営計画」(2021年度〜2023年度)は、2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症感染拡大(以下、コロナ禍)により、事業環境が大きく変わり、中長期的なパラダイム変化を想定した戦略構築が必要となり、5月の策定、発表となった。

同計画は、サステナブル経営を続けていくなかで、コロナ禍に伴う移動・交流人口の減少や、ワークスタイル・ライフスタイル変容の加速といった環境変化への対応を念頭に、基本方針を「変革」とし、早期の収益復元を図ることで、新たな成長への転換点となる3年間と位置づけた。

重点戦略を、「交通インフラ事業における事業構造の強靱化」「不動産事業における新しい価値観への対応」「新たなライフスタイルに対応した事業・サービスへの進化」「各事業における構造改革の推進」の4点とした。

図9-1-4 新経営計画の基本方針と重点戦略
出典:「統合報告書2021}

そして、事業領域別に、「自律分散型都市構造の考え方をベースとした事業展開への転換」として、住まい=郊外中心、オフィス・商業=都心中心という一軸構造ではなく、多様化・複層化するニーズを確実に取り込むという環境変化に対応した事業戦略の転換を図ることとした。交通インフラ事業では、都心と郊外の間の通勤・通学を中心とした収支構造からの変革と、東急線沿線域内移動需要の創出を図る。不動産事業では、オフィス・商業を中心とした賃貸床を供給する事業モデルに加え、求められる用途・規模の再検証を行うと同時に、資産の入れ替えや資金効率を意識した成長領域の開拓を進める。生活サービス事業では、ライフスタイルの変化によりリアルとデジタルがシームレスになるなか、強みを生かせる領域に注力すると共に、時代のニーズに対応するサービスへの進化を図る。ホテル・リゾート事業では、コロナ禍の収束に不透明感があることに加え、競争も激化していることから、構造改革と収益性向上に向けた諸施策を展開するものであった。

図9-1-5 「自律分散型都市構造」の考え方による事業展開
出典:「中期3か年経営計画(2021年度-2023年度)」資料(2021年5月13日)

コロナ禍での当面の対応が施策の中心ではあったが、2019年に「長期経営構想」(詳細は後述)を発表して間もない時期であり、長期的な成長モデルについては、ぶれることなく継承した。

表9-1-1 2014年度以降の連結決算業績推移と各経営計画数値目標
注:『有価証券報告書』、投資家向け「中期3か年経営計画資料」・「決算説明会資料」をもとに作成
※1:親会社株主に帰属する当期純利益
※2:東急EBITDA(2014年度まで):営業利益+減価償却費+固定資産除却費+のれん償却費
東急EBITDA(2015年度以降):営業利益+減価償却費+固定資産除却費+のれん償却費+受取利息配当+持分法投資損益
※3:ROE:当期純利益÷自己資本(期中平均)×100
※4:コロナ禍により3か年の目標算定が困難であることから、各年毎に当年度の目標を設定すると共に、「2023年度に有利子負債/東急EBITDA:7倍台への回復をめざしていく」とした(2022年9月に「2023年度営業利益700億円」を追加目標に設定)

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