第9章 第4節 第3項 渋谷に続く都市開発

9-4-3-1 東急歌舞伎町タワーの開業へ

渋谷での開発と並行して新たに立ち上がったのが「歌舞伎町一丁目地区開発計画(新宿TOKYU MILANO再開発計画)」である。もともとは東急レクリエーションが展開する「新宿TOKYU MILANO」(2014<平成26>年12月閉館)の跡地開発として持ち上がった計画で、当社は2016年2月の資本業務提携契約を経て同年3月に同社を連結子会社とするなか、連携を深めていた。その後、隣接地の買収により一体的な開発が可能な敷地が整い、大規模開発に発展することとなった。

図9-4-6 新宿TOKYU MILANO再開発計画 位置図
注:報道機関向け資料「歌舞伎町一丁目地区開発計画
(新宿TOKYU MILANO再開発計画)FACTBOOK」(2022年11月22日)をもとに作成

当社と東急レクリエーションが共同で行う「歌舞伎町一丁目地区開発計画」は2018年6月、東京圏国家戦略特別区域に関する内閣総理大臣認定と、都市再生特別地区に関する都市計画決定を経て開発計画のあらましが決定し、地上48階・地下5階建て(高さ約225m)となる本計画を東急グループ一丸となって整備することとした。同年12月には、劇場やライブホールなどのエンターテインメント施設を運営する会社として、東急レクリエーション、ソニー・ミュージックエンタテインメント、当社の3社で株式会社TSTエンタテイメントを設立。ホテルの運営は東急ホテルズが行うこととした。

本計画は、ホテルとエンターテインメントを軸とした複合用途ビルで、施設のコンセプトを「“好きを極める場”の創出」とし、世界へ向けた新たな都市観光の拠点として、「エンターテインメントシティ歌舞伎町」の実現をめざす内容とした。用途構成は、39階~47階がラグジュアリーホテル「BELLUSTAR TOKYO」(97室)、18階~38階が「HOTEL GROOVE SHINJUKU」(538室)で、グレードの異なる二つの宿泊施設を予定。9階~10階は映画館「109シネマズプレミアム新宿」、6階~8階は劇場「THEATER MILANO-Za」、1階~5階は商業施設(エンターテインメント&レストラン)、地下は1500人を収容できるライブホール「Zepp Shinjuku(TOKYO)」とナイトエンターテインメント施設「ZERO TOKYO」で構成される。このように、用途の多くがこれまでに類のないエンターテインメント性を備えており、それを複合的に織り込んでいることが、本計画最大の特徴である。

図9-4-7 東急歌舞伎町タワー 用途構成
注:当社・東急レクリエーション ニュースリリース(2021年11月18日)をもとに作成

本計画では、施設計画や周辺インフラ整備を通じて、まちづくりの視点で地域が抱える課題に対応している。歌舞伎町エリアはもともとインバウンドを中心とした来街者や滞在者が多く、都内有数の観光拠点として海外での知名度も高かったが、街としては観光客の交通アクセスの利便性、街を行き来する歩行者の回遊性に課題があった。そこで、本計画では、事業のなかで街の都市観光機能の強化やにぎわい創出を施策とし、街への貢献を図ることとした。

交通アクセスの利便性向上では、1階にリムジンバスの乗降場を設け、観光客が成田空港や羽田空港からダイレクトにアクセスできる連結バスルートとして整備している。また、新宿職業安定所前交差点(職安通りと西武新宿駅前通りとの交差点)を十字路交差点とする道路改良を行うことで、西新宿など他エリアからのアクセス性を高めた。回遊性の強化では、西武新宿駅前通りを観光ルートにふさわしいデザインにリニューアルして周辺街路を整備した。施設内には貫通通路を設けて歩行者ネットワークを確保し、隣接するシネシティ広場に通じる連続的なにぎわい空間として整備した。さらに「歌舞伎町・タウンマネージメント」などと連携したエリアマネジメントを推進し、歌舞伎町の多様な大衆娯楽文化を世界に発信し、街の活性化に貢献している。

図9-4-8 東急歌舞伎町タワー 事業を通じて街の活性化に貢献
出典:当社・東急レクリエーション ニュースリリース(2021年10月12日)

2020(令和2)年初頭からの新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、換気対策や非接触対策の強化、ソーシャルディスタンス確保など複数の感染症対策をパッケージ化し、施設全体で安全性を高めた。こうした姿勢が評価され、2021年10月、「新しい日常に向けた対策を誘導する」ことなどを盛り込んだ新宿駅周辺地域の新しい地域整備方針に基づく民間都市再生事業計画として、国土交通省より初の認定を受けた。さらに、「先導的な感染症対策等を実施する文化・芸術施設等の集客施設」を対象とする、「官民連携まちなか再生推進事業」の「国際競争力強化施設」として2021年度補助金の交付決定を受けた。

2022年4月、本計画の施設名称を「東急歌舞伎町タワー」に決定した。建物の特徴的な外観は、歌舞伎町エリアにかつて川が流れていたことや、現在でも歌舞伎町弁財天が水を司る女神として祀られていることから、水の要素を取り入れ、「噴水」をモチーフとしたもので、水の持つ純粋さ、柔軟さ、多層に重なり合う優雅な姿などを表現。窓ガラスや低層外壁アルミキャスト、アーチ窓などで、水を意味する文様「青海波(せいがいは)」をデザインに取り入れている。

施設名称と同時に発表したブランドロゴは、デザインエレメントとロゴタイプの2要素からなる。デザインエレメントは、噴水の要素とピアノの鍵盤や音響機器のイコライザーといった、エンターテインメント性を、ロゴタイプは複数のブロックの組み合わせにより、文化やコンテンツ、行き交う人々など、歌舞伎町の多様性を表現している。

東急歌舞伎町タワーの開業は2023年4月、ホテルの開業は同年5月を予定している。第一弾施策(こけら落とし)として、施設コンセプト「好きを極める」を具現化するものとして、本施設の前身となる新宿TOKYU MILANOにゆかりがあり、国内外で根強い人気を誇る『エヴァンゲリオン』を題材にした「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」を、劇場、ホテル、映画館、ライブホールなどの各施設において、実施することが決定している。

東急歌舞伎町タワーのブランドロゴ
建設が進む東急歌舞伎町タワー

9-4-3-2 東急不動産による都市事業などの展開

2013(平成25)年に東急不動産など3社が株式移転により経営統合し、純粋持株会社東急不動産ホールディングスが設立された。開発機能は、東急不動産ホールディングス完全子会社の事業子会社となった東急不動産が引き続き担うこととした。

ここでは、「東急プラザ表参道原宿」および、東急不動産が事業子会社となったあとに開発した主なプロジェクトについて記しておく。

〈東急プラザ表参道原宿の開業〉

東急不動産は、これまで「東急プラザ」の名で自由が丘、渋谷、蒲田などで商業施設を展開してきたが、2012年4月、新しい旗艦店として「東急プラザ表参道原宿」を開業した。「『ここでしか』『ここだから』をカタチに」を施設コンセプトとし、屋上には神宮前から明治神宮に通じるケヤキ並木をイメージしたテラス(おもはらの森)を設けるなど、特徴的な建物は、原宿の新しいシンボルの一つとなった。同施設は国際ショッピングセンター協会主催のアジア太平洋ショッピングセンター賞、デザイン・開発部門で、最高位の金賞を受賞した。

東急プラザ表参道原宿
出典:『とうきゅう』2014年3月号

〈東急プラザ蒲田のリニューアル〉

都内唯一の屋上観覧車があることで知られていた「蒲田東急プラザ」は、2014年10月、リニューアルして「東急プラザ蒲田」に名称変更した。観覧車はリニューアル後も引き継がれ、現在も親しまれている。

〈東急プラザ銀座の開業〉

東急不動産は2016年3月、「東急プラザ銀座」を開業した。世界有数の商業地である銀座、なかでも有楽町駅からほど近い数寄屋橋交差点に面した好立地を生かし、東急不動産にとって、開発に約9年を要した一大プロジェクトであった。同施設は、日本の伝統工芸である江戸切子をモチーフにしたデザインが特徴的で、銀座の新しいランドマークとなった。

〈もりのみやキューズモールBASEの開業〉

東急不動産は、関西でオープンモール型のショッピングセンターを2003年から展開しており、阿倍野、尼崎、箕面で3施設を展開していた。同社はこれら3施設のブランドを2013年に「キューズモール」に統一し、4施設目として2015年4月に「もりのみやキューズモールBASE」を開業した。これは、「日生球場」の名で知られ、プロ野球の試合も開催されてきた日本生命球場(大阪市中央区、1997年12月閉鎖)の跡地について、日本生命と東急不動産の間で事業用定期借地権を設定し、借地する東急不動産が商業施設を開発するもの。野球場として長らく親しまれてきた歴史を踏まえ、商業施設の屋上にランニングトラックを設置し、商業とスポーツを融合させた。キーテナントは同社子会社の東急スポーツオアシスの店舗とし、正面入口もかつての野球場をイメージした外観にした。

なお、前述の東急プラザを含め、東急不動産の商業施設運営は同社子会社の東急不動産SCマネジメントが担っている。

〈東京ポートシティ竹芝の開業〉

東京2020(令和2)年9月、「東京ポートシティ竹芝」が開業した。浜離宮恩賜庭園の豊かな緑や、東京湾の広大な海と近接したエリアを立地に、東急不動産と鹿島建設が共同で設立した事業主体が、国家戦略特別区域の認定事業として開発したもの。地上40階・地下2階建てのオフィスタワーと18階建てのレジデンスタワーで構成した。オフィスタワーは全館を5Gの通信環境とし、リアルタイムデータやAIを活用した「スマートビル」のモデルケースを示した。

〈その他の事業の動き〉

その他にも東日本大震災で被害を受けた登録有形文化財の旧九段会館の再生プロジェクトとして2022年に「九段会館テラス」を開業したほか、前述の渋谷駅桜丘口地区や神宮前六丁目地区、札幌すすきの駅前などの再開発、分譲マンション「BRANZ」、賃貸マンション「コンフォリア」、「東急スポーツオアシス」(フィットネスクラブ)、「グランクレール」(高齢者住宅)やハーヴェストクラブ、東急ステイなど多岐にわたる事業展開を行っている。

また、サステナブル社会へ向けた取り組みを重視しており、近年は再生可能エネルギー事業として風力発電・太陽光発電事業などを開始。共同保有施設などを除いた、同社のほぼすべての施設の使用電力が、再生可能エネルギー100%の電力で賄われている。2021年5月には東急不動産ホールディングスとして長期ビジョンのスローガンを「WE ARE GREEN」とした。

なお、東急ハンズは、2008年から小型店の新業態として「ハンズ ビー」の展開を開始するなど積極的な店舗展開を進め、2014年4月には東急不動産ホールディングスの完全子会社の一つとなっていた。しかし、近年はECなど競合他社の台頭が著しく同社の業績は低迷しており、東急不動産ホールディングスはハンズ事業をグループ外に移して事業価値の最大化を図ることが最適であると判断。2022年3月、東急ハンズの全株式を株式会社カインズに譲渡した。

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