第8章 第4節 第3項 着々と進む渋谷の都市基盤整備

8-4-3-1 渋谷駅周辺が抱える課題の克服に向けて

渋谷駅は8線の鉄道が結節すると共に、大規模なバスターミナルを有する公共交通の要衝である。しかし駅施設は大正時代から、折々の時代に合わせて増改築を繰り返してきたため複雑でわかりにくい構造となっており、都市再生を実現するうえでは、耐震性の向上、バリアフリー化、乗り換え利便性の向上などを図ることが必要であった。また渋谷駅中心地区(駅施設の周辺)に視野を広げれば、安全で快適な歩行者空間の確保、交通結節機能の強化、自動車交通の混雑や錯綜の改善、渋谷川のあり方など、都市基盤にかかわる多くの課題を抱えていた。

このため前述のように2007(平成19)年4月に学識経験者や行政、鉄道事業者で構成する「渋谷駅街区基盤整備検討委員会(座長:森地茂政策研究大学院大学教授、当時)」が設置され、同委員会での検討を踏まえて、2008年6月に東京都および渋谷区が「渋谷駅街区基盤整備方針」をとりまとめた。駅施設、駅前広場・道路、歩行者ネットワーク、駐車場・駐輪場、河川・下水道のおのおのについて今後進めるべき整備内容を記したもので、2009年6月に東京都および渋谷区により都市計画決定がなされた。この内渋谷区の都市計画では、基盤整備の一環として「渋谷駅街区土地区画整理事業」を進めることが示された。

渋谷駅街区土地区画整理事業の施行地域は、渋谷駅、東西の駅前広場および渋谷川沿いの飛び地などを含む約5.5haである。地権者は当社、JR東日本、東京地下鉄(東京メトロ)の3者で、施行者は当社と独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)の2者である。UR都市機構は当社以外の鉄道事業者2者の同意を得て施行者に名を連ねたもので、主に土地区画整理事業の技術的事項を担当、当社が施行者の代表者として事業の施行を担当することとなった。

図8-4-8 渋谷駅街区土地区画整理事業 関係主体
出典:渋谷駅街区土地区画整理事業 事業記録2010-2017

同事業は、複雑に入り組んだ渋谷駅街区の権利関係を整理して、公的な都市基盤整備と駅ビル更新に備えた敷地の整序を行うための事業で、整備内容ごとの役割分担に関する7者(国土交通省東京国道事務所、東京都、渋谷区、UR都市機構、JR東日本、東京メトロ、当社)の合意を経て、2010年10月に施行認可が公告された。渋谷駅中心地区では、これと併せて鉄道改良事業(JR渋谷駅、東京メトロ銀座線渋谷駅)、国道246号改良事業(JR渋谷駅改良事業と連動)、駅ビル再開発事業を進めることで、都市再生にふさわしい玄関口として再構築することとなった。

公的な都市基盤の整備については、これまでも行政の上位計画を策定するための各種会議体や事業者間の個別協議などで構想を固めてきた経緯があり、これに基づいて2010年12月には施行地域全域で仮換地指定を実施。これ以降、渋谷駅中心地区で長期間にわたる工事が展開されることとなった。「100年に一度」ともされる渋谷再開発の本格着手であった。

8-4-3-2 具体化が進む都市基盤整備

仮換地指定の実施により、渋谷駅街区における駅ビル更新の底地が決定し、後述する渋谷スクランブルスクエア第Ⅰ期(東棟)(以下、東棟ビル)の建設に向けて東急百貨店東館・中央館などの解体が始まるが、これと並行して駅周辺の都市基盤整備も着々と進んだ。

まず渋谷駅街区における都市基盤整備では、地上駅前広場の整備、地下広場の整備、渋谷川の移設と下水道化、地下貯留槽整備が計画され、先行して東口側から着工された。

地上および地下の広場は、歩行者の滞留空間不足を解消することを目的として整備するものである。東口地上駅前広場は、東急百貨店東館の解体工事や東棟ビル新築工事の進捗に合わせて平面形状を切り替え、バスターミナルやタクシー乗降場の位置を変更しながら、段階的に整備することとした。また東口地下広場は、各鉄道線はもとより東口バスターミナルや東棟ビル内のアーバン・コアに接続する位置にあり、新たな交通結節点の機能を果たす空間である。多くの来街者が利用することから、開放的な空間の創出をめざし、建設の支障となる渋谷川の流路を東側に移設すると共に下水道化した。また近年の気候変動により集中豪雨が頻発していることから、浸水対策として、地下25mの深さに約4000トンの雨水を一時的に貯水できる貯留槽を整備することとした。

図8-4-9 渋谷駅街区土地区画整理事業 公共施設整備
出典:渋谷駅街区土地区画整理事業「事業記録2010-2017」
渋谷駅東口雨水貯留施設
提供:渋谷駅街区土地区画整理事業共同施行者

西口側についても地上および地下広場を設ける計画としているが、東急百貨店西館・南館の解体工事の進め方、スクランブル交差点に面した地上広場の整備内容、地下広場における渋谷地下街との関連など、調整事項が多数あったことから、西口南側の地下タクシープールの整備を先行させた。

さらに、渋谷駅街区の周辺で「道玄坂一丁目駅前地区」「渋谷駅南街区」「渋谷駅桜丘口地区」の開発計画が具体化するなか、渋谷区は2012(平成24)年10月に「渋谷駅中心地区基盤整備方針」を公表。これに基づいて2013年6月から順次、都市計画決定がなされ、渋谷駅周辺の広範囲で都市基盤整備が動き出すこととなった。

図8-4-10 「渋谷駅中心地区基盤整備方針」で示された渋谷駅周辺の整備イメージ
出典:渋谷区資料 2012年

銀座線渋谷駅ホームの移設(約130m表参道方向へ)、JR埼京線渋谷駅ホームの移設(約350m北側へ)に伴う山手線渋谷駅との並列化、国道246号の拡幅に伴う6車線化(東京都による都市計画決定)、そして各開発街区の計画などが明らかとなり、新たな街の全容が現れた。

図8-4-11 渋谷駅中心地区の開発5街区
出典:社内資料

「渋谷駅中心地区基盤整備方針」によって、渋谷駅周辺の開発が検討され始めた段階から懸案事項として共有されてきた駅周辺の動線の複雑さを整理し、回遊性を高める青写真も定まった。具体的には、主要街区で整備される建物にアーバン・コアを設けることで地下と地上を結ぶ縦軸方向の移動を、さらに地上広場や歩行者デッキで多層的に横軸方向の移動を誘導することで、誰もがストレスなく安心して回遊できることをめざした。また併せて鉄道路線間の乗り換え動線の改良も実施することとなった。

こうして、各開発街区のプロジェクトが進み始めた。

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