第8章 第3節 第3項 たまプラーザプロジェクト(たまプラーザ テラス)の進展

8-3-3-1 たまプラーザ駅周辺地区開発計画の立案

たまプラーザは、多摩田園都市の中心的な拠点と位置づけてきた街である。1982(昭和57)年、駅北口に東急百貨店たまプラーザ店と専門店で構成する「たまプラーザ東急ショッピングセンター(以下、たまプラーザ東急SC)」を開業し、街の発展に寄与してきた。一方、駅南口は、第一種住居地域などに指定されており、建物の高さや容積率の制限から土地の高度利用ができず、住宅展示場や駐車場など暫定的な利用にとどまっていた。

駐車場として利用されていた開発前のたまプラーザ駅南口(1990年)

このため当社は、地元地権者と共に地区計画推進連絡協議会を1986年に発足し、多摩田園都市の中核にふさわしい街づくりが可能となるよう横浜市に働きかけた。関係当局と粘り強く合意形成を図った結果、2002(平成14)年11月にたまプラーザ駅周辺地区の開発について、横浜市が都市計画決定し、これにより当社は、具体的な開発計画の検討を始め、地元や行政と一体となって、道路などの基盤整備も含めた街づくりの第二段階へと駒を進めることとなった。

2005年5月、たまプラーザ駅周辺地区開発計画の概要を決定した。駅部分を含む社有地および鉄道線路の上部に人工地盤を構築して新たに商業施設を建設すると共に、駅前広場や駐車場など駅周辺の機能整備を行う計画である。線路を挟んだ街の南北を一体化し、街全体の活性化をめざした。商業施設は高さを駅改札口から3層までに抑え、低層で開放的な周辺の街並みとの調和を図ることとした。

商業施設のコンセプトは、「ライフスタイル・コミュニティ・センター〜生活者のライフスタイル実現とコミュニティの育成・創造の場」。ライフスタイル実現欲求が高い30歳代前半の女性をコアターゲットとし、地域のコミュニティの育成を支援するさまざまな場やサービス機能も提供していくこととした。「東急百貨店たまプラーザ店」を含むたまプラーザ東急SCの大幅リニューアルも併せて行うこととした。

同計画は、当社が中心となって半世紀にわたって街づくりを進めてきた多摩田園都市の集大成となるシンボル的な事業であると同時に、2005年に発表した「中期3か年経営計画」で成長戦略に挙げた「エリア戦略の深化」「沿線拠点開発の展開」「リテール関連事業の推進」を具現化する事業でもあった。

当社は2006年11月、既設のたまプラーザ東急SCを含めた施設全体の名称を「たまプラーザ テラス」に決定。「さまざまな人が集い、交流を深め、それぞれのライフスタイルを実現していく場でありたい」という思いに加え、人々の暮らしを明るく「照らす」という意味を込めた。

8-3-3-2 駅周辺の商業施設「たまプラーザ テラス」が竣工

当社は、たまプラーザ駅周辺地区開発計画では、駅部分を含むA棟と、駅南側のB棟を段階的に建設することとし、2005(平成17)年11月にB棟から工事に着手した。A棟は3期に分けて工事を行い、たまプラーザ東急SCのリニューアルも含めて2010年の全体開業をめざした。

図8-3-2 たまプラーザ テラスの全体計画図
出典:ニュースリリース(2005年10月17日)

2007年1月にB棟が「サウスプラザ」として開業。東急スポーツシステムのフィットネスクラブ「アトリオドゥーエたまプラーザ」をはじめ、カフェやドラッグストア、ペットショップが出店した。また、地域住民の憩いの場として利用できる1000㎡の広場「コミュニティコート」や、約480台を収容できる立体駐車場を整備した。

これと並行して、A棟I期の工事が進められ、2007年10月に「ゲートプラザ(第1期)」が開業。衣料品セレクトショップやクッキングスクール、中華ダイニングなど13店が出店した。さらに食料品を豊富に揃えたフードテラス東急ストアをはじめ、書店やファッション店、生活雑貨店、カフェ、レストランなど71店舗が集積するA棟II期が「ゲートプラザ(第2期)」として2009年10月に開業。たまプラーザ東急SCも全館リニューアル、名称を「ノースプラザ」とし、東急百貨店が営業を開始した。最後に「ゲートプラザ(第3期)」としたA棟III期が竣工。遊びを通じて発育をサポートする施設、学童保育施設(キッズベースキャンプ)、親子で気軽に音楽を楽しめる施設、子ども向けの講座も取り入れた東急セミナーBEなど子育て世代向けのサービスを充実させた。フードコート形式の「テラスキッチン」なども含め合計41店が出店。2010年10月に、「たまプラーザ テラス」はグランドオープンを迎えた。ゲートプラザおよびサウスプラザの運営は東急モールズデベロップメントに委託した。

たまプラーザ テラスとたまプラーザ駅

多くの大型商業施設では、モノ消費を取り込む物販店を中心に構成されていたが、たまプラーザ テラスは飲食を含むサービス業の非物販のテナントが4割を占めた。モノを売るだけではなく、ライフスタイル実現を支援する場となり、誰もが安心して集い、滞在する、「ライフスタイル・コミュニティ・センター」をめざしたのである。開業後は、芝生と噴水の広場「フェスティバルコート」や開放感あふれるフードコート「テラスキッチン」などを中心に、平日でもベビーカーを押しながら施設内を回遊するファミリー層の姿も目立つようになった。

芝生広場とテラスキッチンでは親子連れの姿も目立つ(2012年)

たまプラーザ テラスは開業後も随時テナントの入れ替えを行うなどアップデートを進めながら集客力の向上に努め、2015年4月〜12月の累計で過去最高のテナント売上高を記録するなど好調に推移、地域に密着した商業施設としての存在価値を高めた。

この時期、2005年にJR東日本グループが事業化した商業施設「エキュート」をはじめ、駅構内を有効活用し、改札内でのビジネス拡大に努める「駅ナカビジネス」が注目を集めていた。これに対して当社は駅構内(改札内)に囲い込むのではなく、駅ナカから駅周辺へ、そして街のなかへと人々が行き交うことで商業施設が街に溶け込み、地域活性化のコアとしての役目を果たすことを重視した。2013年3月には、ゲートプラザの南西側に「たまプラーザ テラス リンクプラザ」を竣工させ、地域とのつながりをさらに深めていくこととなる。

8-3-3-3 [コラム]たまプラーザ駅が鉄道建築協会「最優秀協会賞」を受賞

たまプラーザ駅周辺地区開発計画では、駅の改良工事も行い、2009(平成21)年10月に新しい「たまプラーザ駅」が竣工した。駅上に人工地盤を構築することで南北の回遊性を高めると同時に、駅と商業施設の一体感を図るため、双方にまたがる大屋根や3層吹き抜け構造としてダイナミックな大空間を作り出した。また、コンコース内はスムーズな移動を促すため柱を取り払い、屋根のトップライトから自然光を取り込んだ。

こうした取り組みが評価され、2010年10月、社団法人鉄道建築協会による鉄道建築協会賞の作品部門で、たまプラーザ駅が最優秀協会賞を受賞した。当社はこれまで鉄道建築協会賞で15回入選(副都心線渋谷駅、東横線元住吉駅、大井町線大岡山駅上部の東急病院ほか)を経験してきたが、当社単独で最優秀協会賞を受賞したのは初めてであった。

たまプラーザ テラスの開発を機に鉄道駅と商業施設が一体的な空間となった

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