第5章 第8節 第2項 流通部門など東急グループの海外進出

5-8-2-1 海外展開に挑む東急百貨店

東急百貨店も、海外展開に乗り出した。アジアで最初に進出したのは香港である。香港九龍チムシャツイ地区に建設されるニューワールドセンターの3フロア5000㎡を借り受けることとし、これに備えて1981(昭和56)年6月に現地法人の香港東急百貨店有限公司を設立した。ビルの完成と同時に、1982年6月、香港東急百貨店が開業した。この時点で香港島に大丸、松坂屋、三越が、また九龍半島には伊勢丹がすでに進出しており、多くの日本の百貨店のなかに割って入る形での出店となった。買い付けなどを担う駐在員事務所をミラノ、ロサンゼルス、パリに続いて同地にも併設した。

図5-8-2 香港東急百貨店案内図(香港九龍半島地区)
出典:『とうきゅう』1982年6月号

1983年11月にはタイで、現地企業との合弁(東急百貨店49%出資)により、TOKYU DEPARTMENT STORE(THAILAND)社を設立。この現地企業がバンコク市内で開発を進めていたアジア最大(当時)のショッピングモール、マーブーンクロンセンター(MBKセンター)のキーテナントとして、総面積1万2500㎡の規模で、タイ東急百貨店が1985年8月に開業した。タイでは日本発信の文化に関心が高く、開業前に、現地で人気を博していたNHKドラマ「おしん」を題材にした催事を行うなど、注目を集めての開業となった。

シンガポールでは、MCH社によるマリーナ スクエアの建設に合わせ、シンガポール東急百貨店を1987年10月に開業した。売り場は2階から4階の3フロア9100㎡の規模で、海の見えるロケーションを生かしたシーフードレストラン「サンジェルマン」も運営した。

シンガポール東急百貨店

また1960年にハワイシロキヤとして出店し、海外展開の先がけとなっていた、東急百貨店の子会社の、シロキヤ・インコーポレイテッドは、1981年4月にオアフ島で4号店を出店しており、東急百貨店は、海外で7店舗を運営するに至った。

さらに、東急百貨店の子会社が運営するインストアベーカリー「サンジェルマン」も、1977年11月にハワイに海外1号店を出店、その後1987年までにフランス、香港、タイ、シンガポールにも出店した。最盛期は海外に10店舗以上展開した。

ハワイシロキヤ1号店(アラモアナ本店)(東急百貨店社内報 1984年11・12月号)

5-8-2-2 その他グループ各社の海外展開

東急グループのなかでも早期に海外展開を図ってきたのが東急観光である。1961(昭和36)年6月に初めての海外事務所として香港連絡所を開設し、その後は1972年4月の東急航空との合併を経て米国内の海外事業所を拡充。1986年の時点で、米国本土のほかハワイ、グアム、サイパン、香港、シンガポール、ロンドン、パリ、バンクーバーに、現地法人の支店や駐在員事務所として合計11か所に海外事業所を設けた。同社は1966年に初めての海外主催旅行を実施し、1970年から「東急トップツアー」のブランド名で海外パッケージツアー商品を次々と開発、販売しており、日本人に人気の海外旅行先での受け入れ業務を行うのが、海外事業所の主たる目的であった。さらに日本企業の海外進出に合わせて、日系の海外現地法人などを対象とする旅行斡旋業務にも積極的に取り組んだ。

東急エアカーゴは、1954年に東急航空の国際航空貨物部門として発足、1972年の東急航空と東急観光の合併を経て、1976年6月に改めて航空貨物部門を分離独立して東急エアカーゴ株式会社となった。同社はIATA代理店業などの航空貨物関係業務のみならず、海上貨物の取り扱いも徐々に拡大して空海総合一貫輸送体制を確立し、設立2年目から1割配当を継続するなど業績は極めて順調に推移した。同社は設立時点から、輸出入貨物を取り扱う海外サービス拠点をニューヨーク、ロサンゼルス、フランクフルトに設けていたが、その後はロンドン、シンガポール、ミラノ、ミュンヘン、香港などに駐在員事務所を設置。さらに荷受け地での配送体制を強化するため米国などで現地法人を設立し、現地の配送先までドア・トゥー・ドアで一貫輸送するために単独混載(複数の荷主からの小口貨物をまとめて輸送する)を開始するなど、サービスの向上に努めた。

東急不動産は、前述のシンガポールにおける「ザ クレイモア」の建設のほか、パラオに約25万㎡の土地をリースして、リゾートホテル「パラオ パシフィック リゾート」を1985年2月に全面開業した。同ホテルの運営は東急ホテルズ・インターナショナルに委託した。

東急建設は1979年以降、ハワイやグアム、シアトル、タイ、マレーシアに海外現地法人を設立した。この内タイでは、現地のゼネコン大手のチョウカンチャン社と合弁でチョウカンチャン東急建設を設立し、タイ国内最大の病院や港湾、火力発電所や空港工事などを相次いで受注した。

チョウカンチャン社の会長であるプリュー・トリーウィサワウェート会長は、日本に留学経験があり、その際に五島昇社長と出会い、交通インフラについての重要性について薫陶を受けた。

タイに帰国後、インフラ整備を生涯のテーマに掲げ、母国の発展に貢献。バンコク都市鉄道の建設・運営でも強力なリーダーシップを発揮した。このような功績により、2018(平成30)年には旭日中綬章を受章している。

旭日中綬章を受章したプリュー会長(左)(2018年)

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