第6章 第6節 第3項 オフィスビル事業の推進

6-6-3-1 社有地などでのオフィスビル建設が相次ぐ

1983(昭和58)年に開発事業本部からビル事業部が独立して以降、当社では土地の高度利用と安定収入源の確保をめざして、不動産賃貸事業、なかでもオフィス賃貸ビル事業の展開に注力した。1990年代にはビル事業部内に、市街地再開発を推進する部署のほか、渋谷開発、みなとみらい21地区24街区を担当する部署を新設し、それぞれの開発推進と竣工後の不動産賃貸を担当した。この時期、当社の不動産賃貸面積(商業賃貸、オフィス賃貸の両方を含む)は、1990(平成2)年度の34万6556㎡から1997年度の51万1573㎡へと大きく伸長した。

当社の不動産賃貸事業は従来、東急文化会館やたまプラーザ東急SC、町田ターミナルプラザなどに見られるように商業賃貸ビルが中心で、しかも東急グループ各社への賃貸が多かった。1980年代末期からは、首都圏でのオフィス需要の高まりを受けて、社有地を活用したオフィスビルの建設にも注力。代表的な実績は、東急三田ビル、東急南大井ビル、世田谷ビジネススクエアである。

東急三田ビルは、港区三田3丁目に所在した当社直営のガソリンスタンド、田町サービスステーションの跡地に計画した地下1階地上11階建てのオフィスビルである。オフィスの居住性や快適性を重視し、各フロアにリフレッシュコーナーを設けたほか、OA機器の配線に対応した設計として、1991年7月に竣工した。キヤノン販売(現、キヤノンマーケティングジャパン)に一括賃貸した(賃貸面積6815㎡)。

東急三田ビル

東急南大井ビルは、品川区南大井1丁目の日本貨物急送株式会社(1944年設立、当社および東急百貨店の関連会社)品川営業所跡地に計画した地下1階地上14階建てのビルである。三日月型のエレベーター棟と扇型のオフィス棟からなり、各フロアを上空通路でつないだユニークな構造で、1994年3月に竣工した。吹き抜け構造の1階と2階は海外自動車メーカーのショールームとして賃貸、そのほかは東急グループの物流関係5社に賃貸し、各社の本社として利用された(合計賃貸面積6857㎡)。

東急南大井ビル

1990年10月に、当社は東急不動産と共同で用賀プロジェクトに着手した。新玉川線用賀駅に隣接する世田谷区用賀4丁目の旧玉川線車庫跡地2万1000㎡の広大な敷地に、地下2階地上29階建ての超高層オフィス棟(高さ120m)を中心に、中層オフィス棟3棟、プライベートオフィス棟1棟、低層レストラン棟など、合計8棟の業務施設を建設するものであった。

当敷地から半径1km圏内には馬事公苑や砧公園、砧公園の一角には世田谷美術館(1986年開館)があり、これらと用賀駅とを結ぶ瓦敷きの「用賀プロムナード(愛称:いらか道)」が、1986年に世田谷区により整備されるなど、用賀地域はさらに魅力ある街として変貌を遂げつつあった。

この「用賀プロジェクト」は、多摩川にほど近く、自然に恵まれた周辺環境との調和を図るべく、緑や水辺を生かした快適で居心地のよい空間づくりに努めた。用賀駅に直結し、雨に濡れずに各棟にアクセスできる利便性も備えた。また、エネルギー供給を目的に世田谷区で初めて敷地内地下に地域冷暖房プラントを設置した。名称を「世田谷ビジネススクエア」として、1993年11月に開業した。当社の賃貸面積は5万3038㎡に及ぶ広さで、1990年代にビル事業部が手がけた案件のなかでも最大規模であった。

世田谷ビジネススクエアの開業に合わせて、駅前バスターミナルの整備や駅施設のバリアフリー化が図られるなど、用賀駅およびその周辺地区は装いも新たに生まれ変わった。同地区は、財団法人都市づくりパブリックデザインセンターから、1994年度の都市景観大賞(景観形成事例部門・地区レベル)を受賞した。

図6-6-4 世田谷ビジネススクエア配置図
出典:『清和』1993年11月号
世田谷ビジネススクエア

当社のビル事業は、1990年ごろから数々の開発案件がいっせいに動き出して順次開業を迎えることとなったが、1992年にはバブル崩壊の影響でオフィス需要が急速に減少。また、1993年から1994年にかけて、各地でオフィスビルの新設ラッシュがあったことも災いして、需給バランスの崩れから賃料相場が下落し、入居率も低下した。このあおりを最も受けたのが世田谷ビジネススクエアで、オフィス入居率約60%での開業となった。

なお、東急三田ビルは2001年3月、東急南大井ビルは2004年1月に外部に売却した。

表6-6-1 東京ビジネス地区における空室率と賃料の推移(1990年~1999年の各年12月)
注1:三鬼商事『オフィスマーケット』をもとに作成
注2:東京ビジネス地区:千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区の都心5区

東急100年史トップへ