
パン屋さんに入ったときにフワッと香る、甘くて香ばしい幸せな匂い。高揚感に包まれながら、たくさんのパンを前に「どのパンにしようかな」と、トングを持つ手もカチカチと踊る。
エッセイストの藤岡みなみさんが東急線沿線の一駅を歩き、パン屋さんを巡るこの企画。
7回目の舞台は松原。街歩きの中で感じた出会いや、話題のパン屋さん「ブーランジェリー・デ・リース」で感じたときめき、味わいをレポートしていきます。
藤岡みなみ
1988年生まれの文筆家。ラジオパーソナリティとしても12年以上活動するほか、ドキュメンタリー映画のプロデューサーなども務める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2025年に東京・板橋区にタイムトラベル専門書店utoutoをオープン。時間をテーマにしたイベントや書籍なども制作している。著書に『パンダのうんこはいい匂い』『ふやすミニマリスト』『時間旅行者の日記』などがある。学生時代パン屋さんでアルバイトをしていた。
Twitter(X):https://x.com/fujiokaminami
Instagram:https://www.instagram.com/fujiokaminami/
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2025年に100周年を迎えた世田谷線に乗って、松原にやってきた。曇り。
初めて降りた駅だけど、慣れ親しんだまちのように心が落ち着く。

ゆっくり散策しながらパン屋さんを探そう、と思ったら……
そんな暇もないくらい駅のすぐ近くにお店を発見。
私の思う松原のおしゃれさをそのまま形にしたような、モダンなマンションの1階にお店はあった。


ブーランジェリー・デ・リースさん。
お店の両側にはレンガの壁と街灯。フランスの街角にいる気分になる。

ドアを開けると、小さな店内にぎっしり並んだつやつやのパンがお出迎え。
さあ、今日もトングをカチカチしていこう。

まず目を奪われたのは、おかず系パンの輝き。
パンというより、センスのいいレストランで前菜が目の前に運ばれてきた感じ。



パンのこと、お皿だと思ってます?
パンの上でこんなに「料理」をやっていいんです?

カレーパンが人気でよく売れるとのこと。
甘い系パンも豊富で魅力いっぱい。


こんなぴかぴかのデザートみたいなパンを朝に食べたら、満足してもう一回寝ちゃうよ。
おかずパンを見た瞬間ワインが飲みたくなって、甘い系パンを見た瞬間コーヒーを体が欲してる。
こんなの、え・ら・べ・な・い!!

食パンはその場でスライスしてくれる。トマト食パンが気になった。
商品棚の奥にはキッチンが見えた。ここで毎日絶品パンが作られているのだ。

もともとはレストランとして愛されていたお店。現在はレストランの休業に伴い、その跡地でパン屋さん『ブーランジェリー・デ・リース』として新たなスタートを切っている。
シェフが「どんどんアイデアが浮かんでくる。自分が飽きないように毎日いろんなパンを作っている」と教えてくれた。お店に並ぶパンを見れば納得だ。

選べないので、食べたいもの全部買っちゃいます。
今夜はパンパーティ決定。
実は、お店の前にちょっとしたイートインスペースもある。
ぱらついていた雨が上がったのでテーブルを出していただいた。


かなり気になっていた、季節のポタージュとバゲットのセット。
パンが買えるだけでなく、こちらのお店ではスープやパスタもテイクアウトできる。
やっぱりここはレストラン!


季節のポタージュ、今日はさつまいも。
でも大根やニンジン、燻製したベーコンなども入っていて超リッチな味わい。香ばしくてもちもちのバゲットとの相性も抜群。
この世で一番好きなタイプのスープかも……体と心に染みすぎる。
こんなの街角で飲んだらうっかり泣いちゃうよ。

心身ともにあたたまったので、お散歩をします。
パン買ってスープ飲んでお散歩すれば、もうそれが人生の意味。


線路沿いに不思議なものを発見。
マンションと電車が合体している……?
あとで調べてみたら、この裏側だけじゃなく表にも電車があったりして面白いらしい。
これだから散歩はやめられない。


まず、せせらぎが存在することが素晴らしいな松原。
声に出したい日本語、せせらぎ。せせらぎで待ち合わせたい。
顔を上げるとかっこいい世田谷線がやってきた。
子どもの頃はレトロな車体だったと記憶しているけれど、今のスタイリッシュな感じもいいよね。

その後、住宅街を歩いていると突如立派な神社があらわれた。



松原の菅原神社は、せたがや百景のひとつにもなっている。
江戸時代にこの地で寺子屋を開いていた石井兵助直慶が、学問の神様である菅原道真公を祀ったのが始まりとされる。


道真公と縁が深いらしい牛。
撫でるとご利益がある「撫で牛」として鎮座している。鼻の頭がぴかぴか。


立派な社殿の奥には、弁天池と厳島神社もある。
散歩が急に旅になった。

学業成就のおまもりや鉛筆も買える。
かしこくなりてえ〜という極めてアホっぽい気持ちで眺めた。
さ、家に帰ってパンパーティだ!

いっぱい歩いたあとのパンは言わずもがな最高。
ワイン……のつもりのぶどうジュースで乾杯。

写真の左上から時計回りでレポートします。
「ドライいちじくゴルゴンゾーラチーズクルミのタルティーヌバルサミコソース」
この名前の長さよ。シェフの情熱とセンスが溢れ出ている。レストランすぎる。
いちじくの甘味とゴルゴンゾーラの癖になる塩気が絶妙なハーモニー。しかもクルミの香ばしさやバルサミコの酸味もあって、舌と脳の飽きる暇がない。ワインを、ください。
「トマト、モッツァレラ バジルのカプレーゼ風タルティーヌ」
フレッシュなトマトの酸味とまろやかなモッツァレラがとろけあう。バジルの風味が食欲をそそる上質なオードブル。もう、オードブルと言い切っちゃうよ。
「特製レリースビーフカレーパン」
カレーもお店で毎日こだわって仕込んでいるらしい。だからレストラン時代の「レリース」の名前が入っている。ザクっとした生地のなかからコクと深みのある本格カレールーがじゅわわわ。人気なのが頷ける。
「なすとミートソース」
ジューシーに仕上がったなすが、じっくり煮込まれたミートソースの旨みを吸い込んでいる。甘味と旨みがパンパンにつまったパン。
「トマトフォカッチャ ポークフランクと野菜」
ふんわりもっちりかつ爽やかなトマトフォカッチャの布団が、ドーンと存在感の強いフランクフルトを受け止める。添い寝している野菜がアクセントになっている。
「青のりとしらすのフォカッチャ」
一番好きかも。青のりの磯の香り、しらすの塩気とオリーブオイルの風味。見た目に反して意外とパンチがある味だけど食感はふかふか。ビール飲みたいよう。

気になっていたトマトの食パンも買ってきた。
フォカッチャの発想で作っているパンらしい。もちもちでいい匂い。
これでサンドウィッチを作ったら敵なしだ。

こちらも左上から時計回りに
「もちもちパンプキン」
かぼちゃがのってるパンかな〜と油断していたら生地が他のパンと全く違って仰天。パンとかぼちゃの間にある、まだ人間が食べたことがない新しい食べ物みたいな食感。もちもちでかぼちゃよりかぼちゃの匂いがする。うんまい。
「プレミアムクリームパン」
高級デザートの風格。上品なカスタードが一瞬でとろけて、思わず「プレミアムぅ〜!」と叫んでしまう。
「生キャラメルクリームパン」
生キャラメルが溢れ出しているビジュアルがたまらず、お店で最初に手が伸びたパン。いいかげんにしてくれと思うほどコクがある。私、誕生日ケーキの代わりにこれがいいです。
「白玉入り!紅芋あんぱん」
紅芋あんぱんってだけで勝ちが確定しているのに、白玉をいれるのがブーランジェリー・デ・リースのシェフなんです。もっと驚かせたいというサービス精神。ありがとうございます。

こちらは「サヤキレーズン、いちじく、くるみ、チョコレートのサワードゥブレッド」。
お店では、幅広い年代のお客様のためにやわらかいパンを中心に販売しているそうだけど、シェフ曰く「本当は硬いパンも好きなんです」とのこと。そんなシェフのこの日のおすすめのハード系パン。
それぞれの素材どれかひとつでも成立しそうなのに、レーズン、いちじく、くるみ、チョコレート全部入ってるところがこのお店っぽい。ハードな皮ともちもちの生地、多種多様な具材がおいしくておもしろくてどんどん食べてしまう。シェフは自分が飽きないように作ってると言っていたけれど、本当にどのパンも食べる人を飽きさせない。
おいしくて全力で食レポしたけれど、読者の皆さんがお店に行ったときにこれらのパンに出会えるかどうかはわからない。なぜならシェフのアイデアは無限だから。
レストランみたいなパン屋さんで、今日もきっと新しいパンが生まれ続けている。
<取材協力>
ブーランジェリー・デ・リース
・住所:東京都世田谷区赤堤2-43-11-113
・電話番号:03-6379-0987
・営業時間:9:30~19:00(完売次第閉店)
・定休日:水曜日、不定期で火曜日
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文・写真/藤岡みなみ
編集/ヒャクマンボルト
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Urban Story Lab.
まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。









