
渋谷、青山の総鎮守である「金王八幡宮(こんのうはちまんぐう)」。渋谷駅より徒歩約6分という都会の真ん中で、静寂な空気を纏う都会のオアシス、興味深い歴史が詰まった隠れた観光名所を見つけました。
訪れてみれば、「渋谷」の地名の由来、渋谷に「城」があったという事実、江戸時代のさまざまな歴史の証跡と、面白い発見がいっぱい。いにしえの渋谷の風景や、実在した歴史上の人物たちが脳内を駆け巡ります。
「武門の渋谷」。このかっこいい響きが気になった方は、まずは渋谷駅より約6分、歩いてみましょう。
武門の誉れ高き渋谷氏の居城跡

まずは「金王八幡宮」の歴史をおおまかにご紹介しましょう。
平安時代末期のこと。秩父別当・平武基(たいらのたけもと)の息子、河崎基家(かわさきもといえ)は、源頼朝(みなもとのよりとも)の祖先にあたる名将・源義家(みなもとのよしいえ)に仕えていました。
基家は後三年の役の戦功により「谷盛庄(現在の渋谷周辺)」を領地として与えられ、義家は、(戦の)“勝利は基家の信奉する八幡神の加護なり”と「妙見山の日月旗」の月旗を谷盛庄に掲げて、1092(寛治6)年、守護神として八幡宮を勧請。これが「金王八幡宮」の始まりです。
「妙見山の日月旗」とは、平武基(基家の父)が掲げた特別な旗8つ(八旒・はちりゅう)のうち、太陽と月の2つの旗(日月二旒)を、自身の拠点であった秩父の妙見山(現在の武甲山)に納め、神様として大切に祀っていたものです。
その後、基家の息子である河崎重家(かわさきしげいえ)も禁裏の賊を退治した功により、堀河天皇から「渋谷」の姓を賜りました。
重家が八幡宮を中心に居を構えたことで、「渋谷城」が誕生します。東に旧鎌倉街道(現在の八幡通り)、西に渋谷川が流れ、数か所に湧水があるという、天然の要塞のような、立地に恵まれた平山城(ひらやまじろ)だったそうです。境内に、渋谷城砦の石が保存されています。


たとえば、子どものいなかった重家が八幡宮に祈願を重ね、源氏のために大活躍をした伝説の武将・金王丸(こんのうまる)を息子に授かったこと(金王八幡宮の名前の由来となった人物です)。
徳川家光(とくがわいえみつ)の乳母・春日局(かすがのつぼね)と守役・青山忠俊(あおやまただとし)が八幡宮に大願成就を祈り、家光が徳川三代将軍の座に就いたこと。「金王八幡宮」には実に多くの伝承が残ります。
また、境内に今なお堂々と佇む、極彩色の美しい社殿は、江戸時代初期の1612(慶長17)年に造営された歴史ある建物。春日局らの寄進によるものです。
何世代にもわたる歴史のため少々わかりづらいかもしれませんが、源氏にゆかりの深い河崎家(渋谷家)による「金王八幡宮」の創建、「渋谷城」の築城、徳川の寄進による社殿など、大都会の社を舞台に興味深い物語が紡がれています。




金王八幡宮の御祭神とご利益

御祭神は、品陀和気命(ほんだわけのみこと)。
第15代 応神天皇(おうじんてんのう)のことです。ちなみに、「誉田別尊(ほん(む)だわけのみこと)」は日本書紀での表記、「品陀和気命(ほん(む)だわけのみこと)」は古事記での表記で、同一人物です。
日本全国に約80,000あるといわれる神社の中で3割以上を占めるのが、この応神天皇を祀る八幡信仰(八幡宮、八幡神社)です。武運をつかさどり、多くの武将が崇敬。文武・平和・子授け・安産・子育ての神として、庶民にも広く信仰された歴史を持ちます。地名にも“八幡”の付く場所は多いですよね。
「金王八幡宮」も古くは単に、八幡宮または渋谷八幡宮と呼ばれていましたが、金王丸の名声により「金王八幡宮」と称されるようになりました。
ご利益は、交通安全、子授け、出世の他、氏神様として渋谷・青山に跨る地域を守護しています。
なお、現在のご神体は「被甲騎馬(ひこうきば)の八幡像」。弘法大師が八幡様のご神託を受けて彫ったとされる、甲冑姿で馬に乗った八幡像です。

社名の由来「金王丸」

「金王八幡宮」の名の由来となった伝説の武将・金王丸。正しくは、渋谷金王丸常光(しぶやこんのうまるつねみつ)です。
源義朝・頼朝(みなもとのよしとも・よりとも)の2代に仕えた武将で、頼朝の命によりやむなく源義経(みなもとのよしつね)の追討戦に参加し、義経の居館に討ち入り、その生涯を終えました。境内にある「金王丸御影堂」には、金王丸が17歳で出陣した際、自分の姿を彫刻し、母に形見として残した木像が納められています。
源義朝の側室・常盤御前(ときわごぜん)に義朝の最期を伝えた、というエピソードが有名で、平治物語や戯曲などに登場。出家後の土佐坊昌俊(とさのぼうしょうしゅん)の名で平家物語や源平盛衰記、吾妻鏡などの軍記物や歴史書に描かれており、武勇のほどがうかがえます。
ちなみに「金王丸」の由来はというと、河崎(渋谷)重家が夫婦で八幡様に子宝を祈願し続けたところ、「金剛夜叉明王」が体内に宿る霊夢を見て授かった、というところから名付けたといわれています。

江戸郊外三銘木のひとつ「金王桜」

拝殿の右手、社務所前に高さ約6m、目通り(※ 目の高さの幹周り)が約1.25mという、とても立派な桜があります。その名も「金王桜」。長州緋桜とみられ、一重と八重が一枝に混在して咲く珍しい桜として、江戸時代には郊外三銘木のひとつと数えられていたそうです。
初代の桜は、源頼朝が父・義朝に仕えた金王丸の名を“後世に伝えよ”と厳命し、鎌倉・亀ケ谷の桜を移植した、という伝説があります。希少な桜のため、代々実生(みしょう)によって純系種が植え継がれる、渋谷区の天然記念物です。
実生というのは、接ぎ木などではなく種(タネ)から育てる大変な作業。言われてみれば平安時代や鎌倉時代の桜がそのまま生きていることは希少で、「金王桜」は長い時間をかけたリレーをしています。そのためか、この銘木の脇には実はもう1本、同じ桜があります。花見にもうれしい話ですね。
なお、桜の時季には毎年「金王桜まつり」を開催。催しや縁日、キッチンカーが出て、毎年にぎやかなイベントとなっています。


春日局が金百両を寄進した社殿

1612(慶長17)年造営、江戸時代初期の様式を現在にとどめる「金王八幡宮」の社殿は、都内でもかなり貴重な建築のひとつです。徳川家光が三代将軍に決定したときに、乳母の春日局と守役の青山忠俊が寄進したといわれています。
絢爛豪華な朱塗りの壁や精緻な彫刻は「権現造り」の大きな特徴で、その由来は徳川家康(とくがわいえやす)の神号「東照大権現」です。「権現造り」の代表格、家康を祀る「日光東照宮」は1617(元和3)年創建。「金王八幡宮」の社殿は、なんと「日光東照宮」よりも前に建てられています。
「金王八幡宮社殿及び門 附 渡り廊下」として、渋谷区指定有形文化財になっています。









荘厳な社殿で神前結婚式

新しい門出にふさわしい、歴史に彩られた荘厳な社殿での厳粛な儀式。“神前”に興味のある方は、「金王八幡宮」での結婚式も素敵ですね。
儀式自体は30分程度で、お仕度から結婚式までを含める一通りのプランで4時間程度とのこと。美容着付け、貸衣装、写真撮影など個別にも相談できます。何よりいいなと思ったのが、手軽に実施できて場所が渋谷駅より徒歩約6分というところ。ご当人だけでなく参列者にも負担がありません。
境内社には「玉造稲荷神社」と「御嶽神社」も
「金王八幡宮」には、「金王丸御影堂」のほか「玉造稲荷神社」「御嶽神社」と、計3つの境内社があります。
「玉造稲荷神社」が創建されたのは江戸中期、五代将軍綱吉の時代です。この時代は町人文化が花開き、安定した庶民生活が営まれていたといわれています。
当時の渋谷は郊外の行楽地であり、農村。大山詣のための大山街道を中心に、人が行き交いつつものどかでした。「金王桜」の花見も近隣のレジャースポットとして人気だったことでしょう。
「玉造稲荷神社」は地元の “おいなりさん”として、身近な信仰を集め今に至ります。ご利益は稲生り(いねなり)が語源とされる通りの五穀豊穣に、商売繁昌、家内安全、諸願成就と多岐にわたります。

「御嶽神社」の本社は武州御嶽神社です。御祭神の日本武尊(やまとたけるのみこと)は古来、武道守護の神として武士の信仰を集めており、ここに「御嶽神社」が勧請されたのも、武門の誉れ高き渋谷氏の居城であったからと考えられます。
「御嶽神社」には日本武尊のほか櫛眞知命(くしまちのみこと)・大己貴命(おおなむちのみこと)・少名毘古那命(すくなひこなのみこと)の計4柱が祀られており、特に開運、商売繁昌の神として渋谷の街で客商売やビジネスを営む人々から、信仰を集めています。

「寶物館」に並ぶ貴重な歴史と渋谷の足跡

「金王八幡宮」の境内、社務所の隣には「寶物館」があります。渋谷の地を何百年も見守ってきた、歴史ある貴重な品々があり、入ってすぐのところに展示されているのは、鎌倉時代に作られたと伝えられるお神輿。“都内最古”だそうです。
このお神輿には江戸時代、渋谷の氏子が鎌倉の鶴岡八幡宮に行った際に、なんと勝手に担いで持って帰ってきてしまったという面白い伝説があります。慌てて鎌倉から追っ手が来ましたが、途中で日が暮れてお神輿を見失ってしまった場所が、目黒の「暗闇坂」の地名の由来になったとか。
ほかにも、よく知られているのが「算額」。算額とは、和算という江戸時代に発達した日本独自の数学の難問を、数学者や愛好家が大きな絵馬(額)に描いてクイズにし、解答を得た感謝とともに奉納したものです。見る人への挑戦状ともいえますね。江戸時代の楽しげな暮らしの一片が伝わってきます。
なんと入館は無料。参拝時にはぜひ立ち寄りたい場所です。




SHIBUYA SKYで御霊入れ「空御守」

「空御守(そらおまもり)」は、渋谷のランドマークである展望施設「SHIBUYA SKY」と、渋谷の氏神様である「金王八幡宮」がコラボレーションして誕生した、特別なお守りです。
地上229mの屋上ステージ、“渋谷で最も空に近い場所”で、元旦の日の出とともに「御霊入れ(みたまいれ)」の神事を行なったお守りは、とってもおしゃれ。美しい空のグラデーションを表現した三角形のデザインです。数量限定で、社務所にて販売。9月の訪問時には2色が頒布終了となっていました。
空御守公式サイト
https://www.konno-hachimangu.jp/soraomamori/index.html



SHIBUYA109前の神輿渡御が有名な「例大祭」

「金王八幡宮例大祭」は、毎年9月に行なわれる渋谷エリア最大規模のお祭り。
渋谷、青山区域の祭礼で、五穀豊穣・街の繁栄・氏子崇敬者の無病息災を祈願して数百年以上続けられてきた伝統的な行事です。厳かな神事の祭典と、街全体が活気に包まれる神賑(かみにぎわい)行事が数日間にわたって行なわれます。
渋谷の氏子地域の各町会から参加した14基の神輿が「SHIBUYA109」前に集結し、一斉に担ぎ上げられる「連合渡御」は最大の見どころ。とにかく迫力満点です。青山の氏子各町会では青山通り沿い「スパイラル」ビルの前で連合渡御が行なわれています。
また期間中の神賑行事では、境内・金王八幡宮公園での「子供縁日」、神社正面横の駐車場での「未来縁日(フードコート)」が立ちます。懐かしい縁日体験に縁日グルメ、多国籍なキッチンカーも集結。ファミリーやカップルのいい思い出になりそうですね。
神楽殿では、日本舞踊や太極拳の演武、地唄箏曲、里神楽など多彩な演目が奉納されます。
大都会で日本の伝統的な熱気を肌で感じられ、国際色豊かな出し物までが同居する盛り上がりは、渋谷ならではともいえるでしょう。



金王八幡宮へのアクセス

「渋谷駅」の出口はC1または渋谷警察署前の31番エレベーターを利用するのが便利です。
正面門は“いざ鎌倉”、旧鎌倉街道(八幡通り)を向いていますが、駅からは高速道路が頭上を通る六本木通り沿いを歩くのが近く、脇参道が「金王八幡宮公園」の横にあります。

「東急線花御朱印巡り第3弾」の対象神社

東急線・東急バス沿線の寺社を巡りながら、期間限定の花御朱印を楽しむイベント「東急線花御朱印巡り」。「金王八幡宮」は第3弾(2026年度)の対象神社です。
全55のお寺・神社が対象で、路線やご利益ごとに巡ったり、季節の花を目当てに訪れたりと、お好みのスタイルで楽しめます(2027年3月31日まで)。
参加方法や詳細は公式サイトをご覧ください。
<金王八幡宮>
・住所:東京都渋谷区渋谷3-5-12
・アクセス:渋谷駅(出口C1)より徒歩約6分(渋谷警察署裏)
・TEL:03-3407-1811(9:00~17:00)
・FAX:03-3409-1043(24時間)
・営業時間:参拝時間は自由、社務所9:00~17:00、寶物館 9:00~17:00(入館無料)、金王八幡宮公園 24時間(入園無料)
https://www.konno-hachimangu.jp/index.html
※ 初穂料などはすべて2026年9月時点の情報です。
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取材・文:haruta kana
編集:MaW
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