第7章 第5節 第2項 渋谷駅周辺開発の「仕込み」へ

7-5-2-1 地下鉄13号線と東横線の相互直通運転を契機に

2000(平成12)年1月の運輸政策審議会答申第18号に盛り込まれた、営団地下鉄(以下、営団)13号線と東横線の相互直通運転化と、これに伴う東横線の渋谷〜代官山間地下化の構想は、渋谷の街にとって、大きな転機をもたらすものであった。

渋谷駅では、1979(昭和54)年から田園都市線・旧新玉川線が営団半蔵門線と相互直通運転しており、東横線も地下鉄線と相互直通運転となれば、渋谷駅は発着ターミナル駅としての機能がなくなる。単なる通過駅となって、乗降客が激減し、渋谷の街に流れる人波が少なくなれば、街の衰退を招きかねない。とくに営団13号線は同じ副都心である新宿、池袋を経由するため、地域間競争が厳しさを増す可能性があった。この懸念については、社内や商店街・町会でもたびたび議論の的となってきたが、これを機に渋谷開発のいっそうの推進を図ることが重要との共通認識に収束していくこととなる。

渋谷駅東口と東急文化会館が面する明治通り(1998年)

東急グループにかかわる渋谷の開発案件については、この時期から東急百貨店に代わって、当社が中心となって地元や行政との協議を進めていくことになる。それまでの商業、文化施設個別の問題から、総合的な渋谷開発についての取りまとめが必要となったことから、東急グループを率いる当社が、全面的に主体として取り組むこととなった。

2000年前後の渋谷を点描すると、「SHIBUYA109」がマルキューと呼ばれ、コギャルと形容される若い女性がセンター街を闊歩する光景がたびたびテレビや雑誌などで紹介され、若年層の街という印象が広がっていた。また、外資系のファッション企業や飲食店が渋谷にパイロットショップを設け、ミニシアターやCDショップ、ライブハウスが続々と誕生するなど、20代、30代の若者にとっても、新しい流行や文化の発信地として魅力のある街、という面も持っていた。

活気はあるものの、来街者の年齢層がバランスを欠いている点は以前からも東急グループ内で議論がなされていたが、大規模な開発が進み出すことで、今後の街のあり方が、いっそう大きなテーマになっていく。

7-5-2-2 渋谷区の街づくり議論に参画

こうして、渋谷の今後の街づくりにかかわる議論の熱が高まった。

渋谷駅は複数の鉄道路線が集積し、都内でも有数の規模のバスターミナルがある交通の要衝だが、駅施設は大正時代から増改築が繰り返されてきており、耐震性の向上、バリアフリー化、乗り換え利便性の向上などが必要とされてきた。また駅周辺についても、安全で快適な歩行者空間の確保、交通結節機能の強化、自動車交通の混雑や交錯の改善、谷地を流れる渋谷川のあり方など、多くの課題を抱えていた。

そこで渋谷区は、駅周辺整備のあり方について幅広く議論を進めるため、学識経験者や区議会議員、地域区民代表、当社を含む鉄道事業者などで構成される「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21委員会」を、2001(平成13)年7月に立ち上げた。以来、委員会を7回、専門部会を14回、さらにシンポジウムや有識者ヒアリング、意見交換会を実施。これらを集約して、2003年3月、渋谷区が「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21」(以下、GP21)を発表した。

GP21では、駅周辺のスムーズな人の往来を実現するための歩行者空間の確保や、駐輪場・駐車場の整備などの基盤整備に加えて、駅部や駅隣接部を先行的に開発すべきブロック=先行コアと位置づけて、渋谷の街全体を再生させる引き金となる事業を推進することとした。そして先行コアには、老朽化に伴う解体と地下鉄13号線建設工事用ヤードとしての暫定利用が決まっていた東急文化会館の跡地、渋谷駅の上空、地下化される東横線の跡地の3か所が挙げられた。そのほかに渋谷駅周辺の都市基盤整備や、JR線と営団銀座線の駅改良、東横線代官山方面の歩行者ネットワークなども盛り込まれた。

図7-5-4 GP21における「先行コア」
出典:渋谷区「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21」
図7-5-5 GP21における「歩行者ネットワークと水と緑の空間イメージ」
出典:渋谷区「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21」

一方、当社でも2002年度以降、経営企画室内に駅周辺開発を担当するチームを設けて今後の街づくりについて主体的な検討を進めていたが、2004年1月には事業本部と同格に位置づける渋谷戦略推進室を設置。GP21に沿って、まずは東急文化会館跡地再開発の計画策定を急いだ。2000年代前半の東京都心部では、東京駅周辺や六本木、品川駅東口、汐留などの各地域で都市再開発のプロジェクトが相次いで立ち上がっており、こうしたなかで、渋谷ならではの個性を打ち出して他地域との差別化を図っていくことが重要であった。

図7-5-6 東京都心部における開発計画(2003年ごろ)
出典:社内資料

また2004年7月には渋谷駅周辺地区の町会、商店会などにより特定非営利活動法人(NPO法人)「渋谷駅周辺地区まちづくり協議会」が設立された。当社渋谷戦略推進室長が設立発起人の一人となり、渋谷区もオブザーバーとして参加した。渋谷の街づくりについて独自に調査研究を行い、情報発信などを行うために発足した協議会で、街づくりについての意見交換が活発になった。

2004年の渋谷駅周辺 ※北東方向

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