
「二ヶ領用水」は、川崎市多摩区から川崎区まで続く、神奈川県内で最も古い人工用水。水と緑を感じられる憩いの空間、発展の礎を築いたシンボルとして川崎市民に親しまれています。
今回は田園都市線で行ける高津区エリアの二ヶ領用水を、川崎市が発行している「二ヶ領用水散策マップ」を参考に、約3時間ゆったりお散歩してみました。
二ヶ領用水とは?
二ヶ領用水(正式名称:稲毛・川崎二ヶ領用水)は徳川家康の命を受け、多摩川下流域の新田開発を目的につくられた農業用水です。全長は約32kmで、多摩区にある「上河原取水口」からスタートし、川崎市のほぼ全域を流れています。現在では川崎市北部で農業用水として、または環境用水として利用される「川崎の宝」とも呼ばれる用水です。
<川崎市 二ヶ領用水>
https://www.city.kawasaki.jp/530/page/0000058112.html
散策のおともに「二ヶ領用水散策マップ」


まずは散策マップを広げ、史跡と見どころをチェック。高津区エリアの二ヶ領用水は溝の口駅と高津駅の中間を通っているので、この2駅が最寄りになります。スタート地点は平瀬川トンネル・久地円筒分水付近、ゴールは二子坂戸緑道にある石橋供養塔に決定。
散策マップは川崎市内の区役所や、大山街道ふるさと館などで入手できます。川崎市の公式サイトでも公開されているので参考にしてみてください。
<川崎市 二ヶ領用水の史跡・見どころの紹介>
https://www.city.kawasaki.jp/530/page/0000065389.html
筆者は、高津駅の隣の二子新地駅近辺に約10年住んでいたことがあります。当時は“何か用水路がある”くらいで、まちの風景のひとつといった認識でしたが、溝の口付近は土地勘もあるのであらためて理解を深めるいい機会だと思い、散策マップを片手に二ヶ領用水へ向かいました。
平瀬川トンネル・久地円筒分水から散策スタート

溝の口駅から歩いて約20分、スタート地点まで、なるべく二ヶ領用水を見ないように遠回りして到着。散策マップに載っているこちらが「平瀬川トンネル」。宮前区から高津区を通って多摩川へと続く平瀬川が流れているトンネルなのですが、二ヶ領用水との関係は何でしょうか。

流れに沿って少し歩くと、別の水源と合流。写真の左側から流れているのが平瀬川、奥に見えるのが二ヶ領用水。ここは「二ヶ領本川合流点」で、この先は平瀬川として多摩川へ流れていきます。

さっそく二ヶ領用水が途切れてしまった?と思いましたが、振り返ると久地円筒分水があります。道路で分断されていて繋がっているようには見えません。

周囲を歩けるようなのでぐるっと回ってみると、国登録有形文化財の登録名板や解説の看板が設置されていました。その中に久地円筒分水の仕組みを解説する看板をみつけました。

久地円筒分水は、1941年に建設された農業用水の分水施設。先ほどの二ヶ領本川合流点の前で分かれて、平瀬川の下にある導水管を通って吹上口から水が吹き上がり4本の堀へ分水する仕組みです。特徴的な円筒は、円弧の長さに比例して分水できる優れた自然分水方式だったことから、各地に広まったそうです。噴水だと思い込んでいたのですが、こんなに重要な機能のある設備だったとは…!

あらためて久地円筒分水をじっくりと観察。建造当時、画期的な技術が投入されていたことを評価され、1998年に川崎市内で初の国登録有形文化財に指定されています。季節柄、緑に囲まれた心地よい空間だと感じましたが、春には満開の桜に囲まれるとのことで、またその時季に訪れるのもいいかもしれません。

まわりには広場やベンチがあり、春にはこのスペースを使って「円筒分水スプリングフェスタ」が行なわれています。太鼓やダンスなどのステージ公演や各種出店が楽しめるそうです。
国道を跨ぐ陸橋と寄り道(久地円筒分水~国道246号)

久地円筒分水で分水されたことで水量が減り、さらさらとせせらぎが聞こえる用水路らしいサイズに。住宅街の中を流れていますが、両側に歩道があるので用水路のすぐそばを歩けます。用水路沿いには植物が多く植えられ、緑と水が心地よい空間になっています。
見慣れない植物を見かけたので生成AIで調べてみたところ、黄色い実をつけているのはツバキとのこと。花が咲いていない時期はこんな姿なのかと勉強になりました。散歩しながら気になった植物をその場で知れるとは、技術の進歩に感謝です。


数分歩くと見えてきたのは国道246号。二ヶ領用水は国道246号の下へ。歩行者は用水路の真上に架かる歩道橋を渡ります。



歩道橋の上から二ヶ領用水の続きを眺めてみると、しばらくはまっすぐ流れていきそうです。こういうちょっと見晴らしがいいところがあると、散歩の気分も上がります。
歩道橋を渡っていると気になるピンクの建物が。寄り道も散歩の醍醐味ということで立ち寄ってみることに。

こちらは「花工場 溝の口店」。神奈川・東京に6店舗を展開していて、生花や観葉植物、園芸用品、ドライフラワーを取り扱う花屋さん。この規模の花屋はなかなか見かけないのではないでしょうか。工場という名前ですが一般向けに販売を行なっている花屋さんですので、ご安心ください。



中に入ってみると、植物園のような華やかさ。たくさんの季節の花や観葉植物などが並んでいます。植物に明るくない筆者でもテンションが上がってしまいます。

せっかくなので記念に何か買って育ててみようと思い、店内をまわってみることに。綺麗な花もいいですが、話のタネになりそうな観葉植物はないか探しているとサボテンコーナーを発見。

サボテンは初心者でも育てやすいと耳にしたことがあります。おしゃれインテリアとしても人気のサボテンを育ててみるのもいいかもしれません。詳しくないので面白い形の品種がないか探していると…

「スーパー兜丸」?
なんですかこれは。世の中の全男性が素通りできないワードで構成された名前じゃないですか。こちらはトゲのない品種で、白い斑点とふわふわした毛があるサボテンだそう。よく見ると熟練の和菓子職人がつくった練り切りのような見た目で、ショーケースに並んでいたら高級和菓子と見間違えてしまうような品格を感じます。そして名前が気に入りすぎて買うしかない。水耕栽培キットで週に1回お水を替えればいいので、初心者の筆者でも育てられそう!スーパー兜丸を片手にレジに向かい、ガラスの容器だったのでお店の方に割れないよう丁寧に梱包してもらいました。
“せっかくだから”という理由で買ってみましたが、こういった寄り道も散歩の醍醐味ですよね。普段やらないことにチャレンジするいい機会に出会えました。
お花好きな方も、普段は触れる機会がない方も、花工場に立ち寄ってみてはいかがでしょう。

<花工場 溝の口店>
・住所:神奈川県川崎市高津区溝口2-20-6花工場ビル 1F
・TEL:044-813-1187
・営業時間:10:00~19:00
https://www.hanakoujyou.com/html/page5.html?srsltid=AfmBOoouGFrM0CDG6a3baVdcx_dLbv1SynmEkhBu0a7Vg6DtoRqMDzYN
再び二ヶ領用水へ(国道246号~大山街道)

花工場の寄り道から二ヶ領用水へ戻ります。歩道橋を下りた先には、休憩するのにちょうどいい東屋がありました。この辺りから大山街道までは赤いタイルの歩道が設置されています。



歩道のタイルには生き物が描かれたパネルが埋め込まれていました。川崎市に生息する生き物でしょうか。何種類あるか数えてみようかと思ったのですが、コイのパネルが複数あるのを見つけてしまい断念しました。筆者は15種類見つけましたが、実際には何種類あるのか、みなさんもぜひ数えてみてくださいね。

久地円筒分水付近からずっと水面に魚影が見えていたので、間近で見られる場所はないものかと思っていたのですが、ちゃんとありました。



コイやメダカ、よく見ないと気づかない底生魚のカマツカ、動きが速く写真に収められませんでしたが、鮮やかなオレンジ色のオイカワも見かけました。二ヶ領用水はきれいな水が流れているということでしょう。


水面の魚影を眺めながら歩いていると、見えてきたのは記念碑が設置された「濱田橋」。
この橋は第1回重要無形文化財保持者(人間国宝)である陶芸家の濱田庄司から名づけられています。濱田庄司は現在の高津区溝口で生まれ、幼い頃に二ヶ領用水で泳いで遊んでいたそうです。

橋の欄干には、濱田庄司が好んで書いた言葉「春去春来」が掲げられています。春が去って、また次の春が巡るといった意味で、川崎市ゆかりの偉人の足跡を感じられるスポットです。ここから少し西にある宗隆寺に墓所があります。

続いて見えてきたのは「大石橋」。寄り添う柳に風情があって、歴史的にすごく重要な場所に違いない。近づいてみると、立派な橋があった理由がわかりました。

この大石橋は大山街道と交わっているからです。江戸時代にはその名の通り大きな石橋があって、この付近は江戸時代には溝口宿の中心で、商業も盛んだったそうです。歴史ある大山街道に出たのでまた寄り道をしたいと思います。
大山街道ふるさと館へ寄り道


大石橋から高津方面へ1分ほど歩くと見えてくるのが「川崎市大山街道ふるさと館」。大山街道に関する貴重な歴史資料を保存・展示する川崎市の施設です。大山街道に関する施設は少なく、遠くからわざわざ足を運ぶ方もいるそうです。研究者や学生が大山街道の歴史を調べに多く訪れているとか。

談話室は休憩場所として利用可能です。大山街道や二ヶ領用水などの散策途中にぜひ立ち寄ってほしいとのこと。川崎市大山街道ふるさと館は、川崎ウオーキング協会と連携し、川崎市内で唯一のウォーキングステーションになっています。


展示室では年7・8回、企画展・通常展が行なわれています。伺った際には、かつて使われていた道具と家電製品が展示されていました。懐かしいと思うものや、どうやって使うのか不思議なものなど歴史を感じる展示でした。

この場所は旧高津町役場があった場所であり、大山街道だけでなく、二ヶ領用水や溝口・高津といった近隣の歴史も知ることができます。
館長の服部さんにお話を伺ったところ、二ヶ領用水の豊富な水を使って染物も行なわれていて、染物店がすぐそばにあったことなども教えてくれました。職員の方に声をかければ貴重な資料も閲覧できるので、詳しく知りたい方はぜひ立ち寄ることをおすすめします。
<川崎市大山街道ふるさと館>
・住所:神奈川県川崎市高津区溝口3-13-3
・TEL:044-813-4705
・開館時間:9:30~21:30、展示室は10:00~17:00
https://www.furusatokan.info/index.html
田園都市線の高架下と花見スポット(大石橋~境橋)

川崎市大山街道ふるさと館を出ると気になる看板が。前述の濱田庄司の生家が旧高津区町役場(現在の川崎市大山街道ふるさと館)の隣にあったと記されています。歴史に思いを馳せつつ二ヶ領用水へ戻ります。


見えてきたのは田園都市線の高架。意識したことはなかったのですが、4mほど上を見慣れた電車が走っている。意外と低いところで走っていることに気づきました。

もしや上流で1匹だけ見かけたオレンジ色のコイのことでしょうか?見逃しているだけかもしれませんが、二ヶ領用水は本当にコイが多いです。さらに歩くとにぎやかな通りに出ました。


ここは旧川崎堀が大きく蛇行していた「大曲」地点だったそうです。溝の口駅方面を見ると、駅前のデッキが見える距離。駅前の商店街から続いてお店が並び、にぎやかさがあります。


ここにある橋の名前は見つけられなかったのですが、橋の欄干に桜が描かれています。この辺りはソメイヨシノではなくシダレザクラが植えられていて、大々的な花見スポットとしてもてはやされることはありませんが、地元の人々の桜スポットとして親しまれています。
この辺りに住んでいた頃、溝口で買い物してから高津方面へ歩いて帰る途中に必ず通っていたのですが、春は本当にきれいなのでおすすめです。

余談ですが、この辺りは本当にセミが多いです。以前、この近くにある梨農園の隣に住んでいたのですが、セミは果樹を好んで集まるため昼夜問わずセミの大合唱を聞いて暮らしていました。実は大正時代に関東における梨の一大産地であった川崎。現在でもこの近くで梨が育てられています。セミにも大人気の「多摩川梨」は各農家やJAの直売所で購入できるのでぜひ一度ご賞味ください。

にぎやかなエリアを抜けると再び住宅街になります。上流の方と比べるとマンションが多い印象です。用水路沿いには緑がいっぱい。色づく前のヤマブドウなどを眺めつつ、最後の目的地がある二子坂戸緑道へ。

二子坂戸緑道は、旧川崎堀の河道を利用してつくられた緑道です。地図で見ると、くねくね曲がっているのは名残なのですね。散策マップによると、二子坂戸緑道の坂戸側の入口に供養塔があるとのこと。


緑道に入って10分ほど歩いたところで、ゴールの石橋供養塔に到着。看板の横にあるのが供養塔で、江戸時代に村人が用水を渡る唯一の手段だった「坂戸橋」の安全祈願が込められています。奥に見えるグレーの碑は「坂戸橋改築之碑」です。

今回はマップを参考に二ヶ領用水沿いを歩いてみましたが、自然豊かで歴史を感じられる気持ちのいい散歩コースでした。草木や水辺の生き物を観察しながら歩いていると、茂みに隠れた看板が見つかったりするのも楽しいポイントです。歴史など詳しい説明は省いてしまった部分はありますが、そちらはぜひ、ご自身の目で見て楽しんでみてください。
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取材・文:鈴木皓大
編集:MaW
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