矢口渡「なかのや」で味わい尽くす、至高のシーマーメンと痺れる陳麻婆豆腐【東急沿線レンゲ会】
Urban Story Lab.
2026/9/29

中華料理店に入り、メニューを開いた瞬間――。 いい大人なのに、胸が高鳴ってしまう。前菜、一品料理…そしていよいよ、熱々の湯気をまとう「飯物」のページへ。
町中華には、お洒落なラーメン店とはひと味ちがう魅力がある。レンゲを握った途端、脇目もふらずにスープをすすり、具材をかき込みたくなるあの衝動。
「東急沿線レンゲ会」は、東急線沿線の町中華が誇る一皿をレンゲですくう、その瞬間の喜びを探求していきます。
今回訪れたのは、東急多摩川線矢口渡駅にある「中華料理 なかのや」。のどかな住宅街をしばらく歩いた先にあるこの店で、熟成された自家製麺が自慢の「シーマーメン」と、花山椒が香る「陳麻婆豆腐丼」をいただきます!
昭和53年創業。矢口渡の歴史と共に歩むアットホームな名店「なかのや」

東急多摩川線・矢口渡駅の改札を抜け、マイレンゲを片手にいざ出発。のどかな住宅街をしばらく歩き、お目当ての店へと向かう。
静かな住宅街の中にぽつりと現れる「中華料理 なかのや」。年季の入った赤いひさしと、大きな丸い看板の佇まいには、初めて訪れたはずなのに、どこか懐かしい昔ながらの中華料理店の雰囲気がある。

1978(昭和53)年の創業以来、48年にわたりこのまちで歴史を重ねてきた。店内へ入ると、「いらっしゃいませ」の声とともに、2代目の店主と店主の奥さまが醸し出す柔らかく温かい空気に包まれる。
壁に掛けられた赤い「お献立」の看板は、文字のフォントや色の褪せ具合からも、創業当時からお店の歴史を見守り続けてきたことがうかがえる。

卓上に置かれた手作りのおもちゃ箱には「あそんでね!!」の文字。地元の人々に長く愛されてきた理由が、この箱の空気感だけでじんわりと伝わってくる。

歴史の詰まったメニュー表を見つめ、マイレンゲを握り直す。今回はお店の看板である「シーマーメン」と、花山椒が効いた「陳麻婆豆腐」をいただくことにした。
7つの調味料が織りなす具材の宝箱!伝承の味「シーマーメン」

運ばれてきたのは、目にも鮮やかな黄金色のスープが美しい「シーマーメン」(870円・税込)。おそらく多くの人にとって聞き馴染みのない名前だが、漢字で書くと「芝麻(チーマー)麺」。芝麻とは中国語でゴマを意味する。いわば、担々麺の辛味を抑え、胡麻の濃厚なコクと風味を主役に据えた、優しいゴマラーメンといった佇まいだ。

マイレンゲを取り出そうとしたものの、運ばれてきた器に添えられていたのは、どこか懐かしさを感じさせるお店のお玉。せっかくだからと、今回はあえてこのお玉でそのままスープをいただくことにした。
口の中に優しく広がるのは、まろやかで奥深い胡麻の風味だ。しかし、ただ濃厚なだけではない。この一杯のベースとなるタレには、驚くほど緻密な職人技が隠されていた。

使われている調味料は、実に約7種類。これらを一度にまとめて混ぜ合わせるのではなく、「温度を上げすぎると分離してしまうから」と、ひとつずつ順番に、丁寧に馴染ませながら合わせていくのだという。この丁寧なプロセスこそが、尖りのない極上の口当たりを生み出している。

さらにレンゲを進めると、スープの奥からザクザクと豊かな具材が顔を出す。細かく刻まれたしいたけ、たけのこ、高菜、ザーサイをごま油と醤油で炒めたものと、あらかじめ別鍋でしっかりと旨味を凝縮させて炒めたひき肉。これらが絶妙なバランスでスープに潜んでいるのだ。

麺をすすり、スープをすくうたびに、様々な食材の心地よい食感と重層的な旨味が押し寄せてくる。
レンゲですくうたびに新しい美味しさに出会える。まさに一杯の器の中に、緻密に計算された具材の旨みがギッシリと詰まっていた。
噛むほどに旨い熟成自家製麺と、痺れる旨さの「陳麻婆豆腐丼」

シーマーメンの優しいスープをまとって現れる麺が、また格別だ。モチモチとした小気味よい食感と、噛むほどに押し寄せる力強いコシ。「なかのや」の麺は、すべて店主が店裏の製麺機で打つ完全な自家製麺である。
自家製へと舵を切ったのは、先代であるお父様の強いこだわりからだった。市販の麺に含まれる防腐剤特有のツンとした匂いを嫌い、「それなら自分で作ろう」と一念発起。当時の製粉会社に「あんたの所の粉を使っているのに、なんで美味い麺ができないんだ」と直談判し、プロのアドバイスを引き出しながら独自のレシピを完成させたのだという。

その意志を継いだ2代目店主もまた、さらなる試行錯誤を重ねた。防腐剤を一切使わない麺は、驚くことに「打ち立てよりも、あえて4〜5日ほど寝かせた方がおいしくなる」という。店裏の大きなプレハブ冷蔵庫でじっくりと時間をかけて熟成させることで、この独特のモチモチ感とコシが生まれるのだ。
そして、この店には麺と共にもう一品、レンゲを大忙しにさせるメニューがある。それは麻婆豆腐だ。豆板醤が効いた王道の赤い「麻婆豆腐」(700円・税込)と、花山椒の風味がピリリと効いた「陳麻婆豆腐」(820円・税込)の2種類が用意されている。

今回いただいたのは、お皿から立ち上る山椒の華やかな香りが食欲をそそる後者。
シーマーメンはお店のお玉でたっぷりスープを堪能したが、麻婆豆腐からは連載の相棒である「マイレンゲ」の出番。手にすっと馴染む朱色のレンゲは、口当たりが柔らかく、熱々の豆腐とシビ辛な餡を絶妙なバランスですくい取ってくれる。
レンゲですくい、熱々のひと口を頬張ると、爽快な痺れと深いコクが口いっぱいに広がる。山椒の風味は優しく、そこまで突出して辛すぎないからこそ、ひき肉や豆腐の旨味をじっくりと、長く味わうことができるのだ。食べ進めるうちに、じわじわと心地よい汗が滲んでくる。

この味のルーツは、先代の「銀座アスター」での修行時代にさかのぼる。当時、苦楽を共にした同僚が、後に千葉で自身のお店を独立開業。その際、先代がわざわざ千葉まで足を運び、直接教わったのがこの陳麻婆豆腐なのだという(実は、あのシーマーメンもこの時に一緒に伝授されたものだ)。名店のDNAを継ぐレシピをベースに、「町中華の価格で、最高の満足感を」と、試行錯誤を重ねてなかのや流にアレンジされた。

熟成麺の力強い旨味を存分に堪能した後に、マイレンゲでじっくりと味わう山椒香る麻婆豆腐。それぞれ異なる魅力を持つ2品を順番に味わい尽くす時間は、これ以上ない幸福な満足感を残してくれた。
「町工場の男たち」から「ファミリーの笑顔」へ。2代目が語る矢口渡の移り変わり

かつての矢口渡には、小さな町工場がひしめき合っていたらしい。
朝から晩まで汗を流して働く独身の職人たちでカウンターは連日埋め尽くされていたと、2代目は当時を振り返る。幼い頃の店主は、そんな常連の男たちに旅行へ連れて行ってもらったり、お年玉をもらったりと、まち全体から我が子のように可愛がられて育ったそうだ。
実家が中華屋であることは、幼い頃から誇らしかったという。小学校の卒業文集にはすでに「将来はラーメン屋さんになりたい」と書いていたほどで、自身がこの道に進むことは、子どもの頃から疑うことのない自然な未来だったそうだ。16歳から出前を手伝い始め、一時は外の世界へ修行に出たものの、先代の急病をきっかけに店へと戻って以来、激動するまちの姿をずっと見つめ続けてきた。

時代とともに工場が姿を消し、跡地にマンションが建ち並ぶなど、周辺の環境は少しずつ変化していった。さらに、かつては職人たちの熱気であふれていた店内も、禁煙化をきっかけに女性客や子ども連れのファミリーが増えるなど、客層にも優しい変化が訪れたそうだ。まちの歴史に寄り添いながら、お店は今も温かく形を変え続けている。

「本当はね、自分でずっと出前に行き続けたいんですよ」と2代目は笑う。調理から配達までをオールマイティにこなす店主の、出前への深い愛着とプライドこそが、このまちに必要とされ続ける理由そのものなのだろう。
そんな「なかのや」は、まもなく大きな節目を迎えるらしい。2026年7月26日から8月上旬にかけて、店内の改装工事を予定しているそうだ。設備をより綺麗に整え、ファミリーがさらに過ごしやすい空間へと生まれ変わるという。
店主の9歳と5歳のお子さんたちも、お店のラーメンが大好物だそうだ。「いつか3代目をやってくれるかな」という優しい眼差しの先には、新しくなる店舗と、これからも矢口渡で紡がれていく美味しい笑顔が確かに見えた。
一本のレンゲですくい上げる幸せは、お腹を満たした後も、このまちの未来へ向かってどこまでも続いていく。
一本のレンゲから始まる物語は、まちの優しさに包まれて

満腹の余韻を抱えながら歩く、多摩川ののどかな川沿いの道。広大な空と川の景色が、今日の心をより軽やかにしてくれる。大切にしまったマイレンゲとともに、美味しい記憶が心に刻まれる。
中華料理屋のレンゲは、美味しい料理と一緒にまちの歴史や人の温もりままでですくいあげる道具なのかもしれない。「東急沿線レンゲ会」は、これからも東急線沿線の美味しさをかき込む瞬間の衝動を探求し続ける。

中華料理 なかのや
・住所:東京都大田区新蒲田3-26-3
・電話番号:03-3738-9310
・営業時間:11:30〜13:30L.O./17:00〜20:30L.O.
・定休日:日曜日
https://www.instagram.com/nakanoya.machichuka.kamata/
※記事内の価格は2026年7月時点のものです。
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今回のモデル:Lili
モデル。CMや広告、ファッションショーなど幅広い分野で活躍している。
主な出演歴は、CM「イオン ピースフィットクール」「鳥取ガス株式会社」、広告「MOVE eバイク」「STUDIO SEVEN」、ファッションショー「KARSSH Collections」「Posa」など。
ダンスを学ぶため韓国へ留学した経験を持ち、韓国のボーイズグループ・n.SSignのライブダンサーを務めたほか、韓国のダンスチーム「MEMORIES CREW」によるYouTubeのダンス動画企画にも参加している。
最近の趣味はゴルフ。プロゴルフコーチ・大山トギのYouTubeチャンネルにも出演するなど、活動の幅を広げている。
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文・写真/高山諒
編集/ヒャクマンボルト
掲載店舗・施設・イベント・価格などの情報は記事公開時点のものです。定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。
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まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。







