和菓子、我が師よ vol.3

長津田「和菓子処 かわはら」のあんバターどら焼きに学ぶ「しなやかな変化」〜和菓子、我が師よ〜

Urban Story Lab.

2026/8/26

和菓子。それは四季や風土を映し出す、日本の美意識が凝縮された伝統菓子である。起源は縄文時代にまでさかのぼるともいわれ、古来より日本人の暮らしに寄り添ってきた。

今では世界中から注目を集めているが、その魅力は味わいにとどまらない。和菓子や和菓子店は、土地の歴史を静かに見つめ続けてきた“まちの語り部”でもある。

本企画では、東急線沿線の和菓子店を訪ね、名物菓子を実際に味わいながら、そこに込められた職人の想いや地域の記憶に耳を傾けていく。

和菓子から人生を学ぶ――少し大げさに聞こえるかもしれない。

しかし、繊細な味わいに舌を澄ませ、重ねられた技や工夫に目を向けてみれば、和菓子が静かに語りかけてくる“教え”のようなものが、きっと見えてくるはずだ。

大川竜弥
自称「日本一、インターネットで顔写真が使われているフリー素材モデル」。神奈川県横浜市出身。ショップの店員や、Web制作会社でのディレクションとライティング、ライブハウスの店長、ザ・グレート・サスケさんのマネージャーなどの経験を経て、2012年からフリー素材モデルとして活動。日清・カップヌードルの広告モデルをはじめとして、テレビCM、Web広告等で活躍している。
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田園都市線、JR横浜線、そしてこどもの国線の3路線が乗り入れ、東京・横浜のどちらへ行くにも抜群のアクセスを誇るまち、長津田。

駅前には高層マンションがそびえ立ち、近代的な医療機関や学習塾がずらりと並ぶ、誰もが暮らしやすさを実感できる機能的な街並みが広がっている。

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だが、このまちのリアルは、ただの“便利なベッドタウン”にとどまらない。

少子高齢化が叫ばれる今の時代にあって、一歩駅から離れれば、地域の小学校が「新校舎を建てないとパンクする」というほど、新しい世代の子どもたちが急増している活気ある一面も持っている。

今回紹介する和菓子店は、そんなまちの歩みに寄り添いながら、自らをしなやかにアップデートし続けているお店のひとつだ。

長津田駅から徒歩4分、1909年創業の「和菓子処かわはら」

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今回訪れるのは、長津田駅から歩いて約4分の場所にある「和菓子処かわはら」。1909(明治42)年の創業以来、この地でなんと117年もの歴史を紡いできた、圧倒的な老舗である。

家系図を遡ると、江戸時代の頃からこの長津田に定住していたという河原家。元々は豆腐屋を営んでいたそうだが、今の店主の曾祖父(初代)の代に和菓子屋へと転業した。

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現在の店を切り盛りするのは、今年40歳を迎える4代目店主の河原崇志さんだ。

「子どもの頃は、実はお恥ずかしい話、あんこがちょっと苦手だったんです(笑)。でも、父が仕事をしている姿をずっと見て育ちましたから、高校生くらいのときには『いつかは自分が後を継ぐんだろうな』と自然に意識していましたね」

そう当時を振り返りながら、まっすぐな視線で語る河原さん。大学時代から週2日のアルバイトとして店に入り、先代である3代目の父から直接、その確かな技術とマインドを叩き込まれてきた。

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そんな「かわはら」の歴史において、現在のスタイルの根幹を作る大きな転機となったのが、3代目の時代に行われた「味の改革」だった。

それまでも地元密着の和菓子店として愛されていたが、先を見据えた3代目が一念発起し、信頼できる師匠のもとへ弟子入り。いちから和菓子づくりの研究を重ね、今やお店の代名詞とも言える「ある絶対的なこだわり」を確立することとなる。

10種類以上の餡を炊き分ける。和菓子の命「完全自家製餡」への覚悟

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かわはらが誇る最大の武器、それが3代目の「味の改革」によって確立された「完全自家製餡」だ。

和菓子の味わいを決める根幹であり、文字通り“命”とも言える餡。しかし現代の和菓子業界において、豆から一貫して自店で炊き上げる完全自家製餡を貫く店は、年々減少しているという。市販品や外注の餡を使うほうが、コストや手間の面で圧倒的に効率が良いからだ。

だが、かわはらは違った。北海道産の小豆を100%使用し、風味が最も引き立つ“炊きたて”の状態で和菓子に仕上げる。この妥協なき姿勢こそが、117年続く老舗のプライドなのだ。

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「餡を自分で作らないなら、和菓子屋を辞めたほうがいい」

先代からそんな強烈なマインドを引き継いだ4代目は、そのこだわりをさらに繊細な領域へとアップデートさせている。驚くべきことに、かわはらでは現在、和菓子の種類に合わせて10種類以上もの餡を、それぞれ細かく炊き分けているのだ。

たとえば看板商品の「どら焼き」(1個162円・税込)に使われる粒あんは、小豆の粒を絶対に潰さないよう、機械ではなく今でもすべて「手練り」で、甘みをやや強めに炊き上げている。

そして、今回私が出会ったもう一つの主力商品が、4代目のこだわりが凝縮された「あんバターどら焼き」(1個189円・税込)である。

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世の中にある「あんバター」といえば、どら焼きの皮を開き、餡の上に固形のバターを後から乗せるスタイルが一般的だろう。しかし、河原さんはあえてその王道を選ばず、独自の製法にこだわった。

「それだと、口に入れたときにバターの味が塊でドスンと来て、人によってはエグみを感じてしまうんです。餡とバターが一番美味しく調和するバランスを考えた結果、うちでは最初から餡にバターをしっかりと混ぜ込んだ、専用の『バタどら餡』を新しく炊くことにしました」

どら焼きの種類ごとにゼロから餡の設計図を引き直す。言葉にするのは簡単だが、気の遠くなるような手間暇がそこにはかかっている。

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幼少期はあんこが苦手だった河原さん。しかし、父の背中を見つめ、自らも毎日釜の前に立ち続ける中で、その手はすっかり「かわはらの餡」をコントロールする職人のそれになっていた。

「伝統を守る」とは、ただ過去と同じやり方を繰り返すことではない。素材へのこだわりを徹底的に貫き、一つひとつの和菓子に合わせた最高の状態を追求し続けること。そんな自家製餡への絶対的な覚悟が詰まった「あんバターどら焼き」を前に、私の胸の鼓動は自然と高鳴っていった。

一体化の極み。4代目の「バトンをつなぐ覚悟」を宿したあんバターどら焼き

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河原さんから手渡された「あんバターどら焼き」を受け取る。手に取った瞬間に感じるのは、見た目以上のずっしりとした確かな重み。だが、ただ重いだけではない。指先を通して、丁寧に焼き上げられた皮のしっとりとした柔らかな質感が心地よく、食べる前からクオリティの高さがダイレクトに響いてくる。

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独自のブレンドで焼き上げられた皮の香ばしい匂いが、ふわりと鼻先をくすぐる。

半分に割ったその断面を凝視する。一般的なあんバターのように「餡の上にバターの塊がドンと乗っている」のではない。河原さんが語ってくれた通り、そこにあったのは、バターが艶やかになじみ、上品な薄紫色を帯びた、見たこともないほど美しい餡だった。

いざ、この未知なる味に向き合いたい。

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豪快にひと口、がぶりといってみる――。

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口に含んだ瞬間、手練りのつぶ餡が持つ洗練された甘みと、バターのまろやかなコク、そして微かな塩気が、最初から「ひとつの完成された味」として口いっぱいに押し寄せてくるのだ。餡とバターの境界線がどこにもない。

後乗せのトッピングをせず、最初から混ぜ込んで炊き上げた「バタどら餡」だからこその神業。先代から受け継いだ自家製餡という偉大な伝統のバトンをただそのまま守るのではなく、現代のベストを尽くすためにゼロから設計図を引き直す。まさに4代目の「時代に合わせてアップデートする」という強い覚悟が、このなめらかなひと口に凝縮されている。

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職人の技が光る口溶けの良い皮も素晴らしく、この繊細な餡の風味を邪魔することなく、優しく全体を包み込んでいる。

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これほどまでに計算され尽くした美味しさを前に、ただただ圧倒されてしまう。117年の長い歴史を背負いながらも、しなやかに変化を恐れない4代目の職人魂に深く感銘を受けながら、気づけば最後のひと口まで夢中で一気に平らげてしまっていた。

「日々の積み重ねと、しなやかな変化」が描く長津田の未来

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河原さんにあんバターどら焼きの感動を伝えると、職人としての真摯な眼差しで、今後のビジョンについてこう語ってくれた。

「父のやってきたことを否定しないように、何か一つ変えていきたいなと。父と同じことをやっていたら、多分先細りしてしまう。時代に合わせた『改革』や『新しい道』を自分で作らなければいけないと考えています」

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厳しい時代にあっても、SNSの発信やホームページの開設など、次々と新しい一手を打つ河原さん。しかし、その根底にあるのは、117年という圧倒的な歳月が教えてくれた、ある普遍的な真理だった。

「117年目の歴史があるからこそ強く感じるのは、大きなことを成すために必要なのは、小さなことを積み重ねることなんだな、ということです。一日一日、一か月、一年を重ねてきて今の100年がある。過去の積み重ねに感謝しつつ、良い未来を作りたいですね」

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伝統の技術を守り抜くという「日々の小さな積み重ね」。そして、今やコンビニやスーパーの店頭で手軽に和菓子が買える時代だからこそ、その変化を見据え、あんバターどら焼きのような新しい味へ挑戦する「しなやかな変化」。

河原さんのその姿を見つめていると、長津田というまちが今まさに迎えている変化の空気と、不思議なほどに重なって見えた。

利便性の高い乗り換え駅として発展し、駅前には近代的な美しい街並みが広がる長津田。だがその一方で、小学校に新校舎ができるほど若い世代が急増し、わが子の成長を写真や動画で残したい親世代の間で伝統行事の一升餅が“SNS映え”をきっかけに再び脚光を浴びるなど、古いものと新しいものが手を取り合って次の時代を作ろうとしている。

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取材の帰り道、長津田のまちを歩きながら、改めて「守ることと変えること」の境界線について考えていた。

歴史があるからと頑固に立ち止まるのではなく、守るべき「核」を一日ずつ積み重ねながら、時代に合わせてしなやかに姿を変えていく。それこそが、100年以上の歴史を繋ぎ、さらに次の100年へとバトンを渡していくための唯一の道なのだろう。

本企画「和菓子、我が師よ」は、和菓子から人生を学ぶことを目的としている。今回、和菓子処かわはらと河原さん、そしてあんバターどら焼きから教わったのは、地道な積み重ねと、変化を恐れないしなやかな生き方の美しさだった。

長津田というまちのこれからの息吹、そして伝統と革新が溶け合った最高のどら焼きを味わってみたい方は、ぜひ一度、足を運んでみてほしい。

和菓子処かわはら
・住所:神奈川県横浜市緑区長津田5-4-28 アミティエSQ
・電話番号:045-981-0018
・営業時間:9:00〜18:30
・定休日:月曜日
https://www.wagashi-kawahara.com/

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文・モデル/大川竜弥
写真/高山諒

掲載店舗・施設・イベント・価格などの情報は記事公開時点のものです。定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。

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まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。

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