
東急線沿線のまちにいるさまざまな「まちびと」を訪ねてインタビューする「まちびとを訪ねて」。
今回は連載第1回、「三宿」のまちびとに会いに行きました。
ターミナル・渋谷駅に近く、田園都市線池尻大橋駅と三軒茶屋駅の2駅の間に広がる「三宿エリア」をご存じでしょうか。国道246号から一歩入ると、落ち着いた住宅街と個性的なお店が点在する緑豊かな街並みが広がっています。そこでは、発足17年という若き商店会「MISHUKU R.420」が、お店や商店会の枠を超え、エリア全体のまちづくり活動も展開していました。同商店会会長へのインタビューを通して、「三宿エリア」の知られざる魅力を紹介していきましょう。
【今回のまちびと】
「MISHUKU R.420」会長/ハンカチ専門店「H TOKYO」代表/「HOME/WORK VILLAGE」代表 間中伸也さん
まちと人との出会いが「H TOKYO」開業を支える
ハンカチ専門店「H TOKYO」を経営するかたわら、「MISHUKU R.420」会長を務める間中伸也さんに、まちとの出会いから創業にいたるまでのお話を伺いました。

——三宿に住まい、ご自身で創業するまでの経緯を教えてください。
間中伸也さん(以下、間中さん):出身は埼玉県川越市ですが、学生時代にクラシックギターのレッスンに通っていたという地縁もあり、社会人になってからは目黒や世田谷に暮らし始めました。その中でも、落ち着いた街並みや緑豊かな世田谷公園、個性的なお店が数多くある三宿に魅せられ、生活と仕事をする場として選んだのです。
前職は服飾雑貨のバイヤーをしていましたが、独立して自分のお店を持つ夢を叶えるため、退職し創業準備に入りました。
——メンズハンカチ専門店としてスタートしましたが、そこにはどのような想いがあったのでしょうか。
間中さん:前職で取り扱っていたアイテムの中で、ハンカチに興味を持った理由はふたつありました。ひとつには、私はオーダーメイドするほどシャツの生地にこだわりがあり、しかも奥行きのある色合いや上質な風合いが楽しめる先染めが好きでした。ふたつめには、ブランドライセンス化されたハンカチ市場にもの足りなさを感じており、もっと素材や仕立て、デザインにこだわった、自分が欲しいと思えるハンカチを作りたいと思ったからなのです。そこで、当初はメンズ専門店としてスタートしました。

——お店を訪ねた時に、おひとりで商品を丹念に選んでいる男性や、散歩途中に立ち寄ったという親子に出会いましたが、来店するお客さんを見てどのように感じていますか。
間中さん:当店が「欲しいハンカチ」を買える場所として認知されていることを、うれしく感じています。散歩途中に立ち寄られることも、地域に根差したお店として、地域の方々とともに歩んできたことに、あらためて気付かされます。



——ハンカチ作りではどのようなことを大切にしていますか。
間中さん:「H TOKYO」では、上質な素材、洗練されたデザイン、丁寧なものづくりを基本にハンカチを作っています。生地は、国内外の上質なシャツ生地をセレクトし、耐久性となめらかさ、光沢感を併せ持つ品質を大切にしています。縫製やプリントについては、横浜や静岡にある専門工場で職人技術を活かした丁寧な仕上げにこだわっています。
デザインは、国内外の作家さんとのコラボも多く、ちょうどいま、魚譜(ぎょふ)画家、長嶋祐成さんの新作ハンカチ展を開催中です(2026年8月13日現在)。ハンカチを画布に見立て、イワナとトビウオがいきいきと描かれています。
ハンカチに再現された作家の世界観というものは、ときには持ち運び自由な“作品”となります。畳んだときと広げたときとでは印象が異なる、ハンカチならではの仕掛けも楽しんでいただけると思います。

——オリジナルハンカチをはじめ、包装紙やギフトボックスにいたるまで日本製にこだわっているそうですが、その理由を教えてください。
間中さん:品質の確かな日本のものづくりにこだわっているからです。そして、当たり前のようでいて忘れられがちな、製作者の存在を常に感じていたいからなのです。

——ハンカチ専門店としての今後の展望について教えてください。
間中さん:いまや、あらゆるものがECサイトなどを通してすぐ手に入る時代ですが、あえて店頭販売にこだわる理由は、お客さまとのコミュニケーションを大切にしたいからです。またご来店いただき、商品を手に取り、その柔らかさや気持ちよさを感じていただきたいからでもあります。購入していただいた商品にアイロンをかけてからお渡しするというひと手間も、生地がパリッとして気持ちがよいですし、その温もりを感じていただくことで安心感が生まれると思うからです。そうした想いをお客さまに伝えたいと思っています。

商店会「MISHUKU R.420」発足と「世田谷パン祭り」
創業の翌年2009年、間中さん自らが会長となり新しい商店会「MISHUKU R.420」を立ち上げました。その2年後に商店会が開催した「世田谷パン祭り」では実行委員長を務めています。
——「MISHUKU R.420」発足の経緯を教えてください。
間中さん:ハンカチ専門店創業の準備期間中、あるご縁から、「IID世田谷ものづくり学校」の副校長をしていました。約3年の任期中に、行政との交渉やイベントの企画・運営方法を学び、地域やものづくりに携わる多くの方々との貴重な出会いもありました。
実は、商店会発足のきっかけは、同施設の活動を地域に知ってもらうためのイベントだったのです。私は協力を仰ぐため、「イベントをやりませんか」と、地域のお店一軒一軒に呼びかけたのです。しかしこれが大変でした。イベントのたびにこの苦労を繰り返したくない、店舗間で連携できる組織があれば効率的だと考え、今度は「商店会をつくりませんか」と呼びかけたのです。
もうひとつの理由は、せっかく三宿で開業したのだから、近隣の店舗や住民とのつながりは大切にしたかった。そして、自ら外に出て地域の方々に、お店と商品を知ってほしいと思ったからなのです。
商店会発足に向けて、店主さんへの説明会を開いたり、世田谷区に助言を求めに行ったり、試行錯誤の連続でした。それでも、「IID世田谷ものづくり学校」での経験を活かしながら、次第に企画力や運営力も備わり、「MISHUKU R.420」は2009年、世田谷区では数十年ぶりに、まったく新しい商店会としてスタートしました。

——2011年の「世田谷パン祭り」が商店会飛躍のきっかけとなったそうですが、どんな経緯で開催することになったのですか。
間中さん:商店会発足後、活動意欲は徐々に高まっていきましたが、店主さんたちにとって、イベントの企画や運営は決して得意分野とはいえず、商店会の活動もいまひとつ足並みがそろわない状況が続きました。そこで大きなイベントを企画して、商店会と地域全体を盛り上げようと考えたのです。
準備をしっかりと重ねた結果、第1回「世田谷パン祭り」は約7,000人の来場を記録し、大盛況となりました。このイベントをきっかけに、店主さんたちの意識が変化し、商店会の結束は強まりました。「商店会が三宿の活性化のために行なうイベント」という説明に対して、「私も応援したい」と、新たな加盟店が増えたことは、とてもうれしかったです。また、名店が多い世田谷のパン文化を発信できたことも大きな成果と感じています。

間中さん:2026年のテーマは「DANCE with bread」、パンを食べるときの喜び、心躍るパン屋さんとの出逢い、パンを介した新しい味わいとのマリアージュなどさまざまな気持ちを表現しています。世田谷公園やHOME/WORK VILLAGEを会場として開催予定です(2026年8月13日現在)。いまでは、インバウンドを含め国内外の広い地域から多数の方が参加してくださる「世田谷パン祭り」は、パンのマーケットであると同時に、多様な人々の出会いの場ともなるイベントとして、開催の意義を感じています。

まちづくりに貢献する商店会「MISHUKU R.420」
約20店舗で発足した「MISHUKU R.420」は、現在エリアを越えて約50店舗が加盟する団体となりました。三宿通り沿いの約2kmにわたり、緩やかに続くショッピング&グルメストリートを形成しています。


——商店会としてどのような活動をしているのですか。
間中さん:「世田谷パン祭り」が契機となり、その後、「三宿さくらマルシェ」、「三宿十の市」、「三宿夏祭り」など、さまざまな自主イベントを定期的に開催しています。そこに共通するのは「地域を盛り上げたい」という想いです。商店会としての活動は、加盟店の発案はもちろん、いまでは住民の方からもたくさん意見をいただき、想いをひとつに三宿エリア全体で活動していることを実感しています。その事例のひとつが清掃活動です。商店会メンバーに加えて、賛同してくださる住民にも参加していただき、三宿通りの清掃活動を年4回実施しています。
「まちをきれいに整えたい」という想いは、もともとあったのですが、街並みの整備を実施したこともきっかけだったと感じています。「MISHUKU R.420」は駅前からお店が連なっているわけではなく、お店が三宿通り沿いを中心に点在しているので、商店街であることが分かりにくかったのです。そこで2017年、商店会の認知度を高めるためにも、ロゴを添えた街路灯を設置、ショッピングや散策の途中に、気軽に休めるベンチも設置しました。三宿通り(都道420号)は公共の場ですから、管轄する東京都とも綿密に打ち合わせを重ねて実現にいたりました。



——商店会の今後の活動や取り組みなどを教えてください。
間中さん:「IID世田谷ものづくり学校」は、現在は産業活性化拠点「HOME/WORK VILLAGE」に引き継がれており、2025年より私が代表を務める「方方株式会社」が施設運営を行なっています。校舎棟や校庭、体育館を利用し、飲食や物販のお店、スタジオやコワーキングスペースが用意され、学んだり、働いたり、スポーツをしたりと、多くの方に利用されています。「世田谷パン祭り」は世田谷公園とともに、当施設も会場として利用する予定です。
区内産業活性化や人材育成を目的としたこの施設の賑わいを、地域全体に広げることを目標に、商店会活動とともに、力を注ぎたいと思っています。

——あらためて、三宿の魅力、東急線沿線の魅力とはどんなところだと思いますか。
間中さん:三宿の魅力は、まず広々とした世田谷公園があること。広い園内には、噴水広場を中心にスポーツ施設やプレーパークが整っています。ふらりと立ち寄り、のんびりと散策したり、ペットと遊んだり、自分たちにとって“ちょうどよい場所”だと感じられ、それぞれのスタイルで楽しめる公園だと思います。こうした公園の風景を眺めていると、このまちは自分なりの生活リズムで働き、人との緩やかなつながりを保ちながらマイペースで暮らせる場所であることもあらためて感じます。
三宿は“知る人ぞ知るまち”といわれることもありますが、よい意味において、開発や人波に荒らされず、緩やかな空気感に包まれていることは、大きな魅力であると思います。
そして遠くからでも訪ねたいと思える魅力を備え、人々を惹きつける個性的なお店が数多くあることです。逆に言うと、ほかにはない特色に欠けていたり、地元に支えられていないお店は淘汰されていきます。商店会が長く存続していくためにも、新たに参加するお店や人を受け入れ、新陳代謝を繰り返していくことは大切であり、それこそが今後の課題だと感じています。
最後には、やはり人だと思うのです。地域全体を広く視野に収めてお店を営む店主さんや、ものの価値を直感的に理解してくださるお客さまが多く、クリエイティブなお仕事をされている方も多くいらっしゃいます。そうした人々が、まちの未来を支えてくれるのではないでしょうか。
そして移動がスムーズで、各駅が個性的な東急線沿線に拠点を置くことは、たいへんありがたく感じています。

<H TOKYO 三宿店>
・住所:東京都世田谷区太子堂1-1-11
・アクセス:田園都市線「三軒茶屋駅」・「池尻大橋駅」より徒歩約15分
・TEL:03-3487-4883
・営業時間:11:00〜19:00
・定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
https://htokyo.com/
<MISHUKU R.420(通称:三宿四二〇商店会)>
・住所:東京都世田谷区三宿1〜2、池尻1〜4、下馬1〜2、太子堂1〜2など
※三宿通り(都道420号鮫洲大山線)の周辺
https://mishuku-r420.com/
ぶらり三宿~旧大山街道から三宿通りへ、おすすめの散策コース
池尻大橋駅東口より国道246号に並行して続く旧大山街道へ。駅前の喧騒は遠ざかり、お洒落なカフェやビストロが点在します。そして歴史を感じる神社のたたずまいは、時間をワープしたようです。



旧大山街道はやがて国道246号と合流し、すぐ先には、三宿通りと交わる三宿交差点があります。
三宿交差点を左折、「MISHUKU R.420」をぶらりと散策しましょう。アンティークショップやレストラン、チョコレート専門店など素敵なお店が点在するのでお見逃しなく。「H TOKYO」もほどなく到着です。


ブルーの街路灯をたどり、三宿通りから世田谷公園へ。のんびり歩きながら見つけたカフェでひと休みもよし、公園散策を楽しむもよし、思い思いの街歩きを楽しみましょう。

今回は「H TOKYO」を訪ねて、代表の間中伸也さんにお話を伺いました。こだわりがつまったハンカチが所せましと並ぶ店内は、まるでギャラリーのようでした。スタッフさんとの会話も楽しみながら、ゆっくりとお気に入りのハンカチが探せます。
三宿では、もう一度行きたいと感じるカフェやショップ、そして、もう一度会いたいと思う人との出会いがきっとあるはずです。
コミュニティをさらに広げて、まちの活性化に挑み続ける「MISHUKU R.420」の今後の活動にも期待が寄せられます。途中下車して、三宿を散策…そんな余白の時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。
--
取材・文:井上文
編集:MaW
掲載店舗・施設・イベント・価格などの情報は記事公開時点のものです。定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。









