
中華料理店に入り、メニューを開いた瞬間――。
いい大人なのに、胸が高鳴ってしまう。前菜、麺類、一品料理…そしていよいよ「飯物」のページへ。
中華の飯物には、丼ぶりとはひと味ちがう魅力がある。レンゲを握った途端、脇目もふらずにご飯をかき込みたくなるあの衝動。
そんな中華店の飯物をこよなく愛するあなたは、もう我々の仲間です。
「東急沿線レンゲ会」は、東急線沿線の町中華が誇る飯物のメニューをレンゲですくう、その瞬間の喜びを探求していきます。
今回訪れたのは、大井町線下神明駅と池上線戸越銀座駅から徒歩10分ほどの場所にある「錦華楼」。昭和6年の開業以来まちに愛され続け、戸越銀座商店街の移り変わりを見つめてきた老舗です。数多くのメニューの中から「えび炒飯」をいただきます!
1931年創業。戸越銀座商店街の歴史を知る店、「錦華楼」

池上線戸越銀座駅をはさんで東西約1.3km、約400店が軒を連ね、東京で最も長い商店街ともいわれる戸越銀座商店街。ここに長年まちに愛され続ける“レンゲメニュー”があるとの噂をキャッチし、東急沿線レンゲ会はマイレンゲとともに向かった。

戸越銀座商店街を東の端まで歩くと、昔ながらの赤い看板と暖簾が目にはいる。「錦華楼」。2025年時点で創業94年の超老舗町中華だ。


店内に一歩足を踏み入れると、どこか懐かしい雰囲気。壁には錦華楼を愛した有名人たちのサインと手書きのメニューがずらりと並ぶ。なんといってもその多さに驚く。

現在店を切り盛りしている2代目店主によると「これでもメニュー数は3分の1くらいに減らした」そう。味付けは先代である店主の父から引き継いだもので、創業以来一切変えていないという。90年以上変わらない味に期待が高まる。

料理の部、焼きそばの部、その他の部、御飯の部、炒飯の部…オリジナルのカテゴリーの中でも、やはりレンゲ会として気になるのは「炒飯の部」だ。特に人気だという「えびチャーハン」を注文することにした。
化学調味料不使用。塩胡椒のシンプルな味付け

運ばれてきたのは、えびチャーハンに醤油スープ、お漬物のセット。錦華楼オリジナルの八角皿がチャーハンへの期待を掻き立てる。そしてドーム型チャーハンの山頂に輝く大ぶりのエビ。もう抑えられない!持参したマイレンゲで早速かき込みます!!

しっとりとパラパラの中間の口あたり。そしてしっかりと濃いめの塩味で、ひと口食べるともうレンゲが止まらない。味付けは塩胡椒のみで化学調味料は一切使っていないという。だからなのだろうか、美味しさと「懐かしさ」が一気に押し寄せてくる。思わず「これだよ、これ!」と言いたくなってしまう味だ。
具材も刻んだナルトと玉ねぎ、卵、えびのみ。シンプルな味付けに玉ねぎのほんのりとした甘み、ナルトの旨味といった素材の味が引き立つ。

そしてなんと言っても、主役であるえびの存在感!しっかりとした歯ごたえで、米と一緒にかき込んだ時のプリプリ食感に、噛むたびに幸せが溢れる。しかもチャーハンの中にもこれでもかと贅沢にえびが入っているのだ。

レンゲですくえば次々に出てくるえびに、笑みが止まらない。

セットでついてきた醤油スープは、見た目よりも優しい味わい。中華出汁の旨味と醤油の塩味がほどよいバランスで、これだけでも白米をかき込めそうだ。
ボリューム満点!ふわふわの肉団子にもレンゲが止まらない!
ここでもう一品、チャーハンのお供を頼みたくなってきた。気になったのはレンゲですくうのに最適な「肉団子」。

運ばれてきたのは、ツヤツヤのあんかけがかけられた、輝く肉団子たちの山!10個以上の肉団子がお行儀よく並んでいる。我慢なんてできない。こちらもレンゲで一気にいただく!

ひと口噛んで感じるジューシーなひき肉の溢れ出す旨味、中には、刻んだ玉ねぎと筍が。これらの食材が良い食感を演出する。こちらもシンプルに味付けは塩、胡椒、醤油のみ。とろりとした餡も、醤油と砂糖の王道の組み合わせで、酸味がない分、主張はそこまで強くない。肉団子の素材の味を際立たせる。

登場時はかなりボリューミーに見えた肉団子。あまりのおいしさにレンゲでどんどんすくって口に運んでしまい、あっという間にえびチャーハンとともに完食!
まちの歴史を繋いできた味が、ここにはある

創業以来変わらない味付けは、戸越銀座で暮らしたことがある人にとっては懐かしい実家の味のような存在だろう。実際「この味が食べたかった!懐かしい!」と、地元を離れた人がわざわざ錦華楼の中華を食べにくることも多いという。
「戸越銀座商店街ができる前から私の祖父(先代の父)がこの場所に暮らしていた。大正12年の関東大震災で被災した方々が引っ越してきて、昭和2年に商店街ができ、父が昭和6年に錦華楼を開業した。この店は商店街の中でも初期の頃から残る数少ない店」と、店主は語る。まさにこのまちの発展を支え、その歴史を次世代へ繋いできた味と言える。

もちろん、このまちで新たに家庭を構えた若いファミリー世帯や、このまちで暮らし始めた若いカップルも多く訪れるという。最近では「私たちの思い出の味だから」と、結婚式の前撮りを錦華楼で行うカップルもいるそう。

そういった注文もいつも暖かく二つ返事で受け入れるのが、錦華楼の店主だ。その人柄も錦華楼が「帰ってきたくなる場所」の理由なのかもしれない。時代が変わり、まちや人が変われども、変わらない味がここにはある。

今回の錦華楼では、初めて訪れたはずなのにレンゲのひとすくいから懐かしさを感じた。東急沿線レンゲ会では、これからも東急線沿線の飯物をかき込む瞬間の衝動を探求し続ける。
錦華楼
・住所:東京都品川区豊町1-7-4
・電話番号:03-3781-0838
・営業時間:11:00-14:00/17:00-21:30
・定休日:火曜日
※記事内の価格は2025年10月時点のものです。
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今回のモデル:君島光輝
スカウトから2012年にデビュー。数々の企業のCMを全てオーディションで勝ち取り「令和の CM 女王」と呼ばれる。出演作は、ドラマ「Sister」(YTV)、「大奥 Season1」(NHK)、「リエゾン -こどものこころ診療所」(EX)、「罠の戦争」(KTV)、映画「私が俺の人生⁉」をはじめ、数々のドラマ・映画・舞台で活躍。2025年は、映画「49日の真実」「怪奇タクシー 布告を知らぬ者達に」をはじめ、「復讐相手がすでに不幸のどん底なんですが!」(YTV・DMM)に出演中。
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文/菱山恵巳子
写真/高山諒
編集/ヒャクマンボルト
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Urban Story Lab.
まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。








