
電車に乗るとき、何気なく目にしている「数字」。駅番号や車両番号、時刻表…鉄道の世界には、たくさんの数字が隠されています。普段は見過ごしてしまうその数字の裏には、「なぜ?」と思わず聞きたくなる秘密や、鉄道を安全・快適に走らせるための工夫が詰まっているんです。
本記事では、芸能界屈指の鉄道ファンである伊藤壮吾さんが、「数字」に注目して鉄道の謎を紐解いていきます。第1回はこどもの国線。どんな数字と謎が隠されているのでしょうか?知れば誰かに話したくなる、身近だけれど奥深い鉄道の世界へ、出発進行!
〈MC〉

伊藤壮吾さん
9人組ダンス&ボーカルユニット「SUPER★DRAGON」のメンバー。芸能界屈指の鉄道ファンとしても活躍。2020年『タモリ倶楽部』にて、タモリ電車クラブの正会員に認定。その後、数多くの鉄道関連番組に出演。特にダイヤグラムに興味があり、鉄道に乗車することを趣味とする、いわゆる「乗り鉄」。乗車履歴をスマホに記録することが日課。
Instagram:https://www.instagram.com/sougo05com_rapid/
〈今回のゲスト〉

竹内 敏浩さん
1989年東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)入社。カルチャースクール「東急セミナーBE」の運営や東急グループ広報などの業務に携わる。2018年より「東急100年史」編纂を担当。ボランティアとして、鉄道が好きな子どもの成長を見守る、「鉄道子ども会」を主宰。
こどもの国線って、こんな路線

こどもの国線は、神奈川県横浜市内を走る路線。田園都市線との接続駅である長津田駅、恩田駅、こどもの国駅の3駅を結ぶ。終点こどもの国駅には、広さ約100ヘクタール(約30万坪)に及ぶ子ども向けレジャー施設「こどもの国」が。このわずか3駅区間の中に、どんなヒミツが隠されているのでしょうか!?
「3.4」に隠された、こどもの国線の歴史

伊藤さん:今回は、東急電鉄のことを知り尽くし「東急100年史」の編纂も務めた、東急株式会社の竹内さんと一緒にこどもの国線の数字の謎を紐解きます!まずはこどもの国線の始発駅、長津田駅にやってきました!
竹内さん:よろしくお願いします! ところで伊藤さんは、こどもの国線に乗車したことはありますか?
伊藤さん:もちろんあります!高校時代に鉄道ファン仲間と一緒に、東急線ワンデーパスを利用して「1日で東急線全線乗車」に挑んだことがありまして。その時にこどもの国線も制覇しました。
竹内さん:さすが、筋金入りの乗り鉄ですね〜。じゃあ最初のこの数字の意味はわかりそうですね。

伊藤さん:こどもの国線の走行距離ですよね!全3駅で3.4キロメートルと、東急線の中でも最も短い路線です。通勤路線としても使われるこどもの国線が、これほど短いことにはどんな理由があるのでしょうか?
竹内さん:それにはこどもの国線の歴史が深く絡んでいます。実はこどもの国線は、元々は第二次世界大戦中に作られた陸軍の弾薬庫への引き込み線(本線から分岐して特定の場所へ接続される線路)なんです。
伊藤さん:え!「こどもの国」という名前のイメージとはかけ離れていますね。
竹内さん:そうなんです。しかも戦時中は米軍にもその存在を知られていなかったそう。だからこの周辺は空襲を受けずに済んだのですが。
戦後に弾薬庫は米軍のものとなり、その後、当時の皇太子殿下(現上皇陛下)のご成婚を記念して敷地が日本に返還。弾薬庫の跡地は整備され、1965年に「こどもの国」が開園しました。
開園後しばらくはアクセス方法がバスのみでしたが、とてもお客さんを運びきれなかったんですね。そのため、急きょ、残っていた弾薬庫の引き込み線を営業路線化して電車を走らせることになったのが、こどもの国線の始まりなんです。引き込み線の営業路線化は、たった20日程度の突貫工事だったそうですよ。
伊藤さん:20日!?その短さにも驚きですが…。元々あった弾薬庫への引き込み線をそのまま転用したから3.4キロメートルと距離も短いんですね。延伸計画などもあったのでしょうか?
竹内さん:詳しい資料は残っていないのですが、他社路線と繋げる計画などはあったのではないかと思われます。それも実現せず、沿線周辺が急速に宅地化したため、現在は通勤路線化しています。
伊藤さん:しかもこどもの国線は単線(1本の線路を上下の列車が共有して走る鉄道の形態)ですよね?これも東急線では唯一のはず。
竹内さん:そうなんです。列車が行き違いできるのは中間の恩田駅のみ。せっかくなのでそちらに移動してみましょう!
珍しい車両形式「Y000系」のヒミツ

伊藤さん:ホームに可愛らしい電車が停車していますね。
竹内さん:あ、じゃあこの数字にはピンときませんか?

伊藤さん:これはこどもの国線の車両形式「Y000系」のことですか?「000」という番号が振られるのは珍しいですよね。
竹内さん:さすがです!こどもの国線は、運営は東急電鉄ですが、線路や車両自体は横浜高速鉄道さんの持ち物。つまり、東急電鉄は「第二種鉄道事業者」という立ち位置。これも東急線唯一です。それもあって他の東急線の車両にはない番号の振り方がされています。
伊藤さん:だからなのか、車両も特徴的ですよね。
竹内さん:Y000系は、こどもの国線を通勤路線化するべく1999年に登場しました。東急電鉄の通勤車両3000系をベースに作られています。
通常カラーの車両が「Y003・Y013」。2018年からは牛のラッピングがされた「うしでんしゃ」が登場。ここに停まっている「Y002・Y012」は、2020年から運行が始まった「ひつじでんしゃ」です。
<関連ページ>うしでんしゃ・ひつじでんしゃ


伊藤さん:これは小さなお子さんも喜びそう。しかも運行情報も公開されていて、平日も走行しているんですね。早速乗車してみましょう!

伊藤さん:内装も羊だらけ!
竹内さん:何匹羊が描かれているのか、正式な数字はわかっていなくて…。数える人によって数が変わってしまうくらい大量の羊がいるんです(笑)。


伊藤さん:Y000系は、1つの車両に扉が片側3つしかないんですね。通常、扉は4つであることが多いですが、あえて3つにしている理由はあるのでしょうか?
竹内さん:都心の路線のように通勤ラッシュがある場合、たくさんの人が乗り降りするため4つにしますが、こどもの国線はそこまでではないということもあって、珍しい車両になっています。こどもの国線の車両の長さや、駅のホームの長さ等を考慮して扉が3つになったと聞いています。

中間駅・恩田駅にまつわる「2000」とは!?

伊藤さん:そうこうしているうちに、あっという間に恩田駅に到着しました。…あ!これは面白いものを発見しましたよ!

伊藤さん:駅の入り口に、「東急電鉄」と「横浜高速鉄道」の看板があります!
竹内さん:おお!これは私も知らなかったです!第二種と第三種の鉄道事業者ならではの風景ですね。では、ここでもう1つの数字を!

伊藤さん:2000…なんですかね…?
竹内さん:これは恩田駅が開業した2000年のことです。意外と新しいですよね?
伊藤さん:そうか、こどもの国線が通勤路線化に向けてY000系が登場したのが1999年。その後、列車が行き違いできる駅として2000年に誕生したのが恩田駅ってことですね!繋がりました!

竹内さん:その通り!恩田駅ができる前からこの辺りは宅地開発が進んでいたので、近隣の皆さんは長津田駅までバスを利用しなくてはならずとても不便だったんです。しかも当時のこどもの国線は、こどもの国の閉園日は始発が朝9時近くで、毎時1本くらいの運転本数なんてこともあり…。

伊藤さん:それは確かに困りますね…。最後に、せっかくなので終点、こどもの国駅にも行ってみたいです!
終点・こどもの国駅で感じる、数字×鉄道の奥深さ

伊藤さん:改めて車両を見て気がついたのですが、こどもの国線は先頭車両にパンタグラフがある「前パン」なんですね。東急線…いや、首都圏でも少ないんじゃないですか!?電動車両が先頭にあることも珍しいですし、急ブレーキをかけた時の引っ掛かり対策で後ろの車両にパンタグラフがついていることが多いですよね。
竹内さん:言われてみればそうですね!それにしてもマニアックですね〜!「前パン」というワードも、鉄道ファン用語ですからね(笑)。

伊藤さん:それにしても、やっぱり3.4キロメートルは短いですね。終点まであっという間でした。
竹内さん:短いこどもの国線ですが、やはりゴールデンウィークや夏休みはこどもの国に行くお客さまでとても賑わうんです。だから、池上線・東急多摩川線から車両を借りて増発便を走らせています。今年も運行していましたよ。

伊藤さん:うわ!知らなかったです!こどもの国線に池上線や東急多摩川線の車両が来ることがあるなんて!
竹内さん:鉄道ファン的には盛り上がるポイントですよね(笑)。
伊藤さん:こどもの国線、短い中にも歴史や特徴がたくさん詰まっていて、改めて奥深くて面白い路線ですね〜!時間が許すならば、このままいくらでも話していたいです。
数字1つとってもそれにまつわる情報が膨大に広がる…。これだから鉄道ファンはやめられない! またぜひよろしくお願いします!

身近な数字から広がる鉄道の世界。知れば知るほど面白く、日常の風景の中に新しい発見が広がっていくはずです。次に電車に乗るとき、少しだけ視点を変えて“数字の物語”を意識してみてはいかがでしょうか。
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取材・文/菱山恵巳子
撮影/高山諒
編集/ヒャクマンボルト
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まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。







