数字でひも解く東急線のヒミツ vol.2

【数字でひも解く東急線のヒミツ】鉄道ファン 伊藤壮吾が学ぶダイヤグラムの「4000本・10秒・2年」

Urban Story Lab.

2026/3/10

電車に乗るとき、何気なく目にしている「数字」。駅番号や車両番号、時刻表…鉄道の世界には、たくさんの数字が隠されています。普段は見過ごしてしまうその数字の裏には、「なぜ?」と思わず聞きたくなる秘密や、鉄道を安全・快適に走らせるための工夫が詰まっているんです。

本記事では、芸能界屈指の鉄道ファンである伊藤壮吾さんが、「数字」に注目して鉄道の謎を紐解いていきます。第2回のテーマは東急線のダイヤグラム。どんな数字と謎が隠されているのでしょうか?知れば誰かに話したくなる、身近だけれど奥深い鉄道の世界へ、出発進行!

 

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伊藤壮吾さん
9人組ダンス&ボーカルユニット「SUPER★DRAGON」のメンバー。芸能界屈指の鉄道ファンとしても活躍。2020年『タモリ倶楽部』にて、タモリ電車クラブの正会員に認定。その後、数多くの鉄道関連番組に出演。特にダイヤグラムに興味があり、鉄道に乗車することを趣味とする、いわゆる「乗り鉄」。乗車履歴をスマホに記録することが日課。
Instagram:https://www.instagram.com/sougo05com_rapid/

〈今回のゲスト〉

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鈴木さん(仮名)
東急電鉄株式会社 鉄道事業本部 運輸部 企画推進課/菊名駅で6年、東横線の車掌として6年、運輸司令所で3年勤務した後、2025年10月よりダイヤ作成部門へ配属。司令所での経験を活かしながらダイヤ作成業務に取り組んでいる。

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西本さん(仮名)
東急電鉄株式会社 鉄道事業本部 運輸部 企画推進課/自由が丘駅で5年、田園都市線の車掌 として2年、東横線の運転士として5年勤務の後、ダイヤ作成担当に。2025年3月のダイヤ改正も担当した。

※取材対象者のプライバシー保護のため、氏名は仮名で掲載しています。

そもそもダイヤグラムって何?

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ダイヤグラムは路線別に作成され、社外秘。厳重に管理されている
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実際に使用されていた東横線のダイヤグラム。普段なかなか見ることができない貴重なもの

ダイヤグラムとは、「列車運行図表」のこと。略して「ダイヤ」とも呼ぶ。路線ごとに24時間の全列車の運行情報がひと目でわかるように、横長の紙に書き表したもので、運転時刻、列車番号、駅間の運転時分、電車と電車の間隔もわかります。

作成にあたっては、駅での停車時分、車両の性能、乗り入れ先の鉄道会社との調整、将来の車両整備計画、今後の施策…など、様々な要素が関わるそう。ダイヤグラムを元に時刻表はもちろん、乗務員のシフトまで組まれるなど、鉄道会社にとって重要情報。実は私たち乗客の毎日の安全な移動を支えているのです!

東急線のダイヤにまつわる「4000本」のスゴさ

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伊藤さん:僕は元々、ダイヤグラム(以下、ダイヤ)が大好きなのですが、普段、僕のような一般乗客の目には触れることがないものです。改めて読み方を教えていただけますか?

西本さん:ダイヤがお好きとは、なかなか“通”ですね! ダイヤは、縦軸に駅名、横軸に時間が記載されており、縦線が時刻、横線が各駅を表しています。左下から右上がりの線が上り列車、左上から右下がりの線が下り列車です。この列車を表す線は「スジ」とも呼ばれています。

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ざっくり図解すると…。※本来、時刻を表す縦線は1分間隔で引かれているものを省略(Urban Story Lab.編集部作成)

西本さん:今日は、以前使用していた東横線のダイヤを持ってきました。駅間の距離も目盛りの長さに反映されているので、短い箇所はメモリが詰まって表されています。また、ラッシュ時間帯で列車運行本数が多い朝8時台などは、やはりたくさんのスジが細かく引かれています。

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ダイヤには、路線別に1日の全ての運行列車が記載されている
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列車は色で種類がわかるようになっている。東横線の場合、オレンジ=特急、緑=通勤特急、赤=急行、黒=各駅停車、水色=回送。

伊藤さん:うわ!美しい!これはかなり緻密に作られていますね…。

鈴木さん:ここで早速ですが、1つ目の数字です!ダイヤにまつわるこの数字は何を表しているでしょう?!

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伊藤さん:4000…なんだろう。まさか運行本数とか…?

鈴木さん:お見事!東急線全線合わせると、平日1日約4000本の列車が運行しています。ちなみに最も運行本数が多いのが東横線の約700本、逆に少ないのが東急新横浜線の約300本です。

伊藤さん:そんなに走っているんですね!いま見せていただいている東横線のダイヤも細かいはずです。鈴木さんは車掌、西本さんは運転士として現場の経験もおありだということですが、ダイヤって覚えられるものなのでしょうか?

鈴木さん:大筋は把握しています。というのも、東横線は「パターンダイヤ」といって、平日の日中は大体15分間隔で周期的に運行しているからです。ただ、細かい部分は手持ちのダイヤを確認するので、列車の運行にダイヤは必須ですね。

伊藤さん:乗客目線でも、覚えやすいパターンダイヤはとてもありがたいんですよ。15分周期の運行情報だけ覚えていれば、「この特急に乗ったら自由が丘で絶対に各駅停車に乗り換えられる」となんとなくわかります。しかも東横線はラッシュ時もパターンダイヤですよね。だから時刻表もすごく綺麗で、いつも感心しています!

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ダイヤ作成担当者の「10秒」の戦い

西本さん:嬉しいですね〜。ではもっとダイヤについて知っていただくために、こちらの数字はどうでしょう?ダイヤ作成に関わる数字です。

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伊藤さん:10…、まさか10秒単位でダイヤが組まれているとか?!

西本さん:大正解です!東急線では、10秒単位でダイヤを作成しています。

伊藤さん:10秒ですか!普段目にする時刻表では1分単位ですが、裏側ではそんなに綿密に考えられているなんて驚きです。

西本さん:ダイヤ上では、記号を使って秒単位まで運行情報を確認することができます。「スジ」と駅線が交わる箇所にフックのような記号があると思うのですが、これが形によって10秒、20秒、30秒…という意味になっているんです。

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ダイヤをよく見ると、スジと駅の交わる箇所にフックのような記号が。それぞれ秒数を表し、何時何分何秒に駅に到着・出発するかがわかる。

伊藤さん:「ひげ」と呼ばれる記号ですよね。

鈴木さん:さすがです!(笑) 特に運行本数が多い時間帯だと、運行時刻が数秒変わるだけで、お客さまに大きな影響が出てしまいます。何時何分何秒に駅に停車するのか、秒数まできっちり定めているんです。

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伊藤さん:こういった緻密な計算が、遅延を防いだり、万が一遅延が起きても収まりやすいような工夫になっているんですね。

鈴木さん:そうなんです。特に朝の時間帯には日中よりも運転時間や駅での停車時間に数十秒単位で余裕を持たせ、遅れが発生してもある程度収束できるようにしています。

伊藤さん:鉄道会社側が遅延対策のために秒単位での努力をされていると聞くと、われわれ乗客側もできることをしようと思います。例えば、なるべく空いている車両に乗るなども、スムーズな乗降につながり、遅延を防ぐことに貢献できるのかもしれません。

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便利な「相互直通運転」。ダイヤ作成で気をつける点は…?

伊藤さん:東横線をはじめとして、東急線には他社線との直通運転も多いですよね。ダイヤ作成は直通先の鉄道会社との調整も必須だと思います。特に大変な部分はありますか?

西本さん:運用が切り替わる境界駅(東横線・東急新横浜線の場合、副都心線に接続する渋谷駅と、相鉄線に接続する新横浜駅)での時刻調整ですね。お互いの会社の列車を発車させたい時刻、到着させたい時刻を擦り合わせています。特に直通している会社様の路線のさらにその先でも別の会社様に直通している場合は、その会社様も交えて時刻調整が必要になってきます。

伊藤さん:車両の相互乗り入れを行う場合、各社の車両走行距離がなるべく均衡するように調整していると聞いたことがあります。

西本さん:そうですね。相互直通運転をしていると、東急線の車両が他社線の路線を走ったり、逆に他社様の車両が東急線内を走ったりします。距離に応じて「車両使用料」が発生し、前者は他社様からお支払いいただき、後者は当社が他社様にお支払いします。
それぞれの車両使用料にあまり偏りが出ないよう、ダイヤ改正のタイミングで、乗り入れ車両の走行距離も考慮しているんです。

鈴木さん:とはいうものの、どうしてもピッタリ均衡させるのは難しくて。そんな時はいわゆる「清算運転」をして、走行距離を調整しています。

伊藤さん:「代走」とも呼ばれるものですよね。本来は東急の車両が走る時間帯だけど、今日に限っては(走行距離調整のために)他社の車両が東急線内を走る、というように。
僕は乗車した列車番号を記録するのが日課で。車両番号でどの鉄道会社の車両かがわかるので「あ、いつもは東急線の車両なのに、今日は○○線の車両の運用なんだ」と気づくと、ちょっと嬉しいです(笑)。

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ダイヤ改正に隠された「2年」の努力

西本さん:そこまで注目してくださっているのは嬉しいです!では、最後の数字はこちらです。こちらはダイヤ改正に関わる数字です!

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伊藤さん:2…。ダイヤ改正は2年ごとに行われるわけではないですし、なんの数字でしょうか?

西本さん:鋭い視点です!ダイヤ改正は、改正日の約2年前から検討を始めています!

伊藤さん:そんな前から検討をしているんですね。ということは、常に次のダイヤ改正に向けて準備をしている…ということでしょうか?

鈴木さん:そうなんです。ちなみに新線開業などの大きなトピックがあるダイヤ改正の場合は、さらに前の年から検討を開始しています。ダイヤ改正に終わりはなく、常により良いダイヤを求め次の改正に向けて動いています。

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伊藤さん:かっこいい〜!ダイヤ改正はどんな要素を判断材料にしているのでしょうか?

鈴木さん:お客さまからのご意見やデータを集め、素案を作っています。例えば「この路線のこの時間帯に遅延が多い」などのご意見をいただいた場合、各部門と連携して、改善策を練っています。
実は私たちも定期的に、実際に駅に足を運んでラッシュ時の運転状況や乗車率、混雑状況を調査しているんです。

伊藤さん:地道な作業があるのですね!

鈴木さん:ダイヤは鉄道会社にとって商品です。ずっと同じものを売るのではなく、飽きられないよう少しずつお客さまの声に応えてより良いものに改善していくことが必要なんです。

伊藤さん:素晴らしいです!では、これまでで印象に残っているダイヤ改正はありますか?

西本さん:自分が担当していたわけではないですが、2013年の東京メトロ副都心線・東武東上線・西武池袋線と東横線の直通運転開始ですね。東横線の車両が副都心線を経由して埼玉まで乗り入れたことが、画期的でした。

鈴木さん:あと、2023年の相鉄・東急新横浜線開業も印象的ですね。東横線から新横浜駅まで直通で行けるようになり、東海道新幹線へのアクセスが抜群に良くなりました。

伊藤さん:あれは僕も衝撃でした!東横線沿線での仕事後に新幹線に乗ろうとすると、これまでは渋谷駅まで出て乗り換えて品川駅…だったのが、乗り換えなしに新横浜駅まで行って新幹線に乗れるのがとてもラクで。相鉄線との乗り入れが始まったことで、相鉄線のネイビーブルーの車両を東急線沿線で見かけた時「歴史が変わったな!」と感じました。

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伊藤さん:最後に、ダイヤ作成のやりがいも教えてください。

西本さん:安全に遅れなく列車が動くことが、やりがいに繋がっています。たくさんのお客さまに東急線をご利用いただいているので、自分の仕事が社会貢献になっているのかなと感じられます。

鈴木さん:以前は運輸司令所にいたので、毎日ダイヤを見る仕事をしていて、「ここをもうちょっとこうしたらいいのに」と思うこともありました。そんな思いを持ってダイヤ作成の部署に異動したので、自分が作ったダイヤで列車が無事に走り切ると感動もひとしおです。今後ももっと勉強して、お客さまにとってより良いダイヤを作っていきたいと思います。

伊藤さん:普段は目にすることができないダイヤの裏側を知ることができて、本当に楽しかったです!今日はありがとうございました!

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身近な数字から広がる鉄道の世界。知れば知るほど面白く、日常の風景の中に新しい発見が広がっていくはずです。次に電車に乗るとき、少しだけ視点を変えて“数字の物語”を意識してみてはいかがでしょうか。

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取材・文/菱山恵巳子
撮影/高山諒
編集/ヒャクマンボルト

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