
再開発が進む中でも、日々の温かさや多様な活動が息づく鷺沼。その魅力を届けるべく、フリーペーパー「メゾンサギヌマ」がまちで活動する方々を訪ね、想いや取り組みをご紹介します。
Gravity店主 小川 宏子 × bonvoyage株式会社 代表取締役 和泉 直人
鷺沼在住50年でワインバー「Gravity」を営む小川さんと、鷺沼再開発のグランドデザインに関わるbonvoyage株式会社の和泉さん。暮らす立場と構想を描く立場。それぞれの視点から、再開発の“見え方”を語り合いました。
――再開発を最初にどう受け止めましたか。
小川さん:
正直に言うと、遠い話でした。駅前が変わる、建物が建つ、という情報は耳に入ってくる。でも、自分の暮らしとどう結びつくのかが分からなかったんです。説明会に行くのは、どちらかというと怒っている人、文句を言いたい人、という印象もあって。私は特別反対ではないけれど、積極的に関わる理由も見えない。だから不安だけが残る、そんな感覚でした。
和泉さん:
田園都市線沿線はベッドタウンとして発展してきました。住宅地としての利便性は高い一方で、それぞれのまちに明確な個性があるとは言い切れません。今後、人口減少や少子高齢化が進む中で、「選ばれるまち」であるためには、差別化できる特徴が必要だと考えています。
再開発で大切なのは、単に建物を更新することではなく、鷺沼がこれからどのような価値を持ち、どの方向に進むのかを示すことです。鷺沼らしさを考える際も、過去の歴史や既存のイメージに寄りかかるのではなく、これから目指す姿を軸に据えました。その結果、掲げたテーマが「知」です。
ここでいう「知」は学術機関や教育機能だけでなく、人と人が出会い、対話を通じて気づきや学びが生まれることも含む広い概念です。公共施設や商業施設、広場などが連動し、知が循環する環境を整えることを目標としています。再開発は、物理的な更新にとどまらず、まちの将来像と方向性を共有する取り組みでもあります。

――しかし、再開発には「短期的な利益のためでは?」という声もあります。
和泉さん:
そう見えるのは自然ですね。タワーマンションは課題も多いですが、日本の再開発は資金の回収をそれに依存せざるを得ないのが現状です。もし住宅販売で資金を回収できなければ、商業施設の家賃は高騰し、結果として全国どこにでもあるチェーンばかりになる可能性もある。だから単純に“良い・悪い”では語れないジレンマがあるのです。
小川さん:
お話を伺って「このまちのことをこんなに考えてくれている方がいるんだ!」と、本当に驚き見え方が変わりましたね。それまでは、ただ“計画”だと思っていたけど、メゾンサギヌマがきっかけで出会った方とつながり、一緒にまちを盛り上げていきましょうという渦になりつつあります。
和泉さん:
一つひとつの活動は小さな点です。でも点がつながると線になり、やがて面になる。再開発も同じで、ハードだけでなく、ソフトや関係性が重なって初めて意味を持つ。SUBURB(※和泉さんが鷺沼で営んでいた飲食店)やメゾンサギヌマを通じて点の活動を線にしてきました。SUBURBは閉店しましたが、小川さんやまちの皆さんに線を面にしていって欲しいと思います。

再開発は、完成した建物の姿だけで評価されるものではないのかもしれません。
どんな方向を目指しているのか。その羅針盤を共有できるかどうかで、同じ風景でも見え方は変わる。
対談を通じて浮かび上がったのは、「賛成か反対か」という二項対立ではなく、「どう理解し行動するか」という問いでした。
再開発を遠いものとして眺めるのか、対話の中で自分の立場を更新するのか。
その選択は、私たち一人ひとりに委ねられているのかもしれません。
【プロフィール】
小川 宏子(おがわ・ひろこ) Gravity店主
夫婦でワインバー「Gravity」を経営。コミュニティづくり・ポップアップランチなど、生まれ育った鷺沼のためにできることを日々模索している。
和泉 直人(いずみ・なおと) bonvoyage株式会社 代表取締役
まちづくりの全プロセスに伴走・プロデュースする「bonvoyage株式会社」を経営。鷺沼再開発のグランドデザインに関わる。
※この記事は2026年3月にフリーペーパー「メゾンサギヌマ」に掲載した内容を再編集しています。
掲載店舗・施設・イベント・価格などの情報は記事公開時点のものです。定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。










