元住吉という駅がある。神奈川県川崎市中原区ある東横線の駅だ。開業は1926年だから随分と昔から存在する駅ということになる。隣駅が武蔵小杉なので、降りたことがなくても、駅名を見たことがある人は多いのではないだろうか。
今回はそんな元住吉駅で幕の内弁当を作ろうと思う。幕の内弁当は自由だ。何を入れてもいい。元住吉駅周辺を歩き、気になるお店でお惣菜などを買い、お弁当箱に詰めていく。“これぞ元住吉”という幕の内弁当ができるはずだ。
今回、用賀駅で幕の内弁当弁当を作るのは…
地主恵亮（じぬしけいすけ）
ライター。 1985年、福岡県生まれ。 2014年より東京農業大学非常勤講師。 『デイリーポータルＺ』や『となりのカインズさん』など、執筆多数。著書に『妄想彼女』（鉄人社）、『ひとりぼっちを全力で楽しむ』（すばる舎）がある。
元住吉駅周辺とカラの弁当箱
幕の内弁当には実にいろいろなおかずが詰まっている。お店によって、季節によって、地域によってその内容は同じ「幕の内弁当」という名前でも異なる。ひと言で表すと「自由」ということになると思う。
そんな「自由」なお弁当、「幕の内弁当」を作るべく、元住吉駅を降りた。ここで元住吉ならではの幕の内弁当を作りたいと思う。カラのお弁当箱を持って、元住吉駅周辺を歩き、おかずを買って、幕の内弁当を完成させるのだ。
元住吉駅には西口と東口があるのだけれど、それぞれに商店街が存在する。西口には「ブレーメン通り商店街」があり、東口には「オズ通り商店街」が伸びている。どちらもメルヘンチックな名前だ。
どちらも活気のある商店街で、遠くまでお店が広がり、人通りも多い。これは期待できる。素晴らしき幕の内弁当ができる手応えを感じる。ということで、カラのお弁当箱を持って元住吉の商店街を歩きたいと思う。
バインミー「THAO’S BANH MI」でお弁当の軸をエスニックに
幕の内弁当は自由であると散々書いた。本来はご飯が主食となるのだけれど、まだお弁当箱にはご飯も入っていない。そこで今回は主食をパンにすることにした。バインミー、ベトナムのサンドイッチを主食とする。自由だ。
「THAO’S BANH MI」はこの場所で開店して10年ほどになる。店主は日本での仕事を辞めて、アメリカに留学した時にバインミーに出会い、日本に戻ってきてからこのお店を始めた。アメリカでバインミーに出会う方は意外に多いそうだ。
一番人気のメニューは「自家製ベトナムハムとレバーペースト」のバインミー。ベトナムハムはテリーヌのような感じで、いろいろな部位の肉を使い、粒胡椒やヌクマムなどを使い蒸されている。
パンも特注のもの。ベトナムのパンは現地で食べると美味しいけれど、日本に持ってくるとそんなには美味しくないと聞く。それは日本の気候などの問題らしく、ここでは日本の気候を加味したパンを使っているそうだ。食べる前から美味しいと確信した。
THAO’S BANH MI
・住所：神奈川県川崎市中原区木月2-1-1
・営業時間：月・水・木・金 10:30〜17:00、土曜日 11:30〜17:00、日曜日 11:30〜16:00
・定休日：火曜日／月曜日は不定休
スーパーなのにネパール料理がある「生鮮市場ダイイチ」
ブレーメン通り商店街で「生鮮市場ダイイチ」というスーパーを見つけた。入ってみると野菜や肉、魚などはもちろんあるのだけれど、お惣菜が他のスーパーとは異なるラインナップになっていた。
ここのお惣菜コーナーにはなぜかカレーとかナンとかビリヤニとかが並んでいる。かと思えば、ぬか漬けや切り干し大根などもある。日本とインド・ネパール料理が並ぶのだ。話を聞けば、周りのスーパーと差別化するためにネパールの方を雇い、10年ほど前から作っているそうだ。
生鮮市場ダイイチは、新丸子や日吉などにも店舗があり、このようなお惣菜を売っているそうだ。すごくワクワクした。スーパーではあまり見かけないお惣菜だし、それをネパールの方が作っている。本格的だ。マジで見たことないお惣菜があるのだ。
ニムキンなんて始めて見たし、聞いた。お店の方に聞くとうっすらと塩味がついているから、そのまま食べても美味しいし、おつまみとして食べても美味しいと言っていた。ネパールのスナック菓子みたいなものらしい。
生鮮市場ダイイチ ブレーメン通り店
・住所：神奈川県川崎市中原区木月3-14-33 1F
・電話番号：044-433-2881
・営業時間：10:00〜22:00
・定休日：無休
「能登屋」元住吉店でお弁当に日本の味もプラスしていく
バインミーにニムキン、サモサで、自由といわれる幕の内弁当が表現できている。ここで日本感も入れたいということで、美味しそうだったブレーメン通り商店街にある「能登屋」に入った。
能登屋は本店が大口駅（神奈川県横浜市）にあるさつまあげのお店。本店は100年ほどの歴史があり、元住吉店も60年ほどの歴史がある。お店の奥で職人さんが一つひとつ丁寧にさつまあげを作っている。毎朝作るそうなので開店は9時だけれど、全てが並ぶのが10時頃。この日は14時頃に訪れたのだけれど、売り切れているものもあった。
人気なのは「野菜揚げ」。人参と春菊と玉ねぎが入っており、玉ねぎの甘みが効いているそうだ。ただ今回は「えび巻」をチョイスした。エビフライのさつまあげバージョンみたいで、エビがまるまる1匹巻かれている。
白いのは「えだまめ」というもの。他のさつまあげは全て色で言えば「茶色」なのだけれど、えだまめだけが白かった。その白さに惹かれて選んだ。なんで揚げているのに白いんですか？と聞くと「企業秘密！」と。企業秘密に惹かれたところもある。美味しそうに感じる。
能登屋 元住吉店
・住所：神奈川県川崎市中原区木月3-6-22
・営業時間：9:00-18:30
・定休日：木曜日
豆にこだわる「MUI」で、食後のコーヒーを
最後はコーヒーのお店「MUI」でコーヒーを購入することにした。今回は買った一つひとつが大きくてお弁当箱に入りきれなかったこと、あとバインミーやサモサなどもあり、コーヒーが合いそうだったからだ。
こちらのお店は2013年にオープン。「豆は世界で1番いいものを集めている」という豆にこだわったお店だ。たとえばコーヒー豆に「エチオピア」ってあるけれど、それはワインだとフランスって言っているようなものらしい。こちらでは「ハンベラ ゴロ・ベデッサ」のように細かく表記されている。ハンベラは地域名で、ゴロ・ベデッサはゴロ・ベデッサさんの農園名らしい。農園によっても味は異なるそうだ。
いい豆を使い素材を活かすコーヒー、つまり美味しいということになる。この日は平日だったけれど、店内のすべてのテーブルが埋まっていた。豆は通販でも買うこともできる。またテイクアウトでコーヒーも購入できる。この日のテイクアウトのコーヒーは「マンデリン・オナンガンジャ カルドン農地」のものだった。
MUI
・住所：神奈川県川崎市中原区木月3-13-2
・電話番号：044-767-1368
・営業時間：10:00-19:00
・定休日：火曜、水曜
元住吉100％の幕の内弁当が完成！
4つのお店を回って幕の内弁当に詰めたいものを買った。美味しそうだな、もうこのまま食べたいな、という気持ちを抑えてお弁当箱に詰めていく。完成した幕の内弁当は多国籍でとても美味しそうな、元住吉だから完成したものだった。
一つひとつが大きいので存在感がすごい。幕の内弁当の自由さを見事に可視化している。元住吉がこのお弁当箱に詰まっている。海外にありそうなお弁当にも見えるけれど、さつまあげがあるから、これは日本のお弁当だ。
早速食べてみる。バインミーは美味しいのはもちろんだけれど、食感が面白い。野菜も多く、そこにオリジナルのベトナムハムとレバーペースト。口の中にモチモチ、シャキシャキ、コリコリなどのあらゆる食感が溢れる。ただ不思議にバランスが取れており、美味しいと感じる。パンがモチモチなのも私の好みだった。
サモサは割ってみると中はジャガイモがゴロゴロのカレー味。これが非常に美味しい。素朴な味わいなのだけれど、その素朴さは日本の素朴さではない。行ったことのない地域の素朴さ。なのに懐かしい美味しさに感じる。ボリューミーなのも素晴らしい。
初めて出会い、初めて食べる「ニムキン」。これが非常に不思議だ。味としては薄い塩味。パンチのある味ではない。硬いけれど、硬すぎるわけではない。そのせいだろう、食べ始めたら止まらなくなる。映画を見ながら食べたい感じ。私は好きだ。
エビ巻の豪華な感じが素晴らしい。生地に包まれて揚げられるからか、ブリンブリンの食感のエビがたまらない。えだまめもブリンブリン。弾力のある食感とえだまめの甘さがクセになる。もっと買えばよかった。
コーヒーも美味しかった。雑味がない、と言えばいいのだろうか。清らかな味わいのコーヒーなのだ。豆が持っている本来の甘みを感じる。清流って感じ。水が綺麗でサラサラと流れる清流。そのようなコーヒーがあるのかと驚いた。
まとめると素晴らしき幕の内弁当が完成した、ということだ。全てにおいてバランスがいい。あらゆる味わいが弁当箱に溢れており、それらは個々で主張するけれど、一体感を持っている。そのような幕の内弁当があるのだ。それが元住吉ということだ。
元住吉は活気に溢れるまちだった
元住吉駅を降りてまず思ったのは、商店街の活気だった。そして、いろいろなお店がある。ここに住めば毎日食事に困ることはないだろうと思う。というか、多くの人がそう思っているから活気がある商店街になっているのだ。隣駅が武蔵小杉っていうのも乗り換えとかできて便利な立地。いつか住みたいと思った。
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文/地主恵亮
写真・編集/高山諒（ヒャクマンボルト）
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Urban Story Lab.
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