東急日和

60年以上祐天寺に住む、和菓子屋女将が写した祐天寺駅「わたしの東急日和」

Urban Story Lab.

2025/6/7

東急線沿線に暮らす方に「写ルンです」を渡して、日常の何気ないワンシーンを撮ってきていただき、そのストーリーをひもといていく『わたしの東急日和』。

写真を通じて見えてくるのは、その街のお気に入りや、日常の中に息づく物語たち。懐かしい路地裏や、何気なく歩いた散歩道、いつも立ち寄るお気に入りの店など、そこにはその人だけが知る「東急日和」が広がっています。

記念すべき第1回は、和菓子屋「越路」の店頭に立ち、祐天寺の街を60年以上見守ってきたハルノさん。彼女の日常にはどんな風景が広がり、どんな物語が紡がれているのでしょうか。ハルノさんの撮影した写真とともに、ハルノさんがみてきた祐天寺駅を追いかけます。

今回撮っていただく方は…

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ハルノさん
祐天寺駅前の和菓子屋『越路』の2代目女将。福島県で生まれ、結婚を機に『越路』のある祐天寺駅に移り住む。以降、60年以上、越路の店頭に立ち、祐天寺の地元民に温かい接客をしてきた。娘夫婦へとお店を継いだ今も、元気があればお店に立ち、日々訪れる方に笑顔で迎える。

越路に訪れるお客さんや店員たち、日常の風景

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──今回『写ルンです』をお渡しして、写真を撮ってきていただきました。現像された写真をみて、いかがでしょうか。

ハルノさん:越路の日常風景がよく写ってるわね。カメラなんて普段撮らないから使い方とかよくわからなかったけれど、孫が一緒に撮ってくれてね。越路の中の風景や、越路に訪れるお客さんの表情、あとは恥ずかしいけど、私とお父さん(ハルノさんの夫)の姿。毎日の風景が写っていて、いいわよね。

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越路に和菓子を食べに訪れた、家族連れ
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ハルノさんのご主人で、『越路』2代目の店主

──祐天寺駅にある和菓子屋「越路」ついて教えてください。

ハルノさん:越路はね、もう76年くらいやってるかしらね。今の主人のお父様がはじめて、私たちがそれを継いで、今は私の娘たちがやってるから、親子3代でやってるの。

越路のメニューは和菓子もあるし、ラーメンもある。そんな店ないじゃないの(笑)。76年という歴史の中で、どんどんいろんなものが加わって今の形になってるのよ。

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「あんみつ」や「おだんご」といった和菓子のほかに、「ラーメン」といった変わったラインナップがある

ハルノさん:お客さんのリクエストに応えてメニューに加えたものもあるし、「これが良いんじゃない?」と入れていったものもある。とにかく不思議なお店よねえ。

私は1967年にね、福島県のいわき市から嫁いできて、この店に来たの。どこで拾われたんだか(笑)。あれはお見合いだったかしらね。今の人たちは便利よね、スマホでなんでもできちゃうんだから。 

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店頭に並ぶ和菓子たち

祐天寺は活気があって、毎日とにかく忙しかった

──福島から祐天寺に来たときの印象はどうでしたか?

ハルノさん:福島から来たとき、最初に驚いたのは踏切ね。電車がこんなにびゅんびゅんと走ってるなんて思わなかったわ。それと、お店の多さ。昔の祐天寺駅は、今よりももっと賑やかだったわよ。あの頃は本当に活気があったの。

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ハルノさん:毎日がとにかく忙しかったわ。あまりにも注文が入るから、お父さんが慌てちゃって、ラーメンのスープをバシャってひっくり返しちゃってね、救急車で運ばれたこともあったのよ。あれは越路に残る大事件ね。とにかく、あの頃は人がたくさん来てくれて、本当に忙しかった。

職人さんも昔はいたの。住み込みで働いてくれてた人もいて、みんなでご飯を一緒に食べたり、丁稚奉公(住み込みで働く従業員のこと)の子が独立していったり。暖簾分けして、“越路”の名前で他の場所に店を出した人もいたのよ。

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祐天寺駅前にはレトロな建物が立ち並ぶ

祐天寺のまちが変わったところ、変わらないところ

──ハルノさんは約60年祐天寺駅を見てきた中で、街やお店の変化についてどう感じますか?

ハルノさん:祐天寺駅は今でこそ、都会になったけどね。昔は、私たちみたいな個人商店がズラッと軒を連ねて、みんなが買い物をしにきてたのよ。

昔は買いに来る人も、お店同士もみんなが顔見知りで、一体感があった感じがするの。どんどん個人のお店がなくなって、チェーン店になっていくのはやっぱり寂しいわね。仕方がないことだけどね。

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祐天寺にあるローカルチェーン「ナンカ堂祐天寺1号店」は建物老朽化に伴い、2025年1月末日に閉店

ハルノさん:祐天寺駅は変わらないところもあるわ。祐天寺のお寺さんは昔と変わらず、そこにずっとあるし、お店の前の通りって、こんな狭いのにバスが走ってるじゃない?商店街のど真ん中を走る、この通りが祐天寺の特徴みたいなものよね。この景色はいつまで経っても変わらないわね。

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祐天寺の商店街はバスが行き交う道路がある
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祐天寺駅の駅名の由来にもなっている祐天寺。ハルノさんも定期的に通い、地元民に愛されるお寺だ

── 今は娘さんご夫婦がお店を継いでいますが、それでもなお、ハルノさんはお店に立ち続けていますよね。約60年お店で頑張れる、その秘訣について教えてください。

ハルノさん:頑張れる秘訣なんてないの。しょうがなくやってたら、こうなっちゃったのよ(笑)。昔は息抜きでよく旅行にも行ったけどね。今は毎日、ただ日常を繰り返すだけよ。

でもそんな当たり前の日常がいいのよね。

医者に行くのだって誰かに連れて行ってもらわなきゃいけないけど、職人さんやアルバイトの人たち、みんなに助けてもらっている。孫たちもお手伝いしてくれるのよ。中学生の孫は、バスケと絵が上手なの。しかも、「おばあちゃん、ちゃんとして」って一人前に怒ってくることも多いのよ(笑)。

近くの幼稚園の子どもたちも毎週お菓子を買いに来てくれてね。それがかわいいし、元気がでるの。これからの祐天寺を担っていく子どもたちだからね。地域で大事に育てていかなきゃって思うのよ。

変わらない毎日の中でも、お店に来る方の顔をみて、挨拶でもなんでも良いから、一言でも会話をして。今日も一日、無事に生きたことに感謝をする。

これからもそんな毎日を過ごしていきたいわ。

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編集部からのひとこと
お寺、バス通り、そして越路での毎日……昔から変わらない“当たり前の風景”を残しつつ、変化もし続けている祐天寺の魅力を、あらためて感じることができました。ハルノさん、ありがとうございました。

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インタビュー・文/高山諒
写真/ハルノさん
協力/祐天寺の魅力を発見する会

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まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。