9章
100年の歩み 20152022
持続的な成長を
展望して


Chapter9
2013(平成25)年の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定もあり、政府の方針を受けて訪日外国人数が過去最高の更新を続け、日本経済は政府・日銀における異次元金融緩和で緩やかな成長を続けた。一方で自然災害が増加傾向にあったほか、2020(令和2)年初頭からの世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の拡大は、世界経済に深刻な影響を及ぼすこととなった。
当社は渋谷や南町田などの開発や鉄軌道の安全対策を着実に推進すると共に、新宿歌舞伎町の開発に着手した。新規事業では空港運営事業として仙台国際空港などの運営を開始したほか、社内起業家育成制度がスタート、外部アライアンスやスタートアップ企業との事業共創を推進した。
2018年4月に髙橋和夫が社長に就任。国連によるSDGs(持続可能な開発目標)の採択やESG投資、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言などへの社会的な関心の高まりも背景に、サステナブルな「街づくり」「企業づくり」「人づくり」を基本方針に、中長期的な視点で成長を描くサステナブル経営の実践に軸足を定めた。
2019年9月2日、当社は東急株式会社に商号を変更、同年10月1日に鉄軌道事業を東急電鉄株式会社へ承継する分社化を実施した。当社は事業持株会社の東急株式会社となり、グループ経営の高度化を図った。あわせて「長期経営構想」を発表し、2050年を見据えた長期目線で未来を見通した「東急ならではの社会価値提供による“世界が憧れる街づくり”の実現」をビジョンに掲げた。2022年には「環境ビジョン2030」を発表。さまざまな社会変容にも「変革」の志で取り組み、都市インフラの担い手として、美しい生活環境の創造を継続し、循環型社会の実現を推進している。


進化を進める交通インフラ事業
東急線ではホームドア・センサー付固定式ホーム柵について大手民鉄として初めて設置率100%(世田谷線・こどもの国線を除く)を達成。車内防犯カメラや踏切障害物検知装置の設置を完了させたほか、世田谷線に続き2022年4月からは鉄道会社初の鉄軌道全線で再生可能エネルギー由来の電力100%での運行を開始するなど、業界でも初となる取り組みが相次いだ。
2018年3月からは田園都市線に2020系車両の導入を開始。さらに相鉄・東急直通線の東急新横浜線の開業を控えて目黒線の8両編成化を進めたほか、大井町線などで有料着席サービスも展開した。
また、空港運営事業に参入し、当社が主体となる仙台国際空港の運営で先例を示したほか、北海道エアポート(新千歳空港など7空港)、富士山静岡空港、広島空港の運営にも参画した。




不動産事業
「次世代郊外まちづくり」(横浜市)をはじめ沿線各自治体との連携により、地域が抱える課題の克服に向け、行政や住民と協働した街づくりを深化させ、沿線価値の向上を図った。町田市と締結した基本協定のもとで、南町田駅周辺で都市基盤、商業施設、公園を一体的に整備。新しい暮らしの拠点として2019年11月、「南町田グランベリーパーク」がまちびらきを迎えた。また、渋谷区と川崎市で公園施設の整備・運営を開始し、PPP/PFIへの取り組みも強化している。
「ドレッセ」「ノイエ」「スタイリオ」などマンション、戸建て販売、賃貸住宅事業も積極的に展開したほか、2021年3月には池上駅直結の商業施設「エトモ池上」を開業、駅と街の一体感を示すと共に、地元と連携して地域活性化をめざす取組みを、商業施設運営を担う東急モールズデベロップメントなどと共に行っている。






渋谷や新宿の都市開発
渋谷再開発では「100年に一度」と言われる都市基盤整備の進捗と共に、東横線線路跡地と渋谷川沿いの空間を生かした「渋谷ストリーム」、渋谷駅直上の「渋谷スクランブルスクエア」(第1期東棟 東日本旅客鉄道、東京地下鉄との共同事業)、東急不動産が中心となって進めた「渋谷フクラス」、「渋谷ソラスタ」などの開業が相次ぎ、都市基盤整備の進展も含めた渋谷の大改造が大きく前進した。
渋谷に続く都市開発では、新宿歌舞伎町のTOKYU MILANO(新宿東急文化会館)跡地に、新たなランドマークとなる「東急歌舞伎町タワー」が当社と東急レクリエーションの共同事業として2023年4月に開業予定である。
また、こうした大規模複合施設の開発とあわせて取り組んできた不動産管理・運営機能の強化として、2021年4月に東急プロパティマネジメント株式会社が発足した。東急ファシリティサービス株式会社からの商号変更によるもので、賃貸資産の価値向上を目的に、当社の不動産管理・運営に関する業務を順次同社に移管することとした。




生活サービスの拡充
東急百貨店や東急ストアの各店舗、東急ベル、東急セキュリティ、東急パワーサプライの「東急でんき&ガス」、イッツ・コミュニケーションズとケーブルテレビ品川の事業など、東急グループが展開する多岐にわたる事業の顧客接点を強みに、顧客基盤のグループでの共有化を図り、こうした情報を元にグループ外企業とのアライアンスも含めたリアルとデジタルを融合したマーケティングを深度化、さらなる提供分野の拡大をめざした。
また、子育て支援として「キッズベースキャンプ」の施設を拡充、2018年からは未就学児保育事業にも参入した。


ホテル・リゾート事業
年々増加の一途を辿っていた訪日外国人旅行客の増加に対応すべく、都市圏を中心に新規ホテルの開業を加速。これと並行して、東急ホテルズのブランド再編、スタイリッシュなデザインや水素燃料を利用したホテルなどの新機軸も導入しながらサステナブルな取り組みも進めたほか、会員制リゾート事業のビジネスモデル転換などを進めた。



海外でのまちづくり
2012年より着手したベトナム・ビンズン新都心の開発「東急ビンズンガーデンシティ」では、各層にターゲットを合わせたマンションや住宅街、大規模商業施設などを開発、バス路線の運行と路線網の拡大など、東急グループの強みを発揮した事業展開をしている。タイでは主に日本人駐在員家族向けの賃貸住宅を皮切りに、分譲住宅事業にも参入した。




イノベーション・マインドの醸成
次世代の主力となる新規ビジネスの立ち上げに多角的な視点から取り組んだ。内なる事業創出として開始した社内起業家育成制度により、法人企業相乗り型会員制サテライトオフィス事業「NewWork」が働き方改革の時流を先取りした新規ビジネスとして定着し、店舗網を広げた。その他にも新しい発想により事業化される案件が続いている。
また、外部との連携では「世界が憧れる街づくり」を共に創るパートナーとして、さまざまな知見を持つスタートアップ企業を呼び込んで協業するオープンイノベーションの取り組みを制度化させ活発化し、将来に向けた種が蒔かれつつある。


次の100年に向けて
創立100周年を目前に控えた2020年以降、新型コロナウィルス感染症の拡大により、人の移動や交流が控えられ、ホテル・リゾート事業、鉄軌道をはじめとした交通事業、百貨店・SC事業などは業績後退を余儀なくされた。当社や東急グループ各社では生活や経済活動を支えるインフラの担い手として顧客と従業員の安全・安心を最優先にしながら事業継続を図ると共に、既存の各事業では新しい生活様式に適合したビジネスモデルの見直しを急いだ。
この間、従業員の働き方では、多様な職務や個人の環境に合わせ、就業する時間や場所に柔軟性を持たせ、生産性の高い業務の実現を図るなどの取組みが行われている。また、「なでしこ銘柄」に10年連続選定されたほか、「健康経営銘柄」の7年連続選定されるなど、外部からも評価をいただいている。また、「長期経営構想」を発端として、内なるイノベーションを図る新組織としてフューチャー・デザイン・ラボと、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたデジタルプラットフォームを設置。次世代の成長を牽引する新たな胎動を呼び込むこととした。
当社および東急グループは2022年9月2日、創立100周年を迎える。スローガン「美しい時代へ―東急グループ」の具現化に向けた挑戦は、これからも続いていく。



