8章
100年の歩み 20052014
構造改革から
成長へ、充実の
ステップを歩む


Chapter8
日本経済は、リーマンショックや東日本大震災(2011年)による影響はありつつも、政府の積極的な財政出動と金融緩和を背景に徐々に持ち直してきた。一方で日本では少子高齢化が進み、日本の総人口は2008年をピークに減少へ転じたが、東急線沿線人口の増加基調は継続していた。
「選択と集中」の実行により、東急グループ各社の財務健全性回復に一定のめどがついたことから、2005年度以降からの当社の中期経営計画では成長路線へ舵を切るとともに、同年6月には越村敏昭が、2011年4月には野本弘文がそれぞれ新社長に就任した。2000年の「東急グループ経営方針」で掲げた沿線に経営資源を集中させる方針は堅持し、「選ばれる沿線」、「ひとつの東急」、「日本一住みたい、訪れたい、働きたい」といった内外に分かりやすいビジョンを示し、事業を推進していった。
鉄軌道事業
鉄軌道事業では「目蒲線の活用による東横線の複々線化」が完成した。目黒線不動前~洗足間が地下化されたのに続き、2008年に東横線武蔵小杉~日吉間の複々線化が完成し、目黒線が日吉駅まで延伸した。そして、「大井町線の改良・延伸による田園都市線の複々線化」については、2009年に田園都市線二子玉川~溝の口間の複々線化が完成し、大井町線が溝の口駅まで延伸した。大井町線は6両編成で急行運転を開始(のちに7両編成に増強)した。これにより、東横線と田園都市線の混雑対策としてのバイパス機能の整備が一つの区切りを迎えた。
東横線と東京メトロ副都心線との相互直通運転の実施に向けた工事では、優等列車の10両編成化対応を含む「東横線渋谷~横浜間改良工事」に着手、東横線渋谷駅が地下化されるとともに、東京メトロ副都心線を経由して東武東上線および西武有楽町線・池袋線との相互直通運転と10両運転を開始した。なお、東横線と東京メトロ日比谷線との相互直通運転は終了となった。これにより東横線、田園都市線、目黒線の3線がそれぞれ東京、神奈川、埼玉に直通する一大ネットワークとなった。
運輸政策審議会にて答申された「神奈川東部方面線」については、日吉駅から新横浜駅を経由して相模鉄道の西谷駅までの路線(東急新横浜線および相鉄新横浜線)が認定された。同区間の建設は鉄道・運輸機構が、運行は当社(のちの東急電鉄)と相模鉄道が担うこととなった。
安全やサービス向上の取り組みでは、ホームドアを順次進める一方、ICカード乗車券「PASMO」を導入したほか、スマートフォンアプリによる情報提供などハード・ソフト両面で利便性向上の取り組みを進めた。
そして当社の歴史に大きく刻まれることになったのが、2014年2月の東横線元住吉駅での列車衝突事故である。安全設備を整えていたにも関わらず、多数の負傷者を発生させてしまったことを教訓に、安全への取り組みを見直し、地震以外の自然災害や、万が一多数の負傷者が発生した場合の支援体制を整備し、事故の伝承と安全教育の更なる強化を進めた。











はじまった「100年に一度」の渋谷開発
不動産事業では、東横線渋谷駅の地下化にあわせ東急グループの本拠地である渋谷の駅周辺開発、いわゆる「100年に1度の開発」が本格化した。世界では情報化と国際化が進み、日本では少子高齢化といった大きな変化に合わせ、都市機能の高度化を急ぐべく、都市再生特別措置法にもとづき、渋谷駅周辺139haが「都市再生緊急整備地域」に指定され、次いで「特定都市再生緊急整備地域」にも指定された。
渋谷新文化街区では、行政や地権者と調整を図りながら開発計画を具体化させ、2012年にオフィス、商業施設と劇場(東急シアターオーブ)などからなる複合施設「渋谷ヒカリエ」が開業した。渋谷駅街区ではJR東日本や東京メトロとの共同事業として、「渋谷スクランブルスクエア第Ⅰ期(東棟)」の建設に着手するとともに、渋谷駅南街区で「渋谷ストリーム」や東急不動産が中心となった道玄坂一丁目駅前地区で「渋谷フクラス」の計画が進むなど、渋谷の街の課題とされてきた駅中心部の谷底地形を克服するための工夫も盛り込みながら、多くの来街者を受け入れることができる回遊性の高い街づくりを進めた。



渋谷以外の拠点開発
このほかの拠点開発としては、東急不動産とともに二子玉川東地区の再開発事業を推進し、商業、オフィス、ホテル、分譲マンションなどからなる「二子玉川ライズ(第1期)」が2011年に開業、地域の新しいシンボルとなった。たまプラーザでは駅を中心とした商業施設「たまプラーザテラス」が、永田町のキャピトル東急ホテル跡地にはオフィスと東急ホテルズのフラッグシップホテル「ザ・キャピトルホテル 東急」などからなる「東急キャピトルタワー」が開業した。






不動産賃貸事業の拡大
不動産賃貸の新事業として、2009年に直営の賃貸住宅事業を開始。沿線駅近辺に単身若年層を主なターゲットにした賃貸マンションを建設、「スタイリオ」のブランド名で展開を進めた。

生活サービス事業
沿線生活に関連した事業展開ではリテール事業を包含する生活サービス事業を第3のコアに位置づけ、2012年にホーム・コンビニエンスサービス「東急ベル」を開始、既存のケーブルテレビ事業やセキュリティ事業などとともに、沿線地域住民の生活により密着したサービスの提供をめざした。
さらに、中長期的な国内人口動態の変化を見据えた取り組みとして、日本初の駅上病院として大岡山駅の人工地盤上に東急病院を移転、従来病院があった場所には2010年にサービス付シニア住宅「東急ウェリナ大岡山」を開業した。また介護サービス事業「オハナ」を展開したほか、子育て世代支援の拡充として「キッズベースキャンプ」を子会社化して学童保育事業に進出した。




海外事業への再進出
2010年代に入り、当社では縮小していた海外事業の再展開を開始した。特にベトナムでは、多摩田園都市開発で培ったノウハウも生かしながら、現地企業との合弁事業としてビンズン省における新都市の建設を開始した。
