
「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」とは、中国の雲門禅師の言葉で「どんな日々もかけがえのない、素晴らしいものである」という意味(諸説あり)。そんな素敵な言葉にならい、都会における「緑のある風景」の素晴らしさをあらためて探し、そして満喫しよう!というのがこちらの企画「日日是緑日」だ。
今回の舞台は梶が谷駅。前回の江田駅編では Google マップの“緑ポイント”を頼りに歩いたが、今回はあえてノープラン。ひたすら自分のフィーリングと偶然に身をまかせてまちをさまよってみた。
ほしあさひ
千葉県生まれ。編集者・ライター。日々おだやかな生活を送るためにさまざまな実験を行う。散歩とサイゼリヤとデカい犬が好き。
坂のまち、梶ヶ谷へ!
二子玉川駅からおよそ6分、渋谷駅からならおよそ23分。
田園都市線でたどり着く梶が谷駅は、多摩丘陵(関東ローム層をまとった台地) の裾野にあるため起伏が大きく、駅前からいきなり坂道のオンパレード。平坦な場所はほとんどなく、かつての谷地形がそのまま街並みに残っている。歩けば足にほどよい刺激、見晴らしも抜群。そんな“坂のまち”が梶ヶ谷だ。


梶が谷駅は、多摩丘陵が多摩川低地へ落ち込む「崖線」の肩に当たる。そのため、駅自体は丘の“切れ目”に設けられいて、橋上駅舎で両側の高低差を吸収している。改札を出た瞬間、駅らしからぬ光景が広がっていて楽しい。

梶が谷駅周辺は飲食店や商店が軒を連ねるような賑わいはなく、駅前とは思えないほど落ち着いた雰囲気が漂っている。改札を背に、南へ緩やかに下る坂道を歩いてみよう。

道端で“根性系緑”と出会う
駅を出て数分も歩けば、ゆるやかな坂が続く静かな住宅街が。こういうところを目的もなく歩くのは結構好きである。

穏やかな街並みですねぇ〜と呑気に歩いていると.......


道端にでっか〜〜〜いアロエが!!こんなに伸び伸びと育っているアロエを久々に見たので興奮。住人の方が丁寧に育てているのか、はたまた勝手に大きくなったのかは不明。のびのびと育ってるな〜!


なんと、そのすぐ隣にも緑が。遠目からだと星が散らばったように見えるこの多肉植物は「グラパラリーフ」という名前だそうだ。見た目からは全く想像できないが、食べられる“スーパーフード”らしい。葉4枚で牛乳1杯分のカルシウムがとれるうえミネラルも豊富だという。道端にそんな健康食が生えているなんて......!

さらに道を進むと、コンクリートの間から芽を出す“根性系緑”を発見。こちらはトウダイグサ科の「アカメガシワ」の若木。伐採などでその場の生態系がリセットされると、真っ先に芽生えるパイオニア植物なのだとか。まさに根性系。
過酷な状況を生きる植物と出会うと、「私もこのぐらいしぶとく生きねば」という気持ちになる。励ましてくれてありがとう。
個性的な個人商店たち
駅から離れると目立ったチェーン店は見当たらなくなり、代わりに味わいのある個人商店が目立ってきた。なんとなく、地方都市をあてもなく歩いている時の感覚と似ている気がする。


今私が住んでいるまちには野菜の直売所がないけれど、実家の近くにはあったから、見かけるとつい寄りたくなる。“直営”という響きもなんだか好きだ。
さらに坂を降っていくと、味わい深い看板を発見。「水」と「みどり」、奇跡の組み合わせの個人商店が連なっていて思わず目を見張った。


自然いっぱいの憩いの場「梶ヶ谷第一公園」
生い茂る緑が奥にあることに気がつき、足を運んでみると、広々とした公園にたどり着いた。こちらは梶ヶ谷第一公園。大きめの遊具もあり、面積も広いので近所で暮らす親子連れに人気だそう。今日も子供たちの笑い声が響いていた。

坂に寄り添う広い丘と、ビッグ遊具、そして280本のサクラがそろった住宅街のオアシス。花見シーズンから秋の紅葉、真夏の水あそびまで年中遊べる万能公園だ。


子供たちが喜びそうな遊具がたくさんあるが、大人にとってもありがたい休憩スペースもあった。

宮崎台に住む友人が、最近この公園で絵を描いたり本を読んだりしているらしい。ゆったりした時間が流れていて、落ち着ける場所なんだとか。こんな公園が近所にあったら通いたいものだ。

ここは多摩丘陵の肩に当たり、奥側がゆるい斜面になっている。芝生の丘を登ると住宅街を見渡せるプチ展望が楽しめるみたい。


なんとこの公園には湧水を生かしたせせらぎエリアもあり、夏場は子どもたちの水遊びスポットらしい。




さて、たっぷり公園を堪能したので、再び南の方へ歩き始める。このあたりの土地勘は全くないので、とりあえず歩く。フィーリングに従って気ままに行動するのも悪くない。
“のぼる・くだる・見下ろす” が連続するまちを歩く
何度も言っているが、梶が谷駅周辺は地形の関係でとにかく坂道・崖・階段だらけの土地柄だ。

ここに住んでいる方々は他の地域よりもとりわけ足腰が強いのだろうと察する。
私も3〜4時間歩き回っているが、登ったり降りたり......をひたすら繰り返しているため、かなり体力が持っていかれている。
歩いていて気がついたことがある。梶ヶ谷は小さめの公園が多いのだ。地形によって「段差」が入り組むから、高低差によって生まれた小さなスペースが公園化しているのだろうか...?
調べてみると、起伏に富む地形のおかげで生まれた“段差のスキマ”が、そのまま緑地になっているらしい。造成時に切土・盛土では平らにしきれなかった三角形や帯状の急斜面を、開発業者が公園として市に寄付しているそうだ。その結果、街角ごとに「ベンチと植栽だけ」のポケットパークが点々と散りばめられているのだとか。地形が生んだ“余白”を都市計画が受け止めた、言わば“地形と法律の合作”とも言える。

この公園も、住宅の隙間を縫ってできた公園のようで、とっても小さい。坂道の途中にあり、ほっと一息休憩するのによさそう。


じっくりまちをあるくと、ちょっとおもしろい光景が。


歩き続けていると、突然開けた道に出るのが梶ヶ谷の面白いところ。高台からまちを見下ろしてもの思いにふける......というのが、どこでもできてしまうのだ!



道を下っていくと、またスキマに公園を発見!こちらはかなりミニマム。ベンチに座ると、対面に動物の遊具があるので、目があって気まずい。

大通りの方へ出ると、地形が三角形の面白い畑に出会った。これも地形と法律によってできてしまった緑地ということなのだろうか?

無計画のまま、さらに奥へ進んでいくと、大通りへ出た。地図をあまり見ずにフィーリングで歩いてきてしまったので、慌てて現在地を確認する。
歩き疲れてしまったので、そのまま宮崎台駅へ向かい、今日の散歩を終えることにした。


歩けば歩くほど癖になる、梶ヶ谷というまち
梶ヶ谷には初めて降り立ったのに、どういうわけか懐かしい気持ちになった。改札を抜けた瞬間、ホームの真下に谷がぱっくり口を開けていて、なんだか別世界にきたような感覚もあり、それが面白かった。
坂だらけのまちをひょこひょこ上り下りしていると、いきなり視界が丘の向こうまでスコーンと抜け、「おお……」と圧倒される。歩けば歩くほど、坂の向こうから新しい景色と緑が現れて、飽きないまち。日頃の運動不足ゆえ、足はパンパンになってしまったが、適度な疲労と充実感があった。ノープランでこれだけ面白いのだから、次は地形図を片手にじっくり歩きたい。

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文/ほしあさひ
写真/Ban Yutaka
編集/ヒャクマンボルト
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Urban Story Lab.
まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。