Bunkamura屋上より、東急百貨店本店跡地を臨む

渋谷駅周辺とは一線を画す、文化発信拠点として
Shibuya Upper West Projectに見える
“東急らしさ”とは

渋谷駅の西側には、エネルギーにあふれた渋谷スクランブル交差点周辺とは一線を画す、歴史と文化が息づく“もう一つの渋谷”が広がっています。この「Shibuya Upper Westエリア」のDNAを継承しながら、新たな時代に向けてアップグレードを目指す開発計画が、二つのエリアの結節点にあたる東急百貨店本店跡地を舞台に進められています。プロジェクトが描き出す未来にはどんな“東急らしさ”があるのか。担当者二人に聞いてみました。

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お客さまの
生活に根差していること
それが東急にしかできない
“まちづくり”

――東急ならではの“まちづくり”とは、どういった部分にあるのでしょうか?

松永 「“まちづくり”とは、単にビルをつくることではない」などとよくいわれますが、やはり「人の暮らしに寄り添った日常をつくっていくこと」が、東急が考える“まちづくり”の本質だと思います。私は初期所属が商業施設の運営で、お客さまの顔が本当によく見える環境で仕事をしてきたのもあって、それはとても強く実感しています。

松田 私もそう思います。建物をつくるだけでなく、そこで暮らす人、働く人の日常をどうすれば豊かにできるのか。それを社員一人ひとりがそれぞれの立場で考えながら、常にお客さまの視点に立って仕事をしていくのが、東急が考える“まちづくり”だと感じています。私自身もタイで、サービスアパートメントの拡張工事に携わった際にはお客さまと対話しながら事業を進めていったので、今もその姿勢を大切にしています。

松永 他社デベロッパーと違って、グループ会社を含めていろいろな事業をやっていることも東急ならではの強みだと思います。たとえば、多くのお客さまにとって身近な生活サービス事業だったり、鉄道事業だったり。私たちが“まちづくり”をできるのは、そういった事業を通じて築かれてきた信頼感や安心感がベースにあってこそですから、お客さまの生活に根差していることを大切にしなければいけないと常に考えています。

――「働く」「遊ぶ」「暮らす」が融合した持続性のある街としての「渋谷」を実現するために、どんな取り組みを行っているのでしょうか?

松田 東急の渋谷におけるまちづくりは1927年東横線渋谷駅の開業にはじまり、人々の生活を支える場として、東横百貨店、東急文化会館、東急百貨店本店やBunkamuraがまちのにぎわいを創出し、東急がまちづくりにずっと向き合ってきた最重要拠点です。これまでも駅周辺では再開発が次々に進められてきましたが、今は「暮らす」という視点を深掘りしていく新しいフェーズに入っています。

特に渋谷駅の西側には東京を代表する高級住宅地である松濤があって、さらにその奥には富ヶ谷、上原、駒場といった、多くの方々が暮らし、豊かな文化を築き上げてきたエリアが広がっています。こうした「Shibuya Upper Westエリア」に以前からお住まいの人たちの日常を守りながら、この地の魅力を沢山の方々に知っていただきたいと思います。さらには、渋谷駅周辺で働いている人や遊びに訪れた人たちにも、このエリアまで足を運んでいただき、文化的で上質な体験を通して、“もう一つの渋谷”の魅力を知ってもらう。渋谷の街のさまざまな魅力を訪れる人に伝え、人の流れを連続的に生み出していくために、渋谷駅周辺とその西側エリアの結節点にあたる東急百貨店本店跡地を舞台に、私たちが進めているのが「Shibuya Upper West Project」になります。

竣工がゴールではなく、
その後も価値を
高め続けられる
文化的にも意味のある
プロジェクトでありたい

――「Shibuya Upper West Project」について教えてください。

松永 東急百貨店本店が55年間の歴史に幕を下ろすにあたり、その跡地をどのように活用していくのか。東急にとっても思い入れのある場所であるため、さまざまな視点で検討を進めてきました。最終的に決定したのがリテール、ホテル、レジデンス、ミュージアムなどを含む複合施設の建設で、2025年3月11日に起工式がとり行われ、2029年度の竣工を目指しています。

そして、プロジェクトのキーコンセプトとして掲げられた「Tokyo’s Urban Retreat」には、渋谷の喧騒から離れた落ち着きや安らぎ、さらには創造的な発見ができる都心のオアシスとして機能する空間を提供していきたいという思いが込められています。

Image by Mir, Copyright Snøhetta and NIKKEN SEKKEI LTD

2025年8月現在の東急百貨店本店跡地(文化村通りから撮影)

松田 今回のプロジェクトでは、世界に誇れる渋谷の新たなランドマークを目指していきたいという思いから、グローバルな不動産開発投資会社として世界の主要都市で次世代型のアイコニックな複合施設開発を展開している「L Catterton Real Estate(LCRE)」とパートナーシップを締結しました。建築デザインには、その土地の持つ歴史やランドスケープに合わせながら、サステナブルでコンセプチュアルな建築の実現に定評があるノルウェーの建築・デザイン事務所「Snøhetta」を起用。また、2025年1月の着工時には「Tokyo’s Urban Retreat」のキーコンセプトに基づいて、建設現場の仮囲いに苔を活用し、緑視率向上など環境への取り組みも実施しています。

松永 当プロジェクトでは、渋谷駅周辺と東京を代表する住宅地・松濤の結節点である立地特性を生かして新たな都市型居住の実現を目指し、上層部にはレジデンスを採用しました。

また、このエリアには周辺の住民のみなさんと一緒に培ってきた、駅周辺とは異なる雰囲気と品格があります。そういった部分を今後も残してほしいという多くの方々のご期待にそえるよう、「高価なものが揃っている」「贅沢ができる」ということよりも、家族や親しい方と過ごす日常がよりよくなるよう、このエリアに根付いている文化的で魅力ある価値を提供していきたいです。

そもそも渋谷は文化の発信地ですし、東急自体も、文化に対する理解の深さと寛容さをもっています。Shibuya Upper West Projectでは、より一層、Bunkamuraと共に魅力的な文化的な体験の提供や、新しい文化の発信をできるようにしていきたいとも考えています。パートナーシップを結んだLCREも、米国フロリダ州のマイアミで、アートを主軸に置いた複合施設を開発した実績があるため、私たちもその手腕に大きく期待しています。

――プロジェクトを実施するにあたって、挑戦した点についてお聞かせください。

松田 東急はこれまで国内のプロジェクトで国際的なパートナーと組む機会が少なかったため、LCREをはじめ、ホテルオペレーターであるSwire HotelsやSnøhettaという多くの国際的なパートナーとの国内プロジェクトでの共同事業は、東急にとって新しい挑戦だと感じています。事業者間にとどまらず、数多くの関係者のみなさんの想いや意見を束ねていくことに苦労もありますが、その分、東急の視点だけではなく、多面的な視点でプロジェクトの開発に取り組むことができるという利点もあります。それぞれの意見を大切にしながらプロジェクトを進めていきたいですね。

松永 開発は、竣工というゴールを目指してプロジェクトを進めていきます。もちろん、それは間違いではないのですが、商業施設の運営に携わってきた立場から見ると、その先にある開業後の姿にゴールを置きたくなります。開業後にどれだけ施設の価値を上げ続けられるのか。お客さまにとってどれだけ使いやすく、お客さまの暮らしにとってどれだけプラスになるのかを考えていくことの方が、より大切なのではないかと思っています。そして、お客さまのその後の暮らしにどれだけ寄り添っていけるのか考えながら開発を進めていく姿勢は、とても東急らしいと感じていますし、私もプロジェクトに携わるひとりとして、その実現に向けて挑戦していきたいです。

用途配置図

「Shibuya Upper Westエリア」の存在が
新しい渋谷の街を
つくっていくカギになる

――プロジェクトをきっかけに、渋谷という街にどんな未来が描き出されることを期待していますか?

松田 渋谷という街は、本当に広くて、さまざまな表情をもっています。なかでも「Shibuya Upper Westエリア」には、駅周辺のような便利さや華やかさはありませんが、感性を刺激する奥深い魅力がたくさんあります。新しい施設では、いろいろな文化を身近に感じたり、買い物を楽しんだり、都会の喧騒を離れてゆったりしたり、いろいろなことを融合しながら楽しんでいただきたいと思っていますが、それと同時に渋谷の西側へ足を踏み入れるきっかけになる場所になってほしいです。

また、新施設には日本初進出となるホテルブランド「The House Collective」も開業します。国際的に感度の高い方々やビジネスパーソン、世界的に著名な文化人も数多く訪れるようになることで、渋谷がグローバル都市として進化していくのを後押ししてくれるはずです。

松永 松田さんのいうように、渋谷区は本当に広いんです。これまでは渋谷駅周辺や表参道、代官山がクローズアップされがちで、渋谷駅の西側に対する注目度はあまり高くありませんでした。今回のプロジェクトを足がかりに、渋谷駅から西へ、人の流れが活発になってほしいと思うと同時に、「Shibuya Upper Westエリア」で暮らしていらっしゃる方々と共にこの土地に根付いたDNAを継承し、新たな時代へと引き継いでいけたらうれしいですね。

――最後に、プロジェクトにかけるお二人の想いをお聞かせください。

松田 プロジェクトに携わっていると、たくさんの関係者のみなさんから「本店によく買い物に行っていたよ」「閉店のときに行きました」とか、「Bunkamuraで演奏したことがあります」という人までいらっしゃって、改めてこの場所がいろいろな人たちに愛されていたことが身に沁みます。そういった方々の気持ちに応えられるようにと大きなプレッシャーを感じていますが、このプロジェクトを成功させることで、これまでにない文化的な都市の豊かさを提供していきたいですし、新しい渋谷の魅力をつくっていきたいです。

松永 東急百貨店本店55年の歴史を引き継ぐ新施設に向けられた期待感に、どのようにこたえていくかという点には、私もプレッシャーを感じずにはいられません。そして、これまで東急百貨店本店を日常的に使っていらっしゃったお客さまに、再び訪れたいと思っていただくためには、これまでと変わらないクオリティや安心感を残しながら、アップデートしていくことが欠かせません。新しいものをゼロからつくっていくのとは違った難しさが、今回のプロジェクトにはあるわけですが、とにかくみなさんの期待にこたえられるよう、2029年度の竣工を目指して全力で頑張っていきたいです。

プロフィール

松田 志野

都市開発本部 渋谷開発事業部 プロジェクト推進第一グループ
Shibuya Upper West Project担当

2017年入社。研修後は国際事業部に所属し、主にタイの事業を担当。2021年より現地に赴任すると、日本人駐在員の家族向けサービスアパートメントの拡張工事、分譲住宅のプロジェクトマネジメントなどに携わる。2024年からプロジェクトマネジメントとして現職。関西出身ということもあり、渋谷は「憧れの街」というイメージ。また、海外赴任していた3年の間に、渋谷の街が大きく変貌していたことに驚かされた。

松永 奈々

都市開発本部 渋谷開発事業部 プロジェクト推進第一グループ
Shibuya Upper West Project担当

2019年入社。研修後、東急グループで商業施設の運営を担う東急モールズデベロップメントに出向。南町田グランベリーパークの運営業務後、スタジアムや公園、商店街などの商業企画業務に携わる。2024年から現職、商業企画業務を担当している。小学生の頃から通学していた渋谷はプライベートでも一番身近な街で、「自分がそのまちづくりをする側になることに使命感とワクワクを感じています!」

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