
黄金に輝く滑らかなプリン、素材同士のハーモニーを感じるパフェ、美しくデコレーションされたケーキ。味で、見た目で、人々の心を癒してくれるスイーツはもはや芸術品。ならばこちらも正装で食べるのが正解なのではないか。敬意を持って食せば、日常のスイーツが特別な食体験に変わるはず。
この企画では、大人の嗜みとしての“スイーツ”の味わい方を、“スーツ”を着た紳士、その名も“甘党紳士”が紹介します。
中延にのこる、クラシカルな喫茶店

本日、甘党紳士が訪れたのは大井町線中延駅の「喫茶ニュープリンス」。1964年創業の純喫茶だ。地元の方はもちろん、そのレトロな雰囲気が話題を呼び、遠方からの来客も多く、老若男女を問わず愛されている店である。

店内に一歩足を踏み入れれば、外界とは遮断された落ち着いた世界。暖かみのある照明も相まって、ここはまるでスイーツのために用意された舞台のよう。


店内の家具はそのほとんどがオリジナルデザインで、創業時から変わらないという。随所に残る当時のこだわりによって、昭和の時代にタイムスリップした感覚にもなる。

すぐさまスイーツを注文したくもなるが、紳士に焦りは禁物。まずは喉と心を落ち着かせるために、コーヒーを一杯いただこう。
しっかりとした苦味だが、爽やかで飲みやすい。冷めると徐々に甘味が引き立ち、飲むごとに微かな変化を感じられる。この一杯からもニュープリンスのこだわりと丁寧な仕事ぶりがうかがえる。これからいただくスイーツへの期待もますます高まる。
プリン、クリーム、さくらんぼ。“昔ながらのプリン”の黄金比
さあ、いよいよスイーツとご対面。今回は、ニュープリンスの名物とも言えるプリンを食す。

艶やかなプリンの土台に、絹のように滑らかなクリームの山がそびえ立つ。頂上に添えられた真っ赤なさくらんぼは、一輪のバラのよう。この黄金比の王道プリンは、スイーツ界の原点にして頂点と言っても過言ではない。
流儀その1「クリームとカラメル、プリンのバランスを味わう」

甘党紳士たるもの、そのスイーツに込められた店のこだわりを真正面から真摯にいただくべきだ。「どうぞひとすくいに食べてください」とこちらに語りかけるような佇まいに敬意を払い、まずはクリームとカラメル、プリンを一緒にすくい、口へ運ぶ。

驚くべきはプリンの固さ。創業時からほぼレシピを変えていないというだけあり、懐かしい食感。卵の味を感じる自然な甘みのプリンに、しっかりと甘くほろ苦さもあるカラメル、いくらでも食べられそうな軽いクリームのバランスも絶妙。
「これが本物のプリンなのか」と噛み締めたくなる逸品。洗練された甘さに思わず笑顔が溢れてしまう。スイーツの前では、どうしたって紳士から男子に戻ってしまう。

甘さとほろ苦さのハーモニーに、スプーンが止まらない。余計な雑味のない純度の高い仕上がりと食感に、不思議な懐かしさも覚える甘党紳士。しばし余韻に浸るとしよう。
流儀その2「さくらんぼは最後にいただく」

しかし、スイーツとの時間は、美味しければ美味しいほど、あっという間に終わりに近づく。その儚い時間を彩りで溢れるものにしたのはそう…煌々と輝くさくらんぼだ。だからこそ、さくらんぼの火を消すのは最後だと、甘党紳士は悟るのだ。

その献身的な働きへの感謝も込め、真っ赤なさくらんぼはそれ単体でいただく。こうして、プリンと過ごす優雅な時間に別れを告げることにする。
流儀その3「おかわりスイーツで、思い出を心に留める」
甘党紳士は後ろを振り返らない。新しいスイーツとの邂逅は突然訪れるもので、ニュープリンスにはもう一品、代表的スイーツがあることを知る。

それが、このクリームソーダだ。アデリアレトロのグラスに注がれた翠緑の海に浮かぶアイスクリーム。目が合ってしまったらもう離れられない。
スイーツを食べた後にもう一品スイーツを食べてはいけない…などというルールは存在しない。そこにスイーツがあるのなら、ありがたく食すのが甘党紳士の流儀である。

ニュープリンスの店主は語る。「クリームソーダの食べごろは、アイスクリームが少し溶けてきてから」だと。あえてソーダの甘味を強めにしているため、アイスと一緒に流し込むことで、ちょうど良いバランスになるのだ。もちろん、甘党紳士もアイスが溶けゆく姿を楽しみながら、ゆっくりといただく。

冷たいスイーツのはずなのに、その甘さでなぜか心は暖かくなる。クリームソーダは、甘党紳士にとってそんな不思議な存在だ。プリンの後に、締めとしてクリームソーダを食すというある種の背徳感が、今日のスイーツとの出会いを忘れられない思い出にしてくれるだろう。
変わる時代と、変わらないスイーツ

現在のニュープリンスは、初代店主の孫にあたる3代目店主が切り盛りしている。初代店主が歌手・美空ひばりのファンだったことから、今でも店内では美空ひばりの曲が流れ、レコードやCDが飾られている。時代が変われど大切なものを守り続けるその姿勢。そんなニュープリンスのこだわりは、あの固くて甘いプリンにも表れている。

昭和から令和の激動の時代を見てきたプリンに、改めて尊敬の念を抱く甘党紳士。またひとつ紳士としての嗜みを覚え、ニュープリンスを後にするのだった。
ニュープリンス
・住所:東京都品川区中延4丁目6-1
・電話番号:03-3783-3246
・営業時間:11:00-17:00
・定休日:不定休(詳しくは詳しくはInstagramまたはXをご確認ください)
https://www.instagram.com/new_prince1964/
https://x.com/new_prince1964
今回のモデル:楠ダニエル
モデル。南米パラグアイ生まれ日本育ち。アパレル・広告のモデルを中心に、雑誌、TVCMなど幅広く活躍。
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モデル/楠ダニエル
文/菱山恵巳子
写真/高山諒
編集/ヒャクマンボルト
掲載店舗・施設・イベント・価格などの情報は記事公開時点のものです。定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。
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まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。






