上野毛・五島美術館。都会のオアシスで過ごす“ちょっといい時間”

東急公式サイト編集部

2025/9/2

今回、東急公式サイト編集部のメンバーが訪れたのは、上野毛にある五島美術館。静かで落ち着いた時間が流れるこの場所は、美術館でありながらお散歩も楽しめるスポットです。

どんな人にも開かれていて、それでいて静かでどこか懐かしい空間を携えている…。まるで“都会のオアシス”のような、五島美術館の歴史や特徴をご紹介します。

五島美術館と大東急記念文庫

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五島美術館 全景(撮影時期不詳)

五島美術館を訪れるまえに、その歴史を振り返ってみましょう。

実は、五島美術館は東急グループの文化施設のひとつ。東急グループの礎を築いた五島慶太が蒐集した美術品をもとに、1960年に開館した私立美術館なんです。約6,000坪もある敷地は、もともとは五島慶太の私邸があった土地の一部でした。美術館の設立は五島慶太の悲願でしたが、彼は開館直前の1959年に亡くなっています。

五島慶太が蒐集した美術品は、日本と東洋の古美術品を中心に、幅広い作品で構成されています。彼は戦前、東京急行電鉄(現在の東急電鉄)などの他にも、関西圏の鉄道経営にも参画しており、出張の際に京都や奈良などの古寺・名刹に足を運んでいました。そうして集めた品々を、自身の喜寿(数え年で77歳)の記念に広く一般公開することにしたそうです。

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国宝 源氏物語絵巻 鈴虫二(絵)平安時代・12世紀/五島美術館蔵

五島美術館の収蔵品の代表が、国宝「源氏物語絵巻」や国宝「紫式部日記絵巻」。収蔵品の数はなんと約5,000件にものぼり、国宝5件と重要文化財50件も含まれています。五島美術館は、こうした日本文化を継承する役割を担っているのです。

ちなみに、国宝「源氏物語絵巻」は毎年春、国宝「紫式部日記絵巻」は毎年秋にそれぞれ1週間ほどしか一般公開されていません。作品の保全のために公開日数が限られているので、公式HPで展示期間を確認してからお出かけくださいね。

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上目黒時代の大東急記念文庫(撮影時期不詳)
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大東急記念文庫蔵の「草双紙・洒落本」(提供:五島美術館)

現在の五島美術館の敷地内には、大東急記念文庫という特殊文庫も存在しています。大東急記念文庫は、戦後、当時の東京急行電鉄が現在の東急・京急・京王・小田急の4つの鉄道会社と東急百貨店に分離・再編された際の記念事業として設立されました。

かつては上目黒にあった大東急記念文庫ですが、五島美術館の開館に合わせて1960年に上野毛の地へ移されました。書庫には国文学、国語学、歴史学、美術史学、仏教学など、多岐にわたる約25,000点もの貴重な古典籍が収蔵されており、通常は研究者だけが利用可能。2025年1月から放映されている大河ドラマで話題の「蔦屋重三郎」が出版した本も所蔵されており、にわかに注目を集めている特殊文庫です。

アクセス抜群の“別世界”

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駅のホームにも「五島美術館 最寄り駅」の案内
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邸宅と緑に囲まれた道を進む

大井町線の上野毛駅をおりて、歩くこと約5分。駅前のにぎわいとは裏腹に、邸宅と緑がたち並ぶ落ち着いた空間があります。その先で静かに来館者を迎えるのが、五島美術館です。最寄駅は上野毛駅ですが、二子玉川駅や等々力駅からも徒歩20分ほどで訪れることができます。

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五島美術館一帯は「おもいはせの路」「せたがや百景」でもある

美術館のすぐ近くで、「おもいはせの路」と「せたがや百景」の紹介を発見しました。五島美術館は、世田谷区の中でも歴史的に重要なスポットのようです。

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正門の手前にある「不老門」
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五島美術館の正門

まるで森のような道を抜けて美術館にたどり着いた瞬間、都会とは思えない“別世界”が広がります。

中央奥の建物が五島美術館の本館です。吉田五十八(よしだいそや)による設計で、1961年には第二回建築業協会賞を受賞。その後、2012年には創建当時の姿を可能な限り残しながら大規模改修がおこなわれ、2017年に国の登録有形文化財となりました。

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この日に開催されていたのは「極上の仮名」展

平安時代の貴族の邸宅に用いられた寝殿造の意匠を取り入れており、そこまでの高さはない建物ですが、空間はとても広々と感じられます。この荘厳な建物のなかに、どんな美術品が待っているのでしょうか…?

誰でも無理なく、作品との“出会い”を楽しめる展示室

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作品をゆったりと眺められる空間が確保されている展示室(提供:五島美術館)

さきにもお伝えしたとおり、五島美術館に収蔵されているのは、五島慶太が蒐集した古美術品が中心です。展覧会は年間で6〜7回ほど(うち1〜2回は特別展)開催され、1回につき70点ほどの作品が展示されます。一つひとつの作品に向き合いやすい、余裕のある空間づくりも魅力的です。

とはいえ、「古美術品の鑑賞」と聞くと、ハードルが高い印象があるかもしれません。 でも、五島美術館は美術鑑賞の初心者にもやさしい展示が特徴。専門家を招いた講演会や学芸員さんによるギャラリートークなどがあるのも、初心者に嬉しいポイントです。学びを得ながら、美術鑑賞を楽しむことができます。

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平面作品だけではなく、立体作品も楽しめる(提供:五島美術館)

「古美術品の鑑賞は、きちんと勉強していなければ理解できないと思われがちです。でも、実はそんなことはないんですよ」と教えてくださったのは、学芸員さん。そこで、おすすめの鑑賞方法を伺ってみました。

「まずは、直感で気になる作品を見つけてみてください。もし興味がわいたら、キャプションやタイトルを確認して、どんな歴史がある作品なのかを確認する…という風に、作品との出会いを気軽に楽しんでいただきたいです。ほかにも、作品に描かれているモチーフが何なのかを自分なりに予想しながら、クイズ感覚で楽しんでいただくのもおすすめですよ」

というのも、古美術品の中には作者自身がタイトルを決めていなかったり、そもそも作者がよくわかっていないものも多いのだとか。だからこそ、鑑賞する側に判断や感じ方が委ねられたり、自由に解釈できたりする余白があるということなんですね。

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受付では車椅子やベビーカーの貸出も(数には限りがあります)

ファミリーで訪れるときには、子どもが騒いだらどうしよう…と不安な方もいるかもしれませんが、学芸員さんによると「気になる作品だけを見ても大丈夫ですし、庭園との行き来も自由なので、途中で外に出てひと休みされる方も多いんです」とのこと。どんな人でも無理なく楽しめる環境はありがたいですね。

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過去に開催された「美の友会」の陶芸講座の様子(提供:五島美術館)

ちなみに、五島美術館には「美の友会」という会があります。4,000円の年会費(税込)で、(1)展覧会の年間パスポート (2)特別展の講演会の無料聴講 (3)美の友会限定の月例美術講座の無料聴講 (4)陶芸講座への参加 (5)提携する複数の美術館入館料の割引 といった盛りだくさんのパッケージです。五島美術館を訪れて、「もっと美術のことを知りたい!」と思ったときにおすすめですよ。

「美の友会」の詳細はこちら

庭園だけの入園もOK!約5,000坪のダイナミックな園内を巡る

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本館から庭園に出ることができ、「庭園案内図」も用意されている
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大井町線が走る切り通しの上(左側)が五島美術館。中央奥には二子玉川の街並みも見える

五島美術館のもうひとつの魅力が、約5,000坪もの広さを誇る日本庭園。国分寺崖線の上に位置するため、庭園の最高部と最低部の落差は35メートルにもなるのだそうで、その高低差を活かしたダイナミックな庭園となっています。

かつて五島慶太が毎朝巡ったともいわれる園内には、春は桜やツツジ、秋はモミジが美しい姿を見せてくれます。職員の方によると、春にはウグイスが「ホーホケキョ」の鳴き声とともに来館者を迎えることもあるのだとか。さらに、タヌキなどの野生動物を見かけたという話もあるそうです。

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庭園には国登録有形文化財の茶室もある
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茶室「古経楼」(通常非公開。年2回のみ有料公開)
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茶室「冨士見亭」(通常非公開。年2回のみ有料公開)
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国分寺崖線に連なる古墳群のひとつ、「稲荷丸古墳」もある

園内には茶室「古経楼(こきょうろう)」や池にかかる橋、石畳の道など、日本庭園ならではの風情が感じられるポイントがたっぷりです。なんと、古墳まであります…!

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最高部にある「見晴らし展望台」のシダレザクラの足元には、富士山眺望ポイントのしるしが
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「お手植えの松」は1921年に皇太子時代の昭和天皇が手ずから植えられたもの
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記念に松ぼっくりやどんぐりを拾って帰る親子連れも多いのだとか
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くぐると別世界へ誘われそうな「赤門」
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庭園を見渡すと、高低差がよくわかる。石灯籠や石仏が多いのも特徴

この日は30℃を超える真夏日でしたが、庭園に一歩足を踏み入れると、空気がひんやりと感じられることにとても驚きました。木陰が多いことはもちろんですが、鳥や虫たちの声がより一層の涼やかさをもたらしてくれたようです。

あえて庭園だけを訪れてリフレッシュするのもおすすめです。“美術館”という枠を超えて、五感で楽しめる文化空間としての魅力がここにはあります。

ミュージアムショップでお気に入りを手元に

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ショッピング中の方でにぎわうミュージアムショップ

美術鑑賞のあとは、ミュージアムショップにもぜひ立ち寄ってみてください。特に人気なのが、展示作品をモチーフにしたオリジナルグッズ。繊細な日本画のデザインが施された便箋や一筆箋、上品な和柄のファイルなど、日常づかいできるアイテムが豊富に揃っています。自分用のお土産はもちろん、ちょっとした贈り物としても喜ばれる、五島美術館ならではの一品がきっと見つかるはず。

また、ショップだけの利用も可能なので、「庭園だけ楽しみに来た日」や「近くまで来たついで」に立ち寄るのもOK。美術鑑賞をした記憶や、庭園で感じた静けさを持ち帰るような気持ちで、お気に入りを見つけてみてくださいね。

「いつもの1日」にこそ訪れたくなる都会のオアシス

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中庭から本館を望む

美術館というと、“ちゃんとした日”に行く場所というイメージがあるかもしれません。もちろん本格的に美術鑑賞を楽しむこともできるけれど、五島美術館は「いつもの1日」にも寄り添ってくれる美術館。

たとえば、散歩の途中でふらりと立ち寄ったり、カップルやファミリーのお出かけ先にしてみたり…。格式ばった場所ではなく、誰にとっても開かれていて、やさしく迎えてくれる空間です。

「どこかに出かけたいな」と思ったら、ぜひ一度、上野毛の“都会のオアシス”を訪れてみてください。

五島美術館
・所在地:東京都世田谷区上野毛3-9-25
・アクセス:大井町線「上野毛駅」より徒歩約5分
・開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
・休館日:毎月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替え期間、夏期整備期間、年末年始など
・入館料:一般1,100円/高・大学生800円/中学生以下無料/庭園入園のみは1人300円(中学生以下無料)/特別展は別途
・公式HP:https://www.gotoh-museum.or.jp/

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取材・文:SABO(東急公式サイト編集部)

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