街や地域に寄り添いながら、独自のまちづくりを続けてきた東急。その中心で街の価値を上げる場作りを担うのが「価値創造グループ(通称:カチソウ)」。渋谷ヒカリエ、渋谷キャスト、渋谷ストリームなど再開発で生まれたホールや広場、河川空間といった“都市の余白”を舞台に、多様な人々と手を取り合いながら新しい価値を創り出しています。今回はカチソウの担当2名に、活動の背景や渋谷のまちづくりの展望を聞きました。
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再開発で生まれた街の
“余白”に、
新しい価値を
生み出す
──まず、価値創造グループ(カチソウ)とはどんなチームなのでしょうか?
吉澤 2012年に渋谷ヒカリエが開業したのち、2010年代後半にかけて、渋谷キャスト、渋谷ストリームといった再開発が相次ぎ、「施設単体ではなく、街全体をどう運営していくか」という課題が社内で浮かび上がりました。そこで、複数の施設を横断的に見ながら街全体の価値を高めるチームとして、2020年4月に立ち上げたのがカチソウです。
私たちは「文化用途企画運営担当」として、ヒカリエホール、ストリーム ホール、北谷公園、稲荷橋広場、ヒカリエデッキ、キャストスペース・ガーデンなどの“文化用途”の場を運営しています。オフィスや商業、ホテルといった使われ方が決まった場ではなく、可変的な都市の“余白”とも言える場を活用し、イベントやアート、コミュニティ活動などを通して、渋谷の魅力を引き出すことを目指しています。現在チームには9名のメンバーがおり、私はチームの統括役を担っています。
──吉澤さんは立ち上げ以前から、この活動の礎を築いていたとか。
吉澤 そうですね。渋谷ヒカリエの文化用途を担当後、2017年から渋谷ストリーム裏の川沿いの空間を再生する「渋谷リバーストリート」のプロジェクトに携わりました。かつて“臭い・汚い・暗い”という課題のあった渋谷川を、官民が連携で整備し、キッチンカーやアーバンファーム、マーケットなどを仕掛けながら、約600メートルの渋谷川沿いに“人が集う場所”を生み出していきました。こうした経験を通じて、「都市の余白で、価値ある場をつくる」という今のカチソウのテーマが見えてきたんです。
渋谷ならではの“仕掛け”を
みんなでつくる
──実際の現場では、どのような取り組みをされているのでしょうか?
太田 私は主に、渋谷ストリーム・渋谷キャストでの取り組みを担当しています。渋谷キャストでは施設の価値と周辺のエリアの価値、双方を高めていくことをミッションに、近隣の人々が交流する渋谷区主催の「渋谷おとなりサンデー」への参加、作り手と来場者がクリエイティブを楽しむ「渋谷デザイナーズマーケット」、毎年恒例の周年祭など、さまざまなイベントを企画運営しています。
渋谷キャストは2017年、「職・住・遊」をテーマに、創造性を引き出す場所として開業しました。クリエイター向けのオフィスや住宅、店舗が入居していて、みなさんに声をかけると「面白そうだから参加したい」と自然に人が集まるんです。たとえば夏の恒例「BON CAST.」では、入居者や地域の方々が一緒になって盆踊りを開催し、渋谷を訪れた人も一緒に盛り上がります。東急百貨店のマスコット“東横ハチ公”や渋谷スクランブルスクエアのイベントで協力をいただいている“スクランブルちんどん屋”が登場するなど、年々参加者が増え、“街の盆踊り”として定着しています。
2025年には、入居者の人々の学びと交流の場「SHIBUYA CAST. SCHOOL」の第1弾として、入居者と共にオリジナルクラフトビールをつくるプロジェクトを実施しました。ビールの名前は《金曜日17時に》。仕事終わりの乾杯の時間をイメージして、レシピづくりからラベルデザインまで住人が手がけ、実際に醸造所にも足を運びました。半年かけてみんなでつくり上げたビールは、街に活力を生む「協働のプロセス」そのものだと思っています。
「渋谷キャストで9月に乾杯したいビール」をテーマに、4回のワークショップでコンセプトを作成。
その後、里武士 馬車道の醸造所(横浜)で仕込み体験を
「日々キャストで過ごす人たち」の感覚が反映されたオリジナルクラフトビールは、その名も『金曜日 17時に』。
渋谷の喧騒の中で、夕涼みしながらスタイリッシュに飲みたい、爽やかでビターなビールに仕上がった。パッケージデザインも、渋谷キャスト内のシェアオフィス「co-lab」で活動するクリエイターが手がけた
- パッケージデザイン:添えるデザイン 岡田玄也
- イメージ写真撮影:映像・写真撮影/ディレクター 古屋和臣
クラフトビールゼミについては、こちらから
──そのほか、カチソウならではのプロジェクトはありますか?
太田 渋谷ストリーム裏の渋谷川沿いで行われる「Shibuya Slow Stream」でしょうか。2020年11月から始め、年4回ほど開催しています。スクランブル交差点の喧騒から少し離れて寛げる場をつくろうと、地域のクリエイターたちが自主的に関わる手づくりのイベント。芝生を広げて寝転ぶ人、階段で本を読む人など、老若男女が思い思いに過ごす姿が印象的です。回を重ねるごとに少しずつ進化し、地域に根づいてきた手応えがあります。
11月8日(土)に開催された「Shibuya Slow Stream vol.24」世代を問わず、思い思いのスタイルでチルなひとときを過ごす人たちでにぎわう
“できないことは、
良きパートナーと”。
協働で広がるまちづくり
──地域や入居者とのつながりをどう育てているのでしょうか。
吉澤 私たちは「用途間連携」と呼んでいますが、住宅・オフィス・店舗など多様な人々が同じ空間にいると、お互いの存在が見えにくくなりがちです。そこで、先述の「SHIBUYA CAST. SCHOOL」のような交流の場をつくったり、入居者同士の交流会などを定期的に開いて、関係性を丁寧に築くようにしています。特に渋谷キャストは多様な人が集まる場所で、入居者との会話から企画が生まれることも多いんですよ。こうしたソフト活動のハブになることもカチソウの大事な役割だと言えます。
太田 渋谷キャストは東京都の「都市再生ステップアップ・プロジェクト」としての機能も持っています。“創造性を応援する”“クリエイターが楽しく暮らせる”という理念のもと、挑戦したい人を応援することが街のエネルギーになる。渋谷は「何かやりたい人」が集まる街です。その熱を拾い上げ、実現をサポートするのが私たちの役割だと考えています。
──横断的に場を運営するうえで大事にしている考え方はありますか?
吉澤 貸しスペース事業を軸に収益性を確保しながら、街全体の価値を高めていく。この両立がカチソウのミッションです。ただし、自分たちだけで完結できることは限られています。だからこそ、行政や地域、企業、アーティストなど、さまざまなステークホルダーと協働しながらコンテンツやサービスを生み出していくことを大事にしています。
たとえば収益を得るために「To B向け」や「To C向け」のイベントを行って高稼働を目指す一方で、ヒカリエデッキで気鋭の現代アーティストの展示を実施したり、渋谷区主導のテックアートイベント「DIG SHIBUYA」に参画するなど、“発掘・支援・発信”を通して街のブランド価値を高める取り組みをする。関わる人をつなぐハブとして機能するなかで、関係者も年々増え続けています。
──調整の難しさもありそうですね。
吉澤 もちろんあります。「場所だけ使いたい」という問い合わせも少なくありませんが、私たちは単なる貸しスペース事業で終わらずに、“街の価値を上げるための場づくり”を目指しています。先方の意図と東急のビジョンがどこで交わるかを丁寧に話し合いながら、両者にとって良い形を探すようにしています。
“関係性”を紡ぎながら余白の価値を育み、
より良い街と文化をつくる
──5年の活動を通して、どんな変化を感じますか?
吉澤 文化用途の“使いこなし方”が分かってきて、より柔軟にアレンジできるようになりました。結果的にそれが街の価値向上にもつながり、同時に新しい文化の波が広がっていると感じます。社外の方からも「渋谷で何かやりたい時はカチソウに相談すると早い」と言われるようになったのは嬉しいですね。一方で、社内での理解をもっと深めていくことが今後の課題です。
太田 イベントをきっかけに路面店にチャレンジしたり、出会った人たちが一緒に実店舗を立ち上げるケースもあります。そうした“きっかけづくり”こそが、私たちの仕事の本質だと感じています。場を介して人をつなげ、街に新しい価値と循環を生み出していく。今後もそんな“種まき”のような役割を担っていきたいですね。
──最後に、カチソウのこれからの展望を聞かせてください。
吉澤 渋谷は多様性と寛容さが根づく街。挑戦する人がいて、それを受け止める空気がある。再開発が進むほど街は整っていきますが、同時に“余白”が減っていく。けれど、その余白こそが新しい価値や文化を生む源泉だと実感しています。「余白の価値」を守り育て、つくり出していくこと。さまざまな人々と協働しながらその関係性を丁寧に編んでいくこと。より良いまちづくりのために、今後も取り組みを続けていきたいですね。
太田 渋谷は最新の情報や発見があふれ、常に変化し続けており、“未完成であり続ける”ことが魅力です。サグラダ・ファミリアのように、「“無限に進化し続ける”街」であってほしい。同時に、住む人も働く人も通う人も「なんだか落ち着く」と感じてもらえる場所を増やすことが、私たちの価値づくりだと考えています。地域との対話を重ね、愛着を育みながら“自分ごととして関われる余白”を増やす。これからもそんなきっかけづくりを通して、「挑戦ができる渋谷」をみなさんと一緒につくっていきたいです。