渋谷の街角に、音楽が生まれる場所を
Shibuya Street Liveが育てる、公認ストリートライブの文化
渋谷の街角には、ふと足を止めたくなる音楽が流れています。「FROM STREET PROJECT」が運営する公認ストリートライブ「Shibuya Street Live」は、アーティストが安心して表現できる場を渋谷各所につくる取り組みです。渋谷らしい偶然の出会いと、これからのまちの文化について、プロジェクトの立ち上げメンバーである東急株式会社の安田啓佑氏、シンガーソングライターのカフネ氏、そしてストリートライブの魅力を動画で発信し、ブッキングにも携わるもっちゃん。氏の3人に聞きました。
プロフィール

安田 啓佑
東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 エンターテインメント戦略グループ Shibuya Street Live/FROM STREET PROJECT企画・運営担当

カフネ
シンガーソングライター/「渋谷のうた2025」グランプリ受賞アーティスト

もっちゃん。
ストリートライブ専門インフルエンサー/Shibuya Street Liveアーティストリレーション担当
安心して歌える場所が、ストリートライブの可能性を広げる
――「Shibuya Street Live」は、どのような思いから始まった取り組みなのでしょうか。

安田渋谷のまちを盛り上げながら、これからエンターテインメントをつくる人たちの活動も支えたい。そうした思いから進めている取り組みです。背景にある「FROM STREET PROJECT」では、街角や広場を表現者の舞台として開き、そこでやりきる経験や、表現者がまちに愛着を持つ機会をつくりたいと考えています。
いまはゲリラ的なストリートライブが難しく、警察に止められることもあります。だからこそ、公認で安心してパフォーマンスできる場所を整えることが大事です。アーティストが歌に集中でき、お客さんも安心して見ていられる環境づくりを大切にしています。
カフネ私も、子どもが3人いる母親なので、警察に止められるかもしれない場所で歌うことには踏み出せませんでした。でも、もっと多くの人に自分の音楽を知ってもらいたい思いはありました。そんなとき、アーティスト仲間からもっちゃん。さんのことを聞き、DMを送ったところ、渋谷の公認ステージを紹介していただけました。2025年2月ごろのことで、「Shibuya Street Live」が本格的に始まって間もない時期でした。

安田実証実験を2024年10月ごろから始めていて、本格的に動き始めたのが2025年1月ごろでした。カフネさんには、本当に始まってすぐのタイミングで出ていただきました。
――もっちゃん。さんも、ストリートライブの発信を続けてきた立場から、公認の場ができることには大きな意味を感じていたのではないでしょうか。

もっちゃん。単純に、すごくうれしかったですね。ストリートライブにはまったきっかけは、妻と池袋でデートをしていたときに、たまたま歌っているアーティストに出会ったことでした。その人を応援したくて、YouTubeに動画を投稿し始めたんです。
でも、ゲリラライブへの規制が厳しくなり、「このままこの文化はなくなっていくのかな」と感じて、動画投稿をやめようかと考えた時期もありました。そんなとき、新宿・歌舞伎町で公認ストリートライブをつくる話をいただき、これは文化を続けていくチャンスだと思いました。その経験が、渋谷での取り組みにもつながっています。
渋谷だからこそ生まれる、偶然の出会い
――渋谷というまちとストリートライブは、どのようにつながっていると感じますか。
安田渋谷といえば、カルチャーの発信地だったのですが、まちの移り変わりや時代の流れとともに人々の集い方や楽しみ方が変化し、以前のようなカオス感や、「渋谷に行けば面白いことが起きる」という空気が薄れてきたようにも感じていました。
もちろん、まちとして便利で安全になることは大切です。一方で、街がきれいに整いすぎると、かえって面白さが生まれにくくなる。そのなかで、かつての渋谷にあった雑多さや発信力をいまの街の中で生み出すには、表現者が集まりたくなる余白をつくることが大事だと思っています。
もっちゃん。渋谷は高校生を含む若い世代やカップル、ファミリー層まで、幅広い人が集まっている印象です。場所によって反応は違いますが、ここでは若い世代や家族連れが足を止めてくれることが多い。シンガーソングライターが音楽を届けたい層とも重なります。アーティストにとって相性のいい場所だと思います。
安田実際に、カフネさんのライブでは、その偶然の出会いが生まれていました。多くの場合は、もともとのファンを中心に輪ができますが、カフネさんのときは、初見の通行人が自然に近づき、いつの間にか人だかりになっていたんです。力のある歌声は、こんなふうに届くのだと衝撃を受けました。
もっちゃん。カフネさんが歌っているときに、人がどんどん集まってきた場面は印象に残っています。歌声に引き寄せられるように、通りがかった人が足を止めていくんです。
カフネそのころはライブ活動も2回くらいしか経験がなく、ファンも少ない状況でした。だからこそ、ストリートで初めて聴いてくれた人が足を止めてくださったことは、とても大きな励みになりました。
街角のステージから、活動の場が広がっていく
――Shibuya Street Liveに出演したことで、活動にはどのような変化がありましたか。
カフネものすごく変わりました。ストリートライブで初めて聴いてくださった方が、「あのときの歌が印象的で、勇気を出してライブハウスに来ました」と言ってくださることが何度もありました。初めての人にとってライブハウスは少し敷居が高い場所ですが、街角での出会いが足を運ぶきっかけになったことが本当にうれしかったです。
渋谷での出会いは、その後の活動にもつながりました。安田さんたちと出会い、「渋谷のうた2025」への応募、グランプリ受賞、渋谷音楽祭のステージへと広がっていきました。
安田「渋谷のうた」のオーディションは、ストリートライブの場を広げるだけでなく、そこから次の可能性を開くために始めた企画です。渋谷に思いを寄せたオリジナル楽曲を募集し、渋谷音楽祭のステージへつなげることで、新しく羽ばたける入口をつくりたいと考えたんです。
カフネグランプリをいただいてからは、「渋谷の人」と言っていただくことも増えました。渋谷はたくさんの出会いをくれたまちです。上京をテーマにした曲があるのですが、その曲を渋谷のストリートで歌うと、自分の中でも感情の入り方が変わります。お客さんからも「ここで聴くと、もっとグッとくるものがある」と言われたことがあります。場所によって、歌の伝わり方が変わることも実感しました。
――街角で生まれた出会いが、アーティストの活動や、人が集まる流れにもつながっていくのですね。
安田やはり偶然の出会いが大きいですね。アーティストは新しいお客さんと出会え、お客さんは知らなかった音楽に出会える。オープンな空間だからこそ、その人の新たな魅力が出ることもあります。
カフネその一方で、私にとっては、自分の課題を見つけられる場所でもあります。通り過ぎる人にどう届けるか、MCや曲の伝え方を試せる貴重な時間です。
もっちゃん。動画を見て、「生で歌声を聴きたい」と足を運んでくださる方も本当に多いです。その場にいる人しか聴けない音楽を画面越しに届けることで、今度はリアルな場所に人が集まってくる。現場では、カメラを構えた人たちが「今日も会いましたね」と自然に顔見知りになり、知らない人同士のコミュニティも生まれていると感じます。
公認の場から、渋谷の文化を育てていく
――アーティストが気持ちよく表現できる場にするため、運営側ではどのようなことを意識していますか。
安田のびのびやってもらえることを最優先にしています。施設や場所ごとの決まりはありますが、それによってアーティストが萎縮しないよう、自由度を広げる調整や交渉を重ねています。音量についても管理側と感覚を共有し、歌いやすく、聴く人にも届きやすい環境づくりを意識しています。
もっちゃん。そういう意味でも、公認の場は絶対に必要だと思います。ゲリラライブでは、アーティストが警察の取り締まりを気にしながら歌うことも多い。公認の場なら歌に集中できて、顔つきもまったく違います。アーティストからも「公認の場でやりたい」という声は多いですね。
安田警察や渋谷区からも、公認の場があることを前向きに受け止めてもらっています。まちのにぎわいにつながる取り組みとして、よい形をつくれている手応えがあります。
――こうした安心して表現できる場を、渋谷のまちでこれからどのように育て、広げていきたいですか。
安田まずは開催場所と回数を増やし、より多くの表現者が立てる場をつくることが目先の課題です。中期的には、Shibuya Street Liveを文化として根づかせ、「あそこに行けば新しい出会いがある」と思ってもらえる場所にしていきたいです。
カフネこれからさらにいろいろな表現の場が増えていったらいいなと思います。迷ったときに、とりあえず渋谷に行けば自分なりの答えに出会える。そんなまちになったらうれしいです。
もっちゃん。シンガーに限らず、アイドル、バンド、アカペラ、ダンスなど、いろいろなジャンルの人たちを巻き込んでいきたいです。動画を通じてその魅力を届けながら、現場に足を運ぶ人が増えていく流れもつくっていけたらと思います。人が集まる機会をつくること自体に、大きな意味があると思います。
安田渋谷は、いろいろなものが混ざり合い、面白いものが生まれるまち。Shibuya Street Liveも、渋谷らしい偶然の出会いを生み出す場所にしていきたいです。


