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No.056

〇〇好きのご縁飯 〜野菜好き〜

鷺沼には、農家から野菜を買う日常がそばにある。「まめそら食堂」で味わう、無農薬野菜ごはん

  • 取材・文:井上麻子
  • 写真:北原千恵美
  • 編集:宇野宙(CINRA)

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再開発が進む東急田園都市線・鷺沼駅周辺は、緑豊かで、家族連れが多く行き交うまち。駅から少し歩いたところにある「まめそら食堂」は、白いウッドデッキと色鮮やかなタイルが目を引く、童話のようにかわいらしい一軒家である。

こちらの自慢は、店主の亀井裕子さんが作る無農薬野菜たっぷりの料理やスイーツ。10種類以上の野菜が食べられる定食から、カレーやピザまでメニューは幅広く、誰もが一緒に食卓を囲めるようヴィーガンやアレルギー対応の食事も用意している。そのおいしさは、常連の今中美代子さんが「食べている瞬間から身体が喜んでいる」と語るほど。

今回は、そんな亀井さんと今中さん、そしてお店に欠かせない無農薬野菜の生産者「イノキ農園」の小林直樹さんの3人にインタビュー。野菜をこよなく愛する3人の語らいを通して、お店や鷺沼というまちの魅力を紐解いていく。

左から、常連の今中美代子さん、「イノキ農園」の小林直樹さん、店主の亀井裕子さん

まめそら食堂で食べた野菜がおいしくて、直売所にも通うように

――まずは、「まめそら食堂」で使われている野菜を作っている「イノキ農園」との出会いから教えてください。亀井さんはどうやって小林さんの農園を知ったのでしょうか?

友人が「高津区においしい無農薬野菜を育てている若い人たちがいるよ」と教えてくれて。それで買いに行ったのが最初ですね。

亀井

横浜と川崎のあいだに畑があって、そこに直売所があるんです。本当にのどかなエリアです。無農薬で農業をしているのは、周辺ではうちくらいですね。

小林

イノキ農園さんの野菜は、どれも自然な甘味があって本当においしいです。薬味のネギまで「甘い!」と感じたのは初めてでした。

亀井

――今中さんは、まめそら食堂の常連さんなんですよね。

もう大ファンで、たまにお店の手伝いをさせてもらうこともあります。コロナ禍であらためて食の大切さを知り、近くのオーガニックレストランを調べていたら、ここを知りました。でもなかなかお店に足を運べずにいたところ、「川崎市宮前区100人カイギ(※)」という地域イベントで、たまたま裕子さん(亀井さん)をお見かけして。

今中

そこでナンパされました(笑)。

亀井

あはは。それで早速食べに行ってみたら、「食べているあいだから身体がこんなに喜ぶご飯は初めてだ!」って感動して。そこから通い詰めています。

今中

――今中さんはまめそら食堂がきっかけで、イノキ農園の直売所にも行くようになったとか。

去年、ちょうど裕子さんが買い出しに行くタイミングでお誘いいただいて、「行きたい!」とついて行ったんです。それからは自分でもちょこちょこ買いに行っています。

今中

今中さん以外のまめそら食堂のお客さんも、よく来てくださいますね。無人販売所なのですが、ちょうど僕が品出しをしているときにたまたま来られた方々が、全員まめそら食堂のお客さんで盛り上がったこともありました。

小林

それはうれしいですね。私は皆に無農薬野菜のおいしさを伝えたくて、このお店をやっているので。

亀井

――どうして亀井さんは無農薬野菜だけを使おうと思われたのですか?

もともと無農薬野菜だけでお店をやりたいと思ってはいたんですが、なかなか難しくて。開店当初は、無農薬ではないものも使っていました。でも、近くにイノキ農園さんをはじめ、無農薬野菜の直売所が3つもあると知り、思い切って切り替えてみたんです。

亀井

本当にまめそら食堂で食べる野菜は、味が全然違うんですよ。野菜が苦手なお子さんもモリモリ食べていて。

今中

「うちの子、ここの野菜だと食べられるんです」っていう親御さんもいらっしゃいますね。

亀井

無農薬で育てるのはすごく手間も時間もかかるんですが、こうして喜んでいただけるのは本当にうれしいです。亀井さんは、農家の僕たちよりも野菜を大事にしてくださっているかもしれません(笑)。

小林

そんなことないですよ!丁寧に育ててくださって、本当に感謝しています。私は野菜が手に入るとまずは眺めて、「よく育ったね〜!よく来たね〜!」と声をかけるんです。そこから、どう料理したらおいしくなるかなって、いつも考えています。

亀井

裕子さんの野菜との会話、とってもかわいいなと思っていつも見てます(笑)。こんなふうに野菜と向き合っていたら、そりゃおいしい料理になりますよね。

今中

ヴィーガンの方向けのグラタンも。10種類以上の季節の野菜が食べられる「まめそら定食」

野菜愛を存分に語り合ったところで、お待ちかねの料理がテーブルへ。運ばれてきたのは、1度に10種類以上の無農薬野菜が食べられる看板メニューの「まめそら定食」。今日のメインは、自家製トマトソースのオムレツと、豆乳と米粉で作られたグラタン。おいしそうな匂いと、色とりどりの料理を前に、思わず今中さんと小林さんの顔がほころぶ。

じつは今日、初めてまめそら食堂さんのご飯を食べるので、とっても楽しみです!

小林

メインも小鉢も野菜たっぷりで、本当においしいんです。こんなにたくさんの種類を一度に食べられるなんて幸せですよね。しかもデザートまでついていて。

今中

このグラタン、すごく優しい味がします。

小林

豆乳と米粉で仕上げているんです。以前、卵と牛乳アレルギーのあるお子さんが来てくれた際、親御さんに「アレルギーフリーのグラタンがありますよ」と言ったら、すごく驚かれて。とっても喜んで食べてくださいました。

亀井

あ、この玉ねぎはうちのやつですね。食べると、去年植えたときのことを思い出します。こっちのトウモロコシはうちのと違う味がしますね。なんとなくわかるんですよ。どれもとってもおいしいです。

小林

オムレツにのっているトマトソースも自家製

定食以外にピザもおすすめです。ここのピザは耳までおいしいんですよ。

今中

ピザは自家製の天然酵母で生地を仕込んでいます。モチモチ食感が好きなので、北海道産の小麦粉を使っています。自家製の味噌マヨソース味が人気ですね。

亀井

ピザには胡椒の代わりに、和歌山産のぶどう山椒を振りかけていただく

――調味料にもこだわっていらっしゃるんですね。

味噌は麹を使って手作りしたもの、塩は天日干しのものを使っています。できるだけ、シンプルで丁寧に作られたものを選ぶようにしていますね。

亀井

――ヴィーガンやアレルギーフリーに対応したメニューがあるのも、このあたりではめずらしいのではないでしょうか。

野菜をメインにお出ししていたら、ヴィーガンの方もいらっしゃるようになりました。あと海外のお客さまも多いですね。どんな方がいらっしゃっても、皆で一緒に食事ができるように、幅広いメニューを用意するようにしています。

亀井

農家から直接野菜を買う豊かな日常。無農薬野菜が自然と根付く宮前区の魅力

じつは、亀井さんがここ鷺沼でお店を始めることになったのは、まったく予期せぬ「ご縁」がきっかけだったそう。お店との運命的な出会いや、土地の魅力についても話を聞いてみた。

――亀井さんはどうして鷺沼でお店を始めたんですか?

偶然ご縁がつながったんです。宮崎台に住んでいたときから数えると、もう20年くらいこのあたりに住んでいるんですが、あるとき更新時期でもないのに、なぜかふと鷺沼に引っ越したんですよね。

亀井

当時、裕子さんは貸し農園で働かれていたんですよね。

今中

そう。農園で採れた野菜をマンションの2階に住んでいた方におすそ分けしていたら仲良くなって。その方が連れてきてくれたのが、ここの前のお店だったんです。「素敵なお店ですね」と話していたら、「じつは僕たちここを離れて農業をするんです」と言われて驚いて。それならと、私が引き継いでお店をやることに。だから、あえて前のお店の看板も残しているんです。

亀井

まめそら食堂の看板の横には、前身であるカフェの名前が残っている

――ものすごい偶然ですね!

何かに呼ばれたのかな? と思うくらいでした。もともと料理が好きで、貸し農園のイベントでも、ピザを焼いたりしていたんです。いつかは飲食店をやりたいと思っていたのが、鷺沼に来て一気に人生がひらけた感じがしました。

亀井

――先ほど話に出てきた「川崎市宮前区100人カイギ」もそうですが、このまちは横のつながりやコミュニティが盛んなのでしょうか?

そう思います。私も「川崎市宮前区100人カイギ」をきっかけに地元のキーマンのような方と出会って、その方が主催するマルシェに出店させていただいたり。そこでまた新たな出会いがあったりして。宮前区って、本当に元気で楽しいまちだなと感じています。

今中

取材中もお店にご近所の方がやってきて、晩柑をお裾分けしてくれた

――亀井さんも子ども食堂や料理教室など、まちにひらいた活動をされている印象です。

子ども食堂は、私が子どもを授かれなかったので、子どもたちになにかできることがあればと始めたんです。お料理教室は、お客さんからリクエストをいただいたのがきっかけです。

亀井

お料理教室は私も毎回参加しています。おいしいのはもちろんですが、帰りにお野菜をたくさん持たせてくださるのがうれしいんですよね。

今中

近隣の小学生から贈られたメッセージ

家では無農薬野菜を使っていないという方にも、このおいしさを自宅で再現してほしくて。おいしい野菜を身近に感じてほしいという、普及活動ですね。

亀井

――まめそら食堂さんの料理や、野菜好きの人たちの出会いの場にもなっていそうですね。

そうですね。同じものが好きな人同士、近況を報告したり、食べ物の情報交換をしたりして楽しんでいます。

今中

あくまでも僕の感覚ですが、宮前区の方って無農薬野菜と親和性が高い気がするんです。このあたりは畑も多いし、JAの本店がある宮崎台も近い。直売所や道の駅みたいな場所もあるので、農家から野菜を買うことが、わりと日常のこととして根付いているのかなと。

小林

そうかもしれないですね。私は田舎出身なので、緑が多いこの環境がホッとします。

亀井

緑の豊かさは本当に落ち着きますね。私は鶴見に住んでいますが、実家がある宮前区の居心地が良くて、しょっちゅうこちらに来ています。

今中

――鷺沼は緑が多いのも印象的です。坂道から見渡すまちの景色が開放的で素敵ですね。

そう! 駅前の「春待坂(はるまちざか)」は、季節になると坂道が全部桜になって、すごく綺麗なんですよ。こうした景色はずっと鷺沼に残っていてほしいですね。

亀井

「野菜が好き」という共通点でつながる、お店と生産者とお客さん。無農薬野菜を味わうだけでなく、直売所へ野菜を買いに行ける環境があり、その時間や手間も大切にできることが、彼らの生活を豊かにしているのかもしれない。3人の柔らかい雰囲気も、きっとそこから来ているのだろう。

心と身体をほぐす、まめそら食堂の野菜料理。そのおいしさと温もりを皆さんもぜひ味わってみてほしい。

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Information 取扱店舗情報

まめそら食堂

住所:神奈川県川崎市宮前区有馬9-3-12

TEL:044-571-1456

営業時間:11:30〜L.O.14:30、17:30〜L.O.20:00(土曜のみカフェ営業:15:00〜L.O.17:00)

定休日:火曜、水曜

アクセス:東急田園都市線鷺沼駅から徒歩約12分

WEBサイトはこちら

店舗情報は2026年6月の取材時点のものです。

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