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No.060

同郷人のご縁飯 〜大阪〜

三軒茶屋「立呑 たこ焼き なんば」。関西弁のままでいられる、東京のなかの小さな大阪

  • 取材・文:三浦希
  • 写真:浅野杏子
  • 編集:川谷恭平(CINRA)

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田園都市線・三軒茶屋駅から歩いて5分ほど。駅前の喧騒を抜けた先に、黄色いビニールカーテンとちょうちんが目印の店がある。「立呑 たこ焼き なんば」。大阪市浪速区出身の幼馴染2人が、「東京で大阪を広めたい」という思いから、2020年1月にオープンした立ち飲みのたこ焼き店だ。 店内で飛び交うのは、いつも関西弁。まるで、三軒茶屋にぽつんと現れた大阪の「村」のような場所だ。今回は、この店を切り盛りする田宮さんと、大阪出身の常連のゆきさん、みちゆさんの3人に、たこ焼きと関西弁が引き寄せる、あたたかな縁の話を聞いた。
左から店長の田宮京佑さん、ゆきさん、みちゆさん

「どうせエセ関西人やろ」。疑いながら入った店で、働くことになるまで

──田宮さんもともとはこのお店のお客さんだったそうですね。どう出会ったんですか?

はい。高校の同級生と飲んでいたときに「たこ焼き屋があるらしいから、行ってみようや」となって。道中では「どうせエセ関西人がやってんのやろ」なんて言うてたんですよ。

田宮

田宮

いやいや、エセ関西人はさすがに言いすぎやろ(笑)。

みちゆ

みちゆ

でも店に入ったら、名物女将のあけみさんと娘さんがいて、ものすごいスピードの関西弁でお客さんたちを笑わせていて。「あ、ほんまもんや」と独り言が漏れました(笑)。そこから「僕も大阪出身なんです」と声をかけて、ちょくちょく通うようになったんです。

田宮

田宮

──それが、どうして働くことに?

当時は「大阪出身者しか働いたらあかん」という縛りがある店で、オーナーもあけみさんもほかのスタッフも、全員大阪人。僕はちょうど何もしてなかったころで、「あんた、大阪人やし、良かったら働かへん?」と声をかけてもらって。めちゃくちゃうれしかったですね。正式に入ったのは2022年の1月です。

田宮

田宮

──そもそも、田宮さんは東京に何をしに来られたのですか?

芸人になりたくて、21歳のときに上京しました。でもコンビを解散してしまって。一度大阪に帰って、地元でやり直そうと思って、お金を貯めてたんです。で、帰ろうと思ってたときに、大好きな漫画の原画展があって、貯金を全部使ってしまって(笑)。

田宮

田宮

金銭的に帰られへんくなったんや(笑)。

ゆき

ゆき

そう(笑)。「もうちょっとおっていいですか」って言うて、いまもここにいます。あけみさんとオーナーにも、焼肉に連れて行かれて「絶対帰ったらアカン」とめっちゃ引き止められたんですけどね。結果、残って良かったなと思ってます。

田宮

田宮

60歳で、単身東京へ。あけみさんがつくる、この店の空気

田宮さんの話に登場した、名物女将あけみさんは、オーナー2人が何度も大阪へ足を運んで口説き落とし、60歳にして単身東京へやってきた。オープン当初はほぼ毎日カウンターに立っていたという。

そして大阪出身の常連のみちゆさんとゆきさんもまた、それぞれの縁をたどって、この店に流れ着いた。

ポスターに写っているのがあけみさん。現在は日曜を中心に、不定期で店に立っている

──あけみさんは、どんな方なんですか?

生粋の難波の人で、初めて会ったときは圧倒されましたよ。出てくるエピソードがとにかく強い。「この人には、かなわんな」と思いました。あと、安心感が半端じゃなかったですね。地元に「帰ってきた感」というか。

田宮

田宮

ここに来ると、大阪と錯覚しちゃうくらいの安心感があるんです。「あけみワールド」がすごくて、気づいたら取り込まれてます(笑)。

みちゆ

みちゆ

あけみさんがいるから、安心して飲めるんですよ。ちゃんと見守ってくれてるので。

ゆき

ゆき

──ゆきさんとみちゆさんは、どうやってなんばと出会ったんですか?

私が初めて来たのは、なんばの1周年パーティーのときです。大阪時代からの先輩がよく「三茶のなんばに行く」と言っていて、ずっと気になっていたんですけど、なかなか来られなくて。1周年を迎えると聞いて、やっとお邪魔しました。

ゆき

ゆき

私は前職の同僚がきっかけでした。上京するとき、同僚のカメラマンに「東京行くけど知り合いがおらん」と相談したら、「友達が三茶でたこ焼き屋を始めるから紹介するよ」と。それがここのオーナーで、上京前に大阪で顔合わせまでセッティングしてくれたんです。だから「なんかあったらおいで」という関係から始まってるんです。

みちゆ

みちゆ

油は最初だけ。8個は入らない日のための、4個の舟皿

話題はいよいよ主役のたこ焼きへ。一番人気は、焼きたてにマヨネーズと塩をかけるだけの「塩マヨ」。じつはこのたこ焼き、田宮さんが店に加わってから、大きく生まれ変わっているそうだ。

そろそろ、たこ焼き食べる?

田宮

田宮

私、塩マヨ!

みちゆ

みちゆ

じゃあ私はソースマヨがいい!

ゆき

ゆき

即答やな(笑)。

田宮

田宮

──いま食べているこのたこ焼き、開店当初とは味が違うと聞きました。

開店当初と、僕が入ってからのレシピは全然違うんです。水の配分を変えたり、卵を減らしたり。当時はちょっと団子っぽくて粉っぽかったので、あけみさんのトークだけじゃなくて、たこ焼きもちゃんと楽しんでほしいなと思って変更しましたね。

田宮

田宮
たこ焼き 塩マヨとソースマヨ

──東京の人がイメージするたこ焼きとは、焼き方も違うのでしょうか。

こっちの人が想像するのは、揚げ焼きに近い、表面がカリカリのたこ焼きやと思うんです。僕らは油を最初だけ引いて、あとはほんまにスピードで回していく。結局は好みですけど、ここではあくまで、大阪っぽいとろとろのたこ焼きを食べてほしくて。

田宮

田宮

──メニューを見ると、4個から頼めるのもうれしいですね。

そうなんです。1軒目でご飯を食べたあとやと、8個は食べられへん。そういうときに、ちっちゃい舟皿に入れてくれる。2人で2個ずつとか、ちょうどいいサイズ感で。4個で提供してるところって、あんまりないですよね。

みちゆ

みちゆ

うちは立ち飲みでさくっと帰れる店なので、17時から軽く1杯だけの0次会や、2軒目、3軒目で使う人が多いんです。

田宮

田宮

「とりあえずなんばで締めたい」という常連さんも多そうやんね。

みちゆ

みちゆ

職場では標準語、この店では関西弁

渋谷から田園都市線ですぐの三軒茶屋。それでもこの店の空気は、どこかゆるく、あたたかい。その理由を探るうち、話は関西人にとっての「居場所」へと転がっていった。

──お客さんには、関西の方が多いのでしょうか?

関西人がゼロの日は、ないですね。従業員も関西出身の子が多いので、いつも関西弁が飛び交っています。「普段は職場で標準語を使ってるけど、ここに来たら関西弁で話せる」という常連さんも多いんで。

田宮

田宮

そもそも三茶って、関西人がめっちゃ多いまちなんじゃないかって思うんですよ。

ゆき

ゆき

──ではなんばは、関西人にとってのサードプレイスなのかもしれませんね。

じつは今日、「あなたにとってなんばとは?」と聞かれたら「サードプレイスみたいな存在ですね」と答えようって、2人で用意してきたんです。

みちゆ

みちゆ

準備していたのに、先に言われてしまった……(笑)。

ゆき

ゆき

──(笑)。大阪と東京の空気の違いを感じることはありますか?

東京って、暗黙のルールがいろいろあるじゃないですか。家賃の話とか、大阪やと普通にするのに、こっちでは聞いたらあかんとか。そういう線引きがわからなくて構えてしまうけど、ここだったら大丈夫、という安心感があります。

ゆき

ゆき

大阪の人は普通に聞くし、普通に答えるもんね。「え、あんな広いのにその値段?」と自慢するのが気持ちいいから(笑)。

みちゆ

みちゆ
店のロゴは、田園都市線のグリーンと、なんば駅を通る千日前線のピンクがモチーフ

「そういえばこの人もそうやで」から始まる関係

グラスが空くころには、常連さんが1人、また1人と、暖簾ならぬビニールカーテンをくぐってくる。この店から生まれた縁について尋ねると、驚くような話が次々に飛び出した。

──常連さん同士が、このお店でつながったというエピソードはありますか?

めちゃくちゃあります。1人で来てたお客さん同士がここで友達になって、今度は一緒に来てくれたりとか。一緒に仕事をするようになった人たちもいますよ。

田宮

田宮

私も最近、ここで恋人ができたんですよ。週末で混み合ってたので奥の席に移動したら、そこで飲んでたグループに「ちょっと喋らへん?」と声をかけられて。一緒に飲んだらすごく楽しくて、そのまま3軒目まで一緒に行ったんです。

ゆき

ゆき

3軒目て(笑)。

みちゆ

みちゆ

それで付き合ったんですよ(笑)。あと私の友達は、ここの常連さんと出会って、いまはもう結婚して、子どもも2人目が生まれるところです。

ゆき

ゆき

──「なんばに行けば誰かに会える」という感覚もあるのでしょうか。

あります。待ち合わせはしてないけど、ポツポツと常連さんが集まり出して、集合場所みたいになってる。がっつりつなげようというより、お客さんとの会話のなかで「そういえばこの人もそうやで」という感じで、ゆるりとつなげていくんです。

田宮

田宮
お店の2階はセルフスタイルの貸切スナックスペースになっている

旭ポンズも、大国町のコロッケも。大阪を、東京で

メニューに目をやれば、どて焼きに牛すじ、ポン酢は大阪の旭ポンズと、並ぶのは大阪のものばかり。難波に近い大国町の人気コロッケ店に直談判して卸してもらっている一品まである。最後に、これからどんな人にビニールカーテンをくぐってほしいかを、田宮さんに聞いた。

──あらためて、三軒茶屋はどんなまちだと感じますか?

飲むのが大好きな人たちが集まるまちですね。一度調べてみたら、三軒茶屋の周りには1000店舗以上お店があるらしくて、圧倒的に個人店が多い。はしごする人もめちゃくちゃ多いんで、うちみたいな0次会や2軒目、3軒目の店も成り立つんやと思います。

田宮

田宮

──今後はどんな人たちに来てほしいですか?

ほんとに、来る者は拒まず、去る者は追わず。一番年上だと70代の常連さんが、わざわざ川崎から来てくれたりもするんです。どの世代も、関西人とか関東人とか関係なく、いろんな人が来てくれるお店になればいいなと思います。

田宮

田宮

──関東の人も、大歓迎だと。

もちろんです。東京でお店やらせてもらってますし(笑)。オーナーがこの店を始めた理由も「東京で大阪を広めたい」なので、「大阪のたこ焼きってあんまり食べたことない」という人が、うちで食べて「おいしい」と言ってくれれば、それが一番良いですね。

田宮

田宮

取材の終わり、田宮さんが鉄板の前に立った。油は最初に引くだけ。あとは驚くようなスピードで、鉄板の上のたこ焼きをくるくると返していく。

小さな舟皿に盛られた塩マヨのたこ焼きは、外はふんわり、中はとろとろ。疑いながら店に入った青年が「ほんまもんや」と漏らしてから、数年。その本人が焼くたこ焼きを前に、同じ言葉が浮かんだ。

たこ焼きの匂いと関西弁が満ちる、三軒茶屋の小さな村。黄色いビニールカーテンをくぐれば、誰かがきっと「おかえり」とあたたかな表情で迎えてくれるはずだ。

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Information 取扱店舗情報

立呑 たこ焼き なんば

住所:東京都世田谷区太子堂1-15-15

営業時間:17:00〜25:00、土15:00〜、日16:30〜22:30

定休日:火曜

アクセス:田園都市線・三軒茶屋駅から徒歩約5分

店舗情報は2026年7月の取材時点のものです。

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