下手なラテアートで、逆に盛りあがる。肩の力が抜けた梶が谷のカフェ「kopje koffie」で、コーヒーと服を楽しむ
- 取材・文:勝部美和子
- 写真:北原千恵美
- 編集:宇野宙(CINRA)
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1杯のコーヒーから長いご縁が生まれる。店名に込めた想いと、パティシエとの出会い
――そもそも、悠佑さんと広美さんはどんな経緯で、梶が谷でお店を始めたのでしょうか?
5年前に宮崎から神奈川に来たのですが、畑や緑があるところに住みたいと思って、自然豊かな梶が谷を選んだんです。もともと「いつか夫婦でカフェやりたいね」と話していたので、この場所が空いたとき「これはやるしかない!」って。
広美


――「こんなカフェにしたい」というイメージはありましたか?
お客さん同士がつながる店になればと。 人とのつながりって、切っても切り離せないもの。僕自身、人に助けられて生きていると日々、感じていますから。
悠佑


私たちは田舎育ちだから、道で人に会ったら「どうも!」って挨拶するのが普通なんですよ。でも、都会では目も合わさない。人はたくさんいるのに、なんか寂しいよねって。
広美

お店をやる前は、梶が谷に友達いなかったですもん。
悠佑

だから、ご近所さんと顔を合わせて「こんにちは」って言い合える場所にしたかったんです。店名の「kopje koffie」はオランダ語で1杯のコーヒーという意味。トルコのことわざ「1杯のコーヒーに40年の思い出」から、コーヒーをきっかけに交わした会話が、長いご縁につながるようにと名付けました。
広美


――そんなkopje koffieに通う常連客の1人が、今日同席いただいている高倉理恵さんです。高倉さんとkopje koffieの出会いは?
初めていらしたとき、理恵さんと娘さんが絵を描いていて、「上手ですね!」って声をかけたんです。そしたら帰りに僕らの似顔絵をプレゼントしてくれて。そのときキャラクターケーキの絵も描くと聞いて、パティシエさんだと知りました。
悠佑

――すぐ親しくなったんですね。高倉さんが来店したきっかけは?
私は小学生のときからブラックコーヒーを飲んでたくらい、大 のコーヒー好きで。6年前に結婚して梶が谷に来てからずっと、このあたりでおいしいコーヒーを探していました。ここにコーヒー屋さんができると聞いて期待していたら、本当においしくて。
高倉



――そこから、コーヒーを目当てに通うように?
いや、僕が目当てですよね。
悠佑

そうですね(笑)。最初に来たとき「こんにちは!」って気さくに声をかけてくれて。そのラフさが梶が谷では新鮮で、うれしかったんです。仕事で遅番のときは、ここに寄ってから出勤することも多いです。娘もお二人が大好きで、私は「第2の家」っ て言ってます。
高倉


――と、話していたら、学校帰りの小学生がお店に入ってきました。
あ、あーちゃん来た。おかえりー!
広美

――お子さんだけで来ることもあるんですか?
ありますあります。学校帰りにトイレ貸してって来る小学生とか。
広美

うちの娘も何回もお世話になっています(笑)
高倉

「なぜコーヒーとファッション?」気づけばスカーフを巻いて店を出るお客さんたち
kopje koffieでは、コーヒーだけでなく洋服やスカーフも扱っている。なぜカフェでアパレルを? その理由を聞いてみた。


――ところで、カフェなのに洋服が並んでいるのはなぜですか?
前職の雑貨店でアパレルも扱っていて、僕たち自身、服が好きだから、カフェにも置こうと。
悠佑

とくに私はスカーフが大好きで、開店時はそれこそ大量に並べてたんですよ。最初は「なんでコーヒーとスカーフなの?」ってよく聞かれましたが、「そのうちわかるよ」と思っていましたね。
広美

――「そのうちわかる」とは?
お店でコーヒーを飲んでゆったりしていると、目の前のスカーフが自然と気になってくるんですよ。で、「巻いたことないけど、私でもできるかしら?」「もちろんですよ!」と巻いてあげたら、お客さんにスカーフがばーっと広まって。
広美

まさに、その策略に引っかかって私もスカーフ買いました。
高倉

「引っかかって」って、言い方!(笑)
広美


でも、広美さんにいろいろ教わりながら服を選ぶのも、コーヒーを飲みながらアイテムを物色するのも楽しい。常連さんは、ほぼほぼkopje koffieの服を着ていますよ。
高倉

「まさか梶が谷で、それもカフェで服を買うなんて思わなかった!」って言われるとうれしくて。思わぬ出会いでお客さんが笑顔になる瞬間を見ると、洋服もやっていて良かったなって思うんです。
広美


下手なほど喜ばれるラテアート、お客さんの愛が育てたティラミス
コーヒーとファッションだけでなく、kopje koffieにはまだまだ気になるものがある。悠佑さんが繰り出す「下手なラテアート」と、人気メニューのティラミスだ。

――悠佑さんの「下手なラテアート」が人気と聞きました。
うちはカフェラテがダントツ人気なんですよ。でも私たちはブラックコーヒーしか飲まなくて、ラテを作ったのはお店を始めてから。開店当初はラテアートもやっていなかったんです。
悠佑


――ラテアートを始めたきっかけは?
オープン間もないころ、お客さんに「ラテアートをやってほしい」とリクエストされて。できませんと言ったら、「えー! ラテアートを見るのがカフェでの楽しみなのに」って。
広美

そこで豆メーカーさんに相談したら、凝ったラテアートをするにはコーヒーの温度を下げる必要があり、味にも影響すると言われて一度は諦めたんです。
悠佑

おいしさをとったんですね。
高倉

でも、ラテを出すたび「あれ、ラテアートは?」と言われるので、温度を落とさずにできるシンプルな ラテアートを2人で模索した結果、こうなりました。
広美



広美さんのは完璧。悠佑さんは本気で練習してるのに、全然うまくならない(笑)。でも、たまにきれいな模様ができると、お客さんから逆に「そんなのは求めていません。下手なラテアートが見たいんです」とか言われちゃう。
高倉

――その下手なラテアートを、あえてお店のInstagramでも発信されているとか。
完成形だけでなく、私たちが試行錯誤している過程も見てほしくて。そしたら「私もやってみたい」というお客さんが出てきて、元カフェ店員さんやカフェ経営者の方までが挑戦する「ラテアートチャレンジ」に広がりました。
広美

ラテアートチャレンジが始まると、みんな寄ってきて盛り上がるんですよ。下手なほど盛り上がって、そこでお客さん同士で仲良くなったりして楽しいんです。
高倉




この人、ラテアートは下手なんですけど、ティラミスはおいしいと好評なんですよ。
広美


――そのレシピを考案したのは高倉さんだと聞いています。きっかけは?
お二人が「カフェなのに自家製スイーツを出せない」って悩んでいたんです。
高倉

私は大雑把だから、お菓子作りは絶対無理って。
広美

僕も作ったことなかったです。
悠佑

でも、このお店のおしゃれな雰囲気に合うスイーツがあればいいなって。しかも、それを悠佑さんが作ったら面白いなと思って(笑)、混ぜるだけでできるティラミスを提案しました。
高倉

面白い……。
悠佑


最初に私が作るところを見せて、練習用に動画も撮ってもらったので、大丈夫だろうと気軽に構えていたんです。
高倉

ところが全然簡単じゃなかったんですよ。最初はなんか 、ボソボソになっちゃって。
悠佑

混ぜるだけと言っても、温度や湿度で加減が変わったりしてなかなか難しいんですよ。お客さんから「この前と違う」「クリームが柔らかすぎ」とか言われるたびに理恵さんに相談して。しかもそのあいだ、皆さんお金払って食べてくださって……。
広美

おかげさまで、いまではティラミス目当てのお客さんも増えてきました。
悠佑

――では高倉さん、いまの出来はいかがですか?
どれどれ。あ、おいしい! 前よりもっとおいしくなってますよ!
高倉


「人でつくられているまち」梶が谷の魅力
オープンから1年あまり。kopje koffieはまちの交流拠点として、梶が谷にすっかり溶け込んでいる。最後に、まちへの想いや今後の展望について聞いてみた。
――いまも、テーブルをまたいでお客さん同士で会話していますね。
たまたま居合わせたお客さん同士がああやって話して、人がつながっていくのを見るのが幸せなんです。そこからお客さん同士でイベントを企画したり、一緒に仕事をしたり、小さい輪がどんどん大きくなっていくのが楽しい。
悠佑


店主のお二人が誰かと楽しそうに話していると、私も「混ぜて、混ぜて」と仲間に入っていけるし、ここで会った人とは初対面でも自然と心を開けちゃう。
高倉

――常連さんにとって、ここはどんな場所ですか?
ほんと、家みたい。お二人は常連さんのオーダーも、座る席もわかっていて。私たちは「ただいま」って帰ってきて、「行ってきます」と出ていく感じです。
高倉


確かに「行ってらっしゃい」って言うこと多いかも(笑)。私たちにとって、コーヒーは人と人をつなぐ接着剤なんですよね。
広美

――お店を始めて、梶が谷というまちの印象は変わりましたか?
そうですね。お店をつくっているときから、通りがかりの人たちが「頑張ってね」「インスタ見てるよ」って声をかけてくれて。いまも「長く続けてよ!」って励ますためだけに立ち寄ってくれる人もいます。都会の人は冷たいと思っていたのに、こんなにあたたかいんだって感動しました。
悠佑


――そんな梶が谷のどんなところに魅力を感じますか?
車の音や騒音がなくて、静かなところ。子どもにとっても良い環境です。道端に咲く花を見て「ママ、あれ何?」「ひまわりだよー」って話しながら歩ける、そんなのどかさもいいですね。
高倉

梶が谷は何もないって言われがちだけど、人がいい。お店がたくさん立ち並ぶまちもいいけれど、ここは「人でつくられているまち」という感じがします。
広美

――それは、人の顔が見えるようになったから?
そうですね。いまもお客さんとのふれあいがあって、ご近所さんと声をかけ合えて。栄えることだけが豊かさではないと思うから、昔と変わらない梶が谷の良さを大切にしていきたいです。
広美


――これから、kopje koffieをどんな場所にしていきたいですか?
今後さらにいろんな人が交流して、まちの人が新しいことに挑戦するきっかけが生まれる場所にしていけ たらいいですね。
悠佑

「kopje koffieに行けば誰かとつながれる」と思ってもらえるような、ただコーヒーを飲むだけじゃない場所にしていきたいです。「kopje koffieがあるから梶が谷に引っ越そう」って思ってもらえたら最高ですね!
広美


1杯のコーヒーをきっかけに、素敵な服との思わぬ出会いがあり、店を訪れる人同士が顔見知りになって、そこからまた新しいご縁がつながっていく。小泉さん夫妻と高倉さんのやりとり、そして店で過ごすお客さんの姿から、人とつながる梶が谷暮らしの楽しさを垣間見ることができた。kopje koffieの扉を開けたら、あなたも何かに出会えるかもしれない。
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