瓦と百人一首が散りばめられた遊歩道。用賀の「いらかみち」を歩く

東急公式サイト編集部

2025/7/22

ある日、田園都市線の用賀駅に降り立った編集部。駅の周辺を散策していると、足元に文字が彫ってあることに気づきました。「あきのたの かりほのいほの…1」「ちはやぶる かみよもきかず…17」「このたびは ぬさもとりあへず…24」百人一首だ!しかも番号がついている。もしかして、百首すべて彫ってある?ならば辿ってみよう!そんな好奇心で歩いた「いらかみち」という遊歩道をご紹介します。

百人一首の道、正体は「いらかみち(用賀プロムナード)」

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昭和61年に発行された「いらかみち(用賀プロムナード)」のパンフレット(提供:世田谷区)

好奇心を掻き立ててやまないこの道、実は1986年に完成した「用賀プロムナード」という遊歩道。「生活と文化の軸をつくる」ことをテーマに、用賀駅から世田谷美術館(砧公園内)までの約1キロメートルをつなぐ道です。美術館までの道のりを楽しく歩いてもらうこともテーマのひとつで、「歩く・感じる・楽しむ・憩う」といった歩く人の快適さも重視されています。

設計を手がけたのは、象設計集団。平成14年には、世田谷区の地域風景資産にも選ばれています。遊歩道といいつつも歩行者だけの道ではなく、車も通行できることが特徴的です。「いらかみち」では、“人はのびのびと、車はつつましく”行き交います。

その遊歩道のうち約600メートルが、次の4つのゾーンで構成された「いらかみち」です。

  • みちのホール(用賀二条通り内)
  • みちのギャラリー(西用賀通り沿い)
  • みちのサロン(用賀三条通り内)
  • 並木みち(用賀三条通り内)
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いろいろな瓦に出会える。

「いらか」は「瓦」という意味で、いらかみちには趣のある淡路瓦が多用されています。瓦というといわゆる屋根瓦を想像してしまいますが、いらかみちの瓦は多種多様!瓦のデザインの幅広さに驚くはずです。

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ひとつひとつ異なる筆跡は、地域の方の手によるもの。

そんな遊歩道になぜ百人一首が彫られているのかというと、『日本の“いにしえ”に心を遊ばせてもらう』ためなのだとか。用賀がかつての大山道の宿場町だったこともあり、その歴史を感じられるようにもなっているんですね。

今回は、百人一首の一首目が彫られている用賀駅から砧公園方面に向かうルートで散策してみます。

用賀駅北口から「いらかみち」へ出発

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田園都市線 用賀駅の北口から出発!
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足元に彫られているのが一首目。

用賀駅の北口から出発して、「用賀プロムナード」の始点に到着。この左手には「世田谷ビジネススクエア(GMOインターネットTOWER)」があります。そして、足元に彫られた一首目はきっと多くの方が教科書で目にしたことがある天智天皇の歌です。ここから「いらかみち」を目指します。

用賀駅前エリアを進む

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用賀商店街を右手にして西方向へ。足元には六首目の中納言家持の歌が。

「いらかみち」を目指してどんどん進みます。途中には地元のお客さんで賑わう「用賀商店街」も。編集部が散策していたのは午前中ですが、ランチタイムに向けた仕込みなのか、お肉を焼いているようないい匂いがします。

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「いらかみち」まであと少し(左)。たぬきも道案内してくれる(右)。
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三角形のオブジェが象徴的な「用賀くすのき公園」は「三角公園」とも呼ばれるそう。

「世田谷ビジネススクエア(GMOインターネットTOWER)」の外側を周るように歩いて行くと、大きな三角形のオブジェが目をひく「用賀くすのき公園」が現れました。かなりの広さがあり、まるで広場みたい!

この公園は「用賀サマーフェスティバル」の会場としても親しまれているのだそう。ちなみに2025年は8月23日〜24日に開催されます(詳細は公式Instagram @youga.summer.festival または note https://note.com/ysf000 にて)。

いよいよ「いらかみち」へ

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右手に見えるのは「用賀の観音様」として知られる「無量寺」。
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「無量寺」の先を左に曲がると……
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おお!完璧な遊歩道だ!

いよいよ「いらかみち」に到着!ここから先は、住宅が建ち並ぶ静かな街並みが続きます。道中には百人一首のほかにもたくさんのアートがあるとのことなので、さっそく見にいってみましょう。

「いらかみち」のアートを探索

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「いらかみち」にはたくさんのアートがある(提供:世田谷区)

世田谷区からいただいた資料によると、「いらかみち」にはオブジェなどのたくさんのアートがあるのだそう。完成から40年ほど経っていますが、当時のおもかげを感じながら、ひとつひとつ辿ってみます。

「へびのかわの水路」が主役の「みちのホール」ゾーン

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くねくねした形の「へびのかわの水路」がある、「みちのホール」ゾーン。

「いらかみち」には「へびのかわの水路」など水路がいくつかありますが、これらはもともと存在していた水路を再現したもの。ドブ川のようになっていた水路を美しく生まれ変わらせて、等々力渓谷があることでも有名な谷沢川上流のイメージを表現したのだそうです。さらに、瓦の道路舗装に彫られた曲線もまた、“流れ”を表しています。

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「たぬきの水飲み」が出迎えてくれる。
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水路の脇に設置された「たつなみベンチ」。
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金魚?鯉?玉砂利の水路の底に埋め込まれたモチーフ。
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コロンとしてかわいい「あさひベンチ」(左)と緑色があざやかな「木橋」(右)。
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「みちのホール」はここまで。百人一首も実はもう五十二首目!

美術館の存在感が増す「みちのギャラリー」ゾーンへ

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「みちのギャラリー」には水路や展示台がある。

「みちのギャラリー」は、車道とは完全に分離した歩行者専用の道。道の両脇にそれぞれ水路と展示台があり、この先にある世田谷美術館のポスターなどが掲示されています。さきほどの「みちのホール」よりもさらにアート感の強い空間です。

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左側に見えているのが展示台。右側には水路がある。
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大河ドラマでも話題になった紫式部の歌(左)と、2つめの「たぬきの水飲み」(右)を発見!
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またもやたぬき!左に曲がります。

巨大なチェスコートは必見!「みちのサロン」ゾーン

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たぬきの指示どおり、向かって右手の「みちのサロン」ゾーンへ進みます。

ここまでの道中はオリエンタルな雰囲気が強かったのですが、和風とも洋風とも割り切れない、どこかエキゾチックな雰囲気に変わるのがこの「みちのサロン」。ビビッドな色使いのモチーフや巨大なチェスコートなど、まさにアート!と思える仕掛けがたくさんあります。

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これはおそらく「パティオ」。たしかに中庭っぽさがあるかも。
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地面ではなく石に彫られている歌が登場!八十六首目です。
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凛々しく佇む「王さまと女王さまのイス」。
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一歩引いて見てみると……なんと、巨大なチェスコート!駒たちも整列。
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チェスコートの隣にも広いスペース。黄色いステップ部分が「ステージ」で、手前の広い部分が「野外教室」です。

「並木みち」ゾーンは緑が気持ち良い散策路

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「みちのサロン」エリアを抜けて、「並木みち」ゾーンへ。

THE遊歩道!という佇まいで歩行者を迎えてくれるのが「並木みち」ゾーン。道のすぐ横には大きな畑が広がっていたり、はたまた迫力のある鬼瓦が鎮座していたりと、多彩な表情がおもしろい場所です。

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鋭い眼差しと険しい表情にびっくり!これは「鬼瓦の掲示板」。
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鬼瓦が見守る、「樹々と語らう」ためのベンチスペース。
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赤鬼、まさかのリバーシブル。
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ふと見上げると琵琶の木。奥には「世田谷ビジネススクエア(GMOインターネットTOWER)」が。
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すぐ隣に大きな畑。果物や野菜がすくすく育っているよう。
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「いらかみち」は歩車共存道路なので、自転車も車も人も同じ道を使います。
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いらかみちの終点が見えてきました…!
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終点に立っていた「マンドリンを弾く少女」。
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環八通りにぶつかる「いらかみち」の終点に百首目を発見!
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環八通りを越えた先、砧公園の中に「用賀プロナード」の終点となる世田谷美術館があります。
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「並木みち」を振り返ると、守護神のような鬼瓦と目が合いました。

唯一無二の「瓦の道」で散策を楽しんでみては

懐かしい雰囲気の中で「歩く・感じる・楽しむ・憩う」を楽しめる「いらかみち」。完成から40年ほどが経ち、周囲の街はきっと大きく変化したはず。けれど、「いらかみち」は今でも、当時の空気感を残しているように感じられます。道中に散りばめられた百人一首や瓦、アート、草花などが、散策をより一層豊かにしてくれる。そんなことを感じる道でした。

用賀プロムナード
・所在地:東京都世田谷区用賀4丁目、上用賀5丁目
・世田谷区ホームページ:https://www.city.setagaya.lg.jp/02092/4321.html

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取材・文:SABO(東急公式サイト編集部)

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