今日もトングでカチカチと

「ご利益散歩とカンパーニュ」今日もトングでカチカチと〜九品仏編〜

Urban Story Lab.

2025/7/1

パン屋さんに入ったときにフワッと香る、甘くて香ばしい幸せな匂い。高揚感に包まれながら、たくさんのパンを前に「どのパンにしようかな」と、トングを持つ手もカチカチと踊る。

エッセイストの藤岡みなみさんが東急線沿線のひと駅を歩き、パン屋さんを巡るこの企画。

4回目の舞台は九品仏。街歩きの中で感じた出会いや、話題のパン屋さん「BOULANGERIE NEUF9」で感じたときめき、味わいをレポートしていきます。

藤岡みなみ
1988年生まれの文筆家。ラジオパーソナリティとしても10年以上活動するほか、ドキュメンタリー映画のプロデューサーなども務める。​時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。時間をテーマにしたイベントや書籍なども制作している。著書にエッセイ集『パンダのうんこはいい匂い』、『藤岡みなみの穴場ハンターが行く! In 北海道』、『ふやすミニマリスト』などがある。学生時代パン屋さんでアルバイトをしていた。
Twitter(X):https://x.com/fujiokaminami
Instagram:https://www.instagram.com/fujiokaminami/

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九品仏駅で降りるのは初めて。
改札は1か所のみ、ホームも短めの小さな駅。
だからか、ちょっとだけ路面電車みたいな雰囲気があって、
街と電車が仲良しな感じがする。

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活気があるのに静けさもある

ピンクののぼりに誘われて九品仏商店街を歩き出す。
街を歩いている人が多いのに、全くざわざわしてなくて驚いた。

これは、いい街に違いない。
早くも住みたくなっている。

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可憐な街並み

お花屋さん、ケーキ屋さん、コーヒー屋さんなど寄り道したいお店ばかり。
新しいお店と昔ながらのお店が共存している感じもいい。
もし家の最寄駅が九品仏だったら、毎日お散歩ざんまいになるだろう。

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「BOULANGERIE NEUF9」

今日の目的地は駅から徒歩2分、「BOULANGERIE NEUF9」さん。
「NEUF」はフランス語で「9」という意味で、九品仏に由来しているそう。

自由が丘の人気フレンチレストラン「KOST」の姉妹店とのこと。

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お客さんが2組ほどでいっぱいになりそうな、こぢんまりとした店内

店内に入ると奥の工房から生命力あふれる香ばしい匂い。
大きな窓から光がいっぱい入って、パンたちをいっそう輝かせている。

コンパクトな店内が、私の意識をぎゅっとパンに集中させた。
この空間にいるとき、人はパンを求めるだけのやさしい生き物になる。

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カンパーニュはフランス語で「田舎」という意味

かわいい木製のショーケースにおしゃれパンがずらっと並ぶ。
私を連れていけば?ってみんなが話しかけてくる。
どうしよう、選べない。

奥にいたシェフにおすすめを聞いてみた。

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シェフの滝口さん

「おすすめはやっぱりカンパーニュです」
わかりました! 
絶対カンパーニュを買います。

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下の段にいろんなカンパーニュ

カンパーニュを買うと決めたけど……大変だ。
カンパーニュがいっぱいある。
こんなにさまざまなカンパーニュを見たことがない。

さんざん迷って4種類購入。
本当は全部食べてみたい。

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窓際に置かれていた「ほんわかドーナツ」

店員さんが「最近は、ほんわかドーナツも人気です」と教えてくれたのでもちろん買う。
揚げていない焼きドーナツ。
その見た目、名前、存在すべてが平和。
まだ食べてないのに、買っただけでほんわかしてきた。

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九品仏駅の踏切

お店を出てお散歩を再開。
今度は踏切の反対側も歩いてみたい。
パンを食べるのにぴったりな場所はどこかな。

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少し歩くとすぐに参道

駅の反対側も穏やかで落ち着いた街並み。
参道を進むと、九品仏の由来になった9体の阿弥陀如来像が安置される浄真寺がある。

パンの袋を持ったままちょっと寄り道。
浄真寺、想像していたよりずっと大きくて見どころがたくさんあった。
ちょっとした散歩のつもりだったのに観光旅行の満足度。
遠くに住む友だちが東京に来たら、わざわざ連れていきたいような名所だ。

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開運のお守り

安産・厄除け・開運などにご利益があるらしい浄真寺。
水色のパッと明るいお守りを買ってまた歩き出す。
いいことありますように。
いいお散歩になりますように。

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お昼寝中の地域猫さん

するとさっそくご利益が!
猫さんに出会えた。猫に会えたらその日のお散歩は120点。
遠目に見たら、焼きたてのふわふわパンが落ちているかと思った。

お守りの効果あったな。

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猫も好きそうな道

地元の人々が行き交う緑道を私も真似して歩いてみる。
歩きたくなる道が多い。
この先には何かある気がする。
今日の私はツイてるはず。いい予感に従って進む。

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ベストな公園にたどり着いた

ねこじゃらし公園、名前からしていい公園!
猫より鳩のほうが多い気もするけど。

ここでパンを食べたら幸せになれそう。

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鳩の視線をめっちゃ感じる

シェフのおすすめ、カンパーニュをさっそくいただく。
ひと口食べると、ねこじゃらし公園が小麦畑になった。
なんていい匂いなんだ。
カリッとした皮の中はむちむち。弾力が楽しい。
活きのいいカンパーニュ。

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ほんわかドーナツ

ほんわかドーナツも食べてみた。
まぶされているお砂糖が舌の上できらきら弾ける。
そしてかじると、中からやさしさが溢れ出てくる。
じわぁ……。
元気がない人に食べてもらいたい。

あぁ、しみじみといい一日だった。
友だちに今度「九品仏でお散歩しよう」って言おう。
パンを買って浄真寺にお参りして猫を探して、ねこじゃらし公園でカンパーニュを食べる。
完璧なプランだ。

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左から、苺とホワイトチョコのカンパーニュ、みそチーズのカンパーニュ、普通のカンパーニュ、カンパーニュショコラ。

帰ってからもお楽しみは続く。
翌日は朝からカンパーニュパーティを開催してしまった。

苺とホワイトチョコ。甘酸っぱくてミルキーな具材たちがランダムに口に入って、ひと口ごとにサプライズがある。みそチーズは、味がしっかり濃くておいしい!ビールが飲みたくなる。カンパーニュショコラ、チョコの味わいとカンパーニュのもちもち感が最強タッグ。次回も絶対買いたい。
カンパーニュにはいくつもの表情があることを知った。

パン屋散歩は、その日だけじゃなくて翌日もいい日にしてくれる。
ご利益はまだまだ続きそうだ。

<取材協力>
BOULANGERIE NEUF9
・住所:東京都世田谷区奥沢6丁目12−3
・電話番号:03-6432-1899
・営業時間:11:00〜20:00 ※商品がなくなり次第閉店させて頂く場合があります。
・定休日:火曜日、第2・第4金曜日
https://www.kost.jp/neuf9/

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文・写真/藤岡みなみ
編集/ヒャクマンボルト

掲載店舗・施設・イベント・価格などの情報は記事公開時点のものです。定休日や営業時間などは予告なく変更される場合がありますのでご了承ください。

Urban Story Lab.

まちのいいところって、正面からだと見えづらかったりする。だから、ちょっとだけナナメ視点がいい。ワクワクや発見に満ちた、東急線沿線の“まちのストーリー”を紡ぎます。

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