ラーメン激戦区の日吉で、慶應生に愛される「麺場ハマトラ」。ほかにはない味とおもてなしの数々
- 取材・文:三浦希
- 写真:大西陽
- 編集:三浦希、川谷恭平(CINRA)
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「ラーメン激戦区」と知られる日吉で、慶應大学の学生たちに長く愛されている「麺場 ハマトラ」。竹炭を練り込んだ黒麺や毎月変わる限定メニューなど、唯一無二の個性で魅了してきた。
店先にかかる真っ赤な暖簾をくぐると、鶏ガラスープの芳醇な香りが迎えてくれる。湯気が立つ厨房から「いらっしゃい!」と明るい声をかけてくれるのは、2021年に店主を引き継いだリュウさん。そんな彼との対談に応じてくれたのは、無類のラーメン好きであり、慶應大学在学中にこの店に通いつめた真聖さん。ハマトラの魅力と、学生時代の思い出をうかがった。

「ラーメン激戦区」で際立つハマトラの魅力
――真聖さんはいつからハマトラに通っているんですか?
慶應大学に入学した2016年からですね。初めて来たのは、大学1年生の春でした。当時は野球サークルに所属していたのですが、サークルの同級生や先輩たちと一緒にラーメンを食べたのを覚えています。 社会人になってからも隣駅の綱島にある社員寮に住んでいたので、仕事終わりにハマトラを目指して日吉へ……なんてことも多々ありましたね。
真聖


――やはり、慶應生にとって「ハマトラ」は欠かせない存在なんですね。
そうだと思います。日吉は「ラーメン激 戦区」 と呼ばれるほど名店が多いのですが、なかでもやっぱり、ハマトラは特別ですね。昼時はいつもお客さんがずらりと列をなしているので、なかなか入れないんですけどね(笑)。
真聖


サークル活動が終わった夕方ごろに来てくれる学生さんもけっこう多いですよ。ラーメン屋さんってカウンター席が中心じゃないですか。でも、ウチは店内を広く設計していて、大きなテーブル席も3つ設置しています。それはまさに、慶應生のために用意したもので、大人数でも窮屈せずにゆったりと楽しめるんですよ。 10人ぐらいのグループで来店していただいても、1つのテーブルで皆そろって食べていけますよ。 真聖:野球サークルはとにかく人数が多かったので、いつも広いテーブルに助けられていましたね(笑)。
リュウ


――学生時代によく注文していたメニューはなんですか?
「塩鶏そば」をよく注文していました。真っ黒な麺が目にも美しくて、味もピカイチ。いまでも、注文するのは「塩鶏そば」が多いですね。
真聖

――特に、どんなところがお好きなのでしょう?
全部です、全部(笑)。透き通った魚介系スープに、しっかりと絡んでくる黒いちぢれ麺が絶妙で。さらに焦がしネギの香りも特徴的です。面白いことに、その香りはラーメンの風味を邪魔せず、むしろ引き立ててくれるんですよね。鶏チャーシューがジューシーに仕上がっているのもポイントです。
真聖


――ほう。
僕は鹿児島県出身で、昔から鹿児島や博多のラーメンを中心にさまざまなジャンルを食べてきました。神奈川県といえば、やっぱり横浜の「家系ラーメン」じゃないですか。家系の濃厚な味ももちろん好きなんですけど、ハマトラはそれとは全然違うスタイルで勝負をしていて驚きました。横浜に本店があるのに「非家系ラーメン」を掲げているのがユニークなんですよね。 家系特有の醤油とんこつスープではなく、ハマトラは魚介系XO醤をブレンドした濁りのない透明な清湯スープを採用しています。ホウレンソウは乗っていないのに、それでも家系ラーメンに負けないくらいの魅力があるんです。唯一無二とはまさにこのことで………。
真聖

――ごめんなさい、その辺りで……(笑)。
とにかく、すごく好きなんです。すべてのメニューが「大盛り無料」という点も魅力なんですよね。学生のころは2限の講義が終わってハマトラに直行し、大学に戻って3限を受けるころには、お腹いっぱいで急激に眠くなってしまったり……。懐かしい思い出です(笑)。
真聖


日吉で守り続ける、変わらぬ一杯
学生時代の思い出を振り返りながら、ハマトラのラーメンが持つ魅力について語ってくれた真聖さん。当時の記憶に想いを馳せるなか、お腹の虫がほんのり静かに鳴き出したころ、店主のリュウさんから粋な提案が。


真聖さん、せっかくだから思い出のラーメン、食べて行きませんか? 学生時代に召し上がっていたメニューをお出ししますよ!
リュウ

えっ、いいんですか……? では『塩鶏そば』でお願いします!
真聖

あのころと同じように大盛りにしましょうか?
リュウ

「お言葉に甘えて……」といきたいところですが、昔とは胃の容量が違うので、普通盛りでお願いします……。
真聖

あいよっ!
リュウ




――真聖さん、お味はいかがですか?
最高です、変わらないおいしさ。学生時代は「つけそば」と迷うこともあったのですが、なんだかんだ僕はやっぱり「塩鶏そば」派なんだなぁ、と再確認しました。この黒い麺を見ると、あのころを思い出して安心するんです。
真聖

竹炭を練り込んだ黒色のちぢれ麺、清酒100%の塩ダレ、白絞油(しらしめゆ)を使用したネギオイルや揚げネギなど、一杯にこだわりをたっぷり詰めこんでいます。ハマトラは、横浜、福岡、インドネシアのバリ島にも店舗がありますが、この味を提供するのは、じつは日吉店だけ。2003年のオープン以来、いまも変わらず続けているんです。
リュウ


――そういえば、テーブルに備えられているのは水じゃないようですが?
よく気づきましたね。ジャスミン茶と鉄観音(※)をブレンドしたオリジナルのお茶です。
リュウ

このお茶もうれしいんですよ。口のなかがリフレッシュされて、ラーメンを純粋に味わえるし、食後にも最適なんです。マジでいま学生に戻ったような気持ちで、感動しています。
真聖

※烏龍茶の一種で、「てっかんのん」と読む

慶應生はラーメンだけに魅了されたわけじゃない。ハマトラ流おもてなしの数々
数々のこだわりが詰め込まれたハマトラのラーメン。しかし、それだけではない。お客さん のお腹と心を満足させるためのうれしい工夫の数々についてリュウさんに語ってもらった。
「大盛り無料」や広い店内以外にも、学生に喜んでもらうために、さまざまな工夫をしていますよ。たとえば、テーブル席にはおみくじを置いています。皆で来たときに盛り上がってほしいなぁと思って。それから季節ごとの工夫もありますね。
リュウ

夏に提供していた団扇はとても重宝しました。
真聖

覚えていてくれてうれしいです。ほかにも香辛料メーカーとタイアップして、ラーメン専用の味変調味料を手づくりしたり、デザイナーのJACKAROPさんとコラボしてオリジナルTシャツをつくったり。いつも私たちが第一に考えるのは「お客さまに喜んでいただくこと」なんです。
リュウ




また、二十歳未満の学生は飲めませんが、ラーメンが入ったクラフトビール「ハマトラさん」もつくっています(笑)。
リュウ

――ラーメンが入ったビール……!?
少量ではあるのですが、麺や鶏チャーシュー、鶏白湯スープなど、ラーメンの具材がまるごと入ったビールです。手前味噌ながら、とんでもないですよね(笑)。話のネタにもなりますし、味もしっかりおいしいんですよ。
リュウ


一杯飲んでいかれますか?
リュウ

――いえ、仕事にならなくなってしまうかもしれないので、ビールはまた別の機会に……(笑)。
たしかに、お仕事中ですもんね……(笑)。これまで紹介したように、日吉店では「学生に喜んでもらえるお店」を目指していて。それは、2003年のオープン以来ずっと変わらないこだわりですね。僕自身は2021年から店主を勤めていますが、そのポイントは常にブレないよう、心がけています。
リュウ

「ブーン」と動く謎の機械が、食べ終えた人を幸せな表情に
学生街にて、学生のためのラーメンを。ふとメニューを眺めると、そのほとんどが1,000円以下。リュウさんは言葉に出さなかったものの、これもきっと学生たちのことを思ってのことなのだろう。学生にやさしいラーメン屋さんとして営業を続けるハマトラ。食べ終えたあと、リュウさんに最後の質問を投げかけた。「あの機械は一体……?」
――ずっと気になっていたのですが、店頭に置かれているあの機械は……?
あれですか? 見てのとおり、わたあめメーカーです(笑)。
リュウ


――いや、そりゃそうなんですよ(笑)。なぜここに?
わたあめメーカーを設置した理由は、先ほども話したとおり、学生を中心としたお客さんたちに喜んでい ただくためですね。食後にわたあめを食べながら帰宅できると楽しいかなぁと。オーナーの意向で設置したのですが、多くの方々に満足していただけていますよ。
リュウ

――真聖さんも、わたあめをつくったこと、あります?
もちろんです。「わたあめをつくらずにハマトラをあとにするなんてもったいない」とまで思っていて(笑)。日吉駅周辺にはいくつか商店街があるのですが、わたあめを持っている人を見かけると「あっ、ハマトラに行ったんだな」とわかるんですよ。 キャンパス内でわたあめを持った人を見かけることもありました。地域に強く根づいた人気を感じますよね。今日も食べたいなぁと思っています。
真聖


ラーメンもわたあめも食べて、まるで学生のようですね。今日の対談を機に、真聖さんと仲良くなれた気がしています(笑)。またお待ちしていますよ。
リュウ

ふふっ、僕も同じ思いです。おいしいラーメン、ごちそうさまでした。また必ずお邪魔します!
真聖

取材を終えたのは、ちょうど真聖さんが所属していた野球サークルの練習が終わる午後6時ごろ。食後につくったわたあめを片手に、真聖さんがぽつりとこぼす。
「もう一度、学生に戻りたいな」
お腹を空かせた学生時代のように大盛りをオーダーすることはなくなったけれど、気持ちはいつでもあのころのまま。その証拠に、真聖さんの笑顔は夜空のもとにきらめいていた。
「麺場 ハマトラ」は、これからもずっと慶應生の味方として営業を続ける。ここでしか食べられない一杯を、読者の皆さんもご賞味あれ。もちろん、食後のわたあめも忘れずに。
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