上町から三軒茶屋へ。新旧の縁が交わる街で、芸人・ふじこ&コモダドラゴンの通う名店たち
- 取材・文:飯嶋藍子
- 写真:N A ï V E(佐藤友亮)
- 編集:山元翔一(CINRA)
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芸人たちから愛される街、三軒茶屋。おしゃれなイメージとともに、個人が営むユニークな飲食店が多いことでも知られる三茶の街で、夜な夜な飲み歩いているのがお笑いトリオ・素晴らしき人生のふじこさんだ。
そんなふじこさんが可愛がっている後輩が、ポテトカレッジのコモダドラゴンさん。ともにテレビ東京『ゴッドタン』の「この若手知ってんのか!?2024」に出演し、じわじわ注目を集める二人に東急世田谷線沿線のお店を紹介してもらった。
ふじこさんを案内役に、上町の人気洋食屋「バーボン」、まるで実家のように入り浸っているという三軒茶屋の老舗居酒屋「TA-KE 酒・肴・お茶漬け」をはしご。ランチから早めの飲みまでを堪能しつつ、TA-KEの大女将と大将を交えながら、三軒茶屋の魅力、ふじこさん、コモダドラゴンさんのお笑いに対する思いや夢についてもじっくり聞いた。

本気のデートプランにもピッタリ? 若手芸人二人が上町のクラシカルな洋食屋へ
――ふじこさんがバーボンに来店したきっかけは?
ランチ会と称して先輩芸人と一緒に世田谷線沿線の飲食店によく行くんですよ。その一環で連れてきてもらいました。そこから、『M-1』の1回戦が終わって「ちょっと今日はいいもの食おう」ってときとか、バイトがなくて落ち着けるときとか、プチ贅沢みたいな感覚でたまに来るようになりました。
ふじこ

――今日は何をオーダーしましたか?
「バーボンライス」にしました。僕はあんまり冒険しないタイプかつ、最初に食べた「バーボンライス」が衝撃的すぎて、これしか頼まない です。やっぱり何度食べても大好き。ガーリックが効いててめちゃめちゃうまいです。
ふじこ

ふじこさんが「バーボンライス」と「オリジナルライス」が人気って言っていたので、僕は「オリジナルライス」にしました。結構パンチがありますね! チーズとお肉がたっぷりでリゾットとラザニアの中間みたいな感じ。黒胡椒がめっちゃ合います。
コモダドラゴン





「バーボンライス」も、肉がごろごろ入っててかなりおいしいですね! ガーリックが好きなので、次来たら「バーボンライス」頼んでみます。お店の雰囲気もいいから、ランチに行って夕方には解散みたいなデートのときに来たいです。
コモダドラゴン

マジで気になってる子とのデートプランだ。
ふじこ

そう。デートでガーリックを食べるかどうかで、そこからの付き合いが変わってきますから。食べたら信頼できる人ですよ。近所にあってほしい店だなあ。
コモダドラゴン

クラシックな昔ながらの洋食屋さんだから、きっとみんな通いたくなる親 しみやすいお店だと思います。
ふじこ



三軒茶屋で店を構えて半世紀。俳優や芸人に愛され、夜な夜な縁を紡ぐTA-KEの魅力
たっぷりのランチに満足し、少し腹ごなしをしてから訪れたのは、ふじこさんが足繁く通う三軒茶屋の老舗居酒屋・TA-KE。
2週間に1回は一緒に飲みに行くというコモダドラゴンさんとふじこさん。じつはこの取材の前日もTA-KEで飲もうとしたところ、あいにく満席で入れなかったのだという。
「おかえり!」と二人を出迎える大将の佐久間さん、佐久間さんの母である大女将を交え、TA-KEに集まる人々の交流やこだわりのメニュー、三軒茶屋の魅力まで聞いた。

――TA-KEはどんなお店なんですか?
私の両親がもともと寿司屋をやっていて、昭和46年(1973年)に神楽坂から三軒茶屋に移転したんです。親父が60歳のときに寿司屋をやめ、そこから居酒屋になりました。親父が他界したあとに屋号を変えて、いまのかたちになっています。前身もあわせたら三軒茶屋で店をやり始めて53年です。
佐久間

――すごい! ふじこさんやコモダドラゴンさんのように芸人さんがよくいらっしゃるんですか?
ベテランから若手の芸人さんまでたくさんいらっしゃいます。マネージャーさんが芸人さんを連れてきてくれることもあるし、俳優さんなんかもよくいらっしゃいますよ。
佐久間



僕も前の事務所のマネージャーさんに連れてきてもらったのが最初です。もう7年くらい通っていて、実家かってくらいお店にいますね。すごく仲良くさせていただいていて、大将やほかのお客さんと一緒に釣りに行ったこともあります。
ふじこ

みんなただのお客さんっていうわけじゃなくて、店が終わったあとに一緒に飲みにいったり、カラオケに行ったり、休みの日に釣りに行ったり、プライベートでも遊ぶんです。
佐久間

初対面の人同士で仲良くなることも多いし、みんな友達って感じだね。
大女将



――常連のふじこさんのおすすめのメニューは?
「だし巻き玉子焼き」「スミイカのあぶり」「ナス明太のクリーム和え」「三茶漬け」が大好きです!
ふじこ

もともと寿司屋だったので魚にはこだわって、豊洲で仕入れているんです。「スミイカのあぶり」には、親父の代から50年以上継ぎ足しながら使っている穴子のツメを塗ってあぶっています。
佐久間



「三茶漬け」は、ある俳優さんがもともと単品だったお茶漬けのメニューを見て「味を選べないからトッピングさせてほしい」と言って3種類トッピングしたことから名付けました。三軒茶屋だからちょうどいいしね(笑)。あさり、鯛、鮭が入っています。芸能界を目指している子がその俳優さんにあやかってこのお茶漬けを食べに来ることもあります。
佐久間

――佐久間さんはふじこさんの活動をどう見ていますか?
どんどんビッグになってほしいねえ。ふじこだけじゃなくて、俳優の子も歌手の子たちも、来てくれている人みんなにそう思っています。似た業界の人同士だと話が盛り上がるから、お客さん同士を紹介することもあって。 アドバイスとまではいかないけれど、誰かと話 すことによって解決することもあるじゃないですか。だから、話だけでも聞いて、いい人がいれば紹介して、何かのきっかけになったらいいなって思っています。
佐久間




――長年ここで過ごしてきた佐久間さんが考える三軒茶屋の魅力は?
昔から三軒茶屋にいる人も、新しく来た若い人もみんなが楽しめるところが魅力ですね。ふじこみたいに夢を追っているお客さんも多いから、みんなの話を聞いているだけで楽しいですよ。
佐久間

若者がライブハウスや古着屋さんに遊びにきたり、お年寄りが団地や近所のスーパーマーケットの前で集まって話していたり、何でもありなのが三軒茶屋。どんな街も何十年も経てば変わっていくけど、新しくなりつつ、みんな仲良くやっていて、いい街だなと思いますよ。
大女将


芸人として飯を食えるようになる。ウケたり、スベったり、夢を追う二人の酒のツマミは?
真心こもったメニューに舌鼓を打ち、会話もお酒も進むコモダドラゴンさんとふじこさん。同じお笑いの世界で苦楽を共にする二人の出会い、お笑いに対する思いや夢について語ってもらった。
――お二人が仲良くなったきっかけは?
下北沢でやっていたお笑いライブがきっかけです。各曜日にレギュラーメンバーがいて、僕が土曜、コモちゃんが金曜レギュラーだったんですよ。それで去年の忘年会のときに朝まで飲む機会があって、ぐっと距離が縮まりました。
ふじこ

そこから『ゴッドタン』で共演して頻繁に飲むようになりましたね。
コモダドラゴン


『ゴッドタン』は大きかったね。そのあとコモダドラゴンの家が火事で全焼したんですよ。家も金もなくなってかわいそうだからいろいろと誘うようになって。
ふじこ

フライパンを買ってもらったり、飯をおごってもらったりしました。本当に全部なくなったので……。僕は基本的に文句ばっかり言っているし、先輩方も僕みたいなかわいくない後輩におごりたくないんでしょうね。でも、ふじこさんはすごく優しくしてくれる稀有な存在です。
コモダドラゴン

――お二人でどんな話をするんですか?
「こういう芸人は嫌いだ」とか「あいつやばいよな?」っていう悪口(笑)。
コモダドラゴン

悪口じゃなくて情報交換ね。「ワーキャー人気の芸人たちを見返そう」とか「俺たちはこんなにおもしろいことをしているのに、なんで女の子に声をかけられないんだ!」ってよく話しています。
ふじこ



――お二人が芸人になったきっかけは?
働きたくなかったからです。働きたくないけど、金もほしいし。で、こういう昼から飲む仕事がしたかったんですよ。熱い思いみたいなのはないです。
ふじこ

僕は、もともと自分はかっこいいと思っていた時期があって軽音学部でバンドをやってたんですよ。でも、ライブをやっていたら客席から笑いが起こって。英詞を歌っていたらミックスの子に「あの人の英語めちゃくちゃやったで」って陰で言われていたのが僕の耳にも入ってきたんです。 普通に傷ついたし、そういう経験によってだいぶ人格が歪みましたね。そのときに「あ、俺これじゃねえんだ」ってすぐに思いました。それで、もしかしたらお笑いのほうが向いてるかもしれないと思って、芸人になりました。
コモダドラゴン


――実際、芸人が向いていると感じましたか?
いや、芸人になってからも、理想と現実はまったく違って、「自分が憧れの人と同じようになれるわけない」「才能がない」ってわかってくるんですよね。僕だってこんな文句ばっかり言っているような人間になるなんて思っていなかったし、本当はツッコミをやりたかった。でも、そんなことで思い悩むのは意味がないし、そこから自分の道を見つけていくほうがおもしろいと思うようになりました。
コモダドラゴン

――とはいえ、自分はやりたいことができない、向いていないと気づいたときってかなりショックじゃないですか?
ショックですよ。養成所にいるとき大御所の講師に「お前は本当に芸人に向いてない」って言われてショックでしたし、今でも恨んでます。でも、ある程度やっていれば自分に何が合っているかに 気づくというか。
コモダドラゴン


――芸人さんもそういうものですか。
スベり続けたら「これはあかんな」って思うじゃないですか。それで新しいことを試して、スベって、また新しいことを試しての繰り返し。泥臭くやるしかないんです。
コモダドラゴン

そうだね。スベり続けるとやっぱり心は折れる。でも、舞台でウケたら自信を取り戻すし。
ふじこ

――その繰り返しで成長できている実感がある?
ネジが外れていってるだけです。普通に感度が鈍くなってるだけですよ(笑)。
コモダドラゴン

そうそう。僕らなんてちゃんと肩書きを与えるとしたら「30歳前後のフリーター」なわけです。早くちゃんと芸人として飯を食っていけるようになりたい。それまでは深く考えずにとにかくやり続けるしかないです。
ふじこ


――お二人の原動力は「見返してやろう」という気持ち?
そうですね。ワーキャー人気の芸人を見返して、古きよき芸能界を取り戻すことが夢なんですよ。
コモダドラゴン

時代とは逆行しているよね(笑)。いろんな人を見返すために『M-1』で勝ちたいなあ。
ふじこ

そうですね。まずはネタ。ラジオやYouTubeを通してお客さんが来てくれるようになっているので、ネタはもちろんほかの発信も力を入れていきたいです。
コモダドラゴン


「やり続けるしかない」と語る二人、夢を追う人たちが集う三軒茶屋で営みを続けてきたTA-KE。華やかで、厳しい芸の世界に身を置く二人を見守るような、懐の深いあたたかな空気に店内は包まれ、取材後も二人はしばしお酒を酌み交わしていた。
夢や目標を追うなかでもやもやしたり、立ち止まったりしたとき、 バーボンやTA-KEを訪れてみてほしい。長年その街に佇む安心感、さまざまな思いを抱く人のお腹を満たしてきた信頼感に、きっと心がほぐされるはずだ。

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