楽器を置いてほっと一息。洗足音大生の毎日の寄り道先、溝の口「キャトルールワッフル」
- 取材・文:小西麗
- 写真:大西陽
- 編集:川谷恭平(CINRA)
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大井町線と田園都市線が乗り入れる溝の口駅。にぎやかな駅前から歩いて数分、洗足学園音楽大学の目の前に、カフェ「キャトルールワッフル」はある。
焼きたての絶品ワッフルと本格エスプレッソが自慢のカフェでありながら、フリーWi-Fiはもちろん、ほぼ全席で電源コンセントが使用可能。大きな楽器も安心して置ける荷物スペースや、演奏会の告知チラシが並ぶコルクボードから、音大生との絆を感じられる。
今回は、オーナーの南谷明さんと、洗足学園音楽大学のOGで、在学中にアルバイトとして働いていた「えーちゃん」こと松崎愛理花さんに、学生とお店がどのように関わり合い、どんな縁を育んできたのか、思い出のメニューやまちへの思いとともに語り合ってもらった。

オープン当初はまさかの閑古鳥? 音大生が「寄り道」するカフェになるまで
——まずはキャトルールワッフルがオープンした経緯を教えてください。
店は2015年のオープンになるのですが、僕と共同経営者の岡本は、中学時代からの幼馴染で、生まれも育ちもこの辺り。「遊ぶといえば溝の口」という地元民なので、2人で起業を決めたときも溝の口で物件を探しました。目の前に大学があり、大きな窓はカフェにぴったりで、「ここにしよう!」と即決しました。
南谷

——大学の向かいなら、「繁盛間違いなし!」と。
はい(笑)。僕たちも、学生さんがいっぱい来てくれるだろうと思っていたんですが、オープン当初は期待 したほどの客入りはなく……。「突然現れたカフェ」を皆さん様子見しているな、という感じでした。
南谷


——予想外のスタートだったんですね。松崎さんとキャトルールワッフルの出会いは?
じつは、入学前からこのカフェのことは知っていたんです。私は愛媛出身で、上京前に「大学の周りはどんな場所なんだろう?」って母と地図アプリを見ていて、「すぐ近くにワッフル屋さんがあるね」「友達とここでご飯食べたりするのかな?」って話していました。
松崎


——念願のお店に来てみて、どのような印象でしたか?
窓があるおかげで外からでも様子がわかって入り やすかったです。授業の課題や楽譜の整理といったちょっとした作業をしたいとき、気持ちを切り替えたいときに通っていました。当時は女子大生のあいだで「今日はどっちのお兄さんかな?」って噂したりして。年齢的にも2人は「皆のお兄さん」的な存在だった気がします。
松崎

そうなの?(笑)。岡本はシャイだし基本的にキッチンにいるから、そんなにホールに出てこなかったと思うんだけど。
南谷

そう、だから岡本さんは「ちょっとレアなお兄さん」だったんですよ。
松崎


音大生の「働きたい場所No.1」。行きつけのカフェが働く場所へ
オープンから3年目 、キャトルールワッフルは初めてアルバイトの募集をスタート。そこにいち早く応募したのが、すっかり常連客となっていた松崎さん。学生スタッフの誕生は、お店と学生たちの関係にどのような変化をもたらしたのだろうか。
大学3年生の春ごろ、当時Twitter(現X)で初めてアルバイト募集をするというツイートを見て、すぐ応募しました。
松崎

そうそう、えーちゃんはうちの初代アルバイトだったよね。学生さん4人ぐらいでシフトを組めたらいいなと思って募集をかけたら、20名以上の応募があって「こんなに!?」と驚いた覚えがあります。
南谷

——5倍以上の倍率だったんですね!
そんな倍率だったんだ。駅まで行けばカフェはたくさん ありますけど、大学から徒歩30秒の距離ですからね。空きコマにギリギリまで働いて、すぐレッスンに行けて、洗足の音大生にとって「働きたい場所No.1」だったと思いますよ(笑)。
松崎




——「通いづらくなるから、よく行くお店ではバイトしたくない」なんて話もよく聞きますが、松崎さんはどうでした?
とくに気にせず応募しました(笑)。面接で南谷さんに「よく来てくれる子だよね?」って言われたのを覚えています。働き始めたおかげで、友達が「やっほー」って会いに来てくれたりして。あと、働いているときに知り合いが来店すると、その友人たちにドリンクをサービスできたから、友達を誘いやすかったです。
松崎

学生バイトさんがいることで、最初は遠巻きに様子をうかがっていた学生さんたちとの距離がグッと近づいたというか、気軽に来てくれるお客さんが増えましたね。こうして徐々にいまのキャトルールワッフルになっていきました。
南谷


コンセプトは「私の寄り道」。音大生の毎日に寄り添うカフェメニュー
学生スタッフたちの活躍もあり、少しずつ現在のあたたかい雰囲気へと変わっていったキャトルールワッフル。「日常のカフェでありたい」という南谷さんの思いは、学生のお財布に優しい価格設定や豊富なメニューにも反映されている。松崎さんの「思い出の味」とは何だったのだろう。
——松崎さんがよく食べていた思い出のメニューはありますか?
やっぱり「ストロベリーシングル」ですね。焼きたてのワッフルの上に生クリームとイチゴのコンポートが乗っていて、本当においしいんですよ! 甘いものが食べたい気分のときにちょうど良くて、レッスン後はいつも食べていました。学生のお財布にも優しい価格設定なのがありがたくて。
松崎


日常のカフェでありたいから、豪華すぎない「毎日のおやつ」にできる価格帯は守りたいんですよね。キャトルールワッフルのコンセプトは「私の寄り道」なので、気軽に通える場を目指して空間づくりをしています。
南谷

本当に、あのころの私にとって「毎日のおやつ」だったなぁ。「ストロベリーシングル」と「ストロベリーラテ」、イチゴ尽くしが私の定番でした。……(メニューを見ながら)あれ……?
松崎

ごめん。ストロベリーラテは「廃盤」になりました。
南谷

え! なくなっちゃったんですか!? 人気メニューだったのに……。
松崎

「タピオカストロベリーラテ」は健在だよ! あれからフードもドリンクもメニューが増えたから、どうしても入れ替わりがね(笑)。
南谷


——お食事系ワッフルなど、甘味以外のフードメニューもすごく豊富ですよね。
メニューの種類は絞るのがセオリーではあるんですけど、毎日のように通ってくれるお客さんも多いので、気分でいろいろ選べるようにと現在のラインナップになっていきました。
南谷

そうそう、「ボロネーゼ」も自家製ソースでおいしいんですよ。追加で温泉卵をトッピングするのがおすすめです。
松崎




コントラバスも置ける。“音大生あるある“に寄り添う空間
絶品のワッフルやパスタでお腹を満たしてくれるだけでなく、店内には誰もが快適に過ごせるような工夫がちりばめられている。
たとえば、店内の通路が広いと、荷物が大きくても、ベビーカーや車椅子でも入りやすい。演奏会のチラシを貼る掲示板からは、地域コミュニティーとのつながりが生まれる。音大生の「もっとこうだったらいいな」を叶えていくと、結果的にいまの居心地の良い空間になっていったそう。

——学生たちの「もっとこうだったらいいな」という声を取り入れていったとのことですが、具体的にはどんなアイデアが採用されたんですか?
男2人で開業したカフェだから、かわいらしい雰囲気を出すことに苦戦していて。お店を改装するタイミングで「こうだったらいいなって思うところない?」って聞いて回って、特にえーちゃんたちからの意見には助けられました。楽器置き場もそのときもらったアイデアだったよね?
南谷


音大生はつねに楽器と大量の楽譜を持ち歩くから大荷物なんですよ。私は打楽器専攻だったので、分解したマリンバとか木琴とかを毎日のように持ち運んでいました。通路が狭いお店だと結構気を使うんですけど、ここは各席しっかりスペースがあるから気疲れせずに済みました。
松崎

「コントラバスも置ける場所があるとうれしい」って音大生ならではの視点だったよね。どれも僕たちだけでは思いつかなかったアイデアなので、どんどん取り入れていきました。
南谷

コンセント席を増やしてくれたのもうれしかったな。あのコルクボードも「演奏会のチラシを貼れる掲示板みたいなものがあるとい いよね」っていう意見が採用されたものです。
松崎



——アルバイト時代、お店で一番心に残っているのはなんですか?
やっぱり、ここで演奏会をやらせてもらったことですね。私たちが卒業する年はちょうどコロナ禍で、卒業式も演奏会も全部休止になってしまったので、最後に皆で演奏を披露できる場をつくれたことがすごくいい思い出になりました。
松崎


緊急事態宣言が出る直前だったから、お客さんはほとんど呼べなかったんだよね。木琴をテキパキ組み立てるえーちゃんとか、みんなの音大生らしい一面を見せてもらえて新鮮だった。い まも当時のバイトメンバーと連絡とったりしてる?
南谷

もちろん! この前誘い合わせて、バイトOGの方が入団した「神奈川フィルハーモニー管弦楽団」の公演に行きましたよ。またキャトルールワッフルで集まれたらいいなぁ。皆にも声かけてみますね。
松崎


——ちなみに松崎さんは今日久しぶりの来店なんですか?
そうですね、でもちょっと空いちゃったかな。大学とアルバイトを卒業してからは年数回にペースダウンしつつ、それでも通っていますね。
松崎

——現役の常連さんだったんですね。
いまも沿線には住んでいるので(笑)。
松崎

常連さん全員とおしゃべりできるわけじゃないので、春になってよく来てくれていた子の姿を見かけなくなると、毎年卒業シーズンを感じています。でも、こうやってたまに顔を出してくれると「元気にしてるんだな」と思えて嬉しいですね。
南谷


「溝の口は小さな渋谷」? 音大生と店主が語る、第二の地元としての魅力
学生時代は宮前平で暮らし、溝の口へ通学していた松崎さん。遊ぶ場所といえば溝の口だったという南谷さん。2人にとって東急線沿線である溝の口というまちはどのような場所なのだろうか。
——お二人にとって、溝の口はどんなまちですか?
僕にとって溝の口は「小さな渋谷」と言っても過言ではないです。だって「ノクティプラザ(※)」が誕生して「マルイ」もありますからね(笑)。大人になったいまもずっと飽きない遊び場です。僕と岡本は現在ほかにも4店舗の飲食店を経営しているのですが、僕たちにとってキャトルールワッフルが初めてのお店。溝の口は始まりのまちでもありますね。
南谷

私にとっても、人生の新章は全部ここから始まってるなぁって思います。洗足音大とキャトルールワッフル、2つのホームがある溝の口は第二の地元です。
松崎

そう言ってくれると店主としても地元民としても嬉しい(笑)。あとは映画館さえあれば溝の口は完璧なまちになるのに!ってずっと言い続けています。
南谷

※溝の口駅に隣接する商業ビル

溝の口ってなんでもできる場所なんですよね。渋谷や横浜へのアクセスも良くて、どこへでも行けるまちだなって思います。地元にいたときはあんまり電車に乗らない生活だったから、いまはすっかり電車=東急のイメージ。いまも沿線民なので、東急のキャラクター「のるるん」には愛着が湧いています(笑)。
松崎

昔、えーちゃんのお誕生日に皆でのるるんのキーホルダーをあげたことあったよね!?
南谷

いただきました、懐かしい! 定期入れものるるんだったし、グッズたくさん持ってます。
松崎

——最後に、今後のキャトルールワッフルの展望を教えてください。
「大学の目の前」という立地だけでは、いまのような音大生とキャトルールワッフルの関係は生まれていなかったと思います。学生バイトさんたちが内側から親しみやすいムードをつくってくれたことで、たくさんの縁をつないでもらいました。これからも「寄り道」先に選びたくなるカフェを目指していきたいですね。
南谷


南谷さんと松崎さんのやりとりからは、当時この場所で流れていたあたたかな時間を想像できる。こんなすてきなカフェを知っていたら、溝の口に近づくたびきっと寄り道したくなってしまう。
今日も楽器を背負った学生たちの笑い声と、焼きたてのおいしいワッフルがキャトルールワッフルで待っているから。
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