東京科学大を中心に学生、起業家、音楽好きなど誰もが交流を深める、大岡山の「Toi Toi Toi」
- 取材・文:田汲洋(トマソンブラザーズ)
- 写真:大西陽
- 編集:丸山佑介(トマソンブラザーズ)、藤﨑竜介(CINRA)
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東京科学大学のキャンパスが駅前で存在感を放つ、東急目黒線・大井町線の大岡山。駅から歩いて5分ほどの場所に、カフェ、レストラン、コワーキングスペース、バーなどいくつもの顔を持つ、ユニークな店がある。同大学出身の起業家・川口卓志さんが営む、Toi Toi Toiだ。
川口さんが支援するスタートアップの関係者、研究に勤しむ学生、地元住民、カルチャー好きなど、さまざまな人たちが集まり、自然な交流を生んでいるのがこの店の特徴。また、店長兼シェフ役の綾目和人さんがつくるライスコロッケなど、絶品料理も人気の理由だ。
今回は川口さん、綾目さん、そして東京科学大学に通いながら会社を営む常連の道上竣介さんにインタビュー。3人の話から、大岡山で異彩を放つToi Toi Toiのおもしろさが見えてくる。
学生起業家、シンガーソングライターなど、誰にでも開かれているのがToi Toi Toi
――オーナーの川口さんは、どういった経緯でこの店をつくったのですか。
店を始めたのは2016年。友人や東京科学大学のボランティアグループの仲間、研究室のメンバーらと「みんなで文化を牽引するようなカフェをつくろう!」と盛り上がったのがきっかけです。若気の至りですね。 その流れで、最終的に科学大の学生、卒業生、教員、私の友人など40人くらいが出資してくれたおかげで、開業できました。
川口


――東京科学大学関連の縁によって生まれた店なんですね。
はい。この店は中世フランスのサロン文化にならい「サロン カフ ェ&バー」と位置づけていて、大学関連の人などが交流する場でもあるんです。創業期のスタートアップ企業の人などには、コワーキングスペースとしても使ってもらっています。
川口


道上さんも東京科学大学に通いながら会社を経営していて、仕事などでこの店をよく利用してくれています。
川口

経営する会社はリモートワーク主体なのですが、対面での会議や外部との打ち合わせでは、ほぼ毎回ここを使わせてもらっています。食事しながら話せますし、落ち着けるので、とても助かっています。
道上


美味しいものを食べたり飲んだりすると、新しい発想が生まれやすくなるし、何に対してもポジティブになりやすいよね。
川口

本当にそうですね。
道上

――どのような経緯で、この店を利用するようになったのですか。
ここで開催された食事会に、たまたま参加したんですよね。「こんな素敵な場所があるんだ!」と驚き、それ以来通い続けています。 いろいろな人たちと交流できるし、料理もすごく美味しい。ここでしか味わえないものもあって、ついつい通っちゃいますね。
道上

――その美味しい料理をつくる店長の綾目さんも、もともと東京科学大学とつながりがあったのですか。
いえ、僕は大学とはまったく関係がなくて。関西出身で、シンガーソングライターとして活動しながら、いろいろな土地で歌ってきました。 そのなかで、表現と生活が自然に交わるような空間づくりがしたいと考え、間借りで飲食店をやるようになったんです。そんな流れでToi Toi Toiと出会い、いまのかたちで関わるようになりました。
綾目

不思議な縁だよね。創業当初から、ここは誰にでも開かれた空間にしたいと考えていました。だから、東京科学大学関連の人でないといけないわけではなくて、いろいろな縁を大切にしています。 綾目さんが店長になってから、音楽という新しい要素が加わったよね。
川口

僕と川口さんは、いい意味でまったく違う生き方をしてきたと思います。そんな2人が協力したらおもしろいものが生まれるのではと、意気投合したんですよね。
綾目


*ライブや楽曲の情報はホームページに掲載
東京科学大学の学生、大岡山の住民、音楽好きなど、多様な人たちが交わる場
店名のToi Toi Toiはドイツ語で「うまくいく」「大丈夫」という意味のおまじないで、店を訪れる人へのメッセージとして掲げている。川口さんは「新しい文化を創造する人たちを応援して、つなげて、そういった人たちの力になっていきたい」と話す。

――とはいえ、やはりお客さんは学生など東京科学大学関係の人が多いですか。
そうですね、歩いて数分の近さですし。学生や先生、共同研究をする企業の人たちなどにとって、気軽に集える場所です。
道上

学生が来てくれるのは、素直にうれしいです。少し世代は離れていますが、かわいい後輩ですし。それに私は事業を複数やっていますが、どれも東京科学大発のスタートアップで、同大学の学生がインターンシップをしてくれています。
川口

ここで 授業をやることもありますよね。
道上

そう。オフキャンパス(*)の一環で、大田区と連携した教育プログラムや、起業体験の授業にこの店が使われたりします。
川口

* 学生による学外での学習、研究、居住などの活動全般のこと
あとは、研究室の懇親会の会場になることもありますね。キャンパス内だと飲食に制約が生じたりするので、近くにこういう場があるのは、学生としてはありがたいです。
道上

――綾目さんは、東京科学大学の学生に対してどんな印象を抱いていますか。
みんな真面目で礼儀正しいですね。加えて、何かに熱中しがちな人が多い印象があります。
綾目


アルバイトに東京科学大生がいるのですが、料理に興味を持ったら自炊でとことん研究したり、トレーニングにハマったら、近くにあるジムにひたすら通ったり。瞬間的な熱量に、驚かされることが多いですね。
綾目

――大学関係以外だと、どんなお客さんが来ますか。
地域の人たちがふらっと立ち寄ってくれることも、最近は増えていますね。
綾目

あとは綾目さんが音楽をやっているので、それを知っていて北海道とか九州など遠くから来る人もいるんですよ。
川口

地元の人や音楽好きも含めて、いろいろな人がつながるプラットフォームになっていますよね。 僕みたいにコワーキングスペースとして使う人は、多くが川口さんとつながっているスタートアップ関連の人たちなんです。「川口さんの知り合いです」という会話から、お客さん同士の交流が生まれることもあります。 僕自身も、この場所での出会いがきっかけで、共同研究が始まったことがあります。
道上

美味しい料理を食べて、お酒を飲んで、みんなの気持ちが前向きになって、ときには新しい交流やビジネスが生まれる。この店でやりたかったことができつつあるので、うれしいですね。
川口


――カフェ、レストラン、コワーキングスペース、バーなど、Toi Toi Toiにはいろいろな顔がありますね。
そうですね。やれることはどんどん広がっているし、いつか「サロン カフェ&バー」よりふさわしい表現が生まれるかもしれませんね。
川口

最近は、ライブイベントをやるときもあるんですよ。マイクや照明など、機材をちょっとずつそろえ始めています。
綾目



ライブができるのは、いいですよね。創業当時は、こうなることをまったく想像していませんでした。
川口

経験豊富な店長がつくる、極上のライスコロッケとタリアータ
「Toi Toi Toiの料理は、ほとんど食べたことがある」という道上さんのイチオシは、「モッツァレラのライスコロッケ〜ボロネーゼソース〜」と「牛もも肉のタリアータ」。特にボロネーゼソースはこの店独自のもので、道上さんはこれを味わうために通っているといっても過言ではないそうだ。
――ボロネーズソースをかけたライスコロッケは、道上さんもお気に入りの人気料理とのことです。綾目さんが、つくるうえでこだわっていることはありますか。
仕込みに、けっこう手間をかけています。ベースになるのが、炒めた玉ねぎ、バター、チーズ、それに白米。これらを一緒に炊いたうえで成形・冷却し、衣をつけてから揚げて仕上げます。
綾目

手が込んでいますよね。僕はたいてい「今日はライスコロッケをお願いします」と、事前に連絡してから店に来ています。
道上


連絡してもらえると、すぐ出せるからありがたいですね。もちろん、店に来てから注文するかたちでも問題ありませんよ。
綾目


――ボロネーゼソースは、どのようにつくっているのですか。
まずゴロゴロした肉の食感がきわ立つように、ひき肉にワインとニンニクを加えて、軽くこねて から焼きます。そのあと香味野菜とワインで煮込むことで、しっかり肉の存在感があるソースになるんです。
綾目

ソースというか、もはや1つの料理ですよね。このタリアータも最高です。会社のイベントなどで利用するときは、コースに組み込んでもらうことが多いです。
道上


Toi Toi Toiのタリアータは、牛の赤身肉を使っています。余計な脂をしっかり落とすから、火を通しすぎるとパサパサしてしまう。なので、ほどよいレアに仕上げるようにしています。
綾目



職人技ですね。ボリュームもあるし、特に若い後輩をここに連れてくると、すごく喜んでくれるんですよ。
道上

――綾目さんの料理の腕は、この店の売りの1つですね。どうやって覚えたのですか。
音楽活動をしながら、いろいろな飲食店のアルバイトを長年やって、自然に覚えていきました。イタリアン、和食、沖縄料理、タイ料理、デザート系……数えきれないですね(笑)。
綾目

公式メニューはイタリアン系が中心だけど、綾目さんのおかげで本当は幅広いジャンルに対応できるんですよ。偏見含みかもしれませんが、音楽をやっている人は 料理がうまい印象があります。 つくるものに対して、人一倍強いこだわりを持てるというか。
川口

「大岡山テクノロジータウン構想」で、もっと注目されるエリアへ
――3人は大岡山というエリアについて、どのような印象を抱いていますか。
学生や教職員などが多いですが、元気な商店街や住宅もあって、大学と生活圏が自然と溶け合ったエリアだと感じます。それに私にとっては、学生時代を含めると本当に長いつき合いになるので、愛着は強いですね。
川口


店をやっていて思うのは、怖いお客さんがいないということ(笑)。優しい人、心にどこか余裕がある人が多い印象です。店内で酔いつぶれている人を、見たことがありませんしね。

