縁線図鑑縁線図鑑気づけばほら、つながりだらけ。

No.049

同郷人のご縁飯 〜大分〜

大分出身の幼なじみ2人が切り盛り。白楽・HOURSは、九州料理と「気軽な交流」が売りの立ち飲み店

  • 取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
  • 写真:丹野雄二
  • 編集:藤﨑竜介(CINRA)

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終戦直後から栄え、横浜三大商店街の1つに数えられる東急東横線白楽駅近くの「六角橋商店街」。多くの飲食店が立ち並び、昭和の面影を残す景観もあいまって、外部から訪れる人も少なくない。

そんな風情ある商店街の大通りから路地に入ったところにあるHOURSは、2023年オープンした立ち飲み店。大分出身の藤田真也さんと横山雄太さんが営み、九州の料理などを手頃な価格で味わえる店として、地元住民らに親しまれている。

同じ九州出身の三浦雄一郎さんは、HOURSの料理、そして藤田さん、横山さんがつくる心地よい空間に魅せられた常連客の1人。「この店で飲んでいると、誰とでもすぐに仲良くなれる」という。HOURSで生まれる「特別な時間」について、3人に語り合ってもらった。

「九州」というワードを聞くと、思わず「話しかけちゃう」

――HOURSの藤田さんと横山さんは大分県、常連の三浦さんは長崎県の出身だそうですね。三浦さんはどんなきっかけで、ここに通い始めたのですか。

横浜・野毛にある飲食店のオーナーが、「九州出身の後輩が白楽で店を始めたんだよ」とすすめてくれたんです。 僕は「九州大好き人間」なのでさっそく来てみたら、雰囲気がめちゃくちゃいいんですよね。活気があって、お客さん同士の心理的な距離も近い。僕が住んでいる綱島にも、白楽にもあまりないタイプの店だなと気に入って、それからちょくちょく通うようになりました。

三浦

――藤田さん、横山さんたちと九州の話ができるのも魅力ですか。

そう、それが楽しいんですよね。僕の感覚では、お客さんの3割くらいは九州人かな。九州から大阪とか関西に出る人は多いけど、関東に住む人は意外と少ないから、ここで同郷人と会えるのはうれしい。気兼ねなく長崎弁を使えますしね。

三浦

オープン当初からHOURSに通う三浦雄一郎さん。長崎県出身で、現在は東横線の綱島駅の近くに住む

いやいや、3割九州人はさすがに言い過ぎでしょ(笑)。ほかの地方や白楽の出身者もたくさん来ますよ。とはいえ、雄一郎さん(三浦さん)がいるときは、九州の話になることが多いですね。なぜだろう?

藤田

2023年にHOURSを開業した、代表の藤田真也さん

僕が九州ってワードに敏感だからね。ほかのお客さんが九州の話をしていると、思わず反応して話しかけちゃう(笑)。

三浦

店と客でつくるコミュニティ。常連による作品展示や、おにぎりの販売も

――知り合いではない人と気軽に交流できるのは、立ち飲みならではですね。

そうなんです。それに、この2人がつくる店の雰囲気が最高だから、初対面でも話が弾む。ここで出会った人同士で旅行するくらい、仲良くなったりするしね。

三浦

ありましたね。男性の常連さんと僕らスタッフで行った、一泊二日の男旅。あと、女性の常連さん同士で女子会をやったり。それに、年末には中華街とかで忘年会をすることもある。いろいろなつながりが生まれる店になっていると思います。

横山

店長の横山雄太さん。実母から教わったオリジナルメニューなども手がける料理名人

たしかにそうだね。2階のスペースでは、よくイラストレーターやフォトグラファーのお客さんに作品を展示してもらっていて、そこから新しい縁ができることもあります。

藤田

2階はテーブル席のある飲食スペース
取材した2025年11月下旬は、縁起物をアート化する「メデタイモノ作家」のハップラップ マツコさんが作品を展示

――お客さんの力で店やコミュニティが発展していく感じが、いいですね。

ありがたいかぎりです。あと雄一郎さんが、HOURSの店頭で九州の米を使ったおにぎりを販売してくれることもあるんですよ。

横山

僕の実家が、長崎で90年くらい続く米店なんです。そういう話を2人にしたら、おにぎりの販売をやろうということになって。白楽の商店街で定期的に開かれる「ヤミ市」というイベントに合わせて、実施しています。

三浦

HOURSの前でおにぎりを仕込む三浦さん。撮影:田川清史郎

米だけじゃなく、塩は長崎の五島列島産、海苔(のり)は佐賀の有明海産と、九州にこだわっています。九州の味や魅力を発信したいという思いがあるので、とてもいい機会をもらえていると感じます。

三浦

撮影:田川清史郎

幼なじみが40歳手前で共同開業。立ち飲み主体なのは、お小遣い制のお父さんにも通ってほしいから

気軽にコミュニケーションをとれる立ち飲み形式ということもあり、さまざまな縁を生んでいるHOURS。そもそも店ができたのも、30年来の親友である藤田さんと横山さんの縁があったから。社会に出て一度は別々の道に進むも、学生時代に交わした口約束を互いに忘れることなく温め続け、40歳手前で約束どおり共同で飲食店を開業した。

――藤田さんと横山さんは、大分にいたときから親しい幼なじみだと聞きました。

小学校で同級生になったときからだから、もう30年以上の仲ですね。

横山

僕も彼も大学時代から飲食店で働いていて、そのころから「いつか一緒に店をやろう」って話をしていたんです。卒業後も別の店で働きつつ「そのうちやろう」と言って、20年くらい経ってしまったんですけどね。

藤田

最初は、学生のノリみたいな感じの口約束でした。それでも、2人のなかで一緒に店をやるという意志は共有できていたと思います。 踏ん切りがついたきっかけは、コロナです。当時、長く勤めていた店にも大きな影響があって辞めることになり、そこであらためて藤田くんと話をして、互いに腹を決めました。

横山

それから僕も勤めていた店を辞めたり、準備があったりで時間はかかったんですけど、横山くんは待ってくれて。晴れて2023年3月にHOURSを開業できました。

藤田

――立ち飲み主体の店にした理由は。

1人でも気軽に、サクッと飲みに来られるような場所がいいよねとなったんです。すでに40歳手前のいい歳でしたしね。

藤田

あとは、なるべく安く飲めるようにしたかった。たとえば僕自身もそうなんですが、お小遣い制でがんばっているお父さんが、1回2,000円くらいで飲める場所があったらいいなと。

藤田

「とり天」「りゅうきゅう」など大分の定番料理のほか、HOURSでしか食べられない独自メニューも

HOURSの魅力は雰囲気だけでなく、初めて訪れる人が驚くような料理のクオリティにもある。とり天をはじめ九州の郷土料理が充実していて、三浦さんのように地元の味を懐かしんで通う常連客も多い。

――当初から九州の味をメインにしていたのですか。

いえ、もともと「九州料理」「大分料理」と前面に出すことは、あまりしていなかったんですよね。そう発信すると、間口が狭くなると思ったので。だから、普通の大衆酒場に僕らの地元の料理のエッセンスが少し入ったくらいにしたら、面白いかなと。 そうしたら、三浦さんみたいな九州出身の人から「とり天がある!」みたいな感じで喜んでもらえるようになって、しかもほかの地方から来た常連さんの評判もいい。それで、最初より九州関連のメニューを充実させるようになっています。

藤田

どの料理も丁寧につくられていて、立ち飲みの店と思えないレベルなんですよ!

三浦

――三浦さんがよく食べる料理は何ですか。

とり天と、「りゅうきゅう」っていう大分の郷土料理ですね。りゅうきゅうは、魚の刺身を醤油や薬味などで和えた料理です。

三浦

醤油は九州のだし醤油を使っていて、関東のものよりも甘い味わいが特徴です。ネギやゴマの風味を、存分に味わえると思いますよ。

横山

ネギやゴマの風味が存在感を放つ、大分の郷土料理・りゅうきゅう。この日は、ヒラマサの刺身を使用

とり天には鶏のむね肉を使っていて、やわらかくなるように下処理をしています。おつまみとして満足してもらえるよう、サイズは大きめ。あと、カボスの汁入りのポン酢を添えているのも、特徴ですね。 大分の人って、いろいろなものにカボスの汁をかけるんですよ。もちろんこれはお好みなので、そのままでも美味しく食べられます。

横山

「本場のとり天の味!」と絶賛する三浦さん

九州料理以外のおすすめでいうと、「ニクジャガ」ですかね。

横山

――「肉じゃが」ではないんですね。

はい、HOURSのオリジナルです。洋風に味つけをした豚のスペアリブにマッシュポテトを添えています。一般的な肉じゃがとは別物だけど、肉とジャガイモを使っているからニクジャガ。立ち飲みなので、こういうのがあってもいいのかなと。

横山

「ニクジャガ」はHOURSオリジナルの逸品

東横線は「夢の路線」!? 渋くて楽しく飲める駅もある

九州をこよなく愛する3人だが、東急東横線沿線にも強い愛着を抱いている。人の温かみ、沿線全体が醸し出すパワーや華やかさ。それぞれが感じる、白楽と東横線沿線の魅力を語ってもらった。

――藤田さんと横山さんは、店を構える白楽に対してどんな印象を抱いていますか。

僕は住まいも白楽にあるのですが、住みやすさは抜群だと思います。全体的なバランスがいいんですよね。神奈川大学があるので若い人も多いし、土日は商店街を訪れる観光客がいてにぎやか。飲食店も充実していて、最近は雑貨や古着の店が増えています。

横山

白楽の商店街は元気だよね。歴史ある商店街だけど、新しいことに対しても積極的なんです。イベント時に大通りを歩行者天国にしようとテストしたり、有名なミュージシャンを呼んだり。各店舗がよくまとまっていて、地域を盛り上げようという意欲を感じます。

藤田

――店同士の交流もあるのですか。

みんな仲がいいですね。たとえば、すぐ近くにある「キッチン友」さんは人気の老舗洋食店なんですけど、僕らみたいな新参者にもよくしてくれて。「これあげるよ」とか気軽に声をかけてくれたり、本当に優しいですね。

藤田

大規模な商業地域じゃないからかもしれませんが、助け合いの精神が根づいているんです。自分の店のお客さんに「あの店もオススメだよ」と紹介し合ったり、満席のときに「今日はごめん、あそこの店はどう?」と他店に誘導したり。協力して地域の経済を回している感覚がありますね。

横山

――素敵ですね。三浦さんは同じ東横線沿線に住んでいますが、どんな印象を持っていますか。

東横線は、「夢の路線」なんですよ。

三浦

――え!?

東京の大学に通っていた学生時代、東横線沿線に住もうとして、断念したことがあるんです。渋谷と横浜を結ぶ路線なんて、若者は憧れるじゃないですか。不動産会社のスタッフさんは、「夢の路線」と表現していました。 なので逆に、尻込みしちゃったんです(笑)。当時は予算も限られていたし……。 そんなこともあって、いつか東横線エリアに住みたいなぁと思っていたんです。何度かの転勤を経てまた東京で暮らすことになって、綱島にあるいまの住まいに巡り合いました。

三浦

――念願が叶ったわけですね。

そう。20年越しで実際に住んでみたら、やっぱり最高でした。中目黒や自由が丘のような華のあるエリアもあれば、白楽や綱島のように渋くて楽しく飲めるところもある。あとは、横浜という港町の存在が大きいですね。僕自身、長崎の港町生まれで港町が大好きだし、やっぱり海につながっているという感覚が落ち着きます。 いつか長崎に帰りたいという思いもあるけど、もうしばらくはこの沿線で暮らしたいですね。

三浦

東横線は、雄一郎さんのいう華のあるエリアの印象が強いけど、白楽とか横浜寄りの駅周辺も魅力的なんです。もっと注目されていいと思います。地域ごとに個性があって、いろいろな表情を見せてくれる。本当に「夢の路線」なのかもしれませんね。

藤田

やわらかな雰囲気で、コミュニケーション力に長けた藤田さん。どこか控えめながら、料理に対する強いこだわりを感じさせる横山さん。サービス精神に溢れ、九州のことを語り出すと止まらなくなる常連の三浦さん。三者三様のキャラクターだが、共通しているのはホスピタリティの高さ。

それが九州人の性なのかはわからないが、「この場所を通じて素敵な時間を過ごしてほしい」「九州のことを好きになってほしい」という強い思いが感じられた。

白楽の商店街の路地裏にある、小さな立ち飲み店。新しい出会いと九州の味を求めて、ふらっと立ち寄ってみるのもいいかもしれない。


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